魔法使いが暗躍する世界で僕一人だけ最強のぼっち超能力者

おさない

文字の大きさ
21 / 35

第21話 嵐の前の静けさ?

しおりを挟む
「ごちそうさまでした」
「おにーちゃんっ! ボクの手料理美味しかった?」
「うん。すごく美味しかったよ」

 僕は、湊の問いかけにそう答えた。

「褒めてもなにも出ねェぞ……!」
「えっ……こわい……」

 なにその反応……照れ隠し……?

「でもおにーちゃんありがと! だいすきっ!」
「な、なんなの……?」

 弟の情緒が不安定すぎる。これが思春期というやつなのだろうか? ちょっと違う気がするな。

 そうして、朝食を食べ終えた後は、各自で支度をしていよいよ出かけることになった。

 映画が始まるのは十二時からだけど、二人とも念のため早く出発したいらしい。

 まったく、心配性だなあ。

「二人とも、準備できた?」

 僕が問いかけると、二人は元気よく首を縦に振った。

 どうやら大丈夫そうだ。

 ……でも、一つだけ気にかかることがある。

「あの……その格好でいいの?」

 二人が着ていたのは、お揃いのパーカーだ。湊が黒で、渚が白いものを着ているので、いつもと印象が逆である。

「和服とゴスロリでも、お兄ちゃんは別に気にしな――」
「やだよ。汚れるじゃん」
「お高いのだぞ。外で何かあったらどうする!」

 あ、そうなんだ……。

「そ、そんなに高いの?」
「小学生の時から貯めてたお年玉が消し飛んだ」
「右に同じ」
「ひえ…………」

 思った以上だった。
 
 もし弁償することになったら、僕のバイト代も余裕で消し飛ぶんだろうな……。

 おそろしや。

「ところで兄者……お主の方こそ、その姿で行くつもりなのか?」

 僕が恐れおののいていると、渚が突然そんなことを聞いてくる。

「そうだけど……普通の服でしょ? いつも家で着てるし……」
「いや……我が言えたことではないが……」
「………………?」
「うーん……どうしたものか……」

 渚が言いづらそうにしていると、湊が代わりに苦笑いしながらこう言った。

「ふ、普通ではないかなー……あはは……」
「えっ…………?」

 そんなことはないはずだ。

 僕が着ているのは、黒で大きく「兄」という文字がプリントされた灰色のTシャツだ。唯一自分で買った、お気に入りの服である。

 値段はなんと二千円! 我ながら奮発したなぁ……!

「『兄』って……どういうセンスなの?」
「もしかして……『長男』とかの方が良かった……?」
「いや、そういうことじゃない」
「じゃあ、『弟』と『妹』のTシャツも買って欲しかったってこと……?」
「もっと違う」
 
 食い気味に否定する湊。

 一体、この服のどこに問題があるのだろうか? 

「面白いと思うんだけど……」
「わかった! もう、お兄ちゃんの好きにしたら良いと思うよ! ボクは止めない!」

 湊は若干投げやりな様子で言った。

「くっ、本物には勝てぬということか……!」

 渚も納得してくれている様子だ。

「よかった。じゃあ行こっか!」

 こうして、僕たちは家を出発するのだった。

 まずは凪江駅へと向かい、紆余曲折を経て、映画館のあるショッピングモールへと到着する。

 現在の時刻は午前十時。映画が始まるまであと二時間もある。

「まだかなり時間があるけど……どうするの?」

 僕は背後へ振り返り、二人に向かって問いかけた。

「僕はぼーっとしてるだけでいいなら、座ったまま二時間くらい何もしないでいられるけど……」
「却下だ兄者!」

 僕の案を力強く否定する渚。

「……お兄ちゃんに服を買わせる……とか?」

 困っていると、湊が答えた。

「そうだ! 名案だぞ湊! 服を買わせよう!」

 渚までそんなことを言い始める。

「え、ええっ?!」

 驚きのあまり、ついおかしな声を出してしまう僕。

「だ、大丈夫だよ。お兄ちゃん、着る服なら四着くらい持ってるし……制服入れてだけど……」
「そのTシャツと制服ぬいたら二着じゃん! 少なすぎるでしょ……!」
「確かに、兄者はもっと服を持っていた方が良いかもしれんな。……ネタじゃないやつ」

 渚は、腕を組んで僕の方を見ながら言った。酷い。

「こ、この服だってネタじゃないよ……! 本気で選んだんだよ……!」
「さっき面白いとか自分で言ってたじゃん」
「それは言葉の綾で……!」
「はいはい、ボクと渚でお兄ちゃんに似合うのを選んであげるから、大人しく服買いに行こうねー」

 そうして僕の手を引っ張り、笑顔でこちらを見る湊。

 逃げ出そうにも、背後には渚がいる。

「で、でも……店員さんと話せない……!」
「兄者はぶれないな」

 それに、この二人に服を選んでもらって大丈夫なのだろうか。

 確かに僕と比べたらお洒落なのかもしれないけど、センスが独創的すぎて別々の方向に突き抜けている気がする。

「ぼ、僕……あんまり派手なのは……ちょっと……」
「大丈夫、分かってるって。……その服は特に疑問を持たないで着れるのに、今さら恥ずかしがってる意味がよく分かんないけど!」
「兄者の望み通り、最適な都市迷彩を選んでやろう! 泥舟に乗ったつもりでいろ!」

 ダメじゃん!

「じゃあ、行こー!」
「前進するのだ!」

 どうしよう……!

 僕は、この状況を打開するための策を必死に考える。どうにかして諦めてもらわないと……!」

「はっ!」

 その時、ちょうど目の前に美味しそうなクレープ屋さんがあることに気づいた。

 ――これだ!

「ふ、二人とも! あれ! クレープ食べようよ! お、お兄ちゃんがお金あげるからっ!」
「え、ほんとー?!」
「食べたい!」

 ……こうして、僕は難を逃れるのだった。めでたしめでたし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...