魔法使いが暗躍する世界で僕一人だけ最強のぼっち超能力者

おさない

文字の大きさ
23 / 35

第23話 聖女と魔女

しおりを挟む
 国際魔法機関。それは、妖魔や魔法に関する情報を集積し、世界各地の退魔師と共有する為に設立された組織である。

 A級以上の妖魔の出現が確認された地域には、ここから選りすぐりの一等退魔師が派遣されてくる。そうすることで、秘密裏に妖魔から世界を守っているのだ。

  とある日の早朝、国際魔法機関の本部『マウソレウム』には二人の一等退魔師が招集されていた。

 一人は、長い銀髪に深く青い瞳を持つ、理知的な雰囲気の少女――シルヴィア・ヴァルプルギス。他者に加護をもたらす白魔術を得意とする、癒しの聖女。

 もう一人は、長い金髪に吊り上がった紅い瞳を持った、強い意志を感じさせる少女――フレドリカ・ヴァルプルギス。他者に災いをもたらす黒魔術を得意とする、災いの魔女。

 その容貌は十三歳前後の少女に見えるが、二人の年齢や経歴、出生等に関する情報は全て秘匿されているため不明である。

 神秘的な雰囲気を持つ二人の少女は、豪華な装飾が施された大聖堂の中心で久しぶりに顔を合わせた。

「ごきげんよう、シルヴィア」
「こんにちは、フレドリカ」

 しかし――

「相変わらず、青白くてジメジメした陰気くさい顔をしているわねシルヴィア! 見てるとこっちまで気が滅入るわ! もう視界に入らないでちょうだい!」
「フレドリカの何も考えていなさそうな赤ら顔の方が……気になるわよ。それに、私はいつでも理知的で美しいから……心配の必要はないわ……」

 魔女フレドリカと聖女シルヴィアは、この上なく仲が悪いのである。

「あ、あんたの心配なんかするわけないでしょ! あたしは馬鹿にしてんの!」

 顔をさらに赤くし、声を張り上げて怒りを露わにするフレドリカ。

「そう……。私は、いつもあなたを心配しているわ。そんな性格だから、友達になってくれる人なんて誰もいなさそう……」

 シルヴィアは、澄ました顔でさらに挑発を重ねる。

「友達がいないのはあんたの方でしょっ! 自分の性格の心配でもしてなさいよ!」
「いいえ……あなたの性格のおめでたさには到底敵わないわ……」
「なにをぉッ!」
「なにかしら?」
 
 至近距離まで顔を近づけ、互いに睨み合う二人。

「友達、作り方、白魔術!」
「ひ、人の検索履歴を詠唱するのはやめなさい……! あなた、どこでそれを……!」
「白魔術、男の子、魅了!」

 フレドリカの詠唱によって、シルヴィアは追い詰められる。

「……つ、使い魔、美少年に変身させる、方法……」
「あんたも見てるじゃないっ! あたしの検索履歴っ!」

 しかし、とっさに呪詛返しを発動したことで形勢は逆転した。

「性格、直す、黒魔術……!」
「やめろおおおおおッ!」

 退魔師には、様々な魔法の知識にアクセスできる専用のネットワークが存在するのだ。

「ぜぇ、ぜぇっ……」
「はぁ、はぁ……」

 ――その後もお互いの恥部を詠唱し続けた二人だったが、戦いは引き分けに終わった。

「……こ、ここで……つまらない言い争いをしていても……仕方がないわね」

 シルヴィアは息を切らしながら言った後、続ける。

「……だって、今日はあなたに会いに来たわけではないもの。無駄な時間を過ごしてしまったわ……」
「それはこっちの台詞よ! あんたの顔なんか二度と見たくないわ! ついてこないで!」
「何を言っているの……? 同じ場所に行くのだから、無理に決まっているでしょう……。少し考えたら分かることなのに……」
「もうっ! 近くでぶつぶつ喋らないで! 鬱陶しい!」
「じゃあ、ずっとぶつぶつ喋ってあげる……あなたが不愉快な気持ちだと、私はとても嬉しいわ……」
「ふん! 一人でバカみたいにやってれば? バカ!」

 かくして、二人は互いに反発し合いながら、仲良く肩を並べて大聖堂の地下へと向かうのだった。

 ――そこにいるに会うために。

 現状、S級の妖魔に匹敵する力を持つ退魔師は存在しないとされているが、それはあくまで表向きの話だ。

 国際魔法機関の中枢である霊廟の地下に、彼ら五人は秘匿されている。

 現代に通じる魔術理論の基礎を完成させた偉大なる黒魔術師。

 錬金術や化学に精通し時間旅行の術を持つとされた謎多き伯爵。

 強力な呪術や式神を駆使し数多の妖魔を祓った天才陰陽師。

 不老不死の霊薬を探究し練丹術を極めた伝説の方士。

 その召喚術よって七十二柱の悪魔と契約した至高の王。

 彼ら五大老ファイブエルダーズと直接対話することができるのは、世界でも有数の一等退魔師のみだ。

「もうすぐ着くわよ! せいぜい転がり落ちないよう気をつけることね!」
「いちいち言われなくても……分かっているわ……」

 これがその一等退魔師たちである。

「やっぱりムカつくわ! バカ! バカバカバカバカ!」
「それしか言えないのかしら? このお間抜けさん……」

 飽きることなく言い争いながら、地下へと続く長い階段を下る二人。

 その先には、何もない真っ白な空間が広がっていた。

 フレドリカとシルヴィアは互いに肘で小突き合った後、姿勢を正し、空間の内部へ歩み出てひざまずく。

「招集に従い馳せ参じました、五大老様」

 そう言ったのはフレドリカだ。

「私たちにご用命をお伝えください」

 今度はシルヴィアが言う。

 先程までのやり取りが、まるで嘘だったかのようだ。

「――では、私が話そう」

 次の瞬間、どこからともなくそんな声が聞こえてきた。

 同時に、白いローブを身に纏った中性的な美青年が、一瞬にして何もない白の空間から姿を現す。

 とても、長老エルダーには見えない風貌だが、魔法を極めて神の領域に到達し、死すらも超越した彼らにとって、肉体はただの容れ物であり代替可能な部品でしかないのだ。

 従って、その姿に大した意味などない。

「二人とも。先週、日本の守矢市という場所でS級妖魔――ベルゼブブが顕現したという話は聞いているかな?」

 青年は問いかける。

「はい、聞き及んでおります」

 フレドリカはそう答えた後、顔を上げて続けた。

「……ですが、信じ難い話です」
「S級妖魔が五大老様の結界を越えたことなんて……この数百年で一度もありませんでした」

 シルヴィアの言葉に対し、青年は首を振った。

「なに、たかが数百年、運良く破られなかっただけさ」
「そ、そんなこと――」
「遅かれ早かれ、こうなることは分かっていた」

 そう言われ、口を閉ざして俯くシルヴィア。

「……………………」
「……いいや、違うな。理解していたところで対策の打ちようがないのだから――何も理解していなかったとも言える。まあ、五大老ファイブエルダーズといっても所詮はこんなものさ」

 そう話す青年の笑顔からは、自嘲の念など一切感じ取れなかった。

「今のところはね」

 どこか余裕を感じさせる、底知れない雰囲気を放っている。

「さて、本題に戻ろうか」

 青年は、暗い顔をした二人の少女に向かって話を続けた。

「一番の問題は、現時点で結界に異常が確認できていないところにある。つまり、ベルゼブブが顕現した一瞬だけ我々の結界が打ち破られたということだ。……おそらく、敵は結界術の原理を良く知る人間――我々退魔師の中にいる」
「………………!」

 その言葉を聞き、目を見開くフレドリカ。拳を握りしめ、裏切り者に対する怒りをにじませる。

「……おまけに、その前日には同じ守矢市でA級相当の妖魔反応が確認されている。当初は誤検知だと判断されたそうだが、その後S級妖魔が顕現したとなれば話は別だ。相手は結界を破り、こちらへ悟られぬよう修復する術《すべ》を知っていると見て間違いないだろう。そう簡単に対処できる相手ではないな……都知久母の件もあるし」
「あの、ツチグモの件とは……?」

 S級妖魔の名が連続して登場したことに対し、首を傾げるシルヴィア。

「ああ。……これも同日に守矢市で起きたことなんだが、絡新婦という妖魔が、その都知久母を呼び出そうと試みていたらしくてね」
「ど、どうなっているのですかその土地はっ!」

 彼女は、珍しく声を張り上げた。

「おそらく、そちらも裏切り者が関係しているのだろう」
「そ、そんなに重大な事件ばかり起きて……よく無事ですね。その、モリヤシという場所は……」
「ああ。それが一番不可解な点だよ。本来であれば、既に日本一帯が丸ごと消失していても不思議ではない。……なぜ今も無事に残っているのだろうね? 裏切り者の思惑か、はたまた別の要因が絡んでいるのか……そもそも顕現したベルゼブブはどこへ消えてしまったのか……」

 しばらく考え込むような素振りをした後、青年は顔を上げる。

「――興味は尽きないが、残念ながら我々はここを動くことができない」

 五大老たちは現在、世界を守護するための結界にその霊力のほとんどを割いている。

 そのため、結界を解いて更なるS級妖魔を招き入れてしまうリスクを負ってまで、事件に対処することはできないのだ。

 世界の仮初の平和は、薄氷の上に成り立っているのである。

「……そこで君達には、実際に現地へ行って調査をしてきてもらいたいんだ。一体何が起こっているのか、裏切り者は誰なのか――主にこの二つをね」

 青年は言う。

「わ、私がフレドリカとですか……?」
「シルヴィアなんかと私がッ?!」

 すると、二人は声を揃えて反発した。

「ああ。やはり、君たちのチームワークは抜群だな。今回の任務も期待しているよ。頑張ってくれたまえ」

 しかし、青年は全く意に介さずそう言った後、一瞬にして姿を消してしまった。

「そ、そんな……!」

 絶望し、その場で膝をついて座り込むシルヴィア。

「この世の終わりよッ!」

 一方フレドリカは、頭を抱えてうずくまる。

 かくして二人は、仲良く守矢市へ旅立つことになるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

処理中です...