魔法使いが暗躍する世界で僕一人だけ最強のぼっち超能力者

おさない

文字の大きさ
28 / 35

第28話 正体を現す

しおりを挟む
「綺麗な海ね……でもいそくさいわ……」
「来てみたけど何もないわね! 退屈よ!」

 紆余曲折のあって凪江海岸へとやってきたシルヴィアとフレドリカは、海を眺めて黄昏たそがれていた。

 昼間であるのにも関わらず、周囲に人影は一切ない。

「……ええ、不自然なくらい何も感じないわ」

 ぼそりと呟くシルヴィア。

 彼女の言う通り、この場所は明らかに周囲に満ちる霊力の総量が少なかった。何者かの手が加わっていなければ、このような状況は作られない。
 
「――やっぱりあんたなんでしょ、ナルカミ」

 フレドリカはそう言いながら、離れた場所に立っていた鳴神の方へ振り返る。

「珍しく積極的に提案をしてきたから、おかしいと思ったわ!」
「……だとしたら、どうしますか?」
「とっ捕まえてやるわ! S級妖魔なんか呼んじゃったんだから、場合によっては死刑ね! かわいそー!」

 右手に紅く光る紋章を浮かび上がらせながら、そう宣言するフレドリカ。

「……安心しなさい。なるべく、痛くしないでおいてあげる。……動かないでいてくれればの話だけれど」

 対してシルヴィアは、左手に青く輝く紋章を浮かび上がらせながら言った。

「ルーン文字を身体に直接……それが一等退魔師の扱う魔術ですか。実に興味深い」

 鳴神は、余裕の表情を崩さずに三枚の式札を構える。

 三名が相対した刹那、青空が一瞬にして夜空へと変化した。

 鳴神は全力で準備をし、妖魔の力を高め、かつ二人を閉じ込めることができる結界を凪江海岸に作り出したのだ。これが徹夜の原因その一である。

「これがあなたの用意した罠? その札を使って強い妖魔を召喚するつもりなんでしょうけど、その程度じゃ私たちには勝てないわよッ!」

 鳴神を睨みつけながら啖呵を切るフレドリカ。 

「……確かにあなた方は強い。一等退魔師が二人も揃えば、大抵の脅威は返り討ちにできるでしょう」
「…………何が言いたいの」

 シルヴィアは訝しげな表情で問いかけた。

「――だからこそ、見え透いた罠に容易くはまってくれる」
「………………」
「あなたたちが傲慢な馬鹿で助かりましたよッ!」

 そう言って、鳴神は三枚の式札を天高く掲げ、三体の妖魔を召喚した。

「な、なによこいつら……ッ!」
「こんな妖魔……見たことがないわ……」

 その悍ましい姿を見て、無意識のうちに後ずさる二人。

 ――鳴神が召喚したのは、三匹の怪虫だった。

 それぞれが異なった姿をしているが、虫と人が混じり合ったような気味の悪い風貌であることだけは共通している。

「……はえ蜘蛛くもいなご。私と取り引きしておきながら、ほとんど役に立たなかったS級妖魔たちの成れの果てです」

 そう話す鳴神。

 式神たちの正体は、ベルゼブブ、ツチグモ、アバドンの三柱だった。鳴神が散らばった霊力と瘴気を一晩で必死に集め、式神としてどうにか復活させた存在だ。これが徹夜の原因その二である。

 本来の力には遠く及ばないが、三体ともA級相当の力を持つ強力な妖魔たちだ。

「な、なにを……言っているの……? S級妖魔の成れの果て……?」

 シルヴィアは困惑した様子で問いかける。

「……あなた方が見たものは幻覚などではありません。あの時、アバドンは確かにそこへ顕現していた。……そしてベルゼブブも、ツチグモも。確かに私が呼んだんだ」
「あ、ありえないわそんなことっ! だったら……どうしてそんな姿になってんのよッ!」
「くっくっく……! そんなこと……」

 フレドリカの問いかけに対し、鳴神は肩を震わせながらこう答えた。

「私が教えて欲しいですよおおおおおおおおおおお!」
「えっ」「え……」
「なんでだよおおおおおお! 私のっ、私の数十年かけた計画がああああああああああッ! ぼくの考えた最強のっ、最強の呪いがあああああああッ! うわああああああああああああッ!」

 頭をかきむしりながら絶叫する鳴神。

「…………」「…………」

 沈黙する少女達。

「人に金をたかるゴミみたいな同僚ッ(月城)! 言うことを聞かない生徒ばかりのクソみたいな職場ッ! 偉そうなカス妖魔どもッ! 命懸けな業務内容の割に低賃金な職場ッ! クズみたいな同僚ッ(月城)! カスみたいな同僚ッ(月城)! そんなぼくのっ、ぼくの唯一の楽しみはこれだけだったのにいいいいいいッ! 趣味くらい自由にやらせてくれよおおおおッ!」

 辺り一帯は居た堪れない空気に包まれる。

「だ、大丈夫よ。元気を出して! きっと良いことあるわ!」
「が、頑張っていれば、そのうち他にも楽しみが見つかるわよ……」
「貴様らもだクソガキがあああああああああああああッ!」

 鳴神は血走った目で二人のことを睨みつけた。

「えっ? わ、私?」
「……酷い。心外だわ」
「なんなんですかその態度はああああああッ! ちょっと強くて偉いからって調子に乗るなああああああああああああああああああッ! 年上を敬えええええええええ!」

 鳴神がうるさかったので、フレドリカとシルヴィアは耳を塞いだ。

「その腐り切った性根をおおおおおおおおおおォ! 叩き潰してやるよおおおおおおおおおおおおおおおッ! 虫さんいっけええええええッ! コイツらを潰せええッ! 私の苦悩を思い知れええええええッ! 教育開始いいいいいいいいいいッ!」

 鳴神は、全力で怪虫たちに指示を出す。

「と、とにかくいくわよシルヴィアッ!」
「ええ……分かっているわフレドリカ」

 フレドリカとシルヴィアは、拳を握りしめて同時に魔術を発動させた。

 すると、二人の周囲に膨大な魔力が渦巻き始めるが、見た目の変化はない。

 しかし、一目見てその異質さを感じ取った怪虫たちは、各々が使役する虫達を呼び集めて二人にけしかけた。

「………………ッ!」

 すると、フレドリカに触れた虫たちは次々と燃え上がって塵と化し、シルヴィアに触れた虫たちは次々と凍りついて砕け散った。

「加熱と冷却……単純かつ根源的な魔術操作ですが、ここまで強力なものは初めて見ました……ッ! それがあなたたちのルーン魔術ですかァ……!」

 鳴神は、二人の力を一瞬で見抜く。

「諦めなさいナルカミ! あんたじゃ私たちには勝てないわ!」
「そう……あなたは私たちを傷つけることすらできずに負けるの。……降伏するなら今のうちよ」

 じりじりと距離を詰めてくる二人の少女。

「ぜ、絶対に諦めない! 頑張れ虫さんッ! 私たちならできるうううううッ!」

 かくして、一連の事件の黒幕との決戦が始まる――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

処理中です...