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第29話 覚醒
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――数分後。
「ぐはあああああああああッ!」
砂浜に成人男性の悲鳴が響き渡る。
「ぐっ、うぅぅっ! 数ではこちらが圧倒的に有利なはずなのにィ……っ!」
「…………ギッ」「…………ゔぁあ……」「…………ッ」
そこには返り討ちにされてボロボロになった鳴神と、三匹の怪虫の姿があった。
「ふん! とんだ雑魚だったわね! ぷぷぷっ、なっさけなーい!」
フレドリカは手も足も出ずに敗北した彼らのことを嘲笑う。
「……自分から罠に誘い出して負けるだなんてっ、この上なく哀れねっ。……かっ、かわいそう」
続いて、声を震わせながら言うシルヴィア。哀れんでいるというよりは、明らかに笑いをこらえている。
「くそぉ……ッ! こんなにもっ、こんなにも遠いのですか……一等退魔師はァ……ッ!」
場を整え、強力な式神を用意し、罠に誘い込んでもまだ届かない。一等退魔師の圧倒的な強さを思い知らされ、苦しそうな表情をする鳴神。
「そうね! しかも、私たちは特別強いの! 最初からあんたなんか敵じゃなかったってわけ! わかる?」
「……本当に、思い上がりも甚だしいわね。……けれど、無様に喚き散らす姿はなかなか滑稽で面白かったわよ。……そこだけは評価してあげる」
「………………うぅっ!」
少女二人から散々馬鹿にされ、砂まみれで惨めに嗚咽を漏らす成人男性の姿がそこにはあった。
「ギチチッ…………」
鳴神の式神となった怪虫たちも見ての通り虫の息であるため、もはや打つ手はない。
「もう飽きた! じゃ、そろそろ死になさいナルカミ! あんたみたいな極悪人は生かしておけないわっ!」
「どうせ捕まえても死刑なのだし……今のうちに始末してしまった方が、苦しまずに済むにだから幸せね」
フレドリカとシルヴィアは無慈悲にもそう言った後、手のひらに魔力を集中させる。二人の持つ熱気と冷気を同時にぶつけられてしまったら、もはや塵すら残らないだろう。
「――終わりよッ!」
「……さようなら」
鳴神はゆっくりと目を閉じる。
「くっ……これまでか……!」
己の最期を悟り、砂を掴む鳴神。
――刹那。
「ギギッ! ギギギギギギッ!」
「な、何をしているのですかッ!」
鳴神や他の怪虫たちを庇うようにして、蝗の怪虫――アバドンが前方へ飛び出した。
両手を広げて攻撃を食らい、熱気と冷気に半分ずつ身体が飲み込まれていくアバドン。
「むっ、虫さああああああああああんッ!」
鳴神は叫んだ。
「……グギッ!」
フレドリカとシルヴィアの魔術に飲み込まれて消滅するその寸前、アバドンはなんらかの音を発する。
「後は……任せた……? そ、そんなッ……私たちのことを庇って……っ!」
鳴神はそう解釈したようだが、実際のところは魔術を発動した際の光に反応して動いただけの可能性が高い。
「うっ、うわあああああああっ!」
彼の目から零れ落ちた数滴の涙が、地面を濡らした。
「…………!」「…………!」
仲間の最期を見届けたベルゼブブとアバドンは、声にならぬ慟哭をする。
「はんっ! 雑魚一匹が身代わりになって命拾いしたわね!」
「まさか、妖魔が仲間を庇うとは思わなかったけれど……」
「たまたまでしょ。虫けらにまともな考えなんてないわよ!」
「……そうね。……馬鹿みたいな無駄死にだわ」
アバドンの行動を鼻で笑いながら、次の攻撃に移ろうとする二人。
「……いいえ、違います」
長らく項垂れていた鳴神は、砂を掴んで立ち上がりながら言った。
「アバドンは……死んでなどいません……ッ!」
「は? あんた何言ってんの?」
「……まともに話を聞こうとしたって無駄よ。彼はちょっとおかしいの」
「虫さんを馬鹿にするなぁッ!」
鳴神は叫ぶ。
「アバドンの意思は……私が受け継いだッ!」
意味が分からず首を傾げるシルヴィアと、つまらなそうな顔をするフレドリカ。
「我々の勝ちですッ!」
――鳴神が宣言した次の瞬間、残された怪虫たちの体が発光し始める。
「な、なにあれ……?」
「きっ、キモすぎ!」
困惑する二人をよそに、鳴神は不気味に微笑む。
「蠱毒は……生き残った者をより強力な呪いへと変化させる……!」
「ま、まさか……最初からこれが狙いだったの……?」
「いいえ」
「……………………」
ベルゼブブとツチグモは、消滅したアバドンの霊力を受け取ることで本来の力を取り戻しつつあるのだ。
「虫ごとき、何匹だって叩きつぶしてやるわッ!」
「少し強くなったくらいで勝てると思わないで……!」
異常に高まり続ける二匹の霊力を感じとったフレドリカとシルヴィアは、再び魔力を高めて戦闘態勢に入るのだった。
「虫さんへんしんッ! メタモルフォーゼっ! うおおおおおおおおっ!」
かくして、最強の毒蟲がここに顕現する。
「ぐはあああああああああッ!」
砂浜に成人男性の悲鳴が響き渡る。
「ぐっ、うぅぅっ! 数ではこちらが圧倒的に有利なはずなのにィ……っ!」
「…………ギッ」「…………ゔぁあ……」「…………ッ」
そこには返り討ちにされてボロボロになった鳴神と、三匹の怪虫の姿があった。
「ふん! とんだ雑魚だったわね! ぷぷぷっ、なっさけなーい!」
フレドリカは手も足も出ずに敗北した彼らのことを嘲笑う。
「……自分から罠に誘い出して負けるだなんてっ、この上なく哀れねっ。……かっ、かわいそう」
続いて、声を震わせながら言うシルヴィア。哀れんでいるというよりは、明らかに笑いをこらえている。
「くそぉ……ッ! こんなにもっ、こんなにも遠いのですか……一等退魔師はァ……ッ!」
場を整え、強力な式神を用意し、罠に誘い込んでもまだ届かない。一等退魔師の圧倒的な強さを思い知らされ、苦しそうな表情をする鳴神。
「そうね! しかも、私たちは特別強いの! 最初からあんたなんか敵じゃなかったってわけ! わかる?」
「……本当に、思い上がりも甚だしいわね。……けれど、無様に喚き散らす姿はなかなか滑稽で面白かったわよ。……そこだけは評価してあげる」
「………………うぅっ!」
少女二人から散々馬鹿にされ、砂まみれで惨めに嗚咽を漏らす成人男性の姿がそこにはあった。
「ギチチッ…………」
鳴神の式神となった怪虫たちも見ての通り虫の息であるため、もはや打つ手はない。
「もう飽きた! じゃ、そろそろ死になさいナルカミ! あんたみたいな極悪人は生かしておけないわっ!」
「どうせ捕まえても死刑なのだし……今のうちに始末してしまった方が、苦しまずに済むにだから幸せね」
フレドリカとシルヴィアは無慈悲にもそう言った後、手のひらに魔力を集中させる。二人の持つ熱気と冷気を同時にぶつけられてしまったら、もはや塵すら残らないだろう。
「――終わりよッ!」
「……さようなら」
鳴神はゆっくりと目を閉じる。
「くっ……これまでか……!」
己の最期を悟り、砂を掴む鳴神。
――刹那。
「ギギッ! ギギギギギギッ!」
「な、何をしているのですかッ!」
鳴神や他の怪虫たちを庇うようにして、蝗の怪虫――アバドンが前方へ飛び出した。
両手を広げて攻撃を食らい、熱気と冷気に半分ずつ身体が飲み込まれていくアバドン。
「むっ、虫さああああああああああんッ!」
鳴神は叫んだ。
「……グギッ!」
フレドリカとシルヴィアの魔術に飲み込まれて消滅するその寸前、アバドンはなんらかの音を発する。
「後は……任せた……? そ、そんなッ……私たちのことを庇って……っ!」
鳴神はそう解釈したようだが、実際のところは魔術を発動した際の光に反応して動いただけの可能性が高い。
「うっ、うわあああああああっ!」
彼の目から零れ落ちた数滴の涙が、地面を濡らした。
「…………!」「…………!」
仲間の最期を見届けたベルゼブブとアバドンは、声にならぬ慟哭をする。
「はんっ! 雑魚一匹が身代わりになって命拾いしたわね!」
「まさか、妖魔が仲間を庇うとは思わなかったけれど……」
「たまたまでしょ。虫けらにまともな考えなんてないわよ!」
「……そうね。……馬鹿みたいな無駄死にだわ」
アバドンの行動を鼻で笑いながら、次の攻撃に移ろうとする二人。
「……いいえ、違います」
長らく項垂れていた鳴神は、砂を掴んで立ち上がりながら言った。
「アバドンは……死んでなどいません……ッ!」
「は? あんた何言ってんの?」
「……まともに話を聞こうとしたって無駄よ。彼はちょっとおかしいの」
「虫さんを馬鹿にするなぁッ!」
鳴神は叫ぶ。
「アバドンの意思は……私が受け継いだッ!」
意味が分からず首を傾げるシルヴィアと、つまらなそうな顔をするフレドリカ。
「我々の勝ちですッ!」
――鳴神が宣言した次の瞬間、残された怪虫たちの体が発光し始める。
「な、なにあれ……?」
「きっ、キモすぎ!」
困惑する二人をよそに、鳴神は不気味に微笑む。
「蠱毒は……生き残った者をより強力な呪いへと変化させる……!」
「ま、まさか……最初からこれが狙いだったの……?」
「いいえ」
「……………………」
ベルゼブブとツチグモは、消滅したアバドンの霊力を受け取ることで本来の力を取り戻しつつあるのだ。
「虫ごとき、何匹だって叩きつぶしてやるわッ!」
「少し強くなったくらいで勝てると思わないで……!」
異常に高まり続ける二匹の霊力を感じとったフレドリカとシルヴィアは、再び魔力を高めて戦闘態勢に入るのだった。
「虫さんへんしんッ! メタモルフォーゼっ! うおおおおおおおおっ!」
かくして、最強の毒蟲がここに顕現する。
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