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第31話:圭太の初恋(その2)

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さらに数日が立ったが、圭太は相変わらず悶々としたり、
脳内で甘ったるいポエムを精製していた。
(園田さん、どんな男の人がタイプなんだろう・・・)
・・・すでに女装してない状態でも乙女モードが
爆発状態な圭太であった。
当然ながらまだ口もきいていない。

そしてそれは圭太が何気なく廊下を歩いていた時に起きた。
「あなたがA組の白石君?」と声を掛けられる。
圭太が振り返るとそこにいたのは・・・

園田瑠璃本人であった。

(そ、そそそそ園田さん?!)心臓が口から飛び出しそうになる。
今最も自分が気にかけている人物が目の前にいて声をかけた来たのだ。
動揺するなという方が無理だろう。
「そ・・・そうだけど、お、俺が何か?」圭太は必死に平静を装う。
声が上ずってしまったが何とか言い切った。
内心ドキドキが止まらない。
(こうして面と向かうのは初めてだけど・・・やっぱりかわいい。)
肩までのふわっとしたウェーブがかった髪をリボンで緩くまとめている。
そしてやはり圭太よりも10㎝近く小柄だ。
園田瑠璃はそんな圭太の様子をよそにさらに圭太に近寄ると、
いきなり圭太の顔を両手でつかみだした。
「え!?」突然の行動に圭太は驚く。
そしてそのまま圭太の顔をじっと見つめる。
(ちょっと・・・顔近い!顔近い!)
圭太の顔がどんどん赤くなっていく。
そしてその様子に気づいたのか瑠璃はやっと手を放す。
そして「ごめんね」とだけ言うと去っていった。
(い・・・今の何?!)
意中の園田瑠璃と話すことは出来たが、これでは訳が分からない。
「え、ちょ、待って!」圭太は慌てて追いかけようとしたが、 
足早に去っていく彼女に追いつくことはできなかった。
「あー、もう、なんなんだぁ~!!」

***
放課後、部室にて。
「それ、話したうちに入るの?」
「ですよねぇ・・・」
「というか、それじゃ会話っていうより、一方的に観察されただけよ。」
沙由美が呆れたように答える。
「しかし園田さんの行動もなんだか不可解ですねぇ
」またも真由里が不思議がる。
「うーん、まぁ、ねぇ・・・」
(そろそろ決着がつくかもしれないわね・・・これは)
沙由美はちょっと言葉を濁す。

それから数日後、圭太は放課後に沙由美のいる保健室に呼ばれた。
(部室でなくなんで保健室なんだろ?)
圭太は不思議に思いながら、ノックをしてドアを開ける。

ドアを開けて目の前にいたのは、

園田瑠璃だった・・・。思わず固まる圭太。
すると、瑠璃の方から話しかけてきた。
彼女は少し緊張したような表情をしていた。
そして、ゆっくりと口を開く。

「いいじゃん、変態だって。」

そう言うと彼女は走り去っていった。
「・・・へ?」
圭太は何が起きたのか理解できず、
ただその場に立ち尽くしていた。
「圭太君、すぐに追いかけなさい!
彼女の事、見ておいた方がいいわよ」
保健室の奥で沙由美が言う。
そこで我に返った圭太は、 急いで彼女の後を追いかけた。
沙由美はその姿を見送りつつ
「ちょっと可哀そうなことになるけどね・・・」とつぶやいた。

圭太は追いつけるかどうか不安だったが、意外にもあっさりと 
彼女を視界にとらえることができた。
瑠璃は校舎裏の人気のない場所へと向かっているようだった。
圭太もその後を追う。
しばらく追っているとある人物がいるのに気が付いた。
(あの人は・・・たしか葵さんと同じクラスの・・・)
3年の山吹智花だった。ちょっと背が高くて
ボーイッシュな印象の女性だ。
瑠璃は彼女と対面している。
圭太は物陰に隠れて様子をうかがう。

「・・・智花さん。わたし貴女が優しくしてくれたことに、
最初は戸惑いましたが、次第にあなたに
惹かれていくようになりました・・・」
(え・・・どういう事?)圭太には状況が理解できなかった。

「でも、わたしはそれを普通ではないこととずっと感じていました。」
「・・・・」山吹先輩は静かに彼女を見つめる。
「だからわたしは自分の気持ちを押し殺して、 
いつも通りに接しようと努力しました。
だけど、やっぱり無理なんです。どうしても貴方の事を考えてしまう。」
瑠璃が苦しげな声で訴える。
「・・・わたしはずっと前からどうしても
男の子を好きになれないことで、ずっと悩んでいました。
周りの友達とは明らかに違う感覚の自分を、
おかしくて異常だとずっと思ってたんです。」
「うん・・・」
しかし瑠璃はそこで顔を上げ、
「でも、そんなもの以上に、あなたが好きで一緒にいたいという気持ち
わたしの中ではずっと大事で大きいことが分かりました!」
「・・・瑠璃ちゃん。」
「だから・・・好きなのが女の子だっていいじゃん!・・・って!」

そういうと瑠璃は智花にキスをした。
「・・・っ!?」圭太は息を飲んだ。
智花は驚いた様子で、一瞬固まっていたが、
瑠璃のその決意をやがて受け入れるように瑠璃を抱き寄せる。
そして二人は唇を重ね続けた。

(・・・・・・・・。)
その光景を見て圭太は何も考えることができなくなり、その場を動けなかった。
ただ、その眼からは涙が落ちていた。

*****
「・・・ここにいたのね。またわかりやすい場所で落ち込んでるわね。」
夕刻。空が夕焼けから夜に変わろうとしている頃、
圭太は屋上にいた。そこには沙由美がいた。
圭太はフェンス越しに校庭を見下ろしているところだった。
沙由美の声に振り向く圭太。
その顔は驚くほど無表情で感情を感じさせなかった。
「・・・知ってたんですね。」「教えたところで止まらなかったでしょ?」
「・・・・・・」
沙由美の言葉に対して圭太は無言のまま視線を戻す。
そこにあるのは、もうすぐ夜になろうとしている暗い景色だけだった。

「でもね、彼女の事を恨んじゃ駄目よ。あの子だってずっと悩んでたんだから。
ずっと、女の子しか好きになれないって私に相談に来てたの。」
「・・・」圭太はまだ黙ったままだ。
沙由美は続けて話す。
「あれは、あの娘なりに一生懸命考えて出した答えなんだから。」
「・・・・」

「まぁ、ショックなのは分かるわ。
いきなりあんな場面見ちゃうなんて。」
「・・・」
「・・・ねぇ、聞いてる?」
沙由美がそう問いかけても、圭太は反応しなかった。
「彼女にね、君の女装の事話しちゃった・・・」
「・・・・・・・はぁ!?」
思わず声を上げる圭太。
沙由美は申し訳なさそうな顔をする。
そして、さらに続ける。
「彼女は女の子しか好きになれない自分を
ずっと異常で異質だと思っていたの。
だからね、君の事を話したの。」
「なんでですか!どうして、俺の秘密を・・・!!」
圭太は怒りをあらわにした声で沙由美に詰め寄る。
「あなたのほかにも自分が異質であることに悩んでる子がいるって。
でもその子は自分に折り合い付けて生きてるって・・・」
「だからって・・・」
「でも実際君の事を知ってからの彼女の反応はあんなだったでしょ?」
圭太は瑠璃の行動を思い出す。
この前の廊下での顔ガン見とさっきの保健室でのセリフ。
『いいじゃん、変態でだって』
そこに嫌悪や軽蔑はなかった。

「まぁ君の存在が彼女の背中を押すきっかけになったのは
間違いないわ」
「そんなことって・・・」
「でもどっちにしても君にはつらい思いさせちゃったけどね・・・」
「・・・っ」
圭太は言葉が出なかった。
そして沙由美の言葉に反応するように涙が出てきてしまう。すると、
沙由美がそっと圭太を抱き寄せ、頭を撫でてくれる。
その感触に安心して、しばらくそのまま泣いてしまった。

結局その日は家に帰っても水の入ったコップのように、
下を向くだけでどうしても涙が出てしまい、
なかなか眠ることができなかった。

つづく
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