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第32話:圭太の初恋(その3)

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数日経ったある日。

「はめられた・・・」
と絶望的な顔でつぶやく圭太の姿があった・・・。

話は数日前の圭太失恋の翌日までさかのぼる。

流石の圭太も失恋の痛手は相当だったらしく、
かろうじて学校には来たものの、
その行動はかなりおかしいものであった。
授業中はぼーとしていて、先生に当てられても上の空。
休み時間はトイレに行く以外は
ずっと机に突っ伏したまま動かなかった。
そんな圭太の様子をクラスメイトたちは心配しつつも、 
話しかけづらいのか遠巻きに見ているだけだった。

そんなことが数日続きついに沙由美からも「あれはまずいわね。」
と言わしめてしまったほどだった。
「この前保健室に来た時にお茶を出したら無意識に
角砂糖10個も入れて飲もうとしてたわ・・・」
「あちゃー、重症ですねぇそれは」
「・・・何かショック療法が必要ねこれは」

というわけでページの最初に戻る。
「はめられた・・・」
圭太がいるのは学区域から離れたある駅の構内。
時刻としてはそろそろ帰りのラッシュが始まるころだ。
圭太はなぜかそこにいる。しかも女装させられている。
更に・・・下着は没収されている。

部室でも例によって例の調子だったため、
すべての問いに生返事をしていた結果であった。
そして駅の構内で正気を取り戻して、現在に至る・・・というわけだ。

「気分はどう?」「最悪ですよ!」
「じゃあいいじゃない」「よくありませんよ!しかもこんな・・・」
「ちゃんと化粧もしてきてあげたわよ?真由里ちゃんの自信作。
更に変装用にメガネもしてるから正体バレはないんじゃない?」
「そりゃ、ありがとうございます!
・・・ってそう言うことじゃない!それに・・・下・・」
圭太の下半身はスカートだ。当然だがその下には何も穿いていない。
もっと言えば股間は無毛状態でスカート以外何も覆うものがない。
しかも今回はJK制服なのでスカート丈がいささか頼りない。
圭太は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして、足をもぞもぞさせる。
(うう・・・下半身が寒い)
沙由美はニヤリとした表情で圭太に語り掛ける。
「下着なしで電車とか初めてでもないじゃない。
しかも今回は君がいいって言ったんだからね。」
とうわの空で話を聞いてなかったことを指摘する。
「あの時は新幹線で、座ってたからまだよかったんです!」
圭太は夏合宿の事を思い出す。
(なんでこの人は次々にこういうことを思いつくんだろう・・・)
絶望的な表情でため息を吐く圭太だった。

「まぁ、今回も大丈夫よ。ほら、時間がないわ。早く行く」
沙由美は強引に圭太の腕を引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺本当にこのまま乗るつもりですか!?」
「もちろん」
「無理ですよ!絶対ばれますって!!」
「あら、大丈夫よ。今日は人が多いし、みんな自分の事で精一杯だから。」
「でも・・・」
「はいはい、ごちゃごちゃ言ってると置いてくわよ」
沙由美はどんどん改札へ進んでいく。
圭太は諦めて覚悟を決める。
そして、圭太はホームへと連れていかれた。
圭太が連れて行かれたのはちょうど通勤通学のピークで、かなり混雑していた。
圭太の女装姿に気づくものは誰もいないようだ。
圭太はほっと胸をなでおろすが、油断はできない。
今は人が多すぎて逆に目立たないだけだ。
そのうちに人の波に流され、いつばれるともわからない状況だ。
圭太はあまりの緊張に思わず、沙由美の手を握ってしまう。
すると沙由美は嬉しそうな顔で、圭太を見つめる。
「はっ」
圭太は自分のしていることに気づき慌てて手を離す。
「あ、すみません」
「ふふ、気にしないで。それより、これなら大丈夫でしょう?」
「はい・・・なんとか」
確かに手さえ握っていれば人にぶつかる心配はないし、
「知り合いに見られた時のために手を握っているだけ」
と言い訳もできる。
ホームにアナウンスが入り電車がやってくる。
「それじゃ、行きましょうか」
二人は電車に乗り込む。
圭太はぎゅっと目を瞑り、うつむいている。
沙由美はそんな圭太を面白そうに眺めていた。
取り敢えず持っている学生カバンで前を死守する。
幸いなことに、乗客は多く、皆それぞれの目的地に急ぐのに必死なのか、
 こちらに注意を向けるものはいなかった。
しかし各駅停車のため、人の動きも激しく、人の波にのまれそうになるたびに
圭太は冷や汗で一杯になった。(とにかく一番の危険は下だ・・・)
それこそ転倒でもすれば間違いなくアウトだ。
圭太はスカートを押さえつつ、下からの襲撃に備えた。

が、しかし
この時圭太に妙な感覚が襲う。
はじめは偶然手が触れただけかと思っていた。
いや違う・・・明らかに背後からスカートの上から
意図的に手が触れている。
(え?!マジかよ!ちょっと待て!)
圭太はゾクッとした寒気を感じて、すぐに手を払いのける。
それでもなお、執拗にスカートの中に侵入しようとする手に、
 圭太は恐怖を覚えた。
だが周りは混雑していて身動きが取れない。
声を上げようにも、周りの騒音にかき消されてしまいそうだ。
そうこうしているうちに、再び手が圭太の股間に伸びてくる。
圭太は今度ははっきりとその感触を確かめた。
(こいつ・・・痴漢だ!!)
圭太は一気に血の気が引く。
(スカート中に手が入ったらおしまいじゃないか!)
圭太は勇気を出して後ろを振り返る。
だが、人が多く、犯人の顔まではわからなかった。
だが、おそらく男であろうということだけはわかった。
どうしようかと迷っていると、相手は太ももを経由して、
スカート中に手を伸ばさんとしている。
ここから相手の腕をつかみたくても密集しすぎて手が伸ばせない。
(ダメだ・・・スカートの下は何も・・・)
圭太は絶望した。その時だった。
「あらぁ、この手は何?」
突然沙由美の声が聞こえたかと思うと、男はビクンとして固まってしまった。
(あれ・・・?)
圭太は一瞬呆けた表情になる。
何とか顔だけを後ろに向けると、沙由美が男の腕をつかんでいる。
「あなた何やってるのかしら?」
沙由美は笑顔で男に問いかけるが、目は笑っていない。
「ち、違います!俺はただ、この子と一緒に乗ってきただけで・・・」
男が言い訳をする。
「へぇ、一緒にねぇ・・」
沙由美は男の顔をじっと見つめる。
「そ、そうなんです!信じてください!」
「んー、でもね・・・」
沙由美は掴んだままの腕をギリギリと締め付ける。
「痛っ・・・!!」
「あなたの手が私の可愛い生徒の大事なところを
触っていたようなんだけど、
それはどういうことかしら?」
「ひぃっ!?す、すいませんでした!!」
男は慌てて手を離すと、そのまま降りて逃げていった。
「まったくもう・・・いい歳こいてみっともない・・・」
沙由美はぶつぶつ文句を言っている。
一方の圭太は全身の力が抜けて、冷や汗がどっと出る。
沙由美が助けてくれなかったら、
今頃自分はどんな目にあっていたのだろうか。
考えるだけでも恐ろしい。(し、死ぬかと思った・・・)
しばらくすると次の駅に着き、また人が乗り込んできた。
さっきよりもさらに人が増えてきたようだ。
圭太は、相変わらずスカートを手で押さえながら、 
満員電車に揺られていた。

先ほどのようなことが起こらないよう、
できるだけ体を小さくしてうつむく。
電車が大きく揺れ、人とぶつかるたびに心臓が飛び出そうになる。
電車がカーブに差し掛かり大きく傾いた。
「きゃあっ!」
誰かに押されてバランスを崩した沙由美が倒れ込んでくる。
「大丈夫ですか?先生」
圭太は慌てて支えようとする。
「ごめんなさい。ありがとう」
沙由美は体勢を立て直すと、再び前を向いて立った。
しかし、沙由美の胸の膨らみが自分の体に密着していることに気付く。
(うわ、やわらかい・・・って、こんな場合じゃない!)
圭太は自分の置かれている状況を思い出す。
そしてすぐに離れようとしたが、体が思うように動かない。
「あ、あの・・・先生、すみません、ちょっと離れてもらってもいいですか?」
圭太は遠慮がちに言う。
「え?どうして?」
沙由美は不思議そうに首をかしげる。
「いや、だって、その・・・当たっちゃいますから・・・その、おっぱいが・・・」
圭太は恥ずかしそうにもじもじしながら答える。
しかし、沙由美はさらに体を寄せてくる。
圭太の背中に柔らかい感触が当たる。
(まさか・・・これ・・・わざと)
「え?いや、ちょ、ちょっと・・・」
圭太の顔が真っ赤に染まる。
「ん?なぁに?」
沙由美はニコニコしている。
圭太が戸惑っていると、再び大きな揺れが襲った。
その拍子で圭太がよろめく。
「きゃっ!」
今度は沙由美も圭太と一緒に転びそうになった。
「危ない!」
圭太は思わず沙由美の腰を抱きかかえるようにして、
自分側に引き寄せた。
沙由美の顔が圭太の顔のすぐ横に来る。
「せ、先生、大丈夫ですか」
「え、ええ、ありがと」
沙由美は少し驚いた様子だったが、冷静さを装っている。
だが、その頬はわずかに赤く染まっている。
「ほら、ちゃんと立ってくださいよ」
「わ、わかってるわよ」
沙由美はそっぽを向きながら立ち上がる。
その時、電車が急ブレーキをかけた。
慣性の法則により、圭太は沙由美の方へ引っ張られる。
圭太は沙由美の肩をつかんで抱き寄せる。
沙由美の体は柔らかく、温かい。
「先生、平気ですか?」
「だ、だいじょうぶ・・・」
沙由美は俯きながら答えた。
「よかった・・・」
圭太はほっとした表情を浮かべる。
「それより・・・」
「はい?」
「次で降りるわよ」沙由美は顔を赤くしたまま、
ぶっきらぼうに言った。

つづく
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