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第23話:二人でいない日~ユキヤの場合~(後編)
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「ちょっと待て・・・お前、俺らの事・・・どこまで知ってる?!」
自分とすみれとの今の関係は友人にすら話してない。
「あ・・・」ここで根岸が口をふさぐ。
しかしもう遅い。
「まさかとは思うが、盗聴器とか仕掛けてないよね。」
「・・・」
「おい黙り込むんじゃねえよ!」
ユキヤは思わず叫ぶ。
「・・・いえ、殆どは浅葱の見立てて・・・
あとは白石さんからそれとなく聞いていました」
根岸は目をそらしながら答える。
ユキヤはため息をつく。「浅葱さんかぁ・・・」
「あの女、いわばプロですからね。言動から何となく察しがついたようです。」
(そんなんで見抜かれるものなのか・・・)
ユキヤは呆れる。
「まぁそちらも、我々の関係を知ってるわけですから・・・」
「それはお前らが勝手にべらべら喋ったからだろうが!」
ユキヤは怒りをあらわにする。
(しかし浅葱さんの態度には完全に油断してた・・・)
ユキヤは心の中で舌打ちをする。
「彼女曰はく『さっちゃんは女性客には高確率で声をかけるんでチョロいっス』とのことでした」
根岸は淡々と語る。(あんな普通の会話でそこまで見抜かれるものなのか・・・)
ユキヤは愕然とする。
「あ、でも貴方が直感だけで教授の研究室まで乗り込んだのは予想できなかったようです。」
「え?」「でなければ教授もあんな醜態は晒してなかったでしょうし。」
ユキヤは少し安心するが、それでもやはり浅葱の洞察力には驚くしかない。
そしてユキヤはふと思い出す。
「そういえばすみれに近づいたのも教授の命令だったんだよな?」
「最初はそうでしたが・・・その後は個人的に仲良くなりました」ユキヤは少しだけホッとする。
「大体何を話してたんだよ?」
ユキヤは質問を続ける。
「ええと・・・よく行くおすすめのお店とか、好きな食べ物とか・・・恋人の話とか・・・」
「女子高生かお前らは!」
ユキヤは思わず突っ込んでしまう。
「いや、普通ですよ?ただの世間話でしょ?」ユキヤの反応に根岸は戸惑う。
(そういやすみれも「ネギちゃん」呼びで完全に友達扱いだったしな)
「はぁ・・・もういいわ・・・」
ユキヤは疲れる一方だ。
(とにかく細かい行為の内容までは知られてないようだな・・・)
ただ自分が完全に受けに回っていることは見抜かれてそうだが。
ユキヤはため息をつく。
「まあ俺が攻められてるのはバレてるんだろ?」
ユキヤは諦めたように呟く。
「それは仕方がないですね。あの女はそういう奴なんで」根岸は平然と言う。
「で、教授は何でそこまでして俺らを観察したいの?」
ユキヤは尋ねる。
「申し訳ありませんがそれは言えません。
言ってしまうことであなた方が変わるといけませんから」
根岸はあっさり答える。
「・・・そこに関してはお前もだんまりか」
「はい。すいませんが」根岸は頭を下げる。
「わかったよ。これ以上は聞かない。ただ俺はともかくすみれに変なことはするんじゃねえぞ」
ユキヤは釘をさす。
「もちろんです。大学で初めてできた友達ですから」
「ならよし。じゃあそろそろいいか?明日も早いんでな」ユキヤは立ち上がる。
「はい。ありがとうございました」根岸は一礼して帰っていった。
ユキヤも家路につく。
****
「ただいま・・・って誰もいないか」
ユキヤは玄関を開けると部屋に入る。
すみれはまだ実家に帰ってきていない。
(一人だと結構静かだよな)そう思いつつユキヤは本を取り出す。
読み始めてしばらくするとスマホが鳴る。すみれからだ。
『今何してる?』というメッセージが入る。
「今は本を読んどるとこ」ユキヤは返信をする。
すぐに既読になり、返事が来る。
『大丈夫?寂しくない?』
「大丈夫だよ」とだけユキヤは返す。
その後2日間は何事もなく過ぎていった。
(あれ?意外と寂しくない・・・?)
すみれからの連絡があるだけでユキヤの心は満ち足りていた。
もちろん昼間はバイト先で浅葱に突っつかれる日々であったが。
「何で黙ってるっスか?面白くないっス」
今日も浅葱はユキヤをいじってくる。
「別に話すことなんてありません」とユキヤは言い放つ。
「あー、やっぱり何かあったんすね!教えて下さいっス!」
「何もないですよ」ユキヤは冷たくあしらう。
(また何かを感付かれても困るしな・・・)あれ以来彼女の洞察力の強さを警戒していた。
「えぇ~。絶対なんかあるっスよね?」浅葱がしつこく聞いてくる。
「なんもないですよ。それより仕事中じゃないんですか」
「休憩時間だから全然問題なしっス」
「じゃあさっさと持ち場に戻ってください」
ユキヤは浅葱を追い払うように言う。
「はいはいっスー。でも私、さっちゃんの事好きっスよ」浅葱はニヤリとして去っていった。
(勘弁してくれ・・・)ユキヤはため息をつく。
***
(さて、シャワー浴びて寝るかな・・・)
その夜、風呂場で服を脱ぎながらふと考える。
もう3日すみれとは会ってないんだと。
そしてすみれとのHを思い出してしまう。
彼女とのセックスはとても気持ちいい。
しかし一方で彼女に支配されているという感覚もある。
それはとても屈辱的で背徳的な行為であるはずなのに、どこか心地よいと思ってしまう自分がいる。
それに最近は彼女に調教されているという自覚がある。
すみれに縛られたり、言葉で責められてるのも、どこかで受け入れてしまっている自分がいる。
「ユキちゃん」と耳元で呼ばれるたびにゾクっとしてしまうし、胸を触られるだけで変になりそうになる。
こんな事を考えるなんてどうかしてると自分で思うのだが、どうしても考えてしまうのだ。
(早く帰ってこいよ、バカすみれ)
そんな事を考えているうちに、もやもやした感情もわいてきた。何だろうこの感じ。ムラムラする。
都合3日すみれと会っていないという事は、つまりそういうことなのだ。
普段なら我慢できるはずだけど、今はなぜかできない。
すみれに会いたい。抱きしめて欲しい。キスして欲しい・・・。
気が付けば右手が股間に伸びていた。ゆっくりとしごく。徐々に硬度を増していくソレ。
(ダメだってわかっているのにどうしてこうなるんだよ?)頭では理解していても手は止まらない。
次第にスピードを上げていき、絶頂へと近づいていく。「んあっ……」思わず甘い吐息が出てしまった。
恥ずかしいが誰もいないのだから問題はない。だけどこの罪悪感は何だろう・・・?
やがて限界を迎え、精液を吐き出した。「はぁ……はぁ……。」自己嫌悪に陥る。
やけくそ気味に再びシャワーを浴びて、すべてを洗い流した。
そのままベッドに横になって天井を見つめる。
「会いたくなってきたな」ぽつりと呟いた。すみれの匂いが恋しい。
あの柔らかい肌に触れたい。温もりを感じたい。
「俺って結構変態なのかな?」自虐的につぶやく。でもそれが本心だった。
「どうしようもない奴だなお前は」自分にあきれながらも、その欲望は抑えられなかった。
気が付くとスマホを手に取り、すみれへ電話をかけていた。
***
「もしもーし?ユキちゃん?」
「ああ、今大丈夫か」
「うん、平気だよ、また電話?」
「なんでもない・・・」
「で、何か用があったんじゃないの?」
「いや別に・・・」
「え~そうなの?寂しくなって電話してきたのかと思ったよw」
「ちげぇよ!」「じゃあなんで?」
「それは・・・」
「ねぇ教えてよ、ユキちゃん」
「・・・・・・」言葉に詰まる。言えない理由がいろいろあるからだ。
「ユキちゃーん」
「・・・・・・」
「あれ?聞こえてるよね?」
「う・・・」
「ほら、言ってごらんよ」
「・・・」
「言わないと切るよー」「言うから切らないでくれ」
「ふふっ、素直だね」
「うるさい」
「それで理由は何なの?」
「それはだな・・・」
「うん」
「もう少し・・・お前の声が聞きたかった・・・」
「う・・・そこでマジになられると・・・」「悪い・・・」
「まあいいか、ユキちゃん可愛いし」「可愛くなんか・・・」
「ふふふ」「笑うなよ」「はいはい」
「・・・」「ねえ、明日帰るんだけどさ」
「そうか、わかった。駅まで迎えに行くよ。何時くらいになりそうだ?」
「大体夕方4時ごろかなぁ。」
「・・・あ、すまん、それだとバイトの時間かぶってるわ」
ユキヤはスケジュールをチェックしながら言う。
「あ、そっか。じゃあ駅で待ち合わせにしない?バイト終わるまで待ってるから。」
「いいけど、そんなに長く待たせるのもなんだし、先に帰ってもいいぞ」
「そんな事したらユキちゃん拗ねるでしょ」
「俺は子供じゃないんだが」
「はいはい」
****
翌日。
「あれぇさっちゃん、元気ないっスね?」
「・・・浅葱さんも毎日来てて飽きないんですか?」
「そりゃあさっちゃんに会いに来てるわけだし?
それにあたしの事は気にせず仕事してもらって構わないっスよ」
「いや気にしますって」
ユキヤのバイト先には相変わらず浅葱が来ていた。
浅葱はユキヤの顔を見てこう言う。
「うーん、もしかして彼女いなくて寂しくなって一人でしちゃったとか?」
「?!」
「それでも寂しさが埋められなくて思わず彼女に電話しちゃったとか?」
「!!!?」
「そうしたら彼女が帰ってくる時間とバイトの時間がモロ被りで落ち込んでるとか?」
(・・・なんでこの人全部見抜いてくるんだよ?!)
浅葱の言葉は全部図星だった・・・その洞察力はやはり侮れない。
「いやいやいやいや、違いますってば!!」
ユキヤは慌てて否定する。
「いやぁ健全な若者としてはごく当たり前の行動っスから気にする必要ないっスよ」
「うぐっ・・・」
浅葱の発言は確かにもっともなのだが、ユキヤの心をえぐった。
「まぁとにかく、今日一日頑張ればその彼女に会えるっスから頑張る事ッスね」「・・・はい」
「じゃあまた来るんで頑張ってくださいっスー」
そう言い残して浅葱は帰っていった。
(・・・相変わらず訳が分からないけど、慰めてくれてるのかな?)
浅葱が出て行った後でユキヤは一人考える。
「でもやっぱり、会いたいよな・・・」
そう呟いてユキヤは作業に戻った。
***
そうしてようやくバイトが終了する。
「お疲れ様です」「あざっしたー」
店長や他の従業員たちに挨拶をして店を出る。
(荷物置いて着替えたらすぐに連絡して・・・)
ユキヤはそんなことを考えながら家路を急ぐ。そして自宅に到着し、ドアを開ける。
(あれ?鍵が掛かってない?!)
不審に思いつつも靴を脱ぎ、リビングへ向かう。
するとそこにはすみれの姿があった。
つづく
自分とすみれとの今の関係は友人にすら話してない。
「あ・・・」ここで根岸が口をふさぐ。
しかしもう遅い。
「まさかとは思うが、盗聴器とか仕掛けてないよね。」
「・・・」
「おい黙り込むんじゃねえよ!」
ユキヤは思わず叫ぶ。
「・・・いえ、殆どは浅葱の見立てて・・・
あとは白石さんからそれとなく聞いていました」
根岸は目をそらしながら答える。
ユキヤはため息をつく。「浅葱さんかぁ・・・」
「あの女、いわばプロですからね。言動から何となく察しがついたようです。」
(そんなんで見抜かれるものなのか・・・)
ユキヤは呆れる。
「まぁそちらも、我々の関係を知ってるわけですから・・・」
「それはお前らが勝手にべらべら喋ったからだろうが!」
ユキヤは怒りをあらわにする。
(しかし浅葱さんの態度には完全に油断してた・・・)
ユキヤは心の中で舌打ちをする。
「彼女曰はく『さっちゃんは女性客には高確率で声をかけるんでチョロいっス』とのことでした」
根岸は淡々と語る。(あんな普通の会話でそこまで見抜かれるものなのか・・・)
ユキヤは愕然とする。
「あ、でも貴方が直感だけで教授の研究室まで乗り込んだのは予想できなかったようです。」
「え?」「でなければ教授もあんな醜態は晒してなかったでしょうし。」
ユキヤは少し安心するが、それでもやはり浅葱の洞察力には驚くしかない。
そしてユキヤはふと思い出す。
「そういえばすみれに近づいたのも教授の命令だったんだよな?」
「最初はそうでしたが・・・その後は個人的に仲良くなりました」ユキヤは少しだけホッとする。
「大体何を話してたんだよ?」
ユキヤは質問を続ける。
「ええと・・・よく行くおすすめのお店とか、好きな食べ物とか・・・恋人の話とか・・・」
「女子高生かお前らは!」
ユキヤは思わず突っ込んでしまう。
「いや、普通ですよ?ただの世間話でしょ?」ユキヤの反応に根岸は戸惑う。
(そういやすみれも「ネギちゃん」呼びで完全に友達扱いだったしな)
「はぁ・・・もういいわ・・・」
ユキヤは疲れる一方だ。
(とにかく細かい行為の内容までは知られてないようだな・・・)
ただ自分が完全に受けに回っていることは見抜かれてそうだが。
ユキヤはため息をつく。
「まあ俺が攻められてるのはバレてるんだろ?」
ユキヤは諦めたように呟く。
「それは仕方がないですね。あの女はそういう奴なんで」根岸は平然と言う。
「で、教授は何でそこまでして俺らを観察したいの?」
ユキヤは尋ねる。
「申し訳ありませんがそれは言えません。
言ってしまうことであなた方が変わるといけませんから」
根岸はあっさり答える。
「・・・そこに関してはお前もだんまりか」
「はい。すいませんが」根岸は頭を下げる。
「わかったよ。これ以上は聞かない。ただ俺はともかくすみれに変なことはするんじゃねえぞ」
ユキヤは釘をさす。
「もちろんです。大学で初めてできた友達ですから」
「ならよし。じゃあそろそろいいか?明日も早いんでな」ユキヤは立ち上がる。
「はい。ありがとうございました」根岸は一礼して帰っていった。
ユキヤも家路につく。
****
「ただいま・・・って誰もいないか」
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読み始めてしばらくするとスマホが鳴る。すみれからだ。
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「今は本を読んどるとこ」ユキヤは返信をする。
すぐに既読になり、返事が来る。
『大丈夫?寂しくない?』
「大丈夫だよ」とだけユキヤは返す。
その後2日間は何事もなく過ぎていった。
(あれ?意外と寂しくない・・・?)
すみれからの連絡があるだけでユキヤの心は満ち足りていた。
もちろん昼間はバイト先で浅葱に突っつかれる日々であったが。
「何で黙ってるっスか?面白くないっス」
今日も浅葱はユキヤをいじってくる。
「別に話すことなんてありません」とユキヤは言い放つ。
「あー、やっぱり何かあったんすね!教えて下さいっス!」
「何もないですよ」ユキヤは冷たくあしらう。
(また何かを感付かれても困るしな・・・)あれ以来彼女の洞察力の強さを警戒していた。
「えぇ~。絶対なんかあるっスよね?」浅葱がしつこく聞いてくる。
「なんもないですよ。それより仕事中じゃないんですか」
「休憩時間だから全然問題なしっス」
「じゃあさっさと持ち場に戻ってください」
ユキヤは浅葱を追い払うように言う。
「はいはいっスー。でも私、さっちゃんの事好きっスよ」浅葱はニヤリとして去っていった。
(勘弁してくれ・・・)ユキヤはため息をつく。
***
(さて、シャワー浴びて寝るかな・・・)
その夜、風呂場で服を脱ぎながらふと考える。
もう3日すみれとは会ってないんだと。
そしてすみれとのHを思い出してしまう。
彼女とのセックスはとても気持ちいい。
しかし一方で彼女に支配されているという感覚もある。
それはとても屈辱的で背徳的な行為であるはずなのに、どこか心地よいと思ってしまう自分がいる。
それに最近は彼女に調教されているという自覚がある。
すみれに縛られたり、言葉で責められてるのも、どこかで受け入れてしまっている自分がいる。
「ユキちゃん」と耳元で呼ばれるたびにゾクっとしてしまうし、胸を触られるだけで変になりそうになる。
こんな事を考えるなんてどうかしてると自分で思うのだが、どうしても考えてしまうのだ。
(早く帰ってこいよ、バカすみれ)
そんな事を考えているうちに、もやもやした感情もわいてきた。何だろうこの感じ。ムラムラする。
都合3日すみれと会っていないという事は、つまりそういうことなのだ。
普段なら我慢できるはずだけど、今はなぜかできない。
すみれに会いたい。抱きしめて欲しい。キスして欲しい・・・。
気が付けば右手が股間に伸びていた。ゆっくりとしごく。徐々に硬度を増していくソレ。
(ダメだってわかっているのにどうしてこうなるんだよ?)頭では理解していても手は止まらない。
次第にスピードを上げていき、絶頂へと近づいていく。「んあっ……」思わず甘い吐息が出てしまった。
恥ずかしいが誰もいないのだから問題はない。だけどこの罪悪感は何だろう・・・?
やがて限界を迎え、精液を吐き出した。「はぁ……はぁ……。」自己嫌悪に陥る。
やけくそ気味に再びシャワーを浴びて、すべてを洗い流した。
そのままベッドに横になって天井を見つめる。
「会いたくなってきたな」ぽつりと呟いた。すみれの匂いが恋しい。
あの柔らかい肌に触れたい。温もりを感じたい。
「俺って結構変態なのかな?」自虐的につぶやく。でもそれが本心だった。
「どうしようもない奴だなお前は」自分にあきれながらも、その欲望は抑えられなかった。
気が付くとスマホを手に取り、すみれへ電話をかけていた。
***
「もしもーし?ユキちゃん?」
「ああ、今大丈夫か」
「うん、平気だよ、また電話?」
「なんでもない・・・」
「で、何か用があったんじゃないの?」
「いや別に・・・」
「え~そうなの?寂しくなって電話してきたのかと思ったよw」
「ちげぇよ!」「じゃあなんで?」
「それは・・・」
「ねぇ教えてよ、ユキちゃん」
「・・・・・・」言葉に詰まる。言えない理由がいろいろあるからだ。
「ユキちゃーん」
「・・・・・・」
「あれ?聞こえてるよね?」
「う・・・」
「ほら、言ってごらんよ」
「・・・」
「言わないと切るよー」「言うから切らないでくれ」
「ふふっ、素直だね」
「うるさい」
「それで理由は何なの?」
「それはだな・・・」
「うん」
「もう少し・・・お前の声が聞きたかった・・・」
「う・・・そこでマジになられると・・・」「悪い・・・」
「まあいいか、ユキちゃん可愛いし」「可愛くなんか・・・」
「ふふふ」「笑うなよ」「はいはい」
「・・・」「ねえ、明日帰るんだけどさ」
「そうか、わかった。駅まで迎えに行くよ。何時くらいになりそうだ?」
「大体夕方4時ごろかなぁ。」
「・・・あ、すまん、それだとバイトの時間かぶってるわ」
ユキヤはスケジュールをチェックしながら言う。
「あ、そっか。じゃあ駅で待ち合わせにしない?バイト終わるまで待ってるから。」
「いいけど、そんなに長く待たせるのもなんだし、先に帰ってもいいぞ」
「そんな事したらユキちゃん拗ねるでしょ」
「俺は子供じゃないんだが」
「はいはい」
****
翌日。
「あれぇさっちゃん、元気ないっスね?」
「・・・浅葱さんも毎日来てて飽きないんですか?」
「そりゃあさっちゃんに会いに来てるわけだし?
それにあたしの事は気にせず仕事してもらって構わないっスよ」
「いや気にしますって」
ユキヤのバイト先には相変わらず浅葱が来ていた。
浅葱はユキヤの顔を見てこう言う。
「うーん、もしかして彼女いなくて寂しくなって一人でしちゃったとか?」
「?!」
「それでも寂しさが埋められなくて思わず彼女に電話しちゃったとか?」
「!!!?」
「そうしたら彼女が帰ってくる時間とバイトの時間がモロ被りで落ち込んでるとか?」
(・・・なんでこの人全部見抜いてくるんだよ?!)
浅葱の言葉は全部図星だった・・・その洞察力はやはり侮れない。
「いやいやいやいや、違いますってば!!」
ユキヤは慌てて否定する。
「いやぁ健全な若者としてはごく当たり前の行動っスから気にする必要ないっスよ」
「うぐっ・・・」
浅葱の発言は確かにもっともなのだが、ユキヤの心をえぐった。
「まぁとにかく、今日一日頑張ればその彼女に会えるっスから頑張る事ッスね」「・・・はい」
「じゃあまた来るんで頑張ってくださいっスー」
そう言い残して浅葱は帰っていった。
(・・・相変わらず訳が分からないけど、慰めてくれてるのかな?)
浅葱が出て行った後でユキヤは一人考える。
「でもやっぱり、会いたいよな・・・」
そう呟いてユキヤは作業に戻った。
***
そうしてようやくバイトが終了する。
「お疲れ様です」「あざっしたー」
店長や他の従業員たちに挨拶をして店を出る。
(荷物置いて着替えたらすぐに連絡して・・・)
ユキヤはそんなことを考えながら家路を急ぐ。そして自宅に到着し、ドアを開ける。
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