【完結】今夜も彼氏を鳴かせたい~そして俺は彼女に抱かれる~

桃ノ木ネネコ

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第38話:束縛(その3)(完結)

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翌日。
「よう。」
「おはようございます・・・って誰?!」
「お前昨日も同じリアクションしてっぞ・・・」

今日はいよいよ根岸の母が尋ねてくる日だ。
ユキヤは付き添いのために『友人』という名目で来ていた。
(すみれだと向こうに逆にいらん心配させるしな・・・)
少しとはいえ面識があるため、黒髪メガネで変装していた。

「すいません・・・見た感じ違和感アリアリで・・・」
「まあそうだろうけどさ」
「あの、ところでなんでそんな格好してるんですか?」
「例の教授の会合に行ったときに会ってるんだよ・・・。」「ああ・・・」
根岸は納得した。

「お前こそそのTシャツなんだよ?」
「実家から持ってきた服これしか残ってなくて・・・」
根岸の着ているTシャツには浮世絵が描かれていた。
胸いっぱいに描かれた巨大髑髏が人間を襲っている。
「・・・一周回ってオシャレににみえるぞそれ」
ユキヤは苦笑いした。
「えー!マジですか!?」
「とりあえず待つか。」
***
二人が根岸の部屋で待機していると、インターホンが鳴った。
「きっと母さんです。」根岸はそう言うと玄関先に向かう。
しばらくすると、中年女性を連れて戻ってきた。
(げっ!根岸母!)
ユキヤは心の中で叫んだ。
あの神経質そうな見た目はなかなか忘れにくい。

「初めまして。あなたは?」「・・・友人です」
この時点でユキヤは逃げ出したくなっていた。
(この前みたいにいきなりブチ切れたりしないよなぁ)
ユキヤは不安になった。

「樹さん・・・その髪」
根岸母は根岸の髪を指差した。
「あ、これは美容院で勝手にやられて・・・」
伸びた髪はいかんともしがたいとして、適当に結んでいたのだが、
母に指摘されて、根岸は咄嗟に言い訳をする。
(いや、その言い訳すげぇ無理があるよ・・・)
ユキヤは思った。

「で、あの家具は・・・」
根岸母は続いて妙にファンシーな家具に目を付ける。
「ああ!それは・・・
気分直しに自分で作ってたらそんなデザインにな・・・」
「セール品でその家具セットが一番安かったんです!」
言い訳があり得ないレベルになってきたので、
ユキヤが根岸の言葉を遮りフォローする。

「あらまぁ。そういうことなら別にいいんだけど」
なんとか納得してくれたようだ。
「ところでそちらの方はどなた?お友達かしら」
根岸母の視線がユキヤに向けられる。
「あ、こちらは僕の友人の茶木さんですよ。」根岸は答えると、
「ほら自己紹介して」と小声で促してくる。
「どうもこんにちわ。茶木といいます。」ユキヤは頭を下げる。

「はじめまして。私は樹さんの母親の根岸由美子と言います。
よろしくね。」
ユキヤは根岸の母をまじまじと見つめる。
やっぱり、神経質そうな見た目だ。
「あら、あなたどこかでお会いしたかしら?」
根岸母はユキヤの顔をじっと見る。
「いえ・・・多分人違いですよ。」目を逸らしつつユキヤは答えた。
「そう?ごめんなさい。」
根岸母が謝ると、ユキヤはほっとした。
「でも、見た感じかなり真面目そうなお友達でお母さん安心したわ」
「え・・・」
「樹さんにはもっとしっかりしてもらわないと困るから。」
「は・・・はい」根岸は返事をすると、ユキヤをちらと見て耳打ちする。

「これが・・・白石さんの言っていた過去に女の子をさんざん騙した
『なんちゃってインテリメガネ』の力ですか?」
「・・・なんでお前までそんな覚え方してるんだよ!」
黒髪メガネというだけで根岸母には真面目な青年に見えているようだ。
(こんなテンプレな外見に騙されるなよ・・・)

「ところでご趣味は」「・・・読書を少々」
「へーどんな本を読むのかしら」
「・・・主に文学ですね。最近は
時代小説なんかにも興味がありまして」
これに関しては本当なので、違和感なく答えていく。

「渋いわねぇ。最近の若い子は
みんなスマホばっかりいじっているのに」
ますます根岸母のポイントが上がっていく。
(読書に関する知識はあんまりこういうとこで
使いたくないんだがなぁ・・・)
ユキヤの中では少々複雑なものがあった。

「ところで母さん、今日は何の用でうちに来たのですか?
まさかボクの部屋を見るためではないでしょう?」
根岸が尋ねる。
「もちろん、それもあるけど」
根岸母はチラッとユキヤを見ると話を続ける。
「樹さん今付き合ってる女性の方はいますか?」「えっ!?」
根岸は驚く。

「どうなんですか?!」根岸母は声を荒げる。
「いません!いませんってば!!」根岸は必死で否定する。
(男ならいるけどな・・・)
ユキヤは心の中でつぶやく。
「そうですか。まぁ樹さんに限って
そこらの変な女の毒牙にかかるとは思いませんけど」
恋人がいないと知って根岸母は心なしか機嫌が良くなる。
(あんたこの前『女には性欲がない』とか言ってただろ!!)
ユキヤは心の中でツッコミを入れる。

「それでね、今日は樹さんにふさわしい相手を紹介しようと思って」
「はぁっ!!?」
根岸は驚愕の声を上げる。
「大丈夫よ。母さんが決めたんだから。
家柄も人間としても申し分ない人よ」
根岸母は自信満々だ。
「だから、どうしてそういうことになるんですか!!」
「あなたは私の言うことを聞いてればいいの」
根岸は反論するが、根岸母は聞く耳を持たない。

ユキヤが根岸の方を見ると、
こちらもこちらで顔を真っ赤にしてプルプル震えている。
このまま放置したら本当のことをぶちまけかねない勢いだ。
(ここで本当のことを言っても、すべてをぶち壊しにするだけだ!)
ユキヤは決意を固めると、すっと立ち上がる。

「あの、お母様・・・」「なんですの?」
「せっかくのお申し出なのですが、彼はある目標から、
恋愛から遠ざかっています。」
ユキヤはきっぱりと言う。
「目標?」根岸母は訝しげな表情をする。
「それは・・・ある尊敬する人物の研究を引き継ぎ、
学者になる事です。」
「ふぅん、そうなの。でもそんなの
いつまでかかるかわからないじゃない」
「いえ、彼ならば必ず成し遂げます。俺にはわかります」
ユキヤは力強く言い切る。

「・・・とにかく、彼は今学業に専念することを第一としていますので、
今無理に交際を勧めても、先方様にもご迷惑が掛かるだけかと・・・」
「なるほどねぇ」
まさに舌先三寸で嘘八百な思い付きを並べているだけだ。
しかし根岸母は納得したような、しないような微妙な反応を見せる。
「それに、彼氏がいる女性を誘惑するような
不誠実な男ではありませんので」
ユキヤは念押しするように付け加える。
「だよね!根岸くん!!」ユキヤは半ばやけくそ気味に声をかける。
「え、あ、はい」
根岸は突然話を振られて戸惑う。

更にユキヤは根岸母の方をまっすぐ見つめ、真剣なまなざしで
「それにお母様は今、世の中のためになる活動をされていると聞きます。
根岸君はお母様のそういった活動を邪魔しないためにも、
頑張っているのですよ。」
と続ける。
「あら、よく知っているわね。確かに私は世間のために活動しているけれど」
根岸母は少し感心する。

「はい、以前テレビで拝見しました。素晴らしい活動ですね。」
(もちろんウソである)そしてダメ押しと言わんばかりに肩に手をまわし、
「貴女のそんな素晴らしい活動を俺も根岸くんも応援しているのです。」
と畳みかける。「そうだったの。二人ともありがとう」
根岸母は満足げな笑みを浮かべる。

「まぁあなたがそこまで言ってくださるのなら・・・
今回の話は見合わせましょう。」
(よっしゃぁぁ!)ユキヤは心の中でガッツポーズをとる。
「母さん、ありがとう。でも僕のためを思って無理しないで・・・」
根岸は目に涙をためて言う。(うわ、こいつも演技始めてるぞ・・・)
ユキヤは内心で呆れかえっていた。
「いいのよ。私も自分の気持ちを整理するためにも、
一度冷静になってみることにするわ」
根岸母は満足げに微笑む。

****

その後二人は根岸母を駅まで送り、
「今日は色々とありがとうございました。」
「いえいえ何のお構いもしませんで。」
「ではまた何かありましたらよろしくお願いします。失礼致します」
「こちらこそ、今後共よろしくお願い申し上げます」
ユキヤは深々頭を下げる。根岸母も会釈をして駅の中に消えていく。

「ふぅぅぅ・・」全身の力が抜ける。
「茶木さん、本当に助かりました。まさかあんなにうまくいくとは!」
「お前もなかなかやるな。見直したぜ」
「いえいえ、あなたの迫真の演技があったからです!
あれが昔女の子を騙していたテクニックなんですね!」
「おい、その言い方だとなんか俺が女たらしみたいじゃないか」
「・・・白石さんからそう聞いてますけど?」
「あいつ、余計なこと言いやがって・・・」
正直事実なので言い訳のしようもない。

「しかし成り行きとはいえ、お前の母さんに
口から出まかせ言いまくったけど、大丈夫か?」
「いえ・・・元々将来的には研究室には残るつもりでしたから」
根岸は笑って言った。(目的はやっぱりあの変態教授か・・・)
ユキヤは納得する。「ま、頑張って博士号ぐらいはとってくれ」
「はい、頑張ります。」

****

その夜、根岸母は紹介するはずだった女性の家に電話をかけていた。
「はい・・・大変勿体ないお話なのですが・・・」
とまるで見合いのような断り方をしている。
「それでは失礼しますね。お嬢さんによろしくお願いします。」と電話を切る。

「緑山涼香さん・・・いいお嬢さんなんだけどねぇ」
その女性は(すみれを除けば)ユキヤ最大のトラウマとなる人物だった・・・。

****

「へぇ、ネギちゃん将来のこと結構考えてるんだね」
「まぁ愛のなせる業って奴だな」
「・・・研究所にそんなに好きな人がいるのかぁ・・・素敵ね」
すみれがちょっとうっとりした目で言う。
(こいつにはそう言っておいた方がいいかもしれん)
ユキヤにはあの複雑かつ異常な関係を
話す気にはどうしてもならなかった。

ユキヤは無言で根岸がお礼にと置いて言った
チョコの詰め合わせを頬張る。
「あ、また一人で全部食べてる!」
「だってうまいじゃんこれ。」
「もう、私の分残しておいてよね」
「はいよー」
すみれもチョコを口に運ぶ。

「しかしホントにユキヤはチョコ好きだよね。
止めないと今みたいにずっと食べてるし」
「ま、色々あってな。」
そういいながらユキヤはまたチョコを口に放り込んだ。
「あー言ってる傍から!」
そういってすみれはユキヤの頭をわしゃわしゃする。

「ちょっ、やめろって。髪が乱れるだろうが」
「うるさいうるさい。私より先に食べるのが悪いの」
「わかったからやめてくれ。チョコ食えなくなるから!」
「じゃあ、はい。アーン」
すみれはチョコを一つつまんでユキヤに差し出す。

「自分で食べられるっつぅの」
「私が食べたくてあげたいの。ほら早く口開けなさい。」
「へいへい」と口を開けたところにチョコを入れられる。
口の中に広がる甘さとともに、ユキヤの中にある思い出がよぎる。

(あれからもう2年経つのか・・・)

おわり
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