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第6話:ぽんこつ女王様(その2)
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「あれ?なんか変な味するなぁ?」
すみれは渡されたウーロン茶の味に違和感を覚える。
「・・・気のせいじゃないですか?ささ、グッと行ってください。」
「あ、うん。分かった。」
すみれは促されるままにグイッと飲む。
「ぷはーっ。やっぱり美味しい!」
すみれは一気に飲み干して、おかわりを要求する。
(チョロい・・・)
にこやかな笑顔とは対照的に黒川の心中は冷酷だった。
「いやいや、本当にいい呑みっぷりですねぇ。」
「いやいや、それほどでもないですよぉ」
すみれは上機嫌で答える。
「せっかく飲み放題のコースなんだし、どんどん飲みましょう」
・・・この調子で黒川は、すみれにソフトドリンクと称して、
アルコール類を与え続けた。
「ちょっとすみれ、真っ赤になってるけど大丈夫?」
しばらくして、すっかり赤くなったすみれを見て、
ひなのが心配そうな顔で尋ねる。
「らいじょうぶだよぅ。まだほろ酔いってだけらもん」
すみれは完全に出来上がっていた。
呂律も回っていないし、顔も赤い。
「すみれ、顔赤くなってるよ。ちょっと水でも飲んだら?」
「えぇ~!わらし、サワー1杯しか飲んれないのに・・・」
「まさかあんた、そんなに弱かったの?!」
これにはひなのも少し驚いていた。
「う~ん、そうかなぁ?」
すみれが首をかしげる。
「ほら、ちょっとお冷飲んどこう?」
ひなのはすみれのコップを取って水を注ぐ。
「はい、これ飲んで?」
「うん、ありがと・・・」
すみれは素直に従って、ゴクッと一息で半分ほどまで呑む。
ひんやりとした感覚が、喉元を通っていった。
「ふう・・・」
「落ち着いた?」
「うん、らいじょぶ」
「良かった。」
「ごめんね、迷惑かけちゃったみたいで・・・」
すみれがひなのに謝る。
「私はいいよ。それよりあんたの方が大丈夫?」
「ん~、ちょっと眠いかも・・・」
「じゃあ、今日はこの辺にしとく?」
「いやいや、せっかく来たからもう少しいるよぉ。」
「そんなこと言ってるけどもう真っ赤じゃない!
これ以上の無理しない方がいいよ?」
ひなのもさすがに本気で心配になってきたようだ。。
「いやいや、平気らってばぁ~」
「大丈夫じゃないでしょ!呂律だって回ってないでしょうが!」
のほほんとしてるすみれに、ひなのが声を荒げた。
「あの・・・俺が送りましょうか?」
黒川が声をかける。
「え?いいの黒川君?」
「いいですよ、俺もそろそろ帰ろうかと思ってたんで・・・」
「悪いわね。駅まででいいからお願いできるかしら?」
「任せてください。」
「じゃあ、行きますよ白石さん。」
「うん、よろしくねぇ黒川くん」
そう言うと、すみれと黒川は自分の分の飲み代を置いて店を出た。
しかしこれは黒川の作戦通りだった・・・。
(茶木先輩の彼女、評判通りネジのゆるい女だな・・・)
黒川は心の中でほくそ笑んでいた。
実はこの黒川、最初からすみれの事もユキヤの事も知っていた。
そして今回、彼はすみれの事を狙っていた。
そうして黒川は悟られないようにすみれに近づいていった・・・。
「真面目な後輩」の仮面をかぶって。
彼の目的はただ一つ。
ユキヤから彼女を寝取る事。
ユキヤから寝取って、ユキヤを絶望させる事。
ユキヤを精神的に追い込む事が黒川の目的なのだ。
黒川はユキヤの事を良く知っている。
なぜなら彼が口説く女性たちの口から、
頻繁にユキヤの名前が出たからだった。
黒川が入学したばかりの1年半前となると、
ユキヤの女癖が最も悪かった時期である。
自分が口説いた女性をまるで先回りかのように
すでに口説いている気に食わない男・・・それがユキヤであった。
モテ男を自負する黒川にとってこれは屈辱だった・・・。
しかし自分にそんな屈辱を味合わせた男が、
最近は一人の女に入れあげて、
更に今は一緒に暮らしているという。
自分自身で何一つリベンジできないまま、戦いは終わっていたのだ・・・。
だからこそ黒川はユキヤに恨みを持っていた。
しかし今、彼が連れているのはその最も憎たらしい男の彼女だ。
(俺が彼女を寝取れば奴へのダメージは計り知れない・・・)
そして、あわよくば寝取った後ユキヤの前で彼女に辱めて、
別れるように仕向けるつもりだった。
・・・とまぁその動機はともかく、黒川はまんまとすみれを酔わせて、
二人きりになることに成功させた。
(しかしこれだけベロベロだと、ホテルとか連れてっても、
すぐ寝入っちゃいそうだな・・・)
そう考えた黒川は、ひとまず近くの公園で酔いを醒まさせることにした。
「ほーら、しっかりしてください。もうちょっとで着きますから」
「うぅ~ん」
すみれは黒川に支えられながら歩いている。
「ちょっと休んでいきましょうか?」
「うん、ありがとぉ~」
二人はベンチに腰掛ける。
(しかし、これだけ隙だらけだと逆に心配になってくるな・・・)
黒川はすみれの肩をポンと叩く。
「ちょっと失礼しますよ」
「ふぇっ!?」
すると、黒川はすみれの胸元に手を入れてきた。
「え・・・?!」すみれは一瞬何が起こったのか理解できていなかった。
(お、意外と大きいな)
黒川はすみれのブラジャーの中に手を入れて、乳房を揉み始めた。
「黒川しゃん・・・こういうのやめた方がいいれすよ・・・」
酔ってるせいで舌ったらずになった口調ですみれが注意する。
「貴女が魅力的なのがいけないんですよ・・・」黒川はうそぶいた。
「それにしても、本当に無防備ですね。手を出してほしいんですか?」
黒川がからかうように言うがすみれはこう返してきた。
「うう・・・あのれすね・・・飲み会の帰りにこーいう事しゅるのは、
酒の力をかりにゃいと、ロクにナンパもできないヘタレ野郎!・・・
って女の子から思われマスよぅ・・・」
「!!?」
これは勿論すみれの本心ではない。
単にユキヤがいつも言っている事を口に出してしまっただけだ。
だが今の黒川にとっては痛烈に刺さる言葉である。
(こ・・・この女!!)黒川は口元をひくつかせる。
「あとは酒で酔わせてベロベロにした女しか相手できにゃいのかとか・・・」
(ぐぐっ!)
「そもしょも口説き落とすために女の子を惹きつける
気の利いた文句のひとつも思いつかにゃいほど頭悪いから、
酒で酔わせていくのかとか・・・」
(うぐっ・・・!)
すみれは止まらない。
(この女・・・実は相当にドSか?!)
・・・間違ってはないのであるが、その根本は
普段のすみれのものとは大きく違っていた。
そもそも彼女がこういった毒舌を吐くのは、ユキヤを言葉責めするときだ。
こういう言葉をかけて相手の反応を見て思い切り可愛がりたい・・・
その内容はともかくそんな思いが根底にある。
しかしそれはユキヤが相手であることが前提だ。
黒川のような、ユキヤ以外の男にこんなことを言ってしまえば・・・
「おい!いい加減にしろ!!このバカ女!
人が下手に出てれば好き放題言いやがって・・・!」
「え・・・?もしかして身に覚えがあるんでしゅか?」
それはもうただの罵倒でしかなかった。
しかも酔っているので自分でも制御が効いていない。
「うるせぇ!!」
黒川は思わずすみれに手をあげそうになるが必死でこらえる。
(・・・どうせここで殴っても『図星なんですねぇ』
とか言い返されるだけだ。)
黒川は深呼吸をして心を落ち着かせようとする。
「はぁー、はぁー、はぁ・・・」
「あのー大丈夫ですか?顔色がよくないれすよぉ?」
(お前のせいだよ!!!)
黒川はそう叫びたくなるのを我慢して、
「あ、ああ・・・すみません。少し気分が悪くなったもので・・・」
「あら、そうなんれすか。じゃあお水でも飲んで休んだ方が・・・」
(この女・・・想像以上に手強い・・・)
しかしこれで引き下がってしまうのは彼のプライドが許さなかった・・・
「いえ、そこまでしなくても結構です。お気持ちだけ受け取っておきます。」
「はぁ~、そういうものれすか・・・」
黒川はすみれを睨みつけるが、当の本人は酔っているせいもあり、
どこ吹く風といった感じでのほほんと受け流している。
(・・・もういっそ無理やりにでも目的を達成してしまおうか?)
ここまで調子を狂わされっぱなしの黒川はちょっと危険な考えに及んでいた。
「あのー、ところで私に何か用があったんじゃないんれすかね?」
「あっ、はい。ちょっとお願いしたいことがありまして・・・」
黒川の本来の目的はすみれをホテルへ連れ込むことだった。
「ふむ、何でしょーか。」
「・・・こういうことですよ!」
黒川はそう言うと、素早くすみれの口に自分の唇を重ねた。
「んっ!?」
すみれはその不意打ちに驚くがすぐに黒川を押しのけようと抵抗する。
しかし、黒川はすみれの腕を掴んでそれを許さない。
そしてそのまますみれの身体をベンチに押し倒した。
「きゃっ!何をするんれすか!放して!」
「フッ、こう見えても僕も男ですからね。
このままおとなしくしていてください。」
「嫌れす!絶対に嫌!・・・口臭いし!!」
「・・・・・!!」
黒川はショックを受ける。
すみれの思わぬ方向からの言葉が彼の中に
クリティカルヒットしてしまったのだ。
「こ、これは・・・!さっきまで酒飲んでたせいだ!!!」
黒川は慌てて言い訳する。
「れも・・・くしゃいもんはくしゃいです!!」
「くそったれがーーーーーー!!!!」
黒川はキレてしまった。
「こうなったら力ずくでも犯してやる!!!」
「や・・・やめ・・・ぐぐっ!!」
黒川は泣き叫ぶすみれの口を強引に塞ぎにかかる。
しかしすみれも必死に抵抗する。
「うおおおっ!!くらえっ!」
「んー!んんんんー!」
黒川はすみれの両手を押さえつけながら再びキスをしようとする。
「やめてっ!いやっ!やだっ!」
「大人しくしろっ!この・・・」
その時、黒川の肩を掴む人物がいた・・・。
「ああんっ?誰だお前は・・・」
黒川が振り向いた先にいたのは、ユキヤだった。
しかしその顔は、これまで見た事もないほど
冷たい表情をしていた・・・。
「茶木・・・先輩・・・?!」
黒川の顔から血の気が引く。
だが、そんな黒川を押しのけると、
彼を無視してユキヤはすみれに話しかける。
「ようすみれ、遅いから迎えに来たぞ」
「ゆ、ユキちゃん!」
「ほら、帰るぞ。」
「うん・・・ありがとうユキしゃん♪」
すみれはふらつきながらユキヤに抱き着く。
「・・・ユキしゃん・・・でもどうしてここに?」
「黄瀬ちゃんから電話あって、先に帰ったっていうけど
遅いからどうしたのかと思ってさ」
そう言うユキヤの手にあるスマホには、
追跡アプリの画面が立ち上がっていた。
「・・・ごめんにゃさい、心配かけちゃって。」
「いいんだよ。さ、帰ろうぜ」
ユキヤはまるで何事もなかったように淡々と話している。
「おい!無視すんなよ!」
黒川は背後から声を荒げて叫ぶが、その次の瞬間、
ユキヤが背後に向かって繰り出した回し蹴りが
彼の股間にクリーンヒットしてしまった・・・。。
「グボァッ!!!」
黒川はあまりの激痛にその場に倒れ込んだ。
「・・・・」
ユキヤはのたうち回る黒川を無言で見下ろしていた。
ベンチの傍にある街灯が逆行になり、その顔は見えない。
「く、クソがぁっ!」
黒川は痛みに耐えながらも何とか立ち上がろうとする。
しかし、ユキヤはその股間を思い切り踏みつける。「ガハッ!」
「・・・どうした?」「た、たすけ・・・」
突然の痛みと恐怖に黒川は思わず助けを求めてしまう。
「助ける・・・ってこうか?」そう言うとユキヤはさらに
体重を掛けて強く踏みつけた。
「ギャアアアアアア!!!」
黒川は絶叫を上げた。しかしそんな悲鳴を聞いても
ユキヤは眉一つ動かさない。
「な、なんで・・・こんなこと・・・」
「・・・」
ユキヤは無言で黒川を見つめている。
「ユキしゃん・・・それ以上は・・・」
すみれが止めに入った。「・・・ああ、そうだな。」
ユキヤは足をどけた。
そして「お前はそれでいいの?」ユキヤは改めてすみれに問うた。
「うん・・・ちょっと・・・くちがくしゃかったけど・・・」
「口が・・・ねぇ・・・」ユキヤは黒川の方を見てふふっと笑う。
そしてまだ座ったまま呆然としている黒川に向かって耳元で
「命拾いしたな」と囁いた。「ひいっ・・・」
黒川は恐怖のあまりその場から動けなくなっていた。
「じゃ、俺たち行くんで。」ユキヤはすみれの手を引いて歩き出した。
「あっ、待ってユキしゃん!黒川しゃん、またね」
(おいおい、そいつに挨拶せんでも・・・)
すみれは黒川に手を振る。
「あ、あぁ・・・はいぃ・・・」
黒川は震え声で返事をしたがその顔は蒼白だった・・・。
(・・・明らかにとどめになってるし)
ユキヤは改めてすみれの相手のプライドをへし折る才能を思い知った。
そしてまだ呆然としてる黒川を一瞥すると
「ま、これに懲りたら・・・」
「これに懲りたら他人の女に手ぇ出しちゃだめれすよぅ~」
(お前が言うのかよ!)
すみれはユキヤが言いかけたことを横から最後まで言ってしまった。
「は、はい・・・」
黒川はもう何も言えない。
これが本格的にとどめになってしまったようだ。
俗にいう「真っ白に燃え尽きた」状態だった・・・。
(しかしなんでこいつは、よりによってすみれを酔わせて
お持ち帰りしようとしたんだろうな・・・)
何も知らないユキヤには、
ただの命知らずな行動にしか見えずに首をかしげる。
先ほどの『命拾い』というセリフの半分には
『これ以上すみれに罵倒されて再起不能にならなくて命拾いしたな』
という意味が込められていた。
(もっともすみれにキスした時点で許す気なんかなかったけどさ)
「ところでさっきから何考えてるの?ユキしゃん」
「ん、いやなんでもない。」
ユキヤは少し焦ったが平静を装う。
「帰るか?」
まだ酔っているすみれにユキヤは声を掛ける。「うんっ!」
二人は手を繋いで家路についた。
つづく
すみれは渡されたウーロン茶の味に違和感を覚える。
「・・・気のせいじゃないですか?ささ、グッと行ってください。」
「あ、うん。分かった。」
すみれは促されるままにグイッと飲む。
「ぷはーっ。やっぱり美味しい!」
すみれは一気に飲み干して、おかわりを要求する。
(チョロい・・・)
にこやかな笑顔とは対照的に黒川の心中は冷酷だった。
「いやいや、本当にいい呑みっぷりですねぇ。」
「いやいや、それほどでもないですよぉ」
すみれは上機嫌で答える。
「せっかく飲み放題のコースなんだし、どんどん飲みましょう」
・・・この調子で黒川は、すみれにソフトドリンクと称して、
アルコール類を与え続けた。
「ちょっとすみれ、真っ赤になってるけど大丈夫?」
しばらくして、すっかり赤くなったすみれを見て、
ひなのが心配そうな顔で尋ねる。
「らいじょうぶだよぅ。まだほろ酔いってだけらもん」
すみれは完全に出来上がっていた。
呂律も回っていないし、顔も赤い。
「すみれ、顔赤くなってるよ。ちょっと水でも飲んだら?」
「えぇ~!わらし、サワー1杯しか飲んれないのに・・・」
「まさかあんた、そんなに弱かったの?!」
これにはひなのも少し驚いていた。
「う~ん、そうかなぁ?」
すみれが首をかしげる。
「ほら、ちょっとお冷飲んどこう?」
ひなのはすみれのコップを取って水を注ぐ。
「はい、これ飲んで?」
「うん、ありがと・・・」
すみれは素直に従って、ゴクッと一息で半分ほどまで呑む。
ひんやりとした感覚が、喉元を通っていった。
「ふう・・・」
「落ち着いた?」
「うん、らいじょぶ」
「良かった。」
「ごめんね、迷惑かけちゃったみたいで・・・」
すみれがひなのに謝る。
「私はいいよ。それよりあんたの方が大丈夫?」
「ん~、ちょっと眠いかも・・・」
「じゃあ、今日はこの辺にしとく?」
「いやいや、せっかく来たからもう少しいるよぉ。」
「そんなこと言ってるけどもう真っ赤じゃない!
これ以上の無理しない方がいいよ?」
ひなのもさすがに本気で心配になってきたようだ。。
「いやいや、平気らってばぁ~」
「大丈夫じゃないでしょ!呂律だって回ってないでしょうが!」
のほほんとしてるすみれに、ひなのが声を荒げた。
「あの・・・俺が送りましょうか?」
黒川が声をかける。
「え?いいの黒川君?」
「いいですよ、俺もそろそろ帰ろうかと思ってたんで・・・」
「悪いわね。駅まででいいからお願いできるかしら?」
「任せてください。」
「じゃあ、行きますよ白石さん。」
「うん、よろしくねぇ黒川くん」
そう言うと、すみれと黒川は自分の分の飲み代を置いて店を出た。
しかしこれは黒川の作戦通りだった・・・。
(茶木先輩の彼女、評判通りネジのゆるい女だな・・・)
黒川は心の中でほくそ笑んでいた。
実はこの黒川、最初からすみれの事もユキヤの事も知っていた。
そして今回、彼はすみれの事を狙っていた。
そうして黒川は悟られないようにすみれに近づいていった・・・。
「真面目な後輩」の仮面をかぶって。
彼の目的はただ一つ。
ユキヤから彼女を寝取る事。
ユキヤから寝取って、ユキヤを絶望させる事。
ユキヤを精神的に追い込む事が黒川の目的なのだ。
黒川はユキヤの事を良く知っている。
なぜなら彼が口説く女性たちの口から、
頻繁にユキヤの名前が出たからだった。
黒川が入学したばかりの1年半前となると、
ユキヤの女癖が最も悪かった時期である。
自分が口説いた女性をまるで先回りかのように
すでに口説いている気に食わない男・・・それがユキヤであった。
モテ男を自負する黒川にとってこれは屈辱だった・・・。
しかし自分にそんな屈辱を味合わせた男が、
最近は一人の女に入れあげて、
更に今は一緒に暮らしているという。
自分自身で何一つリベンジできないまま、戦いは終わっていたのだ・・・。
だからこそ黒川はユキヤに恨みを持っていた。
しかし今、彼が連れているのはその最も憎たらしい男の彼女だ。
(俺が彼女を寝取れば奴へのダメージは計り知れない・・・)
そして、あわよくば寝取った後ユキヤの前で彼女に辱めて、
別れるように仕向けるつもりだった。
・・・とまぁその動機はともかく、黒川はまんまとすみれを酔わせて、
二人きりになることに成功させた。
(しかしこれだけベロベロだと、ホテルとか連れてっても、
すぐ寝入っちゃいそうだな・・・)
そう考えた黒川は、ひとまず近くの公園で酔いを醒まさせることにした。
「ほーら、しっかりしてください。もうちょっとで着きますから」
「うぅ~ん」
すみれは黒川に支えられながら歩いている。
「ちょっと休んでいきましょうか?」
「うん、ありがとぉ~」
二人はベンチに腰掛ける。
(しかし、これだけ隙だらけだと逆に心配になってくるな・・・)
黒川はすみれの肩をポンと叩く。
「ちょっと失礼しますよ」
「ふぇっ!?」
すると、黒川はすみれの胸元に手を入れてきた。
「え・・・?!」すみれは一瞬何が起こったのか理解できていなかった。
(お、意外と大きいな)
黒川はすみれのブラジャーの中に手を入れて、乳房を揉み始めた。
「黒川しゃん・・・こういうのやめた方がいいれすよ・・・」
酔ってるせいで舌ったらずになった口調ですみれが注意する。
「貴女が魅力的なのがいけないんですよ・・・」黒川はうそぶいた。
「それにしても、本当に無防備ですね。手を出してほしいんですか?」
黒川がからかうように言うがすみれはこう返してきた。
「うう・・・あのれすね・・・飲み会の帰りにこーいう事しゅるのは、
酒の力をかりにゃいと、ロクにナンパもできないヘタレ野郎!・・・
って女の子から思われマスよぅ・・・」
「!!?」
これは勿論すみれの本心ではない。
単にユキヤがいつも言っている事を口に出してしまっただけだ。
だが今の黒川にとっては痛烈に刺さる言葉である。
(こ・・・この女!!)黒川は口元をひくつかせる。
「あとは酒で酔わせてベロベロにした女しか相手できにゃいのかとか・・・」
(ぐぐっ!)
「そもしょも口説き落とすために女の子を惹きつける
気の利いた文句のひとつも思いつかにゃいほど頭悪いから、
酒で酔わせていくのかとか・・・」
(うぐっ・・・!)
すみれは止まらない。
(この女・・・実は相当にドSか?!)
・・・間違ってはないのであるが、その根本は
普段のすみれのものとは大きく違っていた。
そもそも彼女がこういった毒舌を吐くのは、ユキヤを言葉責めするときだ。
こういう言葉をかけて相手の反応を見て思い切り可愛がりたい・・・
その内容はともかくそんな思いが根底にある。
しかしそれはユキヤが相手であることが前提だ。
黒川のような、ユキヤ以外の男にこんなことを言ってしまえば・・・
「おい!いい加減にしろ!!このバカ女!
人が下手に出てれば好き放題言いやがって・・・!」
「え・・・?もしかして身に覚えがあるんでしゅか?」
それはもうただの罵倒でしかなかった。
しかも酔っているので自分でも制御が効いていない。
「うるせぇ!!」
黒川は思わずすみれに手をあげそうになるが必死でこらえる。
(・・・どうせここで殴っても『図星なんですねぇ』
とか言い返されるだけだ。)
黒川は深呼吸をして心を落ち着かせようとする。
「はぁー、はぁー、はぁ・・・」
「あのー大丈夫ですか?顔色がよくないれすよぉ?」
(お前のせいだよ!!!)
黒川はそう叫びたくなるのを我慢して、
「あ、ああ・・・すみません。少し気分が悪くなったもので・・・」
「あら、そうなんれすか。じゃあお水でも飲んで休んだ方が・・・」
(この女・・・想像以上に手強い・・・)
しかしこれで引き下がってしまうのは彼のプライドが許さなかった・・・
「いえ、そこまでしなくても結構です。お気持ちだけ受け取っておきます。」
「はぁ~、そういうものれすか・・・」
黒川はすみれを睨みつけるが、当の本人は酔っているせいもあり、
どこ吹く風といった感じでのほほんと受け流している。
(・・・もういっそ無理やりにでも目的を達成してしまおうか?)
ここまで調子を狂わされっぱなしの黒川はちょっと危険な考えに及んでいた。
「あのー、ところで私に何か用があったんじゃないんれすかね?」
「あっ、はい。ちょっとお願いしたいことがありまして・・・」
黒川の本来の目的はすみれをホテルへ連れ込むことだった。
「ふむ、何でしょーか。」
「・・・こういうことですよ!」
黒川はそう言うと、素早くすみれの口に自分の唇を重ねた。
「んっ!?」
すみれはその不意打ちに驚くがすぐに黒川を押しのけようと抵抗する。
しかし、黒川はすみれの腕を掴んでそれを許さない。
そしてそのまますみれの身体をベンチに押し倒した。
「きゃっ!何をするんれすか!放して!」
「フッ、こう見えても僕も男ですからね。
このままおとなしくしていてください。」
「嫌れす!絶対に嫌!・・・口臭いし!!」
「・・・・・!!」
黒川はショックを受ける。
すみれの思わぬ方向からの言葉が彼の中に
クリティカルヒットしてしまったのだ。
「こ、これは・・・!さっきまで酒飲んでたせいだ!!!」
黒川は慌てて言い訳する。
「れも・・・くしゃいもんはくしゃいです!!」
「くそったれがーーーーーー!!!!」
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「こうなったら力ずくでも犯してやる!!!」
「や・・・やめ・・・ぐぐっ!!」
黒川は泣き叫ぶすみれの口を強引に塞ぎにかかる。
しかしすみれも必死に抵抗する。
「うおおおっ!!くらえっ!」
「んー!んんんんー!」
黒川はすみれの両手を押さえつけながら再びキスをしようとする。
「やめてっ!いやっ!やだっ!」
「大人しくしろっ!この・・・」
その時、黒川の肩を掴む人物がいた・・・。
「ああんっ?誰だお前は・・・」
黒川が振り向いた先にいたのは、ユキヤだった。
しかしその顔は、これまで見た事もないほど
冷たい表情をしていた・・・。
「茶木・・・先輩・・・?!」
黒川の顔から血の気が引く。
だが、そんな黒川を押しのけると、
彼を無視してユキヤはすみれに話しかける。
「ようすみれ、遅いから迎えに来たぞ」
「ゆ、ユキちゃん!」
「ほら、帰るぞ。」
「うん・・・ありがとうユキしゃん♪」
すみれはふらつきながらユキヤに抱き着く。
「・・・ユキしゃん・・・でもどうしてここに?」
「黄瀬ちゃんから電話あって、先に帰ったっていうけど
遅いからどうしたのかと思ってさ」
そう言うユキヤの手にあるスマホには、
追跡アプリの画面が立ち上がっていた。
「・・・ごめんにゃさい、心配かけちゃって。」
「いいんだよ。さ、帰ろうぜ」
ユキヤはまるで何事もなかったように淡々と話している。
「おい!無視すんなよ!」
黒川は背後から声を荒げて叫ぶが、その次の瞬間、
ユキヤが背後に向かって繰り出した回し蹴りが
彼の股間にクリーンヒットしてしまった・・・。。
「グボァッ!!!」
黒川はあまりの激痛にその場に倒れ込んだ。
「・・・・」
ユキヤはのたうち回る黒川を無言で見下ろしていた。
ベンチの傍にある街灯が逆行になり、その顔は見えない。
「く、クソがぁっ!」
黒川は痛みに耐えながらも何とか立ち上がろうとする。
しかし、ユキヤはその股間を思い切り踏みつける。「ガハッ!」
「・・・どうした?」「た、たすけ・・・」
突然の痛みと恐怖に黒川は思わず助けを求めてしまう。
「助ける・・・ってこうか?」そう言うとユキヤはさらに
体重を掛けて強く踏みつけた。
「ギャアアアアアア!!!」
黒川は絶叫を上げた。しかしそんな悲鳴を聞いても
ユキヤは眉一つ動かさない。
「な、なんで・・・こんなこと・・・」
「・・・」
ユキヤは無言で黒川を見つめている。
「ユキしゃん・・・それ以上は・・・」
すみれが止めに入った。「・・・ああ、そうだな。」
ユキヤは足をどけた。
そして「お前はそれでいいの?」ユキヤは改めてすみれに問うた。
「うん・・・ちょっと・・・くちがくしゃかったけど・・・」
「口が・・・ねぇ・・・」ユキヤは黒川の方を見てふふっと笑う。
そしてまだ座ったまま呆然としている黒川に向かって耳元で
「命拾いしたな」と囁いた。「ひいっ・・・」
黒川は恐怖のあまりその場から動けなくなっていた。
「じゃ、俺たち行くんで。」ユキヤはすみれの手を引いて歩き出した。
「あっ、待ってユキしゃん!黒川しゃん、またね」
(おいおい、そいつに挨拶せんでも・・・)
すみれは黒川に手を振る。
「あ、あぁ・・・はいぃ・・・」
黒川は震え声で返事をしたがその顔は蒼白だった・・・。
(・・・明らかにとどめになってるし)
ユキヤは改めてすみれの相手のプライドをへし折る才能を思い知った。
そしてまだ呆然としてる黒川を一瞥すると
「ま、これに懲りたら・・・」
「これに懲りたら他人の女に手ぇ出しちゃだめれすよぅ~」
(お前が言うのかよ!)
すみれはユキヤが言いかけたことを横から最後まで言ってしまった。
「は、はい・・・」
黒川はもう何も言えない。
これが本格的にとどめになってしまったようだ。
俗にいう「真っ白に燃え尽きた」状態だった・・・。
(しかしなんでこいつは、よりによってすみれを酔わせて
お持ち帰りしようとしたんだろうな・・・)
何も知らないユキヤには、
ただの命知らずな行動にしか見えずに首をかしげる。
先ほどの『命拾い』というセリフの半分には
『これ以上すみれに罵倒されて再起不能にならなくて命拾いしたな』
という意味が込められていた。
(もっともすみれにキスした時点で許す気なんかなかったけどさ)
「ところでさっきから何考えてるの?ユキしゃん」
「ん、いやなんでもない。」
ユキヤは少し焦ったが平静を装う。
「帰るか?」
まだ酔っているすみれにユキヤは声を掛ける。「うんっ!」
二人は手を繋いで家路についた。
つづく
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