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第49話:風邪と夢(その1)
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ピピッ・・・
ある日の朝。
寝室に無機質なアラーム音が響く。
「あ、体温計止まったね。何度ある?」
「・・・ええと、38度2分」
ユキヤが自分の腋から体温計を取り出し、体温を見ながら言う。
「まだ熱下がってないね。今日はお休みして病院行こう」
ユキヤが発熱したのは昨晩の事であった。
しかも熱だけではなく、のどの痛みや身体のだるさもある。
「確かにちょっと熱いもんね」
すみれがユキヤの額に手を当てると、まだ熱があることが確認できた。
「しかし珍しいよね。私よりもずっと丈夫な君が風邪引くなんて。」
「・・・・・。」
いつもならここで悪態の一つも出てくるところだが、
今の彼は熱で頭が回らないようだった。
「今日は私が看病してあげるから安心して。」
「でも、講義は?」
ユキヤが不安そうに聞く。
2人は今日の講義に出席する予定だったのだ。
「大丈夫、私も休むから。」
すみれは笑顔で答える。
「でも……。」
ユキヤが何か言おうとするのを遮り、すみれが言う。
「いいの!私が看病したいの!」
「・・・わかったよ」
「これからおじやでも作るから、それ食べたら
病院の時間まで寝てなさいね。」
すみれはそう言いながら、ユキヤの額に冷却シートを貼った。
「うん・・・」
シートのひんやりとした感覚に少し落ち着いたのか
ユキヤは素直に返事する。
(たまにはこうやって、優しく看病されるのも、
悪くないよな・・・)
ユキヤは熱でぼんやりとしてる頭の中でそう思った。
***
その日の午後。ユキヤはすみれの作ったおじやを食べ、
病院で処方された薬を服用した後ベッドで横になっていた。
(・・・暇だな)
熱でボーッとする頭で考える。
(すみれがいてくれてよかった・・・。)
すみれは今、夕飯の買い物に出ている。
『何かあったらすぐに連絡してね』としっかり釘を刺して。
(俺一人だったら今頃ダメになっていただろう)
そう思うと、熱のせいか涙が出そうになる。
彼女がいてくれたのは本当にありがたい。
「早く帰って来ないかな・・・」
ユキヤはそう呟いた。
そうしてモヤモヤする頭で何度か寝返りを打ってるうちに、
薬が効いてきたのか本当に眠ってしまった・・・。
***
数日後・・・
「良かった、熱下がったみたいだね」
すみれがユキヤの額に手を当てて安堵した顔をした。
「ああ、もう大丈夫みたいだ。」
ユキヤはすみれに笑顔を向ける。
「・・・ねえ、ユキヤ?」
すみれが急に声のトーンを落としながら言う。
ユキヤが彼女の方を見ると、とても寂しそうな笑顔をしている。
「ん?なに?なんでそんな悲しそうにしてるのさ?」
ユキヤが不思議そうに聞き返すと、すみれは言った。
「ユキヤごめんね・・・私もう君とは会うのは最後にする」
「・・・は?」
ユキヤは一瞬何を言われたのか理解できなかった。
「どういうこと?」
混乱する頭で必死に考えるが、答えが出るはずもない。
そんなユキヤにすみれが言う。
「もう終わりにしよう」
「・・・なんでだよ!」
思わず叫ぶように言うと、すみれは悲しそうな顔で言った。
「だって・・・これ以上君にも自分にも嘘つきたくない・・・」
「・・・まさか、別れようってことか?」
ユキヤは絞り出すように言った。
「ごめんね・・・君よりも愛する人に出会えるなんて思わなかったの。」
すみれは大粒の涙を流す。
「な、なんで・・・どうしてだよ!!」
ユキヤは必死に訴えかけるが、すみれの決心は固いようだった。
「じゃあね・・・今までありがとう」
すみれはそう言って部屋から出て行こうとする。
「待てよ!なんでだ!!」
ユキヤは声を荒げながらベッドを降りる。
そして強引にすみれの腕を掴むと、そのまま壁際まで追い込む。
「きゃっ!やめて・・・」
突然の行動に驚くすみれ。
だが、ユキヤの目は完全に据わっていた。
「これまで俺に・・・散々やってきたことは何だったんだよ!?」
(そうだよ・・・俺は・・・!)
「ユ、ユキヤ・・・?」
すみれは驚いた顔をする。
「散々俺の身体をあんな亊して・・・
今更捨てるってどういうことだよ!?」
(お前のためにあんなに恥ずかしい事も受け入れたのに・・・!)
「え・・・?」
すみれは呆然としてユキヤの顔を見る。
「俺にずっと好きだとか愛してるとか言ってくれたの、
全部嘘だったのかよ?!」
「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」
激高するユキヤにすみれは大粒の涙を流し、
ただ俯いて謝るしか出来なかった。
そんなすみれに構わず、ユキヤはさらに続ける。
「俺はお前がいないと生きていけないんだよ!」
(お前がいなくなったら俺は・・・!!)
「・・・!?」
恐怖におびえるすみれの顔を見て、
彼の中にある恐ろしい考えが浮かんでしまう・・・。
「責任取るって言ったよな・・・?!」
「・・・え?」
すみれは驚きの表情を浮かべる。
「お前が俺にした事、全部責任取ってもらうからな」
「そ、それは・・・」
すみれは怯えた目で彼を見る。だが彼は止まらない。
(そうだ・・・俺がこいつを支配すれば良いんだ)
そう思った瞬間、ユキヤの中で何かが壊れた音がした・・・。
ユキヤはすみれの胸倉を掴むとブラウスを引き裂いた。
「やめて・・・」
すみれは弱々しく抵抗するが、
ユキヤは構わずブラウスを剥ぎ取る。
そしてスカートに手をかけると一気に引きずり下ろす。
下着姿になったすみれを見てユキヤはニヤリと笑った・・・。
(そうだ・・・俺はこいつを支配したいんだ)
「お、お前が悪いんだ・・・!お前が・・・」
ユキヤは興奮しながらそう言うと、すみれの下着を剥ぎ取った。
「やめて・・・」
肌が露わになり弱々しい抵抗を見せるすみれだが、
そんなものに構う余裕などなかった。
「お前が悪いんだよ・・・!お前が!」
そう言って乱暴にすみれを押し倒すと、
そのまま覆い被さる様にして唇を奪う。
「んぐっ!?」
(こ、こいつの口の中・・・こんなに甘かったか?)
今まで何度も身体を重ねたはずなのに、
まるで初めてキスをしたような錯覚に陥る程だった。
「ねぇ・・・ユキちゃんがしたい事ってこんな事だったの?」
押し倒された状態のまま、すみれが口を開く。
その顔は先ほどまでの恐怖する顔ではなく、
どこか哀れんだ表情をしている。
「違う・・・俺はただ・・・」
ユキヤは必死に言い訳を考えるが、
すみれの一言で全てが瓦解してしまう。
(俺は・・・彼女をどうしたいんだ・・・・?)
ユキヤは自問する。
(俺はすみれをどうしたいんだ・・・?)
「ねぇ、教えてよ・・・」
すみれが耳元で囁くようにユキヤに問いかける。
その声が脳髄に直接響いてくるような感覚に陥る・・・。
***
「・・・」
「・・・・・ねぇ!」
何者かが自分の肩を揺り動かした・・・。
「ん・・・」
ユキヤは目を開く・・・。
目の前にすみれがいた。
「・・・え?」
状況が飲み込めない。
「やっと起きた?随分うなされてたよ?怖い夢でも見たの?」
「あ・・・いや」
(夢、か)
あたりを見回すと、そこは寝室だった。
ベッドの横にある時計の日付は、熱を出したその日のものだ。
ユキヤは自分が夢を見ていたことに安堵する。
「あー悪い・・・なんか変な夢見てたみたいだ。」
「うーん、また熱上がってるみたいだからそのせいかな?」
すみれはユキヤの額に手を当てながら言う。
そこは自分のベッドの上だった。
「買い物から帰ったら、汗だくでうなされてるから驚いたよ。」
「そう・・・だったのか」
ユキヤは夢の光景が鮮明に蘇ってくる。
「・・・とりあえず汗拭こうか?」
すみれはそう言ってタオルを取ってくると、
お湯で濡らして絞った後、丁寧に身体を拭いてくれる。
「ありがとな・・・」
ユキヤは申し訳なくなって礼を言う。
「いいよ、こういう時はお互い様だし。」
すみれは照れながら返した
「着替え出すね」
すみれは照れ隠しのようにベッド付近にあるタンスから
新しいシャツと下着を取り出そうとする。
タンスの中をゴソゴソするすみれの後ろ姿を
見ながらユキヤは考える。
(よりによってあんな夢見るなんて・・・)
夢だったとはいえ、自分の行動が情けなくなった。
(でももしすみれが俺の前からいなくなったら・・・)
熱ではっきりしない頭の中でそんな妄想が湧いてしまう。
(そんなことになったら・・・)
すみれが着替えを持ってベッド付近まで来ると・・・
「なぁ、すみれ」
ユキヤはベッドから上半身を起こして声をかける。
「ん?どうしたの?」
「俺・・・お前がいなくなったら・・・」
そう言って、後ろから優しく彼女を抱きしめた。
「ふふっ・・・くすぐったいよ」
すみれはそう言って笑うが、ユキヤは真剣な表情のまま言う。
「俺と一緒にいてくれ」
「どうしたの急に?」
「・・・俺はお前を失ったら生きていけないんだ」
そう呟くユキヤの目じりにはうっすらと涙が浮かんでいる。
そんな彼の姿を見て、すみれは一瞬驚くも、
すぐに優しく微笑むと言った。
「大丈夫だよ、どこにも行ったりしないから。」
彼女はユキヤの頭を優しく撫でる。「だから安心して?」
すみれはユキヤを安心させようと優しい言葉をかける。
「・・・本当か?俺を置いて行かないか?」
「うん、約束する」
その言葉に安心したのか、ユキヤはそのまま眠りについた・・・。
(やっぱりまだ熱があるのかなぁ・・・)
すみれはユキヤの寝顔を見ながら思う。
(でもこんなユキヤもたまにはいいかな)
普段はぶっきらぼうな彼も、
弱っている時はやはり寂しいのだろう。
(私以外にはこんな顔見せないもんね・・・?)
すみれはそう考えるとクスッと笑みがこぼれる。
(ほんと可愛いんだから・・・♡)
彼女はユキヤの寝顔をしばらく眺めていた。
つづく
ある日の朝。
寝室に無機質なアラーム音が響く。
「あ、体温計止まったね。何度ある?」
「・・・ええと、38度2分」
ユキヤが自分の腋から体温計を取り出し、体温を見ながら言う。
「まだ熱下がってないね。今日はお休みして病院行こう」
ユキヤが発熱したのは昨晩の事であった。
しかも熱だけではなく、のどの痛みや身体のだるさもある。
「確かにちょっと熱いもんね」
すみれがユキヤの額に手を当てると、まだ熱があることが確認できた。
「しかし珍しいよね。私よりもずっと丈夫な君が風邪引くなんて。」
「・・・・・。」
いつもならここで悪態の一つも出てくるところだが、
今の彼は熱で頭が回らないようだった。
「今日は私が看病してあげるから安心して。」
「でも、講義は?」
ユキヤが不安そうに聞く。
2人は今日の講義に出席する予定だったのだ。
「大丈夫、私も休むから。」
すみれは笑顔で答える。
「でも……。」
ユキヤが何か言おうとするのを遮り、すみれが言う。
「いいの!私が看病したいの!」
「・・・わかったよ」
「これからおじやでも作るから、それ食べたら
病院の時間まで寝てなさいね。」
すみれはそう言いながら、ユキヤの額に冷却シートを貼った。
「うん・・・」
シートのひんやりとした感覚に少し落ち着いたのか
ユキヤは素直に返事する。
(たまにはこうやって、優しく看病されるのも、
悪くないよな・・・)
ユキヤは熱でぼんやりとしてる頭の中でそう思った。
***
その日の午後。ユキヤはすみれの作ったおじやを食べ、
病院で処方された薬を服用した後ベッドで横になっていた。
(・・・暇だな)
熱でボーッとする頭で考える。
(すみれがいてくれてよかった・・・。)
すみれは今、夕飯の買い物に出ている。
『何かあったらすぐに連絡してね』としっかり釘を刺して。
(俺一人だったら今頃ダメになっていただろう)
そう思うと、熱のせいか涙が出そうになる。
彼女がいてくれたのは本当にありがたい。
「早く帰って来ないかな・・・」
ユキヤはそう呟いた。
そうしてモヤモヤする頭で何度か寝返りを打ってるうちに、
薬が効いてきたのか本当に眠ってしまった・・・。
***
数日後・・・
「良かった、熱下がったみたいだね」
すみれがユキヤの額に手を当てて安堵した顔をした。
「ああ、もう大丈夫みたいだ。」
ユキヤはすみれに笑顔を向ける。
「・・・ねえ、ユキヤ?」
すみれが急に声のトーンを落としながら言う。
ユキヤが彼女の方を見ると、とても寂しそうな笑顔をしている。
「ん?なに?なんでそんな悲しそうにしてるのさ?」
ユキヤが不思議そうに聞き返すと、すみれは言った。
「ユキヤごめんね・・・私もう君とは会うのは最後にする」
「・・・は?」
ユキヤは一瞬何を言われたのか理解できなかった。
「どういうこと?」
混乱する頭で必死に考えるが、答えが出るはずもない。
そんなユキヤにすみれが言う。
「もう終わりにしよう」
「・・・なんでだよ!」
思わず叫ぶように言うと、すみれは悲しそうな顔で言った。
「だって・・・これ以上君にも自分にも嘘つきたくない・・・」
「・・・まさか、別れようってことか?」
ユキヤは絞り出すように言った。
「ごめんね・・・君よりも愛する人に出会えるなんて思わなかったの。」
すみれは大粒の涙を流す。
「な、なんで・・・どうしてだよ!!」
ユキヤは必死に訴えかけるが、すみれの決心は固いようだった。
「じゃあね・・・今までありがとう」
すみれはそう言って部屋から出て行こうとする。
「待てよ!なんでだ!!」
ユキヤは声を荒げながらベッドを降りる。
そして強引にすみれの腕を掴むと、そのまま壁際まで追い込む。
「きゃっ!やめて・・・」
突然の行動に驚くすみれ。
だが、ユキヤの目は完全に据わっていた。
「これまで俺に・・・散々やってきたことは何だったんだよ!?」
(そうだよ・・・俺は・・・!)
「ユ、ユキヤ・・・?」
すみれは驚いた顔をする。
「散々俺の身体をあんな亊して・・・
今更捨てるってどういうことだよ!?」
(お前のためにあんなに恥ずかしい事も受け入れたのに・・・!)
「え・・・?」
すみれは呆然としてユキヤの顔を見る。
「俺にずっと好きだとか愛してるとか言ってくれたの、
全部嘘だったのかよ?!」
「・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい」
激高するユキヤにすみれは大粒の涙を流し、
ただ俯いて謝るしか出来なかった。
そんなすみれに構わず、ユキヤはさらに続ける。
「俺はお前がいないと生きていけないんだよ!」
(お前がいなくなったら俺は・・・!!)
「・・・!?」
恐怖におびえるすみれの顔を見て、
彼の中にある恐ろしい考えが浮かんでしまう・・・。
「責任取るって言ったよな・・・?!」
「・・・え?」
すみれは驚きの表情を浮かべる。
「お前が俺にした事、全部責任取ってもらうからな」
「そ、それは・・・」
すみれは怯えた目で彼を見る。だが彼は止まらない。
(そうだ・・・俺がこいつを支配すれば良いんだ)
そう思った瞬間、ユキヤの中で何かが壊れた音がした・・・。
ユキヤはすみれの胸倉を掴むとブラウスを引き裂いた。
「やめて・・・」
すみれは弱々しく抵抗するが、
ユキヤは構わずブラウスを剥ぎ取る。
そしてスカートに手をかけると一気に引きずり下ろす。
下着姿になったすみれを見てユキヤはニヤリと笑った・・・。
(そうだ・・・俺はこいつを支配したいんだ)
「お、お前が悪いんだ・・・!お前が・・・」
ユキヤは興奮しながらそう言うと、すみれの下着を剥ぎ取った。
「やめて・・・」
肌が露わになり弱々しい抵抗を見せるすみれだが、
そんなものに構う余裕などなかった。
「お前が悪いんだよ・・・!お前が!」
そう言って乱暴にすみれを押し倒すと、
そのまま覆い被さる様にして唇を奪う。
「んぐっ!?」
(こ、こいつの口の中・・・こんなに甘かったか?)
今まで何度も身体を重ねたはずなのに、
まるで初めてキスをしたような錯覚に陥る程だった。
「ねぇ・・・ユキちゃんがしたい事ってこんな事だったの?」
押し倒された状態のまま、すみれが口を開く。
その顔は先ほどまでの恐怖する顔ではなく、
どこか哀れんだ表情をしている。
「違う・・・俺はただ・・・」
ユキヤは必死に言い訳を考えるが、
すみれの一言で全てが瓦解してしまう。
(俺は・・・彼女をどうしたいんだ・・・・?)
ユキヤは自問する。
(俺はすみれをどうしたいんだ・・・?)
「ねぇ、教えてよ・・・」
すみれが耳元で囁くようにユキヤに問いかける。
その声が脳髄に直接響いてくるような感覚に陥る・・・。
***
「・・・」
「・・・・・ねぇ!」
何者かが自分の肩を揺り動かした・・・。
「ん・・・」
ユキヤは目を開く・・・。
目の前にすみれがいた。
「・・・え?」
状況が飲み込めない。
「やっと起きた?随分うなされてたよ?怖い夢でも見たの?」
「あ・・・いや」
(夢、か)
あたりを見回すと、そこは寝室だった。
ベッドの横にある時計の日付は、熱を出したその日のものだ。
ユキヤは自分が夢を見ていたことに安堵する。
「あー悪い・・・なんか変な夢見てたみたいだ。」
「うーん、また熱上がってるみたいだからそのせいかな?」
すみれはユキヤの額に手を当てながら言う。
そこは自分のベッドの上だった。
「買い物から帰ったら、汗だくでうなされてるから驚いたよ。」
「そう・・・だったのか」
ユキヤは夢の光景が鮮明に蘇ってくる。
「・・・とりあえず汗拭こうか?」
すみれはそう言ってタオルを取ってくると、
お湯で濡らして絞った後、丁寧に身体を拭いてくれる。
「ありがとな・・・」
ユキヤは申し訳なくなって礼を言う。
「いいよ、こういう時はお互い様だし。」
すみれは照れながら返した
「着替え出すね」
すみれは照れ隠しのようにベッド付近にあるタンスから
新しいシャツと下着を取り出そうとする。
タンスの中をゴソゴソするすみれの後ろ姿を
見ながらユキヤは考える。
(よりによってあんな夢見るなんて・・・)
夢だったとはいえ、自分の行動が情けなくなった。
(でももしすみれが俺の前からいなくなったら・・・)
熱ではっきりしない頭の中でそんな妄想が湧いてしまう。
(そんなことになったら・・・)
すみれが着替えを持ってベッド付近まで来ると・・・
「なぁ、すみれ」
ユキヤはベッドから上半身を起こして声をかける。
「ん?どうしたの?」
「俺・・・お前がいなくなったら・・・」
そう言って、後ろから優しく彼女を抱きしめた。
「ふふっ・・・くすぐったいよ」
すみれはそう言って笑うが、ユキヤは真剣な表情のまま言う。
「俺と一緒にいてくれ」
「どうしたの急に?」
「・・・俺はお前を失ったら生きていけないんだ」
そう呟くユキヤの目じりにはうっすらと涙が浮かんでいる。
そんな彼の姿を見て、すみれは一瞬驚くも、
すぐに優しく微笑むと言った。
「大丈夫だよ、どこにも行ったりしないから。」
彼女はユキヤの頭を優しく撫でる。「だから安心して?」
すみれはユキヤを安心させようと優しい言葉をかける。
「・・・本当か?俺を置いて行かないか?」
「うん、約束する」
その言葉に安心したのか、ユキヤはそのまま眠りについた・・・。
(やっぱりまだ熱があるのかなぁ・・・)
すみれはユキヤの寝顔を見ながら思う。
(でもこんなユキヤもたまにはいいかな)
普段はぶっきらぼうな彼も、
弱っている時はやはり寂しいのだろう。
(私以外にはこんな顔見せないもんね・・・?)
すみれはそう考えるとクスッと笑みがこぼれる。
(ほんと可愛いんだから・・・♡)
彼女はユキヤの寝顔をしばらく眺めていた。
つづく
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