天然ドSな彼女に抱かれ続けた結果、色々あって一緒に暮らすことになりました。

桃ノ木ネネコ

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第87話:僕らの愛の形は何型?(その2)

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数日後。
「ええと、ここも今週一杯で上映終了か・・・」
「あ、こっちはレイトショーをやってくれてるよ」
「でも、ちょっと遠くないか?」
大学の食堂の窓際の横並び席で、すみれとユキヤの二人は
お互いにスマホを見ながら映画の上映スケジュールを
チェックしていた。

2人で見に行こうという映画があったのだが、
思ったより上映している映画館が少なく、近所でも見に行ける館を
こうして手分けして探しているところであった。

「まぁ、電車使えば行けない事もない距離だし、
見終わった後でも終電には間に合いそうかな。」
ユキヤが映画の時間を確認しながら言う。
「うーん・・・そっかぁ」
すみれも時間を確認する。

と、その時

「お前!あいつとヤったのか?!」

背後から野太い怒鳴り声が聞こえた。

「!?」
2人が振り返ると、そこには見覚えのある男性と女性のカップルがいた。
「あ・・・」
その二人は先日ユキヤが見た海老沢と苅安だっただった。
「あ、あの二人って・・・」
すみれが様子を伺いながらユキヤに尋ねる。
「あぁ・・・」
そう答えるユキヤも顔をしかめて彼らを見る。
(頼むから真後ろで修羅場は勘弁してほしいんだけどなぁ・・・)

「あ、あの人はあなたと出会うずっと前に・・・つきあってて・・」
「質問に答えろ!ヤったんだろ!!」
苅安は海老沢の怒鳴り声に怯えながらも、 
それでも彼の質問に答えようとするが
「え?だから・・・それは・・・」
「お前、俺の言う事に逆らうのか!」
その答えに海老沢はさらに逆上し、苅安を怒鳴りつける。
(・・・てか、どういうケンカの内容だ?!)
ケンカの内容に呆れるユキヤをよそに
海老沢はヒートアップしていく。

「うう、ご、ごめんなさい・・・」
苅安は恐怖のあまりか、目に涙を浮かべながら思わず謝る。
「ヤッたんだな?」
苅安は無言で頷いた。
「やっぱりか!このクソビッチが!!」
次の瞬間、乾いた音が響き渡る。
それは海老沢が彼女に平手打ちを喰らわせた音であった。

「あ・・・!」顔に強い衝撃を受けた刈安はそのままよろめいて、
バランスを崩し、よりによってすみれの座る席に倒れこんできた。
「きゃっ!」その衝撃で、彼女は椅子から転げ落ち、
苅安の下敷きになるようにして地面に尻もちをついた。

「あいたた・・・」
「ご、ごめん・・なさい。大丈夫ですか?」
思わず尻もちをついたすみれを、下敷きにしていた刈谷が 
慌てた様子で心配する。
「あ、うん・・・大丈夫・・・」すみれは腰を擦りながら返事をする。
「まったく・・・お前は他人に迷惑しか掛けられないんだな」
海老沢が、苅安を一瞥すると吐き捨てるようにそう言った。
「ご、ごめんなさい・・・」
「まぁいい、行くぞ」
苅安の謝罪に海老沢は興味なさげにそう返すと
 立ち上がった苅安の手を引き、食堂を出ようとする。

「・・・おい、待て!」
それを見ていたユキヤは思わず席を立ち、海老沢達を引き留めた。
「あ?」
海老沢が睨み返す。
「そうだよ、お前だよ!迷惑かけやがって!」
そう言ってすみれを守るようにしてすみれの前に立つ。
「迷惑だと?・・・俺が!?」
それを聞いた海老沢はムッとした顔をして逆上する。
「・・・とぼけてんじゃねえよ、謝れよ!」
ユキヤは静かにそう言って海老沢の事を睨みつけた。

「お前らが喧嘩するのは勝手だけどな、
そのケンカに無関係なこいつを巻き込んだんだから
まずこいつに謝るのが筋って奴じゃないか?」
ユキヤはそう言うとまだ尻餅をついたままのすみれの方を見ると、
再び海老沢の方を睨む。
「・・・。」
彼の剣幕に、海老沢は思わず言葉を詰まらせる。

「お前・・・」
何か言いかけた海老沢に苅安が耳打ちする。
「・・・・・!」
彼は一瞬驚いた顔をするも直ぐにユキヤ達に向き直った。

そんな2人を見て、ユキヤは続ける。
「で、どうする?」
「・・・悪かったな」
海老沢はすみれに向かいそう言ってから、ユキヤを一瞥すると、
苅安を連れてその場を立ち去った。

「え・・・?」
あまりにもあっさり謝罪した海老沢を見送ると
ユキヤは拍子抜けした顔を見せる。
「ユキヤ、大丈夫?」
そこでようやく立ち上がったすみれは背後から彼に声をかける。
「・・・・・」ユキヤは立ち尽くしたまま動かない。

「ユキヤ?」
再度声をかけるが、ユキヤはそれすらも答えない。
(なんだろう・・・?)
すみれは、彼の様子がいつもと違う事に気付いた。
「あの、ユキヤどうしたの?」
彼女は慌てて前に回ってユキヤの顔を見る。

「・・・・・・!」
すみれが正面に回ると彼の顔は真っ青で脂汗が垂れていた。
「え?ちょっと、なんでそんなに汗かいてるの?!」
すみれが慌ててそう尋ねると
「け、ケンカにならなくてよかった・・・」
と安堵したようにつぶやくと、全身の力が抜けたのか
ヘタヘタと椅子に座り込んでしまった。

・・・どうやら勢いよく怒鳴ったはいいが
自分よりも一回り以上大きい柔道部の主将に
ケンカを売るような真似をしてしまったという事に
今になって恐怖が出て来たらしい。

「つまり君は後先考えずに怒ったわけね・・・」
すみれが呆れ半分に言う。
「・・・すいません」

「もう・・・すぐに無茶をするんだから」
ユキヤが申し訳なさそうに謝ると すみれは呆れ気味にため息を吐く。
「だって、お前が巻き込まれたし・・・」
「だからって、ケンカ売って君が怪我したら元も子もないでしょ!」
「・・・」すみれの言葉にユキヤは何も言い返せない。

「まぁ、うん・・・気持ちは嬉しかったから」すみれは苦笑いする。
「そ、そっか・・・ならいいんだけど」
すみれのフォローに、ようやくユキヤの顔色が戻ってくる。
「それにしてもユキヤも案外熱い所あるんだね?」
「ま、まぁな」
「でも、もう一度言うけど、あんまり無茶しないでね?」
「・・・うん」
ユキヤはそう返事すると、
「で、その映画どうする?」
と話題を切り替えた。

***

「なかなか面白かったね」
「ああ、あのラストはちょっと意外だったけど」

数日経った週末の深夜、すみれとユキヤは少し遠くの駅の映画館にいた。
あの後、近場の上映館を探したが、結局あの家から
電車で30分程のところにある館のレイトショーを見る事になった。

「面白かったのはいいけど、もう11時回っちゃったね」
スマホの電源を入れ直したすみれが時計を見て驚く。
「マジか?!映画見てると時間感覚がバグるな・・・」
遅い時間という事もあり、館内のロビーには他に人がおらず、 
館内には二人だけしかいなかった。

「今から帰りの電車とかあるかな?」
「確か12時30分が最終だったから、まだ大丈夫じゃね?」
「でも遅いしちょっと急いだほうがいいかもね」
「んだな」
そう言って2人は映画館のスタッフに挨拶すると、 
足早に映画館を後にした。

外に出ると、時間が時間だけあって通行人はいない。
2人は駅までの道を急いだ。

しばらく歩いてると、大きな公園の前に差し掛かる。
テニスコートやサイクリングロード、アスレチック遊具などがあり、
昼間であれば結構な賑わいを見せる場所ではあるが、
この時間となると、公園内に植えられた大きな木々が道路側にある
街灯の明かりを遮り、うっそうとした空間を作り出していた。

「行きに通った時は何とも思わなかったけど、こうして見ると
結構広い公園だよね」
「流石に深夜だと不気味だな・・・」
ふたりはすぐ横の歩道を歩きながら、それぞれ口を開く。

「だ、大丈夫だって、ほら、早く駅行こう?」
すみれはユキヤの手を引くと足早に駅へ向かおうとする。

「!」
しかしユキヤは足を止めてしまう。
「どうしたの?」
「・・・誰かいる!」
「え?」

つづく
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