外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーし俺を閉じ込め高見の見物をしている奴を殴り飛ばす~

うみ

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19.小川

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 そういえば、エリアの端ってどんな様子になっているのか知らなかったな。
 死者の大聖堂は真っ直ぐ東に進み、森に至ると道が分かっていた。大聖堂まで戻りはしたけど、入口から出口までの道すがらだったしさ。
 大森林はその名の通り、深い森の中になっている部分もあるといった印象だ。
 ベルベットの言に従い、右に進んで行くと俺が見知った森の中という風景になってきた。木々の太さも高さも懐かしい感じで。
 あれはブナか。植生も見知ったものが多い。バッタや蟻のような昆虫類も見かけた。
 
 ん。この音は。
 
「川がありそうだな」
「音から判断するに、小川かな」
「小川の方が都合がいい」
「あはは。君は一度決めたら愚直に進むんだねえ」
「めんどくさいだけだよ」

 サラサラと水の流れる音が大きくなり、木々の隙間から流れる川が見えた。
 川幅はおよそ3メートルで流れは早い。水源がこの近くにあるのかもしれないな。
 
「やったー。川よお。ひゃほー」
「待て」

 ワクワクと走り出そうとするベルベットのマントを掴む。
 止まってはなるものかと振りほどこうとする彼女の首筋に手刀を入れて黙らせる。
 
「何よお。川と言えば、水浴びでしょ」
「今更ながら、いや、ベルベットを数に入れてなかった俺が悪かった」
「数に入れてないって酷いわ。密着した仲だというのに」
「頭数とは別のところだよ! 本来の目的を忘れていないか?」
「んー?」

 その顔、水浴びで頭が一杯だったな?
 最初会った時はもっと知的で軽薄な印象を受けたんだが。これが素だろうな。
 そうなんだよ。最初に彼女に会った時のことをふと思い出したんだ。
 頭のネジが緩い印象しか持っていなかったから、どうすべきか考える時は常にハールーンとだけ相談していた。
 そもそも、彼女が「右よ」なんて無邪気に言うから。いや、俺が彼女をスルーしていたのが良くなかった。
 
「ベルベット。仲間外れにしようとしていたわけじゃなかったんだ。先にそれだけは分かってくれ」
「はやくー。脱ぎたい」
「脱ぐな。俺の前ではやめろ」
「見たいくせにー」

 こんなのだから、すっかり考慮の外にあったんだよ!
 しかし、思い出したからには聞かないわけにはいかない。
 
「ベルベットは死者の大聖堂、魔獣の森、そして竜の谷に後何だっけ」
「精霊のところだったかしら?」
「いや、何でお前が疑問形なんだよ! 魔獣の森から竜の谷に行ったんだよな?」
「あれえ。私そんなこと言ったっけ」
「竜の谷や妖精じゃなかった精霊の何とかってのは単なる想像を語ってたのか?」
「ううん。チラ見してきたって言ったじゃない」
「それじゃあ、魔獣の森から竜の谷、あとどこから至るのか分からないけど、精霊のところにも行けるのだろう?」
「私、そんなこと言ってないもんー」

 こ、こいつうう。
 このまま首を絞めてやろうかとマントから手を離す。
 すると、ちょいちょいとハールーンが俺のズボンを引っ張った。
 
「冷静さを欠くなど、君らしくもない」
「いやでもな。仲間同士で押し問答をするなんてさ」
「ベルベットはこういうものだと思うといいよ。君だって僕だって在りようは変わらないだろ?」
「まあな。そうだな。カッカした俺にも非がある」
「いいかい。彼女は嘘を言っていない。考えてごらん。先ほどの問答で彼女は何て受け答えしていた?」

 ありがとう、ハールーン。
 心の中で彼女に礼を述べる。俺はこう頭に血が上りやすいところが、いや、短絡的に考えるところがあるのだと思う。
 超敏捷や超筋力といった強力な技を使えるようになったけど、この力に慢心し足元をすくわれかねない。
 トレーススキルの強みは技のバリエーションと最適な動作を再現できることにある。生かすも殺すも自分の頭次第だから。
 いつも心は水のごとく、イラつく時や危機の時ほど冷静に考えを巡らせるようにしなきゃならん。
 ベルベットは俺にそのことを伝えたかったのかもしれない。
 間抜けな顔をしているけど……。いやいや、だから偏見は止めろって俺。
 
 落ち着いたところで、先ほどのベルベットとのやり取りを思い出してみよう。

「どうしたのー? えっちな気持ちになっちゃった?」
「ならんわ。ちょっと待っててくれ。考える」
「うん。私の裸のことをたんと考えなさいー」
「……」

 分かってる。分かってるって。ベルベットの本心じゃないってことくらい。
 こうやって冷静さを乱そうとしているんだよな? 精神が未熟な俺のために。
 ぐううう。いや、そう思え。そう思うんだ俺えええ。
 よ、よし。
 
 いいか。ベルベットは竜の谷にまで至った。
 行ったのか? という問いに「チラ見した」と答えたからな。
 行ったと答えたのはこれで二度目だ。彼女が嘘をつく理由がないし、俺は彼女を信じると決めた。
 だから、彼女が竜の谷に至ったのは事実である、とする。
 彼女に竜の谷について三度聞いて、一度は否と答えたんだよな。
 あ、そういうことか。
 
「竜の谷や精霊の何とかってのは、魔獣の森から行ったんじゃなかったんだな」
「魔獣の森には来たことはあるけどね」
「つまり、ええと。どこから竜の谷に行ったんだ?」
「あっち」

 上を指さすベルベット。
 あ、うん。俺には無理だ。彼女が何も分からず「右に行こう」と言ったのも納得である。

「俺は空を飛ぶことなんてできないからな。空からエリアを超えることができるのか?」
「何かね。隙間があるの。そこからよっこいせーって。森には地上から行ったのよ。だけど、坂道が長くてもういいやって戻った」
「諦めるの早すぎだろ!」
「だってえ。何が来るか分からないでしょー。私がさっきのなんだっけ、黒い獣にエンカウントしてたらバラバラよ」
「臆病さは生き抜く上で立派な心構えだ。すまんな。罵って」
「ううん。勇敢さと無謀は紙一重。臆病と軟弱も。私はウィレムのように踏み出せなかった。だから、あなたの勇敢さにきゅんきゅんするわ」

 言い方はともかく。
 彼女はきっかけを求めていた。ついていきたいと彼女は言った。
 彼女にも彼女なりの矜持がある。
 踏み出そうとしている彼女もまたハールーンと同じで俺の大切な仲間の一人だ。

「ベルベットは空を飛べるのなら、安全に空から行けばいいんじゃないか?」
「死者の大聖堂以外でお空を呑気に飛ぶなんてことをしたくないわよ。ウィレムといた方がよっぽど安全よ。霧の魔法も空だと使えないし」
「ん、空を飛んでいる時は魔法に制限があるのか?」
「そうよ。そもそも魔法で空を飛ぶのだから、魔法を使っているわけじゃない。だからほら」
「何となく言いたいことは分かる」

 スペシャルムーブを行使した状態でもう一つ使うとなると、疲労がかなり来るからな。
 常に一つ発動した状態というだけでも、消耗するのに更にだったら戦闘が制限される。
 無敵モードの大聖堂ならともかく、他だと厳しいか。
 いざとなれば彼女なら空に逃げることができる程度に思っておけばいいか。
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