魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ

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8.圧倒的な狩り、そう圧倒的なのだ

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「見つけた……」

 森に入り、30分も経たないうちに立派な角を生やした大型の鹿を発見した。
 鹿は草を食み、まだこちらに気が付いていない。
 
 間に障害物はありまくりで、ここから矢を射たとしても俺の腕じゃああたらないだろうな。
 距離も100メートル以上あるし。
 だが、視界に収まりさえすれば問題ない。
 
 見てろよ。ルルー。ビックリさせてやるからな。
 妄想に華を。想像し創造しろ。

「出でよ」

 囁くように呟き、右腕をあげる。
 すると、大鹿の真上三メートルの上空に突如槍が三本出現した。
 身の丈ほどの長さがある鋭い穂先を持った槍は、重力に引かれ勢いよく落下した。
 グサッ!
 槍が大鹿を貫く。
 
『地味もきゃ……』
「確実に仕留めることができるんだから、これでいいだろもう」

 派手さなんていらん。確実に仕留めることが大事なのだよ。
 
 大鹿の元へ行き、刺さった槍の様子を観察する。
 槍は穂先が隠れるほど地面に突き刺さっていて、予想以上の威力にビックリしてしまった。
 たかが三メートル上空から自然落下した程度では大鹿を貫くことも難しいだろう。
 それがどうだ。大鹿を貫いただけではなく、ここまで地面に深く突き刺さるなんて。
 
 もちろんこれには裏がある。
 うまく行くかは半々かなと予想していたけど、予想以上にうまくいった。
 その絡繰りとは――。
 勢いよく落下する槍を頭の中に思い描いたんだ。
 創造スキルは脳内映像を現実世界へ顕現させる。
 少し語弊があるけど、創造スキルで作る物体は静止画である。
 それじゃあ、例えば、思いっきり振りかぶって投げたボールを想像したとしたらどうなるだろうか?
 ピッチャーがキャッチャーに向け投げた野球ボールをイメージしてみて欲しい。
 勢いよく放たれた野球ボールの一瞬を切り取ったものが、創造スキルで作り出す野球ボールだ。
 だけど、このボール。現実世界に作り出された時点で、運動エネルギーを持っている。
 つまり、ピッチャーが投げた勢いが野球ボールに保持されていて、顕現した後、本来進んでいたであろうキャッチャーの方向へ動く。
 
 勢いよく落下する槍を想像し創造したら、自由落下なんて目じゃないほどの威力がでるってわけだ。
 この使い方は他でも何かと応用が利きそうで、大変喜ばしい。
 使いどころを誤ると大怪我しそうだから、ご利用は計画的に、だけどね。
 
「よいしょっと。あ、そうか。消せばいいんだ」

 鹿を貫き地面に突き刺さった槍を引き抜こうとして、手を止める。
 消えろと念じたら、三本の槍は最初から無かったかのように忽然と姿を消した。
 カリカリ。
 なんだよもう。肩に乗ったままのルルーが俺の首を小さな爪で引っ掻いてくる。
 
『槍は落ちたもきゃ。でも、石柱は落ちないもきゃ?』
「お。何も考えていないと思ったけど、ルルーでも疑問に思うことがあるのか」
『知性溢れる邪神たるオレサマに、なんと失礼なことをもきゃ!』
「だああ。分かったから顔に張り付くな。説明するから」
『分かればいいもきゃ』

 全くもう。右手を開き念じると、ストンと解体用ナイフが手に収まる。
 さて、鹿を解体しよう。
 
「説明するって言ってるじゃないか」
『鹿は後もきゃ!』

 またしてもルルーが顔に張り付いてきやがった。

「俺が創造する品物……石柱にしても、今出したナイフにしても、好きな場所に出すことができるんだよ」
『もきゃ?』

 まるで察していないな。さすがルルー。えらく知性が溢れておる。
 
「例えば、石を空中に出すと落ちるよな」
『当たり前もきゃ。も、もきゃ!』

 ルルーがこくこくと首を縦に振り、長い尻尾をぶんぶん振り回す。
 どうやら、分かったらしい。

「地面に設置した物は動かない。石柱は地面に接するように出したんだよ。槍は空中に出したので落ちるだろ。手の平にすとんと収まったナイフもそうなるようにイメージしたってわけだよ」
『もきゃもきゃ。すっきりした』

 ルルーが満足してくれたところで、解体作業を再開することにした。
 毛皮も使えそうだし、ここで血抜きだけして全部持って帰るとしよう。
 
 解体が終わった後、包み紙とリュックを出し解体済みの鹿を詰め込む。
 
「よっし、撤収だ。と言いたいところだけど、果物とかも探したい。もう少し探検しようか」
『甘い香りならまかせるもきゃ』
「期待せずに待っているよ」

 俺の肩からスレイプニルの首元に乗り換えたルルーが気を吐く。
 
 ◇◇◇
 
「んー。甘い果物はともかく、山菜やキノコは沢山採れたなー」

 やっててよかった。野山の散策。
 冬に備えて、狩りに出かけていた際についでだったから、いろいろ調べて食べることのできる野草やキノコを採ってきていたんだよな。
 最初は失敗もあって、特に毒キノコを食べた時は死ぬかと思った。
 だけど、その経験が今生きているってわけだ。この分だとしばらくこうして生きていくことはできそうだな。
 問題は「今は」ってこと。
 この辺りの四季はどうなっているのか不明だし。といっても以前住んでいた街まで500キロかそこらくらいだし、それほど気候も変わらないんじゃないか?
 だったら、晩秋までに食糧をためこんでおけば何とかなる。
 注意しなきゃなんないことは、天災だ。台風、地震、洪水……数えあげればきりがない。
 少なくとも数十キロ以内に海はないから、津波の心配はしなくていいくらいかな。
 
『オレサマも見つけたもきゃ。リヒトが採集しなかっただけもきゃ』
「そ、そうだな。まあ俺も持てる量に限りがあるしさ」

 スケートボードに足を乗せ、不満を漏らすルルーのピンク色の鼻先をツンと突く。
 確かにルルーの導きによって発見はした。
 んだけど……腐臭がするキノコとか近寄るだけで目に涙がにじんでくるような刺激満載の花とかだったんだよね。
 とてもじゃないが、食べようって気にならなかった。
 
「ルルー。俺の肩に。スレイプニル、こっちへ」

 手を伸ばすと、スレイプニルがひょいっとジャンプして飛び込んでくる。
 彼を右腕で抱えている間にも、ルルーがするすると俺の肩に登った。
 
「拠点へ帰るとしますかー。腹も減ったし」
『もきゃー』

 気が付けばお昼どころか、日が陰ってきているじゃあないか。
 朝食は森で食べたんだけど、その後ずっと夢中で探索していたからなあ……。
 
「にゃーん」

 スケートボードを走らせ始めて10分ほど経つ頃、大人しくしていたスレイプニルが突然尻尾をピンと立てて鳴く。
 どうしたのかな? と思ったけど、すぐに尻尾がだらんとなりふああと大きく口を開けあくびをしていたので、特に何もするわけでもなく速度を緩めず拠点に向かう。
 
 ◇◇◇
 
 戻ったらさっそく、鹿肉を使ったバーベキューをすることに。
 山菜類はお鍋に水を張って、ぐつぐつと煮込む。味付けは塩コショウだけとシンプルにした。できれば味噌とか欲しかったのだけど、残念ながら味噌を作り出すことはできなかったのだ!
 この辺の基準がよくわかんないんだよなあ。
 木彫りの味噌が彫刻されたのだろう壺を手に苦笑する。
 どうも口に入れることができる飲料とか調味料に関しては、うまく行かないことが多い。
 水の代わりにスポーツドリンクだとイメージしてみたんだけど、これもまた木彫りになってしまった。
 調味料でもシンプルなものだったら、出せたりする。街では超高級品の砂糖だってお手のものさ。ハチミツは木彫りだったけどね。はは。
 というわけで、調味料と呼べるものは塩、コショウ、砂糖くらいのものである。
 それでも無いよりは断然良い! 塩は生きるために必須だから別格として、コショウがあると保存食を作る時に重宝する。
 
「だというのに、生活道具類は割と大雑把でも作ることができるんだよねえ」
『もきゃー!』

 じゅうじゅうと焼ける肉から脂が跳ね、ルルーに当たったみたいだった。
 そんな彼にくすりとしつつ、小さなロウソクを手に取る。
 このロウソクは植物性なのだろうか、それとも動物性? 俺の予想は石油を原料にしたパラフィンだ。
 鉄筋コンクリートの高層ビルなんてものは、材質が非常に複雑だというのにあっさり創造することができた。
 
「うーん。謎だな。考えても仕方ないか。食べられるものに関しては作ることが出来ればラッキーくらいに思っておこう」
『焼けたもぎゃ!』

 ほいほい。トングで肉を掴みルルーの前に置いてやる。
 続いて、スレイプニルにもおすそ分けだ。彼は生肉を食べていたけど、焼いた肉もおいしそうにもしゃもしゃするんだよね。
 その時――。
 カサリと右手にある藪が不自然に揺れた。
 
 あの藪って、ルルーとスレイプニルが出てきたところと同じ場所だよな。
 益体も無いことを考えつつも、いつでも対応できるよう藪の動きに意識を向ける。
 
「悪いことは言わない。素直に姿を現わしたら何もしない」

 一応呼びかけてみる。藪にいるのが、言葉の通じる相手なのか分からないけどね。
 イノシシみたいな動物だったらラッキーなんだけど……。
 俺の期待とは異なり、藪からひょっこりと銀色と黒の猫のような耳が見えた。
 どうやら言葉が通じる相手らしい、さて、どんな相手なのか。
 それにしても、ルルーとスレイプニルは藪のことなど気にもせず、一心不乱に食べている。これでいいのか、自称邪神よ……。
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