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2.食糧はモンスターから
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――もっしゃもっしゃ。
あああ。ユーカリうめえ。
コアラになってから、ユーカリ以外を食べたいとは思わなくなった。その分、ユーカリに対する執着心が強くなった気がする。
しかし、人間との違いをまざまざと感じてしまったよ。
スルスルと大木に登り、枝の上で座って寝ることができたんだから。
ここなら猛獣が襲い掛かってくることもないし、安心して落ち着けるってもんだ。
そうそう。
草原でステータスをチェックした後、周囲を見渡すと遠くに森林が見えたんだ。
テクテクと三十分と少し歩き、森に入った。
そこで、グルグルとヤバそうな猛獣の咆哮を聞いてしまった俺は、木の上に登る。
枝を伝って移動し、疲れて来たところでそのまま眠ってしまったというわけだ。
そして今に至る。
このままここでもしゃもしゃしながら不貞腐れていたいところだけど、コアラという事実が俺をここに留まらせることを許さない。
理由? 酷く簡単かつシンプルなことだよ。
コアラはユーカリとそれに類する葉っぱしか食すことができないんだ。
つまり……飢えないためには動かないといけない。
残念なことに、ここまでユーカリの木を見かけていなかった。
この森林の中にユーカリの木があることを願おう……無かったら……いや、今考えるのはよそう。
「ユーカリの残りは……マジかよ」
アイテムボックスに入っていたユーカリは残り二百六十にまで減っているじゃあないか。
僅か一日で四十枚も食べてしまうとは……コアラ、恐ろしい子。
って俺だよ! もうちょっと控えろよ!
いや、でもさ、そうは言ってもこの体を支えているのはユーカリだけなんだぞ。それなりにユーカリを食べないと自分の体が維持できない……と思う。
――ガサガサ。
非情過ぎる現実を突きつけられ頭を抱えそうになった時、下の方から何かが動く音が聞こえる。
見下ろすと、革鎧を着た若い男と足元まですっぽりと覆うローブに杖を持った男の二人組が歩いている姿が目に留まった。
二人とも人間みたいだが、こんな森の中に一体何をしに来たんだろうか。
ピコーン!
賢い俺は気が付いてしまった。
きっと彼らは冒険者に違いない。いや、レンジャーとか猟師かもしれないけど……。
まあそれはいい。
数少ない情報しか得ることができていない俺だけど、数が少ないからこそキッチリと記憶している。
『これは、冒険者達に忌み嫌われる「ゴミ」ですな』
大臣の腰巾着がユーカリを見て確かにそう言っていた。
てことはだな。
冒険者達がゴミとしてユーカリを捨てる可能性があるってことだああああ。
我ながら天才過ぎて怖い。
お、おおおい。
得意気になっている間にも、二人がどんどん先に進んで行ってしまう。
追いかけねば。
◇◇◇
よしよし。二人は俺のことに気が付いていない様子だ。
まさか木の枝を伝って追いかけているとは思うまい。
はやく俺にユーカリを見せてくれよお。
ん?
うはあ。
やっぱり「いる」のか。魔法とか秘宝とかのキーワードを聞いた時からいるんじゃないかと半ば確信していた。
昨日森に入った時に聞いた唸り声は猛獣のものだと自分に言い聞かせていたんだが……やっぱりいるよなあ。そうだよな。
モンスターが。
二人の前方にある大木に隠れるようにして、巨大な影が見え隠れしている。
俺が気が付くのと同じくらいに彼らも影に気が付いたようで、革鎧の男が腰の剣を引き抜いた。
彼と呼吸を会わせるようにしてローブの男も杖を両手で握りしめ、何やらブツブツと呟き始める。
彼らが臨戦態勢に入ったことを感じ取ったのか、大木の後ろから虎のような巨体が姿を現したかと思うと、両前脚をあげ革鎧の男へ覆いかぶさるように飛び掛かる。
虎のようなモンスターは、灰色と黒の縞模様で頭からは捻じれた角が生えていた。口元からはサーベルタイガーのような長い牙が左右に二対。尻尾が金属の刃のようになっていて、当たると真っ二つにされそうな鈍い輝きを放っている。
革鎧の男の動きは迅速だった。
目にもとまらぬ速さで剣を握っていない方の手で背中の盾を取り出し、膝を落とした姿勢で金属製の盾を構える。
次の瞬間、虎型のモンスターの右前脚が男に向けて振るわれるが、彼は盾で虎の攻撃を凌ぐ。
「フラッシュ!」
ローブの男が呪文を唱えると、彼の握りしめた杖の先から目もくらむ光が放たれる。
杖と対峙していた虎型のモンスターはまともに光を見てしまい、目が焼かれ怯む。
「もらった!」
その隙を見逃す革鎧の男ではなく、頭をあげた虎型のモンスターの首元に剣を突き立てた。
凄まじい絶叫が響き、虎型のモンスターの首から鮮血が噴き出てくる。
ドウンと音を立て、その場に倒れ伏す虎型のモンスター。
すげえ。
あんな強そうなモンスターを一撃で仕留めるなんて。
「え……」
驚きで思わず声を出してしまった。慌てて口を塞ぎ、ホッと胸を撫でおろす。
二人はモンスターを倒した高揚感からか、俺の事に気が付いた様子はない。
彼らの強さに驚愕していたわけだけど、それも霞むほどの現象が起きたんだよ。
鮮血を吹き出し地面に倒れ絶命した虎型のモンスター。ここまではいい。
だけど、サラサラと砂が舞うようにしてモンスターが消え去り、大きな牙が二本とユーカリの葉が四枚その場に残ったんだ!
「っち、ゴミか」
「まあ、いいモノなんて滅多に出るものじゃあないですよ」
ローブの男は、舌打ちする革鎧の男をたしなめるようにしてしゃがみ込み、牙を拾い上げる。
「次に期待だな」
「そうですね」
顔を見合わせ苦笑した二人は、再び進み始めた。
完全に二人の気配が消えた後、颯爽と地面に降り立つ。
「それを捨てるなんてとんでもない」
有名なセリフを呟きながら、ユーカリの葉を拾い上げアイテムボックスに仕舞い込む。
なるほどな。
モンスターを倒したら、ユーカリの葉がドロップするのか。
予想だが、モンスターがドロップするアイテムは固定アイテムとランダムアイテムがあるのだと思う。
さっきの虎だと、牙が固定アイテムで必ず出現し、ユーカリの葉がランダムアイテムだ。
冒険者にとっては「外れ」なんだろうけど、俺にとってはユーカリの葉こそ欲しいアイテムに他ならない。
「おっと……油断大敵だ」
ユーカリに浮かれてたらダメだ。
安全な木の上に登り、ふうと一息つく。
あの二人のおかげで、どうやってユーカリの葉をゲットするか理解できた。
理解はできた。
だけど、安定的にユーカリをゲットするには……俺自らモンスターを倒さなきゃならないじゃないか!
そもそも俺は戦いなんてしたことがない。
素人の俺が武器も持たずに凶暴なモンスターを討伐することなんて……しかもレベルが二だし……。
だけど、やるしかない。
生きるためにはユーカリの葉が必要だ。
ひょっとしたら、どこかにユーカリの木が自生しているかもしれないけど……一縷の望みをかけユーカリの木を探しつつ、モンスターを倒し、冒険者が放置したユーカリの葉を拾う。
前途多難だよ……。
落ち込んでいても何も前に進まない。一歩ずつ確実にやるしかねえ。
「まずは、周囲の探索からだな」
力が無いのなら、無いなりにやり方を模索しなきゃな。
幸い、アイテムボックスにはまだユーカリの葉のストックはある。
※少しでも気になる方は、ぜひぜひブックマークをしていただけますと嬉しいです。
あああ。ユーカリうめえ。
コアラになってから、ユーカリ以外を食べたいとは思わなくなった。その分、ユーカリに対する執着心が強くなった気がする。
しかし、人間との違いをまざまざと感じてしまったよ。
スルスルと大木に登り、枝の上で座って寝ることができたんだから。
ここなら猛獣が襲い掛かってくることもないし、安心して落ち着けるってもんだ。
そうそう。
草原でステータスをチェックした後、周囲を見渡すと遠くに森林が見えたんだ。
テクテクと三十分と少し歩き、森に入った。
そこで、グルグルとヤバそうな猛獣の咆哮を聞いてしまった俺は、木の上に登る。
枝を伝って移動し、疲れて来たところでそのまま眠ってしまったというわけだ。
そして今に至る。
このままここでもしゃもしゃしながら不貞腐れていたいところだけど、コアラという事実が俺をここに留まらせることを許さない。
理由? 酷く簡単かつシンプルなことだよ。
コアラはユーカリとそれに類する葉っぱしか食すことができないんだ。
つまり……飢えないためには動かないといけない。
残念なことに、ここまでユーカリの木を見かけていなかった。
この森林の中にユーカリの木があることを願おう……無かったら……いや、今考えるのはよそう。
「ユーカリの残りは……マジかよ」
アイテムボックスに入っていたユーカリは残り二百六十にまで減っているじゃあないか。
僅か一日で四十枚も食べてしまうとは……コアラ、恐ろしい子。
って俺だよ! もうちょっと控えろよ!
いや、でもさ、そうは言ってもこの体を支えているのはユーカリだけなんだぞ。それなりにユーカリを食べないと自分の体が維持できない……と思う。
――ガサガサ。
非情過ぎる現実を突きつけられ頭を抱えそうになった時、下の方から何かが動く音が聞こえる。
見下ろすと、革鎧を着た若い男と足元まですっぽりと覆うローブに杖を持った男の二人組が歩いている姿が目に留まった。
二人とも人間みたいだが、こんな森の中に一体何をしに来たんだろうか。
ピコーン!
賢い俺は気が付いてしまった。
きっと彼らは冒険者に違いない。いや、レンジャーとか猟師かもしれないけど……。
まあそれはいい。
数少ない情報しか得ることができていない俺だけど、数が少ないからこそキッチリと記憶している。
『これは、冒険者達に忌み嫌われる「ゴミ」ですな』
大臣の腰巾着がユーカリを見て確かにそう言っていた。
てことはだな。
冒険者達がゴミとしてユーカリを捨てる可能性があるってことだああああ。
我ながら天才過ぎて怖い。
お、おおおい。
得意気になっている間にも、二人がどんどん先に進んで行ってしまう。
追いかけねば。
◇◇◇
よしよし。二人は俺のことに気が付いていない様子だ。
まさか木の枝を伝って追いかけているとは思うまい。
はやく俺にユーカリを見せてくれよお。
ん?
うはあ。
やっぱり「いる」のか。魔法とか秘宝とかのキーワードを聞いた時からいるんじゃないかと半ば確信していた。
昨日森に入った時に聞いた唸り声は猛獣のものだと自分に言い聞かせていたんだが……やっぱりいるよなあ。そうだよな。
モンスターが。
二人の前方にある大木に隠れるようにして、巨大な影が見え隠れしている。
俺が気が付くのと同じくらいに彼らも影に気が付いたようで、革鎧の男が腰の剣を引き抜いた。
彼と呼吸を会わせるようにしてローブの男も杖を両手で握りしめ、何やらブツブツと呟き始める。
彼らが臨戦態勢に入ったことを感じ取ったのか、大木の後ろから虎のような巨体が姿を現したかと思うと、両前脚をあげ革鎧の男へ覆いかぶさるように飛び掛かる。
虎のようなモンスターは、灰色と黒の縞模様で頭からは捻じれた角が生えていた。口元からはサーベルタイガーのような長い牙が左右に二対。尻尾が金属の刃のようになっていて、当たると真っ二つにされそうな鈍い輝きを放っている。
革鎧の男の動きは迅速だった。
目にもとまらぬ速さで剣を握っていない方の手で背中の盾を取り出し、膝を落とした姿勢で金属製の盾を構える。
次の瞬間、虎型のモンスターの右前脚が男に向けて振るわれるが、彼は盾で虎の攻撃を凌ぐ。
「フラッシュ!」
ローブの男が呪文を唱えると、彼の握りしめた杖の先から目もくらむ光が放たれる。
杖と対峙していた虎型のモンスターはまともに光を見てしまい、目が焼かれ怯む。
「もらった!」
その隙を見逃す革鎧の男ではなく、頭をあげた虎型のモンスターの首元に剣を突き立てた。
凄まじい絶叫が響き、虎型のモンスターの首から鮮血が噴き出てくる。
ドウンと音を立て、その場に倒れ伏す虎型のモンスター。
すげえ。
あんな強そうなモンスターを一撃で仕留めるなんて。
「え……」
驚きで思わず声を出してしまった。慌てて口を塞ぎ、ホッと胸を撫でおろす。
二人はモンスターを倒した高揚感からか、俺の事に気が付いた様子はない。
彼らの強さに驚愕していたわけだけど、それも霞むほどの現象が起きたんだよ。
鮮血を吹き出し地面に倒れ絶命した虎型のモンスター。ここまではいい。
だけど、サラサラと砂が舞うようにしてモンスターが消え去り、大きな牙が二本とユーカリの葉が四枚その場に残ったんだ!
「っち、ゴミか」
「まあ、いいモノなんて滅多に出るものじゃあないですよ」
ローブの男は、舌打ちする革鎧の男をたしなめるようにしてしゃがみ込み、牙を拾い上げる。
「次に期待だな」
「そうですね」
顔を見合わせ苦笑した二人は、再び進み始めた。
完全に二人の気配が消えた後、颯爽と地面に降り立つ。
「それを捨てるなんてとんでもない」
有名なセリフを呟きながら、ユーカリの葉を拾い上げアイテムボックスに仕舞い込む。
なるほどな。
モンスターを倒したら、ユーカリの葉がドロップするのか。
予想だが、モンスターがドロップするアイテムは固定アイテムとランダムアイテムがあるのだと思う。
さっきの虎だと、牙が固定アイテムで必ず出現し、ユーカリの葉がランダムアイテムだ。
冒険者にとっては「外れ」なんだろうけど、俺にとってはユーカリの葉こそ欲しいアイテムに他ならない。
「おっと……油断大敵だ」
ユーカリに浮かれてたらダメだ。
安全な木の上に登り、ふうと一息つく。
あの二人のおかげで、どうやってユーカリの葉をゲットするか理解できた。
理解はできた。
だけど、安定的にユーカリをゲットするには……俺自らモンスターを倒さなきゃならないじゃないか!
そもそも俺は戦いなんてしたことがない。
素人の俺が武器も持たずに凶暴なモンスターを討伐することなんて……しかもレベルが二だし……。
だけど、やるしかない。
生きるためにはユーカリの葉が必要だ。
ひょっとしたら、どこかにユーカリの木が自生しているかもしれないけど……一縷の望みをかけユーカリの木を探しつつ、モンスターを倒し、冒険者が放置したユーカリの葉を拾う。
前途多難だよ……。
落ち込んでいても何も前に進まない。一歩ずつ確実にやるしかねえ。
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