異世界に来たらコアラでした。地味に修行をしながら気ままに生きて行こうと思います

うみ

文字の大きさ
3 / 52

3.寝込みを襲えば楽勝だ!

しおりを挟む
 日が暮れるまで、木の枝から枝へ飛び移りながら探索を行った。
 熊のようなモンスターと人型のモンスターを見かけたが、最初に観察したあの二人以来、冒険者の姿を見かけることはなかったんだ。
 冒険者がわんさかいるようだったら、おこぼれだけで生きていけると思ったけど……世の中そう甘くはない。
 もちろん、非情な現実はそのままで、ユーカリの木も一本たりとも見かけることはなかった……。
 
 そんなわけで一日探索した結果分かったことは、モンスターをどうにかして倒さなきゃならないって現実を突きつけられただけだったのだ。
 こうして木の上で考え事をしている間にもユーカリの在庫は確実に減っていっている。
 もしゃもしゃ……。
 ユーカリうめえ。
 
 ……ともかく。
 ここで俺は違和感を覚える。
 キョロキョロと左右を見渡して、目をぱちくりさせた。
 今まさに日が落ち夕方から夜に変わろうとしており、満月が光を増してきている。
 だというのに、俺の視界はハッキリしていて、昼間よりもむしろ視界が良好な気さえするんだ。
 思考力も真昼間よりむしろ冴えているような……。
 
 そっか。
 俺は人間ではない。コアラだ。
 ユーカリの葉を食べ、樹上生活を行っている。
 当たり前だけど、俺は産まれてこの方ずっと人間だった。だから、人間の時の感覚、常識が俺にとって当たり前なことは当然である。
 だが、その感覚がコアラである俺の可能性をスポイルしているんだ。
 
 コアラは薄明薄暮性。
 夜目は効くし、今日のような満月の日だと夜でも行動に支障がないはず。
 現に視界はクリアなわけだしな。
 
 地球だと猫とか肉食性の猛獣の多くは薄明薄暮性だという。そいつらに対する生存能力を高めるため、一部の草食動物は薄明薄暮性に進化したのだという説がある。
 何が言いたいのかというと、モンスターも含め生き物ってのは「活動時間」ってのがあるのだ。
 つまり、寝込みを襲えばか弱い俺であってもチャンスがある。
 
「つっても、素手だとどうしようもないな……」

 自分の両手を見やりため息をつく。
 鋭い爪は生えそろっているけど、しょせん木登りするためのものだからな。敵の肉を切り裂くことなんてできやしない。
 だけど、俺は普通のコアラではない。
 元人間である。
 一応、人間並みの思考力を持っている……よな? たぶん。
 
「自分の爪が使えないなら、武器を使えばいい」

 ◇◇◇
 
 ――見つけた。
 白骨化した人間の亡骸の傍に半ばほどで折れた槍が落ちている。
 素早く地面に降り立ち、槍を掴んでさささっと樹上に戻った俺。
 穂先が錆びているけど、柄は木製で長さも一メートルに届かないくらいだから小柄な俺でも扱える。
 武器としては上々だ!
 
 ホクホクとした気持ちでユーカリの葉をもしゃる。
 お次は獲物を探さねばな。
 
 樹上を移動し始めてすぐに木の根元で気持ちよく眠るイノシシを発見する。
 たぶん……イノシシだよな。大きさは俺の知っているイノシシと同じくらいだけど、頭から角が生えている。
 気のせいだ。うん。
 イノシシは木の根元を少しだけ掘って、そこに単独で寝ている様子。
 これほど、待ってましたなシチュエーションは早々ないだろう。

「チャンスだ……しくじると反撃されるかもしれないけど……ここでやらねば……」

 ゴクリと生唾を飲み込み、イノシシの眠る大木から伸びる枝へ隣の木の枝を伝って音を立てぬように移動する。
 
 イノシシまでの距離はおよそ七メートル。
 槍を下向きに構え――。
 枝から飛び降りる!
 
 グサリ――。
 真っ直ぐに落下する。そのまま穂先がイノシシの頭に突き刺さり、地面まで貫通した。
 脳天を破壊されたイノシシは、悲鳴もあげずにそのまま絶命する。
 力の無い俺でも重力の力を借りれば、なんとななるみたいだな。
 ホッと胸を撫でおろしていると、イノシシが砂のようにサラサラと消えて行く。
 イノシシの死骸があった場所には、笹の葉が三枚だけ残っていた……。
 
 ユーカリは?
 ねえ、ユーカリはどこ……。
 笹なんてゴミは要らねえんだよお!
 
 せっかく苦労して倒したってのにあんまりだ。
 
『レベルが上がりました。スキルポイントを獲得しました。固有スキル「ユーカリサーチ」を覚えました』

 ん?
 脳内にメッセージが流れる。
 レベルアップとな。
 脳内コマンドを開いてみると、レベルが三になっていた。
 レベルがあがれば俺も強くなるんだろうか?
 スキルポイントと固有スキルがあることから、レベルよりスキルの方が重要かもしれん。
 
 えっと、スキルを使うにはどうすりゃいいんだ?

「ユーカリサーチって、まんまじゃねえかよ」
『ユーカリサーチを発動します』
 
 お、おお?
 頭に思い浮かべただけでスキルが発動するらしい。
 な、なんだと……こ、こいつはすげえ!
 円形の的にレーダーを照射したかのように、光の線がグルリと円盤を回転すると赤い光が二つ浮かび上がった。
 この円盤がどれくらいの半径なのか分からないけど、赤い点がユーカリに違いない!
 
 ユーカリが近くにあるとあっては、居ても立っても居られないってもんだ。
 赤い点のあった方向へ目をやるが、円盤がざっくりとしているから分からん。
 高さも不明、距離も不明。方向だけ……となるとなあ……。
 
 それでも、俺は、やる。
 探してみせる。
 
 このスキルは慣れが必要だが、モノにすると非常に役に立つことは確かなんだ。
 あんまり長い時間、慣れるために費やすことはできないが、完全にモノにするまでは機をみて練習せねばな。
 
 ◇◇◇
 
 三十分くらいユーカリサーチを使いながら探していると、ようやく二枚のユーカリを発見することができた。
 冒険者が捨て置いたものらしく、落ち葉にまじってユーカリの葉が地面に落ちていたんだ。
 何度もユーカリサーチを使ったからか、だいぶ慣れてきた。

「スキルの使用回数とかってあるのかな……」

 MPとかSPといったスキル使用に関する数値も分からないし、スキル使用回数といった回数表示も不明。
 調査系や自己分析系のスキルがあれば、把握できるようになるかもしれないな。今後に期待ってところか。
 だけど、少なくとも十回以上「ユーカリサーチ」を使用したが、体に疲労感は無くまだまだ使えそうだ。
 
 樹上でさきほど拾ったユーカリをもしゃりながら、お次はスキルポイントについて調べてみることにした。

『コマンド
 ステータス
 アイテムボックス
 スキル
 ……』
 
 コマンドにスキルってのが増えている。
 これかなあ。
 スキルを選んでみたら、スキルマネジメントってのが出て来た。
 だがしかし。
 
『まだこのコマンドは解放されていません』
 と表示されている。
 
 ……。
 きっとスキルマネジメントでスキルポイントを使ってスキルを習得したりできるんだろうけど、解放されていないのなら仕方ない。
 解放条件は不明。レベルが上がれば解放されるっていうのなら楽でいいんだけど……。
 
 何か他に変わっているところがあるかどうか、念のためにチェックしておくか。
 
「便利といえば便利だけど……」

 ステータスにスキル一覧ってのが加わっていた。
 開いてみたら、固有スキルのところにユーカリサーチが記載されている。
 今後、スキルを覚えていったら表示が増えていくのだろう。
 
「よおし、ユーカリサーチを使いつつ、次の獲物を探すか」

 次のドロップアイテムが笹じゃあないことを祈る。

※少しでも気になる方は、ぜひぜひブックマークをしていただけますと嬉しいです。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...