異世界に来たらコアラでした。地味に修行をしながら気ままに生きて行こうと思います

うみ

文字の大きさ
11 / 52

11.ご一緒

しおりを挟む
「じゃ、じゃあ。協力してエルダートレントを倒すってのはどうだろう?」
「何!」

 むっさ目を見開かれた。
 そ、そうだよな。トリアノンにとっては、一対一で戦って打ち倒してこそ名誉だろう。
 ゆらりと頭を動かす彼女へ、こいつはマズイと慌てて両手をブンブン振って口を開く。

「い、いや。あ、気を悪くしたのなら、ごめん。ただのじょうだ……」
「もふも……熟練者との共闘、是非、こちらからもお願いしたい」
「え?」
「共に戦おう。なあに休息する時は気にせず一緒に休むことができるぞ。オルトロスがいるからな」
「俺、割に夜行性で……」
「そうか。そろそろ寝るのかと思ったのだが」 

 目が怖い。
 指先をわしゃわしゃさせているけど、なんかこう戦いとは別の邪な気持ちから「共に戦う」とか言ってない?
 いや、この際、彼女の事情なんてどうでもいい。
 エルダートレントさえ討伐できりゃあな。
 ここは変な流れを断ち切り、話を進めないとな。
 
「エルダートレントをどうやって倒すか、作戦を決めないか?」
「うむ。連携は大事だ」
「おう」

 あれやこれやとトリアノンと話し合った結果、エルダートレントに挑むのは日が沈んでから。
 ジャックオーランタンの活発さは変わらないけど、本体であるエルダートレントの動きが鈍っているように思えるという単純な理由だ。
 で、どうやって討伐するかなんだが……。
 オルトロスとトリアノンがジャックオーランタンを引きつけつつ、俺がエルダートレントを奇襲するってザルもいいとこのざっくりし過ぎた作戦に決まった。

「俺はその作戦でいいけど、オルトロスはともかくトリアノンは平気なのか?」
「任せろ。貴君の奇襲の後、追撃もする」
「え、えっと。トリアノンってテイマーだよな?」
「いかにも」

 俺の認識は合っていた。
 彼女はオルトロスのようなモンスターを使役し、戦ってもらうテイマーである。
 テイマーって自分のペットをサポートする役目で、戦士みたいな前衛じゃあないだろ?
 
 改めて彼女の装備に目をやる。
 全身鎧。フルフェイスの兜。おまけに大きな戦斧を脇に置いていた。
 あれえ?

「その斧でぶった切るの?」
「もちろんだ! 木と言えば斧だろ?」
「あ、うん」

 もはや何も言うまい。
 彼女はバトルマニアの脳筋……ってことでいいんだな。

「さあ、そうと決まったら行くぞ!」
「え、え。ちょっと引っ張らないで」

 舐めていた。
 決めたら即実行ってどういうことだよ?
 偵察したりとか、決行前にやることいろいろあるだろお。準備って大切なんだぞ。
 ぐぐぐっと地面を引きずり抵抗していたら、背中を掴まれふわりと宙に浮く。

「何だ。抱っこが良かったのか。全く」
「俺、移動は木の上なんだ」

 むぎゅーっと抱きしめられてしまうが、鎧が痛くて叶わん。
 何とかして脱出し、するすると太い木の幹を登り始める。
 
「っち」
「今、舌打ちしていなかった?」
「気のせいだ。一つ聞きたいことがある」
「何だろう?」
「エルダートレントがどこにいるか分かるか?」
「分かるけど……先導する……」

 じゃあ、さっきの「行くぞ」は何だったんだ。
 ノープランで歩き始めたってのかよおお。よくそれで今まで生き残ってこれたな……。
 
 ◇◇◇
 
 そんなわけでやってまいりました。エルダートレントのいる場所まで。
 
「ここを真っ直ぐ進み、あの木が見えるか?」
「うむ」
「あの木の奥に入ると、エルダートレントのテリトリーだ」
「そうか」

 いや、そこで何で斧を構える?
 兜もしっかりと装着しているし……。
 
「行くぞ! オルトロス」

 トリアノンの呼びかけに応じ、オルトロスが力一杯咆哮をあげる。
 ちょ、おま。
 こんなところで、そんな大声出したら……。
 
 ほら、ジャックオーランタンが集まってきてるじゃねえかよ。
 ここはエルダートレントのお膝元なんだぞ。
 なるべく静かに進み、ジャックオーランタンをやり過ごせるだけやり過ごした方がいいに決まってる。
 
「後から行く。頼むぞ。ソウシ」
「分かった」

 嬉々として斧をブンと一振りしたトリアノンはオルトロスと共に駆け出す。
 一番手前にいたジャックオーランタンを斧で真っ二つにしたトリアノン。
 一方でオルトロスも負けていない。
 高く跳躍し、前脚で打ち払うように宙に浮くジャックオーランタンを叩きつけ、地面に転がすと止めとばかりに踏みつける。
 
 も、もういいや。
 この強さならジャックオーランタンが物量で攻めようとも、そうそう崩れないだろ。
 
 俺は俺で進むとするか。
 枝を伝い、エルダートレントの元へ向かう。
 
 植物系モンスター相手に通用するか分からないけど、ステルスと忍び足を発動させておいた。
 後ろからオルトロスとトリアノンの奇声が聞こえてくるが、気にしないことにしてエルダートレントの縄張りに入る。
 
 いたいた。
 エルダートレントが先日見た位置と全く同じところでじっと息を潜めている。
 周囲の大木より若干背が高く、二十メートルには届かないくらいだろうか。
 太い幹には洞が三つあり、目と口のようになっている。鼻にあたる部分はピノキオの鼻のように高く伸びていた。
 枝には葉の代わりに鋭い刃が生えており、あれを振り回されたらなかなか厄介だ。
 一発当たっただけでもおそらく俺の身体がズダボロになることは想像に難くない。
 
 動物学――。
 よし、発動。
 植物ぽいモンスターだから、赤い丸が見えないかもと懸念したけど……バッチリ見える。
 エルダートレントの弱点は、目に見える洞の奥らしい。
 人間なら洞は小さ過ぎて無理だけど、俺の体の大きさなら洞から中に入ることができそうだ。
 といっても、洞の中がどうなっているか分からないし、危険過ぎるよな……。
 ならばと他に弱点が無いか目を凝らすが、見当たらない。
 
 さて、どうする?
 こんな時こそ、冷静に周囲をしっかりと観察しなきゃならねえ。俺がどっかの脳筋と同じことをすれば、一たまりもないからな。
 
 いつもはエルダートレントを護衛するように周囲をふよふよしているジャックオーランタンは……いない。
 不意打ちを喰らわせようとする影に潜むジャックオーランタンもいないな。
 どうやら、エルダートレントはテリトリーのすぐ外の外敵にジャックオーランタンを集中させたようだ。
 ひょっとして、トリアノンはこの状況を作り出すためにあれだけ派手に暴れているのか?
 
 いやいや、まさかあ。
 首を振り、ワザとらしくおどけてみせるが、ただの一人芝居だ……ちょっとだけ虚しい。
  
 でも、こいつはまたとないチャンスだぞ。
 エルダートレント自身もジャックオーランタンを動かすために集中しているのか、俺がいることに気が付いた様子はない。
 
 ――やってやる!
 トリアノンのいる今しかねえ。
 
 あの枝からが良さそうだ。
 エルダートレントに気が付かれないようにゆっくりと音を立てぬよう枝から枝を渡り、目的の枝まで移動する。
 
 枝にぶらーんぶらーんとぶら下がり、勢いをつけ手を離す。
 行くぞ!
 
 枝から斜めに落ちて行く俺の目指す先は――弱点である目にあたる洞の中だ!
 
「よし」

 すぽんと見事に洞の中に入りこむ。
 中は人間の目だと暗いのだろうが、俺にとっては視界良好。
 ガランとした洞の中で、再度動物学を発動。
 足元に赤い丸が見える。
 
 赤い丸の大きさは両の手の平を合わせたくらいしかなく、巨大なモンスターの弱点にしては随分小さいものだった。
 さすがに自分の体内であるからか、エルダートレントは鋭い刃を差し込んで俺を切り裂こうとはして来ない。
 アイテムボックスから槍を取り出し、大きく上に槍を掲げ全体重を乗せ、振り下ろす。
 
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...