異世界に来たらコアラでした。地味に修行をしながら気ままに生きて行こうと思います

うみ

文字の大きさ
19 / 52

19.ついにスペルブックを我が手に(ユーカリ茶用)

しおりを挟む
 一旦店を出て、冒険者ギルドでドロップアイテムを換金してきた。
 コレットには「ドロップアイテムの価値を知りたいから」とか適当に説明したら、特に不審がられることもなかったんだ。
 一番高く売れたのは、ベノムウルフから出た不気味な目玉みたいなので「緋色の宝玉」ってアイテムだった。
 こいつはベノムウルフから出るレアアイテムらしく、ユーカリがドロップする代わりに出たんだよな……当時は憤ったものだが、役に立って結果オーライってところかなあ。
 
 そんなわけで、所持金は40万ゴルダを越えた。
 これだけあればお買い物で所持金不足になることもないだろ。
 
 再び「魔法の総合量販店イーストパイン」へ赴き、今度はコレットの武器を探す。

「どの種類がいいんだろ?」
「持ってみていいですか?」

 テーブルの上に並べた三種類の武器をしげしげと見つめる俺とコレット。
 回復術師が扱う武器種は、六角形の金属で殴る鈍器メイス、錘を振り回すフレイル、唯の細長い棒に見えるスタッフとのことだった。
 とりあえず値段は気にせず三種を集めてみたってわけだ。
 
「スタッフじゃないと、重たくて振れません」

 しゅんとなるコレットだったが、持てる武器があるなら問題ない。
 
「大丈夫。俺は全部持てない」
「コアラさんはどんな武器を使うんですか?」
「槍だよ。戦士用のお店に後で寄りたい」
「案内します!」

 そうだよ。そういや、武器だって街なら購入できるんだった。
 完全に頭から抜け落ちていたぜ……。
 
「値段は気にしなくていい。持ち運びしやすい物を選んで欲しい」
「分かりました」
 
 今回はお着換えとかが無いから、支払いを誤魔化すことができない。
 だけど、武器はまあ直接殴るわけじゃないし何でも構わないだろう。
 むしろ、木登りの邪魔になる方が問題だ。
 
 コレットが選んだのは樫の木でできたスタッフというよりチアガールが使うバトンみたいな短い物だった。
 うん、これなら腰に携えることができるし、良いんじゃないかな。
 お値段は500ゴルダ。
 
「ありがとうございました。このお金はちゃんと稼いで」
「すぐに稼げるさ」
「それじゃあ、武器屋さんに行きますか?」
「いや、ここで見たいものがあるんだ」
「コアラさんが『見たいもの』、ちょっと楽しみです」

 朗らかに笑顔を見せるコレットは自分の装備を見る時以上に楽し気だ。
 彼女とは対照的に俺はとあることを思い出し、拳をギュッと握りしめていた。
 ギリリと歯ぎしりまでしたくなるほどに。
 
 覚えているだろうか?
 魔法を使おうとした時のことを。
 
『スペルブックがありません』と脳内にメッセージが出てぐおおおとなったのも今となっては懐かしい。

 魔法って言葉にときめきを覚えるのは俺だけじゃないはず。
 しかし、使う前段階にまで達してもいなかったのだ。スキルは取得できるくせにスペルブックが無いと魔法の熟練度さえ上げることができないとは。
 コレットのお買い物が先になってしまったけど、魔法関連の店に来たのは元々スペルブックが欲しかったに他ならない。
 目的?
 それは「ホットウォーター」を使えるようになるためだ。
 ホットウォーターがあれば、お湯を沸かすことも水を汲みさえしなくてもユーカリ茶が飲める。コアラ垂涎の魔法なのだぞ。
 
 そんな素敵な野望を心の中に秘め、店員さんに聞いてみる。

「こちらです」

 店員さんに案内されてついて行くと、あるわあるわいろんな本が。
 これが全てスペルブックなんだろうか?
 
 サイズの種類が豊富で、手帳ほどのものからA3サイズのものまで獲り揃えられている。
 デザインは更に種類が多く、アンティーク調のものから可愛らしい花が描かれたもの、無地で一色のシンプルなものまで選びたい放題になっていた。
 
「スペルブックが欲しかったんですか! コアラさん、魔法も使うんですね」
「いや、使ったことはないんだ。これから使えたらいいなって」
「そうなんですか! 意外です。でも、貪欲に強さを求めるのって素敵です」

 「強さは求めていない」なんてことを、コレットのいい笑顔の前で言う事に俺の良心が待ったをかける。

「そういや、コレットは回復術師だったんだよな。スペルブックは持っている?」
 
 誤魔化すように話題を変えて、コレットに問いかけた。

「はい。一応は……魔法が一つしか入ってませんけど……」
「魔法を入れる?」
「はい。スクロールをスペルブックに読ませると、スペルブックに呪文が書き込まれます」
「面白い作りをしているんだな」

 俺はコレット達と違って謎のスキル制だから勝手が違うのかもしれないけど、きっと職業によって使える呪文が異なるのだろう。
 媒体となるスペルブックが同じであることは、俺にとって幸いだ。
 職業によって使用するスペルブックが違っていたらと思うとゾッとする。
 だって、俺の持っている「スキルの魔法」と魔法系職業の使う呪文が一致するとは思えないから……。
 何冊もスペルブックを持って……となる。
 
「いろんな種類のスペルブックがあるけど、何か違いってあるのかな?」
「入る呪文の数が違います。基本、小さいスペルブックほど入る呪文の数が少ないです」
「大きい方がお得なのかな?」
「その分持ち歩きが大変ですし……良し悪しだと思います」

 ふむ……。
 俺は人間に比べてサイズがかなり小さいから、手帳くらいのスペルブックがいいかな。
 ホットウォーターが使えりゃいいし。
 もし沢山の呪文を使うにしても、スペルブックを複数持ち歩けばいい。
 用途によってスペルブックをチェンジすりゃいいだけだからさ。使わないスペルブックはアイテムボックスに収納で楽々持ち運べる。
 
 ん?
 ちょっと疑問が浮かんだ。
 
「コレット。呪文を使う時って、スペルブックを手に持っていないといけないのかな?」
「いえ。スペルブックが体に触れていれば大丈夫です」
「分かった。ありがとう」

 手に持って使うものだとばかり思っていて、もしかしたらと聞いてみたら意外な答えが返ってきた。
 といっても、微妙な回答だな……。アイテムボックスに収納した状態で使えるかどうかは未知数ってところか。
 試してみたらすぐ分かるよな。うん。

「よし、これにする」

 俺が選んだのは、くすんだ赤一色のスペルブックだった。
 横5センチ、縦10センチで厚みが3センチほどで、コアラの手にも収まる。

「一番小さいスペルブックにしたんですね。可愛いです」
「うん。スクロールも見たい」
「はい!」
 
 スクロールはスペルブックコーナーのすぐ隣にあった。
 スクロールは名前の通り羊皮紙で出来た巻物で、縦の長さが三十センチほどでクルクルと巻かれている。
 使い方は簡単で、スクロールに書かれている呪文の名前を使用者が声を出して読み上げるだけとのこと。
 
「ええっと、ホットウォーターだろ、後は……クリエイトウォーター……うーん。ピュリフィケーションでいいか」

 俺の選んだスペルブックは三つまで呪文を登録できるものだったから、とりあえず三つの呪文を選んでおいた。
 目的のホットウォーター、水を作り出すクリエイトウォーター、服やコップを綺麗にするピュリフィケーション、とどれも実用性が高い。

「攻撃魔法とか防御系の魔法とかを取得するのもだと思ってました」
「いずれ使うかもしれないけど、今はまだいいかな」
「分かりました! どれも便利魔法だと思います」
「おう!」

 目的のスペルブックとホットウォーターを手に入れた俺は、意気揚々と店を後にしたのだった。

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...