異世界に来たらコアラでした。地味に修行をしながら気ままに生きて行こうと思います

うみ

文字の大きさ
20 / 52

20.魔除けはやべえ

しおりを挟む
「クリエイトホットウォーター」
『スキルの使用に失敗しました』

 え、ええい。もう一度。
 
「クリエイトホットウォーター」
『スキルの使用に失敗しました』

 まだまだああ。
 
「クリエイトホットウォーター」
『スキルの使用に失敗しました』

 ……ですよねえ。
 何だか懐かしい感じだ。
 ステルスだってずううううっと『スキルの使用に失敗しました』ってメッセージが脳内に流れ続けたものな。
 スキルを使うには投げ出さず、黙々と使い続けることが肝要だ。
 
「クリエイトホットウォーター」
『スキルの使用に失敗しました』
「あ、あのお」
「クリエイトホットウォーター」
『スキルの使用に失敗しました』
「あ、あのお。コアラさん」
「ん?」

 途中で誰かの声が挟まっていると思ったら、コレットか。

「お湯が沸きましたよ?」
「お、おお。そうか、ありがとう」

 コップを差し出すと、コレットがお鍋からお湯をコップに注いでくれる。
 ユーカリ茶をコップに淹れて、かき混ぜ……すぐに飲んではいけない。
 1分32秒待つのだ。
 
 ごきゅごきゅ、もしゃ。
 うめえええええ!
 
 やっぱユーカリ茶は最高だぜ。

「コアラさん、ご飯は本当に作らなくていいんですか?」

 ユーカリ茶の香りに相変わらず顔をしかめているコレットが、問いかけてきた。
 
「うん、俺はユーカリの葉だけでいい。いや、ユーカリの葉がいいんだ」
「そ、そうですか。料理なら私、人並みには」
「すまんな。コレットは俺に気にせず食べてくれよ」
「は、はい」

 すまん、コレット。貴重なスキルスロットのうちの一つを占めている料理、俺にとって本当に何の役にも立たないんだ。
 だから、せめておいしいものを食べてくれよな。
 心の中で謝罪しつつ、料理をはじめたコレットをなが……もしゃ。
 ユーカリの葉うめええ。
 さすがにスキルを持っているだけあって、手つきがよ……もしゃ。
 もしゃ、もしゃ、もしゃ。
 
 ……っは。つい、ユーカリの葉の方に夢中になってしまった。
 そうそう、俺とコレットは今、森の中にいる。
 スペルブックを購入した後、槍を見に行ったり、生活必需品を購入したり……と買い物を続けたんだ。
 スキルを使うためのツールもついでにと思ったんだけど、何を買えばいいのかてんでわからなかった。適当に買ってはきたんだけど、まだ使えるか試していない。
 一晩たっぷりと寝てから森に来たので、快調そのもの。森で再び生活するに何ら問題がないぜ。
 
 俺だけならな。
 彼女が森に……いや、俺の生活スタイルとうまくすり合わせできるようになるまでは、まともに狩りに出ることもできないだろう。
 だが、俺には生きるためにユーカリの葉が必要だ。
 むやみにユーカリの葉のストックを減らしたくはない。一日に食べる分だけでも稼ぎにいきたいところなんだよなあ。
 そうなると、彼女一人を取り残すことになってしまう。
 
 どうしたものか、と悩んでいる間にもコレットはお鍋で煮込んだ肉と野菜のスープをハフハフしながら口にし始ている。

「森でキャンプする時は、どうしてたんだ?」
「はふ。あつつ」

 俺の問いかけに応えようとしたコレットが急いで食べ物を飲み込もうとするものだから、むせてしまった。

「ゆっくり食べながらで。森はそれなりにモンスターが出る」
「そうですね。魔除けのお香を焚くか、罠を用意するか、どきどきしながら焚火を絶やさないようにするか……でしょうか」
「最後は余り意味が無い気がするけど……」
「明るくなるので、相手の姿は見えますよ?」
「そうか、そうだったな」

 人間は夜目が利かない。
 暗いと途端に動きが悪くなる。まあ、見えないんだから当然か。
 
「コアラさんは眠る時、どのようなことを?」
「俺は、木の上で寝る。大きなモンスターは登ってこない」
「そ、それは盲点でした!」

 お椀を両手で掴んだまま、感心したようにコクコクと頷くコレット。
 罠はともかく、魔除けの香とやらがどれだけ効果があるのか不明だ。強いモンスター相手なら効果が無いと考えておいた方がいいだろう。
 よし、方針はだいたい決まった。
 あともう一つ。
 
「夜でも昼間のように見えるようになる魔法とかアイテムってあるのかな?」
「あります。ナイトサイトの効果がある魔道具か、同じ名前の魔法です」
「よし、じゃあ、来たところ悪いが一旦街へ戻ろうか」
「え、えええ?」
「準備が足らなかった。コレットは魔除けの香なんて持ってないだろ?」
「は、はい」
「すまんな……。抜けてて」
「いえ、コアラさんは樹上ですし。わたしの為に街へ戻ってくださるのですよね」
「ついでだ、ついで」
「えへへ」

 な、なんだよ。その微笑みは。
 「ついで」だと言ったのが聞こえてないのか。全く。
 
 ◇◇◇
 
 そんなわけで街に戻り、再び森へとやって参りました。

「ここで、木登りの練習をしていてくれ。俺はユーカリの葉を集めてくる」
「はい。頑張ります!」

 さっそく買ってきた魔除けの香を焚いて……。
 ぐ、ぐううあああ。
 なんてえ臭いだ。
 ツーンとする。とってもつうううううんってするう。
 玉ねぎを切った時にくるあの感じに近い。
 
「いい香りです。お香っていいですよね」

 コレットが目を細め、そんなことをのたまう。
 
「こ、これが?」
「ビャクダンって香りに近いらしいですよ」
「そ、そうか……」

 こんなもんがビャクダンなわけねえだろ。や、やべえ。目に涙がにじんできた。

「適当に食べて、早めに寝てくれ。真夜中に起こすからな」
「はい!」

 コレットには俺が夜に活動することを告げている。
 彼女にも、早めに夜型生活に慣れて行って欲しいからな。
 今はまだ昼間に活動してもらってもいい。モンスターを彼女と共に狩るのは、木登りができるようになってからだ。
 
「じゃあ、行ってくる」
「はい。お気をつけて!」

 コレットに手を振り、彼女が登ろうとしている木をスルスルと登って行く。
 さあて、ユーカリの葉を集めるとしよう。
 ユーカリの葉を出すモンスターは、それなりに強い。
 こいつら以上のモンスター……もしエルダートレント並みのモンスターがいたら、場所を変えないとな……。
 他は放置でいい。笹を出すモンスターくらいなら、魔除けの香で大丈夫だろ。
 
 コレットの安全を守りつつ、ユーカリの葉も獲得できる。しばらくは、こんな感じで行くかなあ。
 お、さっそく一体見つけた。
 一本角の蛇か。ユーカリ三枚ゲットだぜ。
 
 慣れた動作で枝から枝を渡り、ぐっすり休んでいる蛇に当たりをつける。
 枝から飛び降り、蛇の頭をぐさあっと槍で突きさした俺は、無事ユーカリの葉をゲットしたのだった。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...