異世界に来たらコアラでした。地味に修行をしながら気ままに生きて行こうと思います

うみ

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34.キャンプスキル

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「キャンプスキルってあっただろ」
「はい」
「暇を見つけて鍛えていたんだよ。そろそろ拠点を作れないかなあと思って」
「とっても素敵です! ぜひぜひ拠点を作りましょう!」
「お、おう……」
「体を伸ばして眠ることができるようになるんですね! パンダさんとコアラさんに挟まれながら……素敵過ぎます!」

 な、なんかコレットがとっても盛り上がっているんだけど……。
 俺としても魔除けの香のつうううんとする臭いに顔をしかめないで済むからな。
 何より、キャンプスキルで作った拠点は安全だ。安心して眠ることができる拠点は是非とも欲しい。
 
 ちまちま鍛えたキャンプスキルの熟練度はまだ12.4だ。
 これでどれだけの範囲を安全地帯にできるかは分からない。

「モンスターを狩るついでに、拠点候補を探そうか」
「はい!」

 今から候補地を探すのも悪くない。夢が広がるしさ。
 新居を探す時って何だかワクワクしないか? 実際に住むわけじゃあないけど、内覧とか行くと楽しい。
 そうと決まれば、しばらくはキャンプスキルだけに集中して上げるとするかあ。
 ホットウォーターが使える魔法の熟練度も捨てがたいが、コレットがいつもお湯を沸かしてくれるし!
 
「コアラさんはどんなお家を作りたいんですか?」
「んー。そうだなあ……理想はユーカリの木と葉でできた家だが」
「そ、それはちょっと……」
「残念ながら、ユーカリの木はこの森にないんだよな。どこかに自生しているんだろうか?」
「ユーカリも笹も『魔の森』のドロップ品ですが、コーデックスに聞いてみます」
「お、おおお!」

 こいつは盲点だった。
 コーデックスは広く浅くではあるがあらゆる分野の知識を持っている。
 それはそうと、この森の名前、ベタ過ぎないか? 
 街から見たら、モンスターが出る森は確かに魔物の住む森……魔の森だけどさ。
 街の名前にアルル・ド・モンジューって名前がついてんだから、アルルの森とかにしろよ。
 
「コアラさん」
「お、おう」

 ゴクリと喉を鳴らし、コレットの言葉を待つ。
 
「ユーカリの木は少なくとも帝国内に自生していません」
「そ、そうか……」
「『魔の森』以外にもモンスターが多数生息する地域はあるんですが、そこでも草木がドロップ品として獲得できます」
「ほ、ほお?」
「しかしですね。ドロップする草木は、どこにも自生していないんですよ」
「そいつは不思議な話だな……」
「はい。何故なのかは分かりませんが」

 コーデックスの情報だとここまでか。
 ドロップ品と植物の関連性は不明。しかし、モンスターは延々とリポップするはずだから、ドロップ品の算出も無限。
 本当にそうなんだろうか? ちょっと不安になってくる。
 世のことわりとして、無限の生産なんてありえないんだよな。何かが循環していると見るのが普通だ。
 なら、一体何が循環しモンスターをリポップさせているのだろう?
 もしゃ……。
 考えても仕方ないか。
 幸いユーカリの葉はドロップし続けるから、俺の食糧が不足することはない。
 今はそれだけでいい……むしゃ。
 
「うーん。謎だらけだなあ……」

 ボソリと感想を漏らすと、コレットが目を輝かせて膝立ちになる。
 
「この世界は不思議が一杯です! 冒険者になれば、一つでも謎の真相が分かるかもしれません!」
「そうだな。うん。冒険者はいろんなところを探索し、秘宝をゲットすべく日夜活動しているんだっけ?」
「誰もが秘宝に憧れますが、多くの冒険者は日銭を稼ぐためにクエストを繰り返していますね……」
「……ま、まあ。生きて行くにはいつだって世知辛いもんだ」
「で、ですね……でも、わたし、今はとっても充実しているんです。強くなってコアラさんと一緒にこうしてモンスターを倒して」
「そ、そっか。お、俺も、まあ……その、なんだ……コレットがいてくれて助かってるよ」
「え? 何ですか? 後半声が急に小さくなって聞こえませんでした」

 だああああ。迫って来るんじゃねえ。
 あんなこっ恥ずかしいセリフなんて、二度も言えるか!
 
「な、何でもない」
「そ、そうですか」
「あー、その、あのだな。えっと。そうだ。モンスターの数が増えたと思わないか?」
「わたしは来たばかりですし……」

 あからさまに話題を変えるも、コレットはちゃんと答えを返してくれる。
『パンダは笹が食べたいようです』
 ああああ。もう。
 ぱらぱらーっと笹を落とす。
 
「カボチャはともかく、以前はアンデッドになんて会うことも無かったんだよ」
「ヘッドレスナイトはレベル70、ワイトはレベル65……ベノムウルフよりレベルが高いんです」
「んー。ここはアンデッドの森じゃあないよな?」
「はい。魔獣系と植物系のモンスターが多いエリアのはずです」
「ひょっとして」
「何か思い当たることがあるんですか!?」

 だから、近い。近いって。
 そして、手を伸ばしてさりげなく抱っこしようしていることは分かっているんだぞ。
 ともあれ。
 コレットの口ぶりからするに、ベノムウルフはそれなりに森の中では強い部類なんだろうな。
 植物系のモンスターについては、俺が余り戦っていないことで注目はしていなかったが、いるにはいる。
 あいつら、起きているか寝ているか分からないんだよなあ。
 
 おっと。
 コレットが俺の言葉を待っている。
 
「エルダートレントっていうエリアボス? だっけを仕留めたんだよ」
「え、えええええ! エリアボスですか!」
「うん。結構手強かった。俺一人じゃあ無理だったと思う」
「ちょ、ちょっと待ってください」

 コレットが両目を瞑り、すぐに目を開く。いや、見開く。
 
「エルダートレント……レベル92……」
「だああ。分かったから揺するな」

 俺の肩を掴んだコレットが思いっきり腕を前後に動かすものだから、首がカックンカックンしてしまうじゃないか。

「そのエルダートレントの奴がさ。カボチャを使ってモンスターを狩っていたんだよな」
「な、なるほど。それでモンスターが間引きされていたんでしょうか」
「そうなんじゃないのかなあって。エルダートレントもリポップするんだよな?」
「は、はい。エリアボスであってもモンスターならリポップします。ですが……少しお待ちを」
「うん」
「えっと、少なくとも二、三年はリポップしないみたいです」
「ほほう」

 エルダートレントを倒したことに後悔はない。
 カボチャの奴らがかなり邪魔だったからな。あいつらはユーカリを落とすモンスター達を次々と貪っていく。
 奴らの食い散らかした後に、ユーカリの葉が残っている場合もあるにはあったが……大概の場合、ユーカリの葉まで見るも無残な形になっていることが殆どだった。
 俺の、俺のユーカリの葉を!
 ……。
 もう済んだことに憤っても仕方ない。
 俺は大人なんだ……ユーカリ。

「スキルのことや家、モンスターと情報量が多すぎて整理できないな」
「お忘れになりましたら、聞いてください。すぐにコーデックスに聞きますので」
「ありがとう。今日のところはそろそろ休むか」
「はい!」

 さしあたり、キャンプスキルを鍛えることだけ頭に入れておこう。
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