古代兵器の少女チハルはおっさんに拾われ、人間のフリをする

うみ

文字の大きさ
1 / 44

1.出会い

しおりを挟む
 古代の遺物アーティファクト――
 古代の遺跡に眠る物。人々の生活に欠かせぬ物。その種類は多岐に渡り、手の平サイズから運ぶことさえ不可能な巨大な物まで存在する。
 人々は古代の遺物アーティファクトを求め、使う。求める者の名を探索者という。男は探索者と呼ばれる者の端くれであった。
 彼はぼさぼさの黒髪に無精ひげを生やした大柄な男で、歳の頃は四十代半ばといったところだろうか。ボリボリと頭を掻きながら周囲に何か目ぼしい物はないか目を凝らしている。
 
 彼は街から二日ほどの距離にあるとある古代の遺跡を訪れていた。
 古代の遺跡は世界中に散らばっており、高い塔や迷宮を始め、変わったところでは海底にまであるという。
 では、男のいるこの遺跡はというと……探索者にとっては良く知られた遺跡であり、多くの足跡が残っている。しかし、この遺跡は「誰もが知っているが実は誰も知らない」と探索者達に言われているいわくつきの遺跡なのだ。
 というのは、この遺跡……非常に広大なのである。なんと遺跡の端から端まで歩くには朝から歩き始めたとしても日が暮れるまでかかるのだ。
 
 さすがに表層には残っていないか……。しばらく遺跡の中を探索した男は息を吐き肩を竦める。
 いくら広いとはいえ、訪れた探索者は星の数ほどもいたものだから、目立つ位置には何も残っていない。
 彼は首を軽く振り、顎へ手をやり無精ひげを撫でるやドカリとその場で腰を落とす。そして、浮かない顔で腰から吊り下げたズタ袋をゴソゴソとめんどくさそうに漁った。
 袋から小型のランタンを取り出すと、地面に置き更にズダ袋へ手を入れる男。
 
 たしかあったはずだが……。お、あったあった。彼は手の感触だけで探り当て、目的の物を袋から出す。
 彼の手に握られていたのは、指ほどの大きさがある小さな六角形の濁った赤色の石だった。
 
「よし、確かに赤色だ。まだ使える」

 石の色を確認した男は独白し、ランタンの蓋を開けると中の窪みに赤色の石をはめ込んだ。すると、赤い石が光り出す。
 この赤い石こそ、最も代表的な古代の遺物アーティファクトで、大量に見つかるがいくらでも買い取ってくれる優良商品であり、人々の生活の基盤になっている一品である。
 石は「魔石」と呼ばれていて、魔石に蓄えられたマナを使うことで様々な用途に利用できる大変便利な古代の遺物アーティファクトなのだから……。魔石を利用した古代の遺物アーティファクトも多数あるし、人の手によって作られたこのランタンのような商品も街で販売されている。
 
 男は億劫だと言わんばかりによっこらせっと立ち上がると、ランタンを持ち歩き出す。
 しばらく進み、草で覆われた区画まで来た男は草をかき分け階段を下って行く。この階段は遺跡の地下へと続いているのだ。
 表層部は荒らされ尽くされているが、地下はまだまだ古代の遺物アーティファクトが残っている。もっとも、地下が一体何階まであるのか誰も知らないのだが……。
 
 ◆◆◆
 
――おかしい。
 男は違和感を覚えていた。彼は遺跡の地下まで来た経験が一度や二度ではない。それ故、地下への入り口から多少の範囲の構造は把握している。
 この通路は右に折れる以外道が無かったはず……しかし、今彼の目の前にはT字路になっているのだ。見たことのない左へ進む道が彼の目に映っていた。
 進むべきか、それとも戻るべきか。男は迷うがすぐに行くべきだと判断を下す。これまで見たことのない道ならば、誰も到達したことがないはずだ。それならば、古代の遺物アーティファクトが眠っている可能性は高い。
 もちろん、未踏というのとは、どんな危険が潜んでいるのか不明ではあるが……。
 だが、男はそれでいいと思っている。自身の手に余る何かがこの先にあったとして、ここで朽ちるのも悪くはない。俺はただ余生を過ごしているだけなのだから……早く終わろうが遅く終わろうが変わりはないと。
 
 益体の無いことを考えてしまったことで自棄になった男は、それを振り払うように首を振りランタンを掲げ左の道を進んでいく。
 しかし、男の期待とは裏腹に数分立たぬうちに通路は行き止まりになっていた。
 
「何かあるはずだ……」

 期待をあっさりと裏切られてしまった男はつい独白する。彼の期待は楽をして古代の遺物アーティファクトを得ることに過ぎない。
 他の探索者のように未知の物に対する期待など、この男は欠片も持ち合わせていないのだ……。
 それでも彼は諦めきれず、行き止まりを隅々まで照らす。
 
――人間の左腕か?
 行き止まりの隅に転がっている白く細い腕。これほど埃っぽい場所に置かれているというのに、その腕には塵一つ降り積もってはおらず、白磁のように滑らかで汚れ一つついていなかった。
 本来ならグロテスクささえ感じる人間の腕であったのだが、男は磨かれた壺のように綺麗な状態を保っているそれへ神々しささえ感じ手に取る。
 肩口から切り取られた腕のようだが……。切り口をランタンの灯りで照らしてみる。
 
 これは人間の腕ではない。男はすぐに気が付く。
 何故なら切り口には血管や神経は確認できず、他の部分と同じように滑らかな肌色に覆われていたからだ。
 
「これは……人形か? いや、それにしては精巧過ぎる……これは、アーティファクトか!」
 
 古代の遺物アーティファクトだとして、一体何に使うのだろう。義手? それにしては限定的だと男は思う。というのは、腕は子供の腕ほどの大きさしかなかったからだ。
 男は眉間に皺をよせつぶさに腕を再び観察しようとした時、不意に浮遊感を感じる。
 落とし穴か! 男がそう思った時には既に遅く、彼は真っ暗闇へ吸い込まれていった。行き先は奈落か、それとも――。
 
 ◆◆◆
 
 自由落下しながらも、男は冷静に数を数えていた。自身に来る衝撃がいかほどか知るためだ。
 しかし、数が三十を超える頃、男は数えるのをやめた。理由は至極単純で、これ以上の高さから落下すると助からないためである。
 恨み言を言うわけでもなく、後悔や死の恐怖に震えるでもなく、男の胸にあったのは「達観」。これで終わる。いや終われると言えばいいのか。
 男が自嘲した時、今度は逆方向の浮遊感を感じる。
 そのままふわりと地面に着地した男は、不可思議な現象に顔をしかめた。
 
 次に男が感じたのは眩しさ。地下の奥深くだというのに、この場所は昼間のように明るい。目を光で焼かれながらも周囲を見渡す男。
 男が落ちて来た場所は、天井が三十メートルほどと高く、直径二十メートル程度の円形の台座がある空間だった。
 円形の台座には複雑な文様が描かれており、中央に寝ころぶ人? の姿が見える。
 
 男は光に導かれる虫のように、台座に脚をかけた。

「ワタシの腕を持ってきてくれたのですか?」

 声。声がする。
 見ると、やはり先ほど寝ころんでいたのは人間だったようだ。人間は十二歳くらいに見える少女だった。
 金色の艶やかな長髪に、幼さの残る大きな目、愛らしい口。無表情に小首を傾げる様子は精巧な人形を彷彿とさせる。
 
「お前さんもここに落ちて来たのか?」
 
 男は問いかけるも、少女はそれに首を横に振るだけだった。
 彼の問いに「はい、いいえ」どちらとも取れる反応を見せた少女へ男は訝しむも言葉を続ける。

「腕? 腕とはこれのことか?」
「はい。よろしいでしょうか?」

 何がよろしいのか? と男は逡巡するが、少女の求めに応じて彼女へ向け腕を掲げた。
 驚くことの連続で男はよく見ていなかったが、改めて少女を眺めると確かに彼女に左肩から先に腕はついていない。さらに彼女の左目の部分には眼球がはまっておらずぽっかりと黒い虚ろが金糸のような髪から見え隠れしている。
 腕と目の違和感が大きすぎて目立たなかったが、彼女の着ている服もおよそ外へ出るような服装をしているとは男に思えなかった。
 一言でいうと、彼女の服は寝間着のようだったからだ。加えて言うなら靴さえ履いていなかったのだから……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...