目が覚めたら誰もいねええ!?残された第四王子の俺は処刑エンドをひっくり返し、内政無双で成り上がる。戻って来てももう遅いよ?

うみ

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5.絶対バレない脱出方法

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 九曜は喋ることが得意ではない。ボソボソと呟くようにしか言葉を紡ぐことができないのだ。
 だけど、全く持って問題ない。彼と桔梗には「ひらがな」と「カタカナ」を教えている。
 もちろん、ミレニア王国で使われている文字体系と異なるから、万が一誰かに見られたとしても何が書いてあるのか読むことができない。
 幸い、ひらがなとカタカナでミレニア国の発音を筆記することができた。
 彼から受け取ったメモを読み、ニヤリと口端をあげる。
 
「ありがとう。九曜。一旦待機で」
「……了」

 九曜がすっと姿を消す。
 入れ替わるようにして、ディアナが食事を運んできてくれた。
 
 ◇◇◇
 
「ちょっとこれは、やりすぎじゃないだろうか……」
「愛らし過ぎて直視すると倒れそうです」

 鏡に映る美少女が困った顔で首を傾げる。
 ストレートの長い銀髪に同じ色の細い眉。ぱっちりとした大きな青色の目に長いまつ毛。
 ぷるんとした唇に透き通るような白い肌に引かれたチークの赤が映える。
 我ながら、どこからどう見ても女子にしか見えない。
 綺麗系じゃあなくて可愛らしい系の……女ぽい顔つきでさんざ苦労してきたわけだが、今回はこれを逆手に取ろうとしたわけだ。
 この出来栄えなら絶対に「王子」が見つかることはないな。でも、とても微妙な気持ち。

 九曜の情報によると、いくら早くてもヴィスコンティ伯の到着は明後日の早朝になるとのこと。
 そんなわけで、明日の朝に王宮から脱出することにした。ギリギリまで粘ってもよかったのだけど、早ければ早いに越したことはない。
 今日のところはこのまま王宮で寝て、英気を養うと共にしっかりと準備を整えようとなったのだった。
 そこで、変装の練習となったわけなんだけど……。 

「いやでも、これなら男装の麗人って感じでいけるんじゃないか」
「嫌です……似合いません……い、いえ。そうではなく。違和感が出るとそこから噂になり正体が分かる、なんてことになりかねません」
「確かに。ここまで見た目があれだったら、完全に女装してしまうしかないか……」
「服でしたらいろいろ取り揃えております!」
「ディアナの服だよな」
「イル様のものとお考え頂ければ、と」

 いやいや。ディアナのだよね。
 そんな彼女だが、恥ずかしそうに頬を染めうつむいている。
 何となく察してしまう自分が嫌だ。
 
「ディアナ。下着は必要ないからな」
「は、はい」

 図星だった。

「このカツラ。元の俺の髪色に合わせる必要はなかったんじゃ? 銀色は目立つかもしれない」
「いえ。元と違う髪色の方が目立つと思います。眉の色、瞳の色と異なることになりますので」
「確かに。このままの方がいいか」
「はい。銀色は珍しくはありますが、百人に二人くらいはいます。ですので、『銀髪』だけでイル様を特定することはできません」
「その情報は助かる。自分の髪色がどれくらい珍しいとかは盲点だった」

 ディアナの着眼点は俺にはないものだ。髪色というのは種族により、最も多い色が異なる。
 ミレニア王国に一番多い種族は人間で、次に獣人、ドワーフ、エルフと続く。
 獣人は一括りに獣人といっても犬耳であったり猫耳であったりと人間そっくりな顔に獣耳と尻尾を備えた者や、頭が動物の者まで様々だ。
 細分化すると珍しいエルフよりそれぞれは少ないかもしれない。ちゃんと調べていないけど、犬耳と猫耳が主要種族なんじゃないかな……。
 多種族であることは地球と決定的に違う点だ。
 もう一つ、ファンタジーな世界にありがちなことなのだけど、この世界にはモンスターがいる。
 多種多様で中には人間並みの知能を持つものだっているほど。ここら辺も現代知識による内政チートを妨げる要因になる。
 俺は現代知識そのものがそれほど強みになるとは考えていない。むしろ、「現代知識によるとこうだ」と決めつけてかかると危険だとさえ思っている。
 理由は、地球とこの世界では環境が違い過ぎるからである。
 
「どの服になさいますか?」
「スカートか……どれがどれやら分からん。任せる」
「はい!」

 ノリノリなディアナに全てを任せ、着替えることになった。
 いやちょっとこれ、丈が短くないか。余り体を見せると男だと分かってしまうんじゃ。
 不安を述べる俺に対しディアナは「むしろ見せてしまう方がいいのでは」とのことだった。
 この辺の感覚は俺にとって全くの未知の世界なので、彼女に任せるしかない。
 桔梗に聞いてもいいんだけど、まだ戻って来ていないからな。
 
 白のブラウスに赤い紐ネクタイ。腰上まで覆うタイプのスラットした黒のスカートを着てみることになった。
 スカートの方は腰から上の部分にスニーカーのように紐を通して縛るようになっていて、中々に複雑だ。
 不器用な俺にはちとつらい。ディアナに手伝ってもらって縛り、上から紺色の太ももくらいまであるコートを羽織る。
 
「やっぱり丈が短くないかなこれ」
「いえ。これくらいです」

 着てみたら思った以上に丈が短い。膝上十センチ以上あるんじゃないかこれ。
 スースーする……。
 その分コートが長いから補えってことかな。できればハイソックスを所望したいところ。
 そのままでも元から毛が生えてないから剃る必要もないんだけど、冷えそうでさ。
 でも、ま、いいか。
 満足そうにしているディアナを見て、思い直す俺であった。
 
 ◇◇◇
 
「ふう。疲れた……。この調子でちゃんとやっていけるのかな俺……」

 そのままの格好で椅子に座り大きく息を吐く。
 時間も時間なので、ディアナは夕食の準備に別室へ向かった。
 
「そろそろ、桔梗が戻って来てもいい頃なんだけど」
「戻っております」

 音もなくすとんと隣に現れる桔梗にもはや驚かない。
 気配を感じさせないのはいつものこと。突然目の前に出現して鼻をつままれたとしても、「お、おう」と自然に返すことができるほどだ。

「戻ってきた印が見えなかったからさ」
「恥ずかしながら、迷っておりました」
「ん?」
「気配はイル様のもので間違いないのですが、お姿が余りに可憐で」
「あ。一見したところ、俺だって分からないくらい変装できているかな?」
「完璧で完全です」

 声色こそ平坦だけど、同じ意味合いの言葉を繰り返しているところから桔梗の混乱ぶりが伺える。
 ずっと俺のことを見ている彼女がこうなのだから、この格好ならばバレることがなさそうだな。
 
「そうだ。食事はもう食べたのか?」
「いえ」
「だったら一緒に食べよう。ディアナが作ってくれているから。九曜。君も一緒に」

 天井に向け呼びかけると、九曜も姿を現した。
 三人で食事をとるなんて久しぶりのことだ。
 これから始まる過酷な旅路の前に、せめてひと時でも安穏とした時間を過ごしたい。
 俺の我がままに二人とも付き合わせてしまってすまん。心の中で謝罪した時、コンコンと扉を叩く音がした。
 
 もう一人いたことに驚くディアナに九曜のことを紹介し、彼女も誘って四人で楽しい食事の時間を過ごす。
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