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5.口が滑った!
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「静まりなさい!」
ざわついた群衆につい俺は口を出してしまった。彼我の差が五倍? 防衛戦においてベリサリウスがどれだけの戦力差を覆して来たか知らないんだろう彼らは。
兵の力が劣る? そんなことも彼にとっては些細なことだ。こと戦争に関して言えば、ベリサリウスがいる限りどうとでもなると楽観していた。
何故落胆する? 君たちの前には彼がいるではないか。彼らのざわめきに落胆してしまった俺はつい我慢できなかった......つい口に出してしまったことをすぐに後悔したんだが......
目立つところじゃないだろ! 俺。
俺の言葉に群衆全員が俺を注目する。ああ、やっぱり目立ってしまった。口は災いの元。一瞬の気の迷いで発言するものじゃない......。案の定「誰だ? こいつ」と全員が思っていることだろう。
「おお、プロコピウスよ。さすがの豪胆さ。五倍程度の戦力差でうろたえるなと」
ベリサリウスが莞爾(かんじ)として笑い、俺を称える。
「然りにございます」
芝居がかった言葉で俺は応じる。こうなってしまっては雰囲気が大事だ。演技して乗り切るんだ!
ベリサリウスは立ち上がり、周囲を見渡す。
「皆よ。たかが百ではないか! 勇壮なる我々の敵ではない! 恐れることは何も無い!」
一度言葉を切り、ベリサリウスは続ける。
「蹂躙してやろうではないか! 奴らに後悔させてやろう。我々を甘く見たことを。我々はウサギではない、虎なのだと。奴らの命をもって分からせてやろうではないか!」
一瞬静まり返る群衆。
――たった一拍後――大歓声に変わる!
しかし戦局は思いもよらぬ方向へ流転するのだった。
◇◇◇◇◇
「先ほどは痺れました!」
リザードマンが来るまでの僅かな時間、それぞれが休息に当たることになったので、そのまま広場に座っていると、先ほど伝令を行った手が翼の少女が何やら感動した様子で俺の元へやって来た。
「ええと、君は確か」
「ティンです。プロコピウスさま」
一度聞いただけで、俺の名前を憶えているとは。しかも俺の名前が出たのは、ベリサリウスの言葉の最中だけだ。だからこそ彼女が名前を憶えていたことに驚いたのだ。
「ティンさん、俺は何もしてないんだけど」
「いえいえ、何をおっしゃいますかー。ざわめく戦士たちに一括! 静まりなさい! くうう。かっこいいじゃないですかー」
「戦士たちを奮い立たせたのはベリサリウス様ですよ」
「ベリサリウス様はもちろんかっこいいことには違いないんですけど! でもでも、ベリサリウス様がいるのに、ざわついた戦士たちにプロコピウス様の一言!」
なんか少し面倒な奴に捕まったのかもしれない。
要はベリサリウスがいるのにざわついた半信半疑の戦士たちに比べ、それをたしなめた俺のベリサリウスへの信頼感が素敵ー! って言ってるのだろう。たぶん。
「そうだ。プロコピウスはようやく出会えた旧友。あの程度の戦力差、動じることもあるまいよ」
その言い方は少し違う気がする。まるで俺がたった五倍に何を騒いでいる。と鼻で笑ったようじゃないか! と声の主を見てみると、やはりベリサリウス!
頼むから俺のハードルを上げないでほしいんだ......
「あわわ。ベリサリウス様!」
ベリサリウスを見るとティンはゆでだこのように真っ赤になって引っ込んでいってしまった。これはエリスさんと違って、平社員の前に突如カリスマ社長が出てきたから、恥ずかしくて去って行ったとかそんなところだろうか。
「ベリサリウス様、あの少女は?」
「彼女はティンというハービー族の者になる。この村唯一の空を飛べる者なのだ」
「空を飛べるのは大きなアドバンテージですね」
「ああ、我らの帝国に彼女がいたならば、戦況は変わっていただろう」
航空機が最初開発された時、目的は偵察だった。空を飛ぶ飛行機は地上からとは比べものにならないほど、情報を集めることができたからだ。航空機の登場により戦争のありようが変わってしまった。
空から偵察するということはそれほどインパクトのあることなんだ。
時代が下ると航空機から攻撃が可能となり、要塞のありようも変化する。
この世界では空を飛ぶ種族や先ほどの飛龍のような怪物がいるとなると、戦いの在り方はベリサリウスが生きた時代とは異なっているだろう。
「そうですね。空から攻撃してくる先ほどの飛龍のような怪物もいるわけですし」
「さすがプロコピウスだな。空からに目をつけるとは」
すでにベリサリウスも目をつけているだろう。彼はこれまでの軍隊のありように固執しない。常に有効な新戦術を練っているようだ。過去もこれからも。
「さて、そろそろ風が吹いてきた。門へ向かおうぞ。プロコピウス」
「了解しました」
いよいよ来たか。リザードマン達が。
◇◇◇◇◇
戦いは意外なことに、リザードマン達は攻勢を仕掛けて来ず、代わりに彼らの伝令がやって来る。彼らの望みは一騎打ちだった。
一騎打ちで白黒つけようというわけだ。勝てると思っているのか? それともこちらの力をはかりたいのか?
「ベリサリウス様。族長なる者の命奪われませんよう」
「ほう。お前が言うのならば、そうしよう。任せておけ」
ベリサリウスは俺の意図を推し量ることもせず。俺の願いにあっさりと頷くのだった。政治的な駆け引きが絡んでいるのだろうと思ったのだろうか。
事実そうだ。わざわざ一騎打ちを仕掛けて来るのには何か意図があるはずだ。リザードマン達からすれば、ベリサリウスという規格外の化け物を知るわけがないから、五倍の兵力で攻めると勝てると思って当然だ。
そこを一騎打ち。一騎打ちは人的被害が最も少ない決着方法に思える。リザードマン達は人的被害を出すつもりはないということか。ならば、彼らが仕掛けてきたのは単に略奪や侵略が目的ではないということだ。
彼らが持っている情報は、飛龍を撃退した強者がこの村にいるくらいのものだろう。まさかベリサリウス一人で撃ち殺してしまったとは思ってはいないだろうが。
俺が思案に暮れていると、ベリサリウスと大柄なリザードマンが対峙していた。
族長と呼ばれるリザードマンは体格が規格外だ。リザードマンは人間に比べて長身ではあるが、族長の身長は二メートル五十センチほどはありそうだ。
ベリサリウスと並ぶとその大きさが際立って見える。ベリサリウスも人間としては大柄ではあるが、この族長と並ぶと大人と子供のようだ。
「この地に出現した人間の勇者とは、お前のことか?」
族長の枯れた声にベリサリウスは、「いかにも」と答える。
「お前の力量。確かめさせてもらうぞ」
族長は腰から長剣を引き抜き構える。ベリサリウスも腰から剣を抜く。
族長の剣は両手で持つ長剣。それに対するはリーチの短い片手剣。身長差も相まってリーチの差は一メートル程度あるだろう。
一歩前に踏み出し、気合の声と共に族長は長剣を振り下ろすが、ベリサリウスは体を反らすことであっさりと回避する。
続けざまに族長は二度ほど斬りつけるが、俺の目から見ても戦いの趨勢は明らかだった。
確かに族長はベリサリウスを凌ぐ膂力(りょりょく)とリーチを持つだろう。しかしそれだけだ。技量が全く無い。およそ剣を扱う者の動きとは思えないほど稚拙で力任せに剣を振るうのみだ。
リザードマン達に体系的に学べる剣術が無いのだろう。我流のみでは長年蓄積された経験がある剣術には適わない。ごく稀に生まれ持った才覚と幾多の戦いを経て、我流が剣術に勝つこともあるだろう。
しかし、族長にはそれがなかった。
数度族長の剣を凌いだベリサリウスは、あっさりと族長の剣を弾き飛ばし首に剣を突きつける。
ざわついた群衆につい俺は口を出してしまった。彼我の差が五倍? 防衛戦においてベリサリウスがどれだけの戦力差を覆して来たか知らないんだろう彼らは。
兵の力が劣る? そんなことも彼にとっては些細なことだ。こと戦争に関して言えば、ベリサリウスがいる限りどうとでもなると楽観していた。
何故落胆する? 君たちの前には彼がいるではないか。彼らのざわめきに落胆してしまった俺はつい我慢できなかった......つい口に出してしまったことをすぐに後悔したんだが......
目立つところじゃないだろ! 俺。
俺の言葉に群衆全員が俺を注目する。ああ、やっぱり目立ってしまった。口は災いの元。一瞬の気の迷いで発言するものじゃない......。案の定「誰だ? こいつ」と全員が思っていることだろう。
「おお、プロコピウスよ。さすがの豪胆さ。五倍程度の戦力差でうろたえるなと」
ベリサリウスが莞爾(かんじ)として笑い、俺を称える。
「然りにございます」
芝居がかった言葉で俺は応じる。こうなってしまっては雰囲気が大事だ。演技して乗り切るんだ!
ベリサリウスは立ち上がり、周囲を見渡す。
「皆よ。たかが百ではないか! 勇壮なる我々の敵ではない! 恐れることは何も無い!」
一度言葉を切り、ベリサリウスは続ける。
「蹂躙してやろうではないか! 奴らに後悔させてやろう。我々を甘く見たことを。我々はウサギではない、虎なのだと。奴らの命をもって分からせてやろうではないか!」
一瞬静まり返る群衆。
――たった一拍後――大歓声に変わる!
しかし戦局は思いもよらぬ方向へ流転するのだった。
◇◇◇◇◇
「先ほどは痺れました!」
リザードマンが来るまでの僅かな時間、それぞれが休息に当たることになったので、そのまま広場に座っていると、先ほど伝令を行った手が翼の少女が何やら感動した様子で俺の元へやって来た。
「ええと、君は確か」
「ティンです。プロコピウスさま」
一度聞いただけで、俺の名前を憶えているとは。しかも俺の名前が出たのは、ベリサリウスの言葉の最中だけだ。だからこそ彼女が名前を憶えていたことに驚いたのだ。
「ティンさん、俺は何もしてないんだけど」
「いえいえ、何をおっしゃいますかー。ざわめく戦士たちに一括! 静まりなさい! くうう。かっこいいじゃないですかー」
「戦士たちを奮い立たせたのはベリサリウス様ですよ」
「ベリサリウス様はもちろんかっこいいことには違いないんですけど! でもでも、ベリサリウス様がいるのに、ざわついた戦士たちにプロコピウス様の一言!」
なんか少し面倒な奴に捕まったのかもしれない。
要はベリサリウスがいるのにざわついた半信半疑の戦士たちに比べ、それをたしなめた俺のベリサリウスへの信頼感が素敵ー! って言ってるのだろう。たぶん。
「そうだ。プロコピウスはようやく出会えた旧友。あの程度の戦力差、動じることもあるまいよ」
その言い方は少し違う気がする。まるで俺がたった五倍に何を騒いでいる。と鼻で笑ったようじゃないか! と声の主を見てみると、やはりベリサリウス!
頼むから俺のハードルを上げないでほしいんだ......
「あわわ。ベリサリウス様!」
ベリサリウスを見るとティンはゆでだこのように真っ赤になって引っ込んでいってしまった。これはエリスさんと違って、平社員の前に突如カリスマ社長が出てきたから、恥ずかしくて去って行ったとかそんなところだろうか。
「ベリサリウス様、あの少女は?」
「彼女はティンというハービー族の者になる。この村唯一の空を飛べる者なのだ」
「空を飛べるのは大きなアドバンテージですね」
「ああ、我らの帝国に彼女がいたならば、戦況は変わっていただろう」
航空機が最初開発された時、目的は偵察だった。空を飛ぶ飛行機は地上からとは比べものにならないほど、情報を集めることができたからだ。航空機の登場により戦争のありようが変わってしまった。
空から偵察するということはそれほどインパクトのあることなんだ。
時代が下ると航空機から攻撃が可能となり、要塞のありようも変化する。
この世界では空を飛ぶ種族や先ほどの飛龍のような怪物がいるとなると、戦いの在り方はベリサリウスが生きた時代とは異なっているだろう。
「そうですね。空から攻撃してくる先ほどの飛龍のような怪物もいるわけですし」
「さすがプロコピウスだな。空からに目をつけるとは」
すでにベリサリウスも目をつけているだろう。彼はこれまでの軍隊のありように固執しない。常に有効な新戦術を練っているようだ。過去もこれからも。
「さて、そろそろ風が吹いてきた。門へ向かおうぞ。プロコピウス」
「了解しました」
いよいよ来たか。リザードマン達が。
◇◇◇◇◇
戦いは意外なことに、リザードマン達は攻勢を仕掛けて来ず、代わりに彼らの伝令がやって来る。彼らの望みは一騎打ちだった。
一騎打ちで白黒つけようというわけだ。勝てると思っているのか? それともこちらの力をはかりたいのか?
「ベリサリウス様。族長なる者の命奪われませんよう」
「ほう。お前が言うのならば、そうしよう。任せておけ」
ベリサリウスは俺の意図を推し量ることもせず。俺の願いにあっさりと頷くのだった。政治的な駆け引きが絡んでいるのだろうと思ったのだろうか。
事実そうだ。わざわざ一騎打ちを仕掛けて来るのには何か意図があるはずだ。リザードマン達からすれば、ベリサリウスという規格外の化け物を知るわけがないから、五倍の兵力で攻めると勝てると思って当然だ。
そこを一騎打ち。一騎打ちは人的被害が最も少ない決着方法に思える。リザードマン達は人的被害を出すつもりはないということか。ならば、彼らが仕掛けてきたのは単に略奪や侵略が目的ではないということだ。
彼らが持っている情報は、飛龍を撃退した強者がこの村にいるくらいのものだろう。まさかベリサリウス一人で撃ち殺してしまったとは思ってはいないだろうが。
俺が思案に暮れていると、ベリサリウスと大柄なリザードマンが対峙していた。
族長と呼ばれるリザードマンは体格が規格外だ。リザードマンは人間に比べて長身ではあるが、族長の身長は二メートル五十センチほどはありそうだ。
ベリサリウスと並ぶとその大きさが際立って見える。ベリサリウスも人間としては大柄ではあるが、この族長と並ぶと大人と子供のようだ。
「この地に出現した人間の勇者とは、お前のことか?」
族長の枯れた声にベリサリウスは、「いかにも」と答える。
「お前の力量。確かめさせてもらうぞ」
族長は腰から長剣を引き抜き構える。ベリサリウスも腰から剣を抜く。
族長の剣は両手で持つ長剣。それに対するはリーチの短い片手剣。身長差も相まってリーチの差は一メートル程度あるだろう。
一歩前に踏み出し、気合の声と共に族長は長剣を振り下ろすが、ベリサリウスは体を反らすことであっさりと回避する。
続けざまに族長は二度ほど斬りつけるが、俺の目から見ても戦いの趨勢は明らかだった。
確かに族長はベリサリウスを凌ぐ膂力(りょりょく)とリーチを持つだろう。しかしそれだけだ。技量が全く無い。およそ剣を扱う者の動きとは思えないほど稚拙で力任せに剣を振るうのみだ。
リザードマン達に体系的に学べる剣術が無いのだろう。我流のみでは長年蓄積された経験がある剣術には適わない。ごく稀に生まれ持った才覚と幾多の戦いを経て、我流が剣術に勝つこともあるだろう。
しかし、族長にはそれがなかった。
数度族長の剣を凌いだベリサリウスは、あっさりと族長の剣を弾き飛ばし首に剣を突きつける。
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