無双将軍の参謀をやりながら異世界ローマも作ってます

うみ

文字の大きさ
5 / 167

5.口が滑った!

しおりを挟む
「静まりなさい!」

 ざわついた群衆につい俺は口を出してしまった。彼我の差が五倍? 防衛戦においてベリサリウスがどれだけの戦力差を覆して来たか知らないんだろう彼らは。
 兵の力が劣る? そんなことも彼にとっては些細なことだ。こと戦争に関して言えば、ベリサリウスがいる限りどうとでもなると楽観していた。
 何故落胆する? 君たちの前には彼がいるではないか。彼らのざわめきに落胆してしまった俺はつい我慢できなかった......つい口に出してしまったことをすぐに後悔したんだが......
 目立つところじゃないだろ! 俺。

 俺の言葉に群衆全員が俺を注目する。ああ、やっぱり目立ってしまった。口は災いの元。一瞬の気の迷いで発言するものじゃない......。案の定「誰だ? こいつ」と全員が思っていることだろう。

「おお、プロコピウスよ。さすがの豪胆さ。五倍程度の戦力差でうろたえるなと」

 ベリサリウスが莞爾(かんじ)として笑い、俺を称える。

「然りにございます」

 芝居がかった言葉で俺は応じる。こうなってしまっては雰囲気が大事だ。演技して乗り切るんだ!

 ベリサリウスは立ち上がり、周囲を見渡す。

「皆よ。たかが百ではないか! 勇壮なる我々の敵ではない! 恐れることは何も無い!」

 一度言葉を切り、ベリサリウスは続ける。

「蹂躙してやろうではないか! 奴らに後悔させてやろう。我々を甘く見たことを。我々はウサギではない、虎なのだと。奴らの命をもって分からせてやろうではないか!」

 一瞬静まり返る群衆。

――たった一拍後――大歓声に変わる!

 しかし戦局は思いもよらぬ方向へ流転するのだった。


◇◇◇◇◇


「先ほどは痺れました!」

 リザードマンが来るまでの僅かな時間、それぞれが休息に当たることになったので、そのまま広場に座っていると、先ほど伝令を行った手が翼の少女が何やら感動した様子で俺の元へやって来た。

「ええと、君は確か」

「ティンです。プロコピウスさま」

 一度聞いただけで、俺の名前を憶えているとは。しかも俺の名前が出たのは、ベリサリウスの言葉の最中だけだ。だからこそ彼女が名前を憶えていたことに驚いたのだ。

「ティンさん、俺は何もしてないんだけど」

「いえいえ、何をおっしゃいますかー。ざわめく戦士たちに一括! 静まりなさい! くうう。かっこいいじゃないですかー」

「戦士たちを奮い立たせたのはベリサリウス様ですよ」

「ベリサリウス様はもちろんかっこいいことには違いないんですけど! でもでも、ベリサリウス様がいるのに、ざわついた戦士たちにプロコピウス様の一言!」

 なんか少し面倒な奴に捕まったのかもしれない。
 要はベリサリウスがいるのにざわついた半信半疑の戦士たちに比べ、それをたしなめた俺のベリサリウスへの信頼感が素敵ー! って言ってるのだろう。たぶん。

「そうだ。プロコピウスはようやく出会えた旧友。あの程度の戦力差、動じることもあるまいよ」

 その言い方は少し違う気がする。まるで俺がたった五倍に何を騒いでいる。と鼻で笑ったようじゃないか! と声の主を見てみると、やはりベリサリウス!
 頼むから俺のハードルを上げないでほしいんだ......

「あわわ。ベリサリウス様!」

 ベリサリウスを見るとティンはゆでだこのように真っ赤になって引っ込んでいってしまった。これはエリスさんと違って、平社員の前に突如カリスマ社長が出てきたから、恥ずかしくて去って行ったとかそんなところだろうか。

「ベリサリウス様、あの少女は?」

「彼女はティンというハービー族の者になる。この村唯一の空を飛べる者なのだ」

「空を飛べるのは大きなアドバンテージですね」

「ああ、我らの帝国に彼女がいたならば、戦況は変わっていただろう」

 航空機が最初開発された時、目的は偵察だった。空を飛ぶ飛行機は地上からとは比べものにならないほど、情報を集めることができたからだ。航空機の登場により戦争のありようが変わってしまった。
 空から偵察するということはそれほどインパクトのあることなんだ。
 時代が下ると航空機から攻撃が可能となり、要塞のありようも変化する。
 この世界では空を飛ぶ種族や先ほどの飛龍のような怪物がいるとなると、戦いの在り方はベリサリウスが生きた時代とは異なっているだろう。

「そうですね。空から攻撃してくる先ほどの飛龍のような怪物もいるわけですし」

「さすがプロコピウスだな。空からに目をつけるとは」

 すでにベリサリウスも目をつけているだろう。彼はこれまでの軍隊のありように固執しない。常に有効な新戦術を練っているようだ。過去もこれからも。

「さて、そろそろ風が吹いてきた。門へ向かおうぞ。プロコピウス」

「了解しました」

 いよいよ来たか。リザードマン達が。


◇◇◇◇◇


 戦いは意外なことに、リザードマン達は攻勢を仕掛けて来ず、代わりに彼らの伝令がやって来る。彼らの望みは一騎打ちだった。
 一騎打ちで白黒つけようというわけだ。勝てると思っているのか? それともこちらの力をはかりたいのか?

「ベリサリウス様。族長なる者の命奪われませんよう」

「ほう。お前が言うのならば、そうしよう。任せておけ」

 ベリサリウスは俺の意図を推し量ることもせず。俺の願いにあっさりと頷くのだった。政治的な駆け引きが絡んでいるのだろうと思ったのだろうか。

 事実そうだ。わざわざ一騎打ちを仕掛けて来るのには何か意図があるはずだ。リザードマン達からすれば、ベリサリウスという規格外の化け物を知るわけがないから、五倍の兵力で攻めると勝てると思って当然だ。
 そこを一騎打ち。一騎打ちは人的被害が最も少ない決着方法に思える。リザードマン達は人的被害を出すつもりはないということか。ならば、彼らが仕掛けてきたのは単に略奪や侵略が目的ではないということだ。
 彼らが持っている情報は、飛龍を撃退した強者がこの村にいるくらいのものだろう。まさかベリサリウス一人で撃ち殺してしまったとは思ってはいないだろうが。

 俺が思案に暮れていると、ベリサリウスと大柄なリザードマンが対峙していた。

 族長と呼ばれるリザードマンは体格が規格外だ。リザードマンは人間に比べて長身ではあるが、族長の身長は二メートル五十センチほどはありそうだ。
 ベリサリウスと並ぶとその大きさが際立って見える。ベリサリウスも人間としては大柄ではあるが、この族長と並ぶと大人と子供のようだ。

「この地に出現した人間の勇者とは、お前のことか?」

 族長の枯れた声にベリサリウスは、「いかにも」と答える。

「お前の力量。確かめさせてもらうぞ」

 族長は腰から長剣を引き抜き構える。ベリサリウスも腰から剣を抜く。
 族長の剣は両手で持つ長剣。それに対するはリーチの短い片手剣。身長差も相まってリーチの差は一メートル程度あるだろう。

 一歩前に踏み出し、気合の声と共に族長は長剣を振り下ろすが、ベリサリウスは体を反らすことであっさりと回避する。
 続けざまに族長は二度ほど斬りつけるが、俺の目から見ても戦いの趨勢は明らかだった。

 確かに族長はベリサリウスを凌ぐ膂力(りょりょく)とリーチを持つだろう。しかしそれだけだ。技量が全く無い。およそ剣を扱う者の動きとは思えないほど稚拙で力任せに剣を振るうのみだ。

 リザードマン達に体系的に学べる剣術が無いのだろう。我流のみでは長年蓄積された経験がある剣術には適わない。ごく稀に生まれ持った才覚と幾多の戦いを経て、我流が剣術に勝つこともあるだろう。

 しかし、族長にはそれがなかった。

 数度族長の剣を凌いだベリサリウスは、あっさりと族長の剣を弾き飛ばし首に剣を突きつける。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...