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57.旧小鬼村へ

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 翌朝さっそく俺達は旧小鬼村へ向かい、日が落ちる前に旧小鬼村へと到着する。明日、太陽が昇ってから本格的に野戦築城の開始だ。
 今回来たメンバーはマッスルブ達オークと犬耳族達だ。大胆にも全員連れて来た。ベリサリウスは明朝ローマを出発し、昼前にはここへ来ると俺に伝えてきている。
 彼はデイノニクスに乗っているから移動速度が非常に早い。彼はリザードマンら戦闘へ参加する者たちへ指示を出してから来る、と言っていたけど。装備やそのへんの話だろう。
 オークと犬耳族の他には、金魚のフンのようについてくるエルラインと周囲を警戒するためにティン。そしてローマへ報告用のエリスが来ている。
 エリスの代わりにたまにはパオラでも良かったんだけど、ここへベリサリウスが来ると知っていたエリスは当然のようについて来た......

 到着した俺達は各々が協力して簡易テントを準備し、本日の寝床とする。布は麻になるが、ローマの建築をしつつも日用品も充実させてきた。その結果テントを持っていけるまでにローマは成長していた。麻がこれほどの量があるだけでも俺は感動だよ。

「麻が珍しいのかい?」

 エルラインはテントの麻布を凝視している俺へ不思議そうに問いかける。

「いや、麻布がこれほど完成していたのが嬉しいんだよ」

「ピウス様! 分かります! ほんとみなさんこんな短期間ですごいです!」

 ティンが興奮した様子で、俺に同意してきた。

「ローマには何も無かったんだよ。エルライン。家もそうだけど、小鬼村が燃えて着の身着のまま開けた土地にやって来たんだからなあ」

「ふうん。ここまで彼らが来れたのは君の頑張りが大きいんじゃないかな?」

「いやいや。俺は指示を出しただけだよ。布とか道具は全て村長が指示してくれていたし。俺がやったのは土木工事の指示だけだよ」

「まあいいや。謙遜が美徳なのかな君は。人間にしては珍しいね」

 またクスクスと子供っぽい笑い声をあげるエルライン。この笑い声は彼自身が楽しい時だっていうことが最近分かってきた。俺をからかうのが楽しいのかよこいつ!
 まあ彼も悪い奴じゃないことは、これまでの付き合いで分かって来た。結構太っ腹なところあるんだよなこいつ。飛龍といい、魔法のことも考えてくれるって言ってたしなあ。

「ピウス様! 少し疑問に思ってたことがあるんですけど。聞いてもいいですか?」

 ティンが上目遣いで俺を見つめてくる。

「ん? 何だろう?」

「えっとですね。人間の街まで行って行先調べないんですか?」

 ティンが疑問に思うことは最もだ。敵の行先を調べることで、動きがあればすぐに伝えることが出来る。別に潜入スパイをするわけではなくて、彼らのいる街で暮らしていればすぐ気が付くだろう。
 大きな軍隊の動きがあればだけど。こちらは、風の精霊術で動きがあればリアルタイムで伝達することが出来るんだ。そうなると魔の森からの監視より、遥かに早く敵の侵攻を知ることができる。
 しかし、ダメなんだ。

「ティン、残念だけどそれをするに人材が足りないんだよ」

「人間がいないからですか?」

「いや、そうじゃないんだよ。人間なら俺がいるから彼らの街へ行くことはできるだろうけど、連絡役が居ない」

「あれ? ティモタさんがいらっしゃるんじゃ?」

「ティモタは風の精霊術が使えないんだよ。パオラもエリスもダークエルフだから、人間の街へ潜入できないだろ」

「そういうことですか! ピウス様は良く考えられてますね!」

 ティモタが使えるのは火と土の精霊術。風は使えないから現地に行っても連絡手段がない。戻って報告するくらいなら、行っても行かなくても変わりがないんだよ。
 だから、偵察ってのは考慮しなかったというわけだ。ベリサリウスもきっと同じことに気が付いていたんだと思う。

「ピウス。君は遠隔会話が出来るのなら、行くつもりだったのかい?」

「人材によるよ。ティモタなら一人で行ってもらってもいいんだけど。元々冒険者で人間の街にいたからさ」

「君は今後人間の街へ行くつもりなのかい?」

「戦争の危険が無くなったら、いずれ行こうと思っている」

 人間の国と街がどのようになっているのか直接調査したい。せっかくファンタジー世界に来たんだから、観光したいって気持ちも多分にあるけど......ガイアから聞いた話では人間の国は三つある。
 それぞれ事情が異なるから、調べたいし取り入れれそうな技術があれば持って帰りたい。あわよくばローマへ連れていける人間がいれば連れていきたいんだよなあ。特に農業ができる人。
 俺が考えにふけっていたら、エルラインはさらに言葉を続ける。

「ピウス。忘れないほうがいいよ。君の容姿はとても目立つ」

「え? 俺が?」

「全く認識していなかったのかい。君は。人間ではないティンでも分かってるよ。ねえ、ティン?」

「え?」

 突然、話を振られたティンはワタワタしながらも答えてくれる。

「はい! ピウス様はそ、そのぉ」

 俺を見つめ真っ赤になるティン......モジモジされても困るんだけど。暫く様子を伺っていると意を決したように、彼女はギュッと拳を握りしめる。

「ピウス様! ピウス様の容姿はとても......秀麗なんです! 人間とは思えないほど」

「ん。顔立ちが整ってるってことか?」

 俺の疑問の声にエルラインが教えてくれる。

「うん。ありえないくらい整った容姿をしているよ。彫刻家が削り出したような顔立ちに、全身の整いよう。エルフにはない力強さを持っている」

「ほ、褒められると照れる......」

「いや、褒めてはいないさ。君は人間からそう思われると認識したほうがいい。目立つって意味が分かってくれたかな?」

「あ。ああ。何となく」

 マジかよ! プロコピウスってそんなに美丈夫だったのかよ。秀麗と言えば思いつくのは......三国志の周瑜だけど。彼が描かれた最近のゲームなグラフィックを想像しておけばいいか。
 確かに、目立つ。これは俺が計画している楽しい観光プランにも支障が出るかもしれん。そうは言っても、行くけどな。
 目立つとなれば、身を護る手段もきちんと鍛えて行かないといけないなあ。誰も見ていないところで剣を振る練習をしなければ。

「まあ、どうしても行きたいって言うのなら付き合ってもいいよ」

「エルラインも目立つだろ」

「ああ? 僕? 僕はね。こんな魔術が使えるんだ」

 エルラインは立ち上がると、大きなルビーが先端に付いた杖を一振りする。すると、ひと時のうちに彼の青白かった肌に血色が出てきて、目の色も赤から黒に変わる。髪の色も白っぽい色から明るい茶色に変わっている。
 なるほど。エルラインは髪や肌の色を変えることが出来るのか。これは便利だな。

「おお。便利な魔法だな」

「魔術だけどね。全く君は......魔法を全く知らないからまあ、もういいよ」

 エルラインが肩を竦めたので、俺以外の反応を見てみようとティンに目をやると、俺と同じように「すごーい」って感じなんだけど。あ、彼女も魔法の事を全く知らないからか。
 多分エルラインは俺達を驚かせたかったんだろうなあ。彼はいたずらっ子な面が結構ある。姿を変える魔法は人間社会ではものすごい魔法なのかもしれない。

「エルラインさん! その魔法。私にもかけれるんですか?」

「うん。大丈夫だよ」

 エルラインが再び杖を振るうと、ティンの翼が消え見た目が人間と変わらなくなる。

「おお。これは凄いな。見た目だけだと人間に見える」

「凄いです! エルラインさん」

 ティンは自分の翼があった位置をしげしげと見ながら感嘆の声をあげた。

「......僕が変化した時と違うのが少し気に障るけど、僕が人間の街に出でも問題無い事は分かってくれたかな?」

「ああ。俺にも使ってくれれば街に行けるな」

「うーん。君だと分からなくするくらいにしかできないけどね。まあローマのプロコピウスって分からなければいいんだろう?」

「そうだな。最低限そうなれば問題無い」

 とりあえずエルラインの協力があれば、俺が街へ出ることは出来そうだ。
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