無双将軍の参謀をやりながら異世界ローマも作ってます

うみ

文字の大きさ
156 / 167

156.敗走する聖王国軍

しおりを挟む
――ムンド
 巨大なタルが投げ込まれたかと思うと、今度は飛龍にぶら下がった猫耳族が的確に炎を撒き始めると聖王国軍は混乱に包まれる。後方に回った猫耳族と飛龍は我々を逃がさぬよう炎の壁をあっという間に構築してしまった。
 そこへ兵力が少ないながらも、辺境伯騎兵が突撃をすると前方の敵兵も進軍を始めたのだった。
 
 聖王国軍は数で勝るとはいえ、突然の事態に対応しきれていない。
 
「落ち着いて行動しなさい」

 ナルセス様が私と聖教騎士団へ声をかけると、我々は水を打ったように落ち着きを取り戻す。ナルセス様の声には不思議な魅力があるのだ。
 彼女の声を聞くと沸き立った感情が途端に氷解し、穏やかな気持ちに切り替わる。
 
 なるほど。気持ちが落ち着くと戦況が見えて来た。突然の炎の急襲に慌てている我が聖王国軍であったが、よく見てみると炎の柱が立っているところが限定的で聖王国軍が冷静さを取り戻せば、確実に押し戻すことが出来ると私は感じる。
 挟撃されているとはいえ、後方の部隊は千人を少し超えるくらいで脅威にはなりえず、前方も数ではこちらが勝る。前列の重装備部隊が盾で攻勢を凌ぎ、炎弾と槍で反撃すれば突き崩すことも容易だろう。
 
 敵はこのチャンスを生かすべく一気に攻勢をかけているが、時間とともに我々が有利になっていくはずだ。
 ダリア様と彼女の親衛隊ははやくも落ち着きを取り戻し、先陣を切って攻囲を突破しようと動き始めている。なるほど。敵の数が少ないからかぽっかりと抜け道があるではないか。
 ダリア様は自ら先陣をきることで兵を動かし立て直すつもりなのだな。確かに兵が落ち着くのを待っていては、その間に相当数の兵が削られてしまう。
 
「ムンドさん。あれはベリサリウスさんの罠ですよ」

 ナルセス様は動くダリア様を目で追いながら私へ言葉をかける。
 
「あそこに誘いをかけたというわけですか?」

「その通りです。あそこにはきっとプロコピウスさんが急襲をかけますよ」

 ナルセス様は飛龍隊を率いる巨大な龍を指さす。あそこにかの彫刻のような秀麗さを持つ男――プロコピウスがいるというのだな。
 しかし、姑息な手を使うものだ。あの奇術師トリックスターめ。ダリア様が進むとプロコピウスが立ちふさがり、動かぬと被害が拡大する。
 きっとダリア様が動かぬ場合には、聖王国軍が立て直す前に別の奇策を打って来るに違いない。
 
「ナルセス様。ここはダリア様が動かないほうが良策だったのでしょうか?」

 私の疑問にナルセス様は口に指を当て考える仕草をする。
 
「どちらともいえません。ベリサリウスさんならダリアさんが動かない場合の手を三つは考えているでしょう」

「なるほど……さすが戦争芸術と呼ばれるだけはありますね……」

「ここでダリアさんがプロコピウスさんを打ち倒すことができたとすれば、聖王国が勝つでしょう」

 ナルセス様から「聖王国が勝つ」という言葉が出てきて、私は少し驚いてしまう。聖王国軍はベリサリウスの策に追い込まれているように見えるのだが……
 
「ダリア様なら必ずや。あのお方はカミュ様と並ぶ腕をお持ちです」

「そうですね……」

 ナルセス様はどちらとも取れない表情で少しうつむいた後、前を見据える。
 まさか……プロコピウスはそれほどまでの腕を持っているというのか……私は気が付いてしまったのだ。ここでダリア様がプロコピウスを打ち倒すことがあれば、ベリサリウスは苦しくなる。
 これほどまでに策を凝らすベリサリウスがプロコピウスの勝利を不安に思うのならば、なんらかの手を打って来るはずなのだ……しかし、ベリサリウスはなんら動きを見せない。
 
 つまり、プロコピウスが負けることなどありえないとあの奇術師トリックスターは言っているのだ!
 
 私は気が付きハッとなって、ナルセス様へ口を開こうとした時――
 
――ダリア様が敗れたとプロコピウスの声が響き渡る!

「ムンドさん。戦場から離脱しましょう」

 ナルセス様は表情一つ変えず、私に戦場から出るよう指示を出される。
 
「ナルセス様。こうなることが分かっていたのですか……」

「ベリサリウスさんにとってプロコピウスさんとは唯一無二の親友なのです。ベリサリウスさんはあの場をプロコピウスさんに預けた。ひとかけらでも不安がベリサリウスさんにあるのならば。あとは分かりますか?」

「理解いたしました。しかし……ダリア様があっさりと敗れるとは……」

 私はいまだにダリア様が敗れたと信じ切れていない……ダリア様の戦いを幾度か見たことがある私だからこそよけい彼女が敗れたことが信じられぬのだ。

「私はダリアさんがどれほどの腕を持っているか分かりません。しかし、あの二人なら彼女の腕を知った上で挑んでいるはずですよ」

「……そういうことですか」

「急ぎましょう。ムンドさん。ほどなく、ベリサリウスさんが降伏勧告をするでしょうから」

「了解しました!」 

 そういうことだったのか。聖王国軍の情報は全て奴らに筒抜けだったのだ。ダリア様のこともカミュ様のことも……我々がどのような部隊でどれほどの物資を持っているのかも……
 だから陣地を作成し、待ちかまえ作戦を練ったのだ。
 
 戦う前から我々は敗北していたのだ……ここにきてようやくそのことに気が付き、私は背筋が凍る思いだった……
 
 不思議なことに私達聖教騎士団が囲いを脱出しようとすると奴らは道を開け、私達は難なく敵の攻囲から脱出することができた。その際に聖教騎士団の後に続いた聖王国兵千名ほども脱出する。
 
 
◇◇◇◇◇

 
 脱出した私達聖教騎士団と付き従った聖王国軍は、翌日カミュ様率いる騎兵隊と合流する。カミュ様は左腕を失う大けがをなさっていたが、ナルセス様の元に直接出向いてくださったのだ。
 カミュ様は草原の民の首領と一騎打ちで破れ、怪我を負ったがすぐに治療を行った為、幸い命に別状はないそうだ。
 
 あらかじめ決めていた合流地点で一日待つも、ここに集まった兵以外に来る者はおらず残りの聖王国兵は全て戦死するか捕虜になったのだと私達は考え、王都へと向かう事にする。
 王都に到着する前に王都から早馬がカミュ様の元を訪れて、ダリア様が捕虜になった事と、聖王国軍が降伏したことを知る。
 
 ナルセス様がおっしゃった通り、私達が脱出した後に聖王国軍は降伏したということだった……
 
 既に王都では辺境伯、ラヴェンナと和平を結ぶべく動いており、共和国の最大都市国家の代表が仲介役を買って出たらしい。今回の戦は完全敗北だったため、聖王国は大幅に譲歩する必要があるだろうが、果たしてどのような取り決めとなるのだろう……
 不安だけが募る。
 
 私達が王都に戻った翌日には、ダリア様を含む奴らの捕虜となっていた聖王国兵は全て無事聖王国へ返還されることが決まったと聞いた。
 捕虜が処刑されずに済んだと分かり私はひとまず安堵した後、ナルセス様の依頼もあって聖王国と辺境伯らの和平内容の情報収集に当たることになる。
 
 一つ確かなこととして、少なくともベリサリウスが生きている間は聖王国とラヴェンナの戦争は無いということだ……次に聖王国軍が敗れるようなことがあれば国自体がただでは済まないだろうから……
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...