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1.拝啓、無人島生活はじめました
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「腕が少しひんやりしますねー」
看護師さんが右の二の腕をアルコールで消毒する。
続いて彼女が注射を準備していつもの聞きなれたセリフを――。
「っつ」
不意にその場で尻餅をつく。
椅子に座っていたはずなのにふっとお尻を支えていた感覚がなくなった。
「え……」
病院独特の消毒液の香りが漂うではなく、代わって潮の香りが鼻孔をくすぐる。
その匂いであれれと思い、尻餅をついたまま顔をあげたら思わぬ景色が目に飛び込んできたんだ!
キラキラと照り付ける太陽が砂浜の白に反射しており、眩しさから額に手を当て思いっきり目を細める。
砂浜に押し寄せる波の音が心地よく耳に届き、反対側には木々が生い茂っていた。
床だと思っていたが、自分が座り込んでいる場所も砂の上だ。
指先で砂をつまみ、しげしげと見つめる。
「砂だよな。これ……」
そこで僕はあることに気が付いた。
左腕にさ、ないんだよ。点滴を打つために針をさしてその上からガーゼを貼っていたのだけど、綺麗さっぱり無くなっている。
それだけじゃない。針をさしていたはずの傷も消えているんだよ。
どういうことだ? 一体どうなっているんだ?
自慢というより自虐だけど、僕は病弱である。心臓が弱く、ぜんそくまで併発しているときたものだ。
調子がいい時は別として、一年の半分くらいは車いすが必要なほど衰弱していた。
今だって病院で注射を打とうとしていたほどだ。
注射だけじゃ済まずに、調子が悪くなって入院させられそうになったところだったのだけど……なぜか波打ち際にいる。
「心臓は動いている。胸も痛くない」
狐につままれたような気分であるものの、しっかりと心臓の鼓動を指先で感じとることができた。
大丈夫。僕の心臓はちゃんと動いている。
白昼夢でも見ているのかもしれないけど、注射を打つ前だったことだし自分の意識はハッキリとしていたはず。
過度の麻酔を打っていたりなんてこともしていないから、精神的な問題はないと思うのだけど……絶対に違うと言い切れないのが辛いところ。
今一度、左右を見渡してみる。
風によって揺れる木々、砂浜には灌木と……なんだこれ、竹竿?
胸に手を当てながらゆっくりと立ち上がり、一歩、二歩。
「あれ、靴を履いている?」
病院のスリッパではなく、記憶にない革のブーツを装着しているじゃないか。きっちりと紐も結んである。
そればかりか服装まで変わっているじゃないか。
黒に近い紺色のズボンに赤色のロンTの上から真っ白のシャツを羽織っていた。
どうせここまでやるなら、帽子も被せておいて欲しかったよ。陽射しが強いとすぐに貧血を起こしてしまうからね。
「うーん。釣りに使う竹竿だよな。これ」
実物を見るのは初めてだけど、釣り堀に置いてあるような安っぽい竹竿としか思えない。糸と針に浮きまでついているぞ。
しゃがんだまま手を伸ばし、竹竿を掴み軽く左右に振ってみる。
「誰かの落とし物かも?」
元の場所に竹竿を戻し、その場で立ち上がった。
分からないことだらけだ。何がどうなっているのやら。
ここで待つべきか、動いた方がいいか悩みどころだよなあ。
考えつつも自然と足が動く。
そこでハッとなり、「しまった」と思うも既に遅い。
立ち上がる時は気を払ってゆっくりとやらねばならなかった。
でないと――。
「ん、胸が痛くない」
自分の心臓は平気なようで、鼓動に全く乱れがない。
それどころか、いやに調子がよいんだ!
この体とは20年来の付き合いだけど、これほど体調がよいのはかつて体験したことがない。
まるで健康な体でも得たかのよう。
もしかしたら、自分の体に奇跡的な変化があったのかも?
という思いが頭をよぎるが、軽く首を左右に振り甘い考えを奥に引っ込める。
「今のうちに休める場所を探そう」
海岸線を進むか木々が生い茂る繁みに入るか悩みどころだが、繁みに向かうことにした。
海岸線の方は視界良好で、遠くまで見渡すことができる。
一見したところ、特に変わったものがなかった。なので、どちらかを選ぶのならば繁みだろう。
浜辺から緩い傾斜になっていて登ったところから草が顔を出し始める。
体感で5分も歩かぬうちに切り開かれた場所に出た。
そこには苔むした小屋と古井戸があり、扉の前に何かいる。
一瞬、茶色い毛からイノシシか何かかと思って身構えたがホッと胸をなでおろす。
短い草の上に寝そべった何とも言えない間抜けな顔をしたそいつは、僕の記憶によるとカピバラという動物だった。
大人しい動物で、どこかの温泉で人気になっていた気がする。
カピバラの近くに寄って膝を落とす……と負担が大きいのでその場で座り込み彼を眺めてみるが、のそりと顔をあげすぐに元の体勢に戻ってしまった。
まるで警戒された様子がない。
「誰かが飼っていたのかな」
人を恐れず警戒もしない理由はすぐに分かった。
カビバラには首輪がはめられていて名前のタグまでついていたのだから。
名前は「カピー」と言うらしい。
「よろしく。カピー。僕は白夜。日下部白夜《くさかべ びゃくや》というんだ」
挨拶をしてみたもののカピバラことカピーは顎を地面につけたまま反応を返さない。
ちょっと落ち着き過ぎじゃないだろうか。それなら触れてみようかなんて思ったけど、飼い主に無断で触れるのもなあと思い直す。
カピーの脇を通り扉口に立ち、ふうと深呼吸。
コンコン。
ノックをしてから中へ呼びかけてみる。
「すいません。どなたかいらっしゃいますか?」
まるで反応がない。
三回同じことを繰り返してみたけど、結果は変わらなかった。
扉口からぐるっと一周小屋を回ってみたら、窓を発見!
「失礼しますー」
と言いつつ無断で覗き込むのは様式美だよね。良い子は真似しちゃいけないぞ。
正直に言うと、自由に動ける自分の体に対し変なテンションになっていたことは否めない。普段なら自分から動くことなんてなかったんだけど、自分の積極性に自分でも驚くほどだ。
さて、中の様子はというと誰もいなかった。
それどころか、まるで生活感がない。簡素なテーブルセットとベッドが置いてあるのだが、キッチンや冷蔵庫といった生活必需品がないばかりか、クローゼットさえも見当たらなかった。中に入ってちゃんと見れば家具の一つくらいはあるかもしれないけど……。
「カピーのご主人様は出かけているのかな?」
カピバラのカピーに問いかけてみるも、当然のように反応がない。
ふう。
どうするかなあ。
あぐらをかき地面へ両手をついた体勢で仰ぐように空を見上げる。
不可解な浜辺への移動をしてからそれほど時間が経過していないはずなのだけど、太陽が沈みつつあった。
あと一時間やそこらで夕焼け空となるだろう。病院のベッドから外を眺めることも多かった僕だからこそ、あと何時間くらいで日が沈むのか分かるのだ。
余り自慢できることじゃあないけどね。
「そうかあ。夕焼けかあ。……おかしいって。時間までおかしいのかよお」
最後は涙交じりの声になってしまった。
それもそのはず。
僕が病院にいた時刻は「午前」10時台だった。それが、もうすぐ夕焼け空になろうかとしている。
どこに飛ばされたのかとんと分からぬが、少なくとも日本国内じゃないことは確定か。
マジかよ。本当にどうなっているんだ。
まさに荒唐無稽とはこのことだけど、僕はこの有り得ない現実に興奮していた。
有り得ないからこそ、自分の体だって健康体になっているのかもしれないってね。
本来なら何がいるのか分からないこの場所で不安ばかりが募るだろう。だけど、自分が自由に動き回ることができるかもしれないと思うとさ。
ワクワクしてくるんだよ。
「といっても。奇跡的に体調がいいだけかもしれないし。無理は禁物だ」
この時間から他に休むことができる場所を探すのは厳しい。家主には申し訳ないけど、小屋の中で休ませてもらうことに決めた。
「すいません。失礼いたします」
鍵のついていない引き戸の扉だったので、ガラガラと横にスライドさせ改めて頭を下げる。
ぼすん。
ふくらはぎに何かが当たったと思って目を落とすとカピーがいつの間にやらのそりと立ち上がっていたらしく、彼の鼻が自分のふくらはぎに当たっていたようだった。
カピーは家の中で休んでいるのかな?
もうここまで来たら遠慮などなく、椅子に座らせてもらった。
次の瞬間、コトンと音がしてテーブルの上に本が三冊も忽然と姿を現す。
「び、びっくりした。何だろうこの本」
どれどれ。
どれも革の装丁を施したA4サイズの古風な本だった。
色がそれぞれ違っていて、青色、緑色、茶色となっている。
青色には「海の書」、緑色は「島の書」、茶色は「指南書」と背表紙と表紙に日本語で書かれていた。
都合のいいことに日本語か……日の傾きから日本じゃないと思ったんだけどひょっとしたら日本なのかも、と疑問が浮かぶ。だけど、怒涛の不可思議な出来事で感覚が麻痺している僕は深く考えることもなかった。
カピーはといえば、すんすんと鼻をひくつかせテーブルの柱に前脚を乗せ背伸びしている。
まるで「この本を見ろ」とても言っているかのように。
「それじゃあ、拝借して。何も書かれていないな」
青色の「海の書」を手に取りパラパラとめくってみたが全て白紙だった。
だけどページには薄く色がついていて最初のページから一定のページ数で紙の色が変わっている。
全部で七色で虹の色と同じ順番だった。
続いて「島の書」も見てみるが、こちらは色分けがなく全て白色の紙になっている。
残すは「指南書」か。
お、これは。
看護師さんが右の二の腕をアルコールで消毒する。
続いて彼女が注射を準備していつもの聞きなれたセリフを――。
「っつ」
不意にその場で尻餅をつく。
椅子に座っていたはずなのにふっとお尻を支えていた感覚がなくなった。
「え……」
病院独特の消毒液の香りが漂うではなく、代わって潮の香りが鼻孔をくすぐる。
その匂いであれれと思い、尻餅をついたまま顔をあげたら思わぬ景色が目に飛び込んできたんだ!
キラキラと照り付ける太陽が砂浜の白に反射しており、眩しさから額に手を当て思いっきり目を細める。
砂浜に押し寄せる波の音が心地よく耳に届き、反対側には木々が生い茂っていた。
床だと思っていたが、自分が座り込んでいる場所も砂の上だ。
指先で砂をつまみ、しげしげと見つめる。
「砂だよな。これ……」
そこで僕はあることに気が付いた。
左腕にさ、ないんだよ。点滴を打つために針をさしてその上からガーゼを貼っていたのだけど、綺麗さっぱり無くなっている。
それだけじゃない。針をさしていたはずの傷も消えているんだよ。
どういうことだ? 一体どうなっているんだ?
自慢というより自虐だけど、僕は病弱である。心臓が弱く、ぜんそくまで併発しているときたものだ。
調子がいい時は別として、一年の半分くらいは車いすが必要なほど衰弱していた。
今だって病院で注射を打とうとしていたほどだ。
注射だけじゃ済まずに、調子が悪くなって入院させられそうになったところだったのだけど……なぜか波打ち際にいる。
「心臓は動いている。胸も痛くない」
狐につままれたような気分であるものの、しっかりと心臓の鼓動を指先で感じとることができた。
大丈夫。僕の心臓はちゃんと動いている。
白昼夢でも見ているのかもしれないけど、注射を打つ前だったことだし自分の意識はハッキリとしていたはず。
過度の麻酔を打っていたりなんてこともしていないから、精神的な問題はないと思うのだけど……絶対に違うと言い切れないのが辛いところ。
今一度、左右を見渡してみる。
風によって揺れる木々、砂浜には灌木と……なんだこれ、竹竿?
胸に手を当てながらゆっくりと立ち上がり、一歩、二歩。
「あれ、靴を履いている?」
病院のスリッパではなく、記憶にない革のブーツを装着しているじゃないか。きっちりと紐も結んである。
そればかりか服装まで変わっているじゃないか。
黒に近い紺色のズボンに赤色のロンTの上から真っ白のシャツを羽織っていた。
どうせここまでやるなら、帽子も被せておいて欲しかったよ。陽射しが強いとすぐに貧血を起こしてしまうからね。
「うーん。釣りに使う竹竿だよな。これ」
実物を見るのは初めてだけど、釣り堀に置いてあるような安っぽい竹竿としか思えない。糸と針に浮きまでついているぞ。
しゃがんだまま手を伸ばし、竹竿を掴み軽く左右に振ってみる。
「誰かの落とし物かも?」
元の場所に竹竿を戻し、その場で立ち上がった。
分からないことだらけだ。何がどうなっているのやら。
ここで待つべきか、動いた方がいいか悩みどころだよなあ。
考えつつも自然と足が動く。
そこでハッとなり、「しまった」と思うも既に遅い。
立ち上がる時は気を払ってゆっくりとやらねばならなかった。
でないと――。
「ん、胸が痛くない」
自分の心臓は平気なようで、鼓動に全く乱れがない。
それどころか、いやに調子がよいんだ!
この体とは20年来の付き合いだけど、これほど体調がよいのはかつて体験したことがない。
まるで健康な体でも得たかのよう。
もしかしたら、自分の体に奇跡的な変化があったのかも?
という思いが頭をよぎるが、軽く首を左右に振り甘い考えを奥に引っ込める。
「今のうちに休める場所を探そう」
海岸線を進むか木々が生い茂る繁みに入るか悩みどころだが、繁みに向かうことにした。
海岸線の方は視界良好で、遠くまで見渡すことができる。
一見したところ、特に変わったものがなかった。なので、どちらかを選ぶのならば繁みだろう。
浜辺から緩い傾斜になっていて登ったところから草が顔を出し始める。
体感で5分も歩かぬうちに切り開かれた場所に出た。
そこには苔むした小屋と古井戸があり、扉の前に何かいる。
一瞬、茶色い毛からイノシシか何かかと思って身構えたがホッと胸をなでおろす。
短い草の上に寝そべった何とも言えない間抜けな顔をしたそいつは、僕の記憶によるとカピバラという動物だった。
大人しい動物で、どこかの温泉で人気になっていた気がする。
カピバラの近くに寄って膝を落とす……と負担が大きいのでその場で座り込み彼を眺めてみるが、のそりと顔をあげすぐに元の体勢に戻ってしまった。
まるで警戒された様子がない。
「誰かが飼っていたのかな」
人を恐れず警戒もしない理由はすぐに分かった。
カビバラには首輪がはめられていて名前のタグまでついていたのだから。
名前は「カピー」と言うらしい。
「よろしく。カピー。僕は白夜。日下部白夜《くさかべ びゃくや》というんだ」
挨拶をしてみたもののカピバラことカピーは顎を地面につけたまま反応を返さない。
ちょっと落ち着き過ぎじゃないだろうか。それなら触れてみようかなんて思ったけど、飼い主に無断で触れるのもなあと思い直す。
カピーの脇を通り扉口に立ち、ふうと深呼吸。
コンコン。
ノックをしてから中へ呼びかけてみる。
「すいません。どなたかいらっしゃいますか?」
まるで反応がない。
三回同じことを繰り返してみたけど、結果は変わらなかった。
扉口からぐるっと一周小屋を回ってみたら、窓を発見!
「失礼しますー」
と言いつつ無断で覗き込むのは様式美だよね。良い子は真似しちゃいけないぞ。
正直に言うと、自由に動ける自分の体に対し変なテンションになっていたことは否めない。普段なら自分から動くことなんてなかったんだけど、自分の積極性に自分でも驚くほどだ。
さて、中の様子はというと誰もいなかった。
それどころか、まるで生活感がない。簡素なテーブルセットとベッドが置いてあるのだが、キッチンや冷蔵庫といった生活必需品がないばかりか、クローゼットさえも見当たらなかった。中に入ってちゃんと見れば家具の一つくらいはあるかもしれないけど……。
「カピーのご主人様は出かけているのかな?」
カピバラのカピーに問いかけてみるも、当然のように反応がない。
ふう。
どうするかなあ。
あぐらをかき地面へ両手をついた体勢で仰ぐように空を見上げる。
不可解な浜辺への移動をしてからそれほど時間が経過していないはずなのだけど、太陽が沈みつつあった。
あと一時間やそこらで夕焼け空となるだろう。病院のベッドから外を眺めることも多かった僕だからこそ、あと何時間くらいで日が沈むのか分かるのだ。
余り自慢できることじゃあないけどね。
「そうかあ。夕焼けかあ。……おかしいって。時間までおかしいのかよお」
最後は涙交じりの声になってしまった。
それもそのはず。
僕が病院にいた時刻は「午前」10時台だった。それが、もうすぐ夕焼け空になろうかとしている。
どこに飛ばされたのかとんと分からぬが、少なくとも日本国内じゃないことは確定か。
マジかよ。本当にどうなっているんだ。
まさに荒唐無稽とはこのことだけど、僕はこの有り得ない現実に興奮していた。
有り得ないからこそ、自分の体だって健康体になっているのかもしれないってね。
本来なら何がいるのか分からないこの場所で不安ばかりが募るだろう。だけど、自分が自由に動き回ることができるかもしれないと思うとさ。
ワクワクしてくるんだよ。
「といっても。奇跡的に体調がいいだけかもしれないし。無理は禁物だ」
この時間から他に休むことができる場所を探すのは厳しい。家主には申し訳ないけど、小屋の中で休ませてもらうことに決めた。
「すいません。失礼いたします」
鍵のついていない引き戸の扉だったので、ガラガラと横にスライドさせ改めて頭を下げる。
ぼすん。
ふくらはぎに何かが当たったと思って目を落とすとカピーがいつの間にやらのそりと立ち上がっていたらしく、彼の鼻が自分のふくらはぎに当たっていたようだった。
カピーは家の中で休んでいるのかな?
もうここまで来たら遠慮などなく、椅子に座らせてもらった。
次の瞬間、コトンと音がしてテーブルの上に本が三冊も忽然と姿を現す。
「び、びっくりした。何だろうこの本」
どれどれ。
どれも革の装丁を施したA4サイズの古風な本だった。
色がそれぞれ違っていて、青色、緑色、茶色となっている。
青色には「海の書」、緑色は「島の書」、茶色は「指南書」と背表紙と表紙に日本語で書かれていた。
都合のいいことに日本語か……日の傾きから日本じゃないと思ったんだけどひょっとしたら日本なのかも、と疑問が浮かぶ。だけど、怒涛の不可思議な出来事で感覚が麻痺している僕は深く考えることもなかった。
カピーはといえば、すんすんと鼻をひくつかせテーブルの柱に前脚を乗せ背伸びしている。
まるで「この本を見ろ」とても言っているかのように。
「それじゃあ、拝借して。何も書かれていないな」
青色の「海の書」を手に取りパラパラとめくってみたが全て白紙だった。
だけどページには薄く色がついていて最初のページから一定のページ数で紙の色が変わっている。
全部で七色で虹の色と同じ順番だった。
続いて「島の書」も見てみるが、こちらは色分けがなく全て白色の紙になっている。
残すは「指南書」か。
お、これは。
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