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12.下着? そんなもの砂まみれだ
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「君が、あの、カモメ?」
「うん。そうだぜ。あんちゃんには世話になったからさ」
「人の姿になれて、喋ることができるなら教えてくれたってよかったのに」
「力が足りなかったんだよ。死にそうになってて、何とか島を見つけてさ。あんちゃんが沢山魚をくれたから、それで」
要領を得ない少年の言葉であったが、腹が減って力が出ない状態だったってことは分かった。
目の前に少年が立っているというのに未だに信じられん。あのカモメが、だぞ。
彼もじろじろ見られ続けていたら、よい気はしないわな。気恥ずかしそうにポリポリと頭をかく少年に対し、ごめんと目配せする。
彼と僕はまだしも、ホホジロザメの頭と薄紫の艶やかな濡れた髪の美少女のコントラストはシュールだ。……ニーナは黙っていると、いや何も言うまい。
「どうしたんですか? わたしの顔に何かついてます?」
「あんなものを被っていたのに傷一つついていないってすごいなってさ」
「なあなあ。ねえちゃん。何で上だけで下は何も着ていないんだ?」
あ、言っちゃった。遠慮なく言い辛いことを言っちゃったか、少年。
でも、彼が言わなきゃ僕がそっと上着を彼女の腰に巻きつけていたところだよ。
一方彼女はきょとんと首を傾げ、ペタペタと自分の腰に手を当てる。
「ちゃんと持ってきました! 泡の中と同じと思って服も着ます!」
ほう。鮫事件で注目していなかったが、彼女はリュックを背負っていた。
大きな貝殻が可愛らしいのだけど、重たそう。
彼女はよいしょっとリュックを砂の上に降ろして、その場でしゃがみ込む。
「僕の方を向いてしゃがまないで……」
「はいい」
リュックの位置が少しでもずれたら見える。
……何で僕の方に背を向けるんだよ。見せたいのか? そうなのか?
やっぱり彼女は単なる痴女なのか、それともマーメイド族とやらはみんなこんなのなのか判断に迷う。
サンプルがニーナしかないから何とも言えん。
「少年、彼女はニーナというのだけど、ニーナはマーメイド族だからあんなんらしい。ほら、下半身が魚の時は服を着ないだろ」
「おいらもカモメの時は服を着ないし。そういうことかー。納得だぜ」
それで納得するんだ。
カモメの時は服を着ていないけど、少年になるとちゃんと服を着ている彼と、この痴女を比べるのもおこがましい、と思うのだけど。
スッキリしたらしい彼は腰に両手を当て、顎をあげる。
「おいら、パックって言うんだ。あんちゃんは?」
「僕は日下部白夜。改めてよろしく」
「よろしくな! あんちゃん! でな、一つ気になってんだけど、聞いてもいいかな?」
「うん?」
パックは鼻先に指を当て、頬をかく。
彼と僕の身長差で彼の目線は自然と上目遣いになった。
「あんちゃんは人間か何かか?」
「うん。人間だよ」
「そっか。人間は少年ってどんな意味で使うんだ?」
「小さな男の子? かな。ごめん、子供扱いするってつもりじゃなかったんだ」
彼は見た所、10-12歳くらいに見える。まさに俺の想像する少年像にピッタリの年齢だった。
でも、これくらいの年齢って背伸びしたいお年頃だったかもしれない。
パックは気を悪くした様子もなく、パチリと指を弾く。
「構わないよ。おいら、小さいし。あんちゃんが少年って呼びたいなら、そのままでもいいぜ」
「パックって名乗ってくれたじゃないか。これからはパックって呼ぶよ」
「おう。分かった! おいらはそのまま『あんちゃん』って呼んでもいい?」
「うん。好きに呼んでくれていいよ」
兄弟のいなかった僕なので、兄と呼ばれると少し嬉しかったりする。
種族は違うけど、そんなもの些細な問題だ。
パックと握手を交わし……チラリとニーナの奇行が目に映る。
リュックに沢山の荷物が入っているのは分かったから、ここで広げるのはどうかと思うぞ。
彼女は海の中にいた。水はお友達なのか?
そもそも濡れているのなら、構わないという感覚でいるかもしれない。
うん、雨はまだしとしとと降り続いている。
「ニーナ」
「なんですかー? あ、ちゃんと下着も上下あるんですよ」
「パンツを見せなくていいから。そこで広げると砂で汚れるぞ」
「砂を洗っておこうかと思いまして」
「それなら井戸があるから、雨で洗わなくても大丈夫だ」
「真水があるんですか!」
ぱああっとパンツを掲げたまま満面の笑みを浮かべるニーナ。
顔だけは可愛いってのに。もう、いろいろ僕は疲れたよ。
やれやれとアメリカンスタイルで肩を竦めたら、両手を上にあげアピールしていたパックと目が合う。
「あ、あんちゃん……おいら……くあ」
「うおお!」
パックの姿が霞のように消え、足元には凛々しい目をカモメが一羽。
「パック……だよな?」
「ぐあ!」
首をあげ元気よくパカンと嘴を開けるカモメは、確かに俺の言葉を理解しているように見受けられる。
目の前で変化したんだから、このカモメとパックは同一人物で間違いない。
いざ目にすると話で聞いてとしても、ビックリして尻餅をつきそうになってしまうよ。
鮫の時とは別の意味で心臓が高鳴っている。
「人の姿になれるのは時間制限があるのか、それともお腹が減ったらカモメになるのか……」
「くああ」
いやいや、何を言っているのか分からんて。
バサバサと翼をはためかせられてもだな。
降り続く雨が虚しく僕とカモメを濡らす。
「ビャクヤさんー。お水はどちらに?」
「先に小屋に戻ろうか。釣りをしてからと思っていたんだけど」
「釣り! ダメですよ。これわたしのなんですから」
「ワザとじゃないって言っただろ!」
自分の体を抱くように胸を覆うニーナに力一杯突っ込む。
海中にブラジャーを置き忘れてきたとかないだろうな。彼女ならてへへとかありそうだもの。
「釣りをしていてください。リュックに出したものを仕舞い込みますので」
「それ、釣りをしている暇があるかな……」
「あります! だって砂が」
「お、おう」
だったら濡れた砂の上で広げるなよ、と言う話だよなほんと。
テキパキと上着らしきものをはたくのはいいのだけど、余計に汚れている気が。
うん、この分だと一回どころか五回くらいは釣りができそうだぞ。
「よいしょっとー」
竹竿を振るい、カモメが「くあ」と鳴く。
さっそく一発目が釣れる。無言で、ニーナに向け釣れたものを投げ込む。
「ひゃああ。ビックリしました」
「僕もだよ」
何が釣れたのかは秘密だ。だけど、彼女の持ち物であるはず。
その証拠に彼女が「あれあれ」と僕と釣れたものを交互に見ている。
すぐに考えることをやめたのか、彼女はリュックに釣れたものを仕舞い込んだ。
この後、ニーナの準備が済むまで釣りをしていたが7回も釣り上げた。
魚も獲れたし、今日のご飯は三人でも問題ないほどになったぞ。
「それじゃあ、小屋に戻ろうか」
「はいい。楽しみです。ビャクヤさんのお家」
「くあ」
ペタペタ歩くカモメにとてとてと続くニーナ、そして頼りなさげな僕。
何ともまあ、奇妙な組み合わせだけどこれはこれで悪くないと思い始めた……ちょっと不安だけど。
「うん。そうだぜ。あんちゃんには世話になったからさ」
「人の姿になれて、喋ることができるなら教えてくれたってよかったのに」
「力が足りなかったんだよ。死にそうになってて、何とか島を見つけてさ。あんちゃんが沢山魚をくれたから、それで」
要領を得ない少年の言葉であったが、腹が減って力が出ない状態だったってことは分かった。
目の前に少年が立っているというのに未だに信じられん。あのカモメが、だぞ。
彼もじろじろ見られ続けていたら、よい気はしないわな。気恥ずかしそうにポリポリと頭をかく少年に対し、ごめんと目配せする。
彼と僕はまだしも、ホホジロザメの頭と薄紫の艶やかな濡れた髪の美少女のコントラストはシュールだ。……ニーナは黙っていると、いや何も言うまい。
「どうしたんですか? わたしの顔に何かついてます?」
「あんなものを被っていたのに傷一つついていないってすごいなってさ」
「なあなあ。ねえちゃん。何で上だけで下は何も着ていないんだ?」
あ、言っちゃった。遠慮なく言い辛いことを言っちゃったか、少年。
でも、彼が言わなきゃ僕がそっと上着を彼女の腰に巻きつけていたところだよ。
一方彼女はきょとんと首を傾げ、ペタペタと自分の腰に手を当てる。
「ちゃんと持ってきました! 泡の中と同じと思って服も着ます!」
ほう。鮫事件で注目していなかったが、彼女はリュックを背負っていた。
大きな貝殻が可愛らしいのだけど、重たそう。
彼女はよいしょっとリュックを砂の上に降ろして、その場でしゃがみ込む。
「僕の方を向いてしゃがまないで……」
「はいい」
リュックの位置が少しでもずれたら見える。
……何で僕の方に背を向けるんだよ。見せたいのか? そうなのか?
やっぱり彼女は単なる痴女なのか、それともマーメイド族とやらはみんなこんなのなのか判断に迷う。
サンプルがニーナしかないから何とも言えん。
「少年、彼女はニーナというのだけど、ニーナはマーメイド族だからあんなんらしい。ほら、下半身が魚の時は服を着ないだろ」
「おいらもカモメの時は服を着ないし。そういうことかー。納得だぜ」
それで納得するんだ。
カモメの時は服を着ていないけど、少年になるとちゃんと服を着ている彼と、この痴女を比べるのもおこがましい、と思うのだけど。
スッキリしたらしい彼は腰に両手を当て、顎をあげる。
「おいら、パックって言うんだ。あんちゃんは?」
「僕は日下部白夜。改めてよろしく」
「よろしくな! あんちゃん! でな、一つ気になってんだけど、聞いてもいいかな?」
「うん?」
パックは鼻先に指を当て、頬をかく。
彼と僕の身長差で彼の目線は自然と上目遣いになった。
「あんちゃんは人間か何かか?」
「うん。人間だよ」
「そっか。人間は少年ってどんな意味で使うんだ?」
「小さな男の子? かな。ごめん、子供扱いするってつもりじゃなかったんだ」
彼は見た所、10-12歳くらいに見える。まさに俺の想像する少年像にピッタリの年齢だった。
でも、これくらいの年齢って背伸びしたいお年頃だったかもしれない。
パックは気を悪くした様子もなく、パチリと指を弾く。
「構わないよ。おいら、小さいし。あんちゃんが少年って呼びたいなら、そのままでもいいぜ」
「パックって名乗ってくれたじゃないか。これからはパックって呼ぶよ」
「おう。分かった! おいらはそのまま『あんちゃん』って呼んでもいい?」
「うん。好きに呼んでくれていいよ」
兄弟のいなかった僕なので、兄と呼ばれると少し嬉しかったりする。
種族は違うけど、そんなもの些細な問題だ。
パックと握手を交わし……チラリとニーナの奇行が目に映る。
リュックに沢山の荷物が入っているのは分かったから、ここで広げるのはどうかと思うぞ。
彼女は海の中にいた。水はお友達なのか?
そもそも濡れているのなら、構わないという感覚でいるかもしれない。
うん、雨はまだしとしとと降り続いている。
「ニーナ」
「なんですかー? あ、ちゃんと下着も上下あるんですよ」
「パンツを見せなくていいから。そこで広げると砂で汚れるぞ」
「砂を洗っておこうかと思いまして」
「それなら井戸があるから、雨で洗わなくても大丈夫だ」
「真水があるんですか!」
ぱああっとパンツを掲げたまま満面の笑みを浮かべるニーナ。
顔だけは可愛いってのに。もう、いろいろ僕は疲れたよ。
やれやれとアメリカンスタイルで肩を竦めたら、両手を上にあげアピールしていたパックと目が合う。
「あ、あんちゃん……おいら……くあ」
「うおお!」
パックの姿が霞のように消え、足元には凛々しい目をカモメが一羽。
「パック……だよな?」
「ぐあ!」
首をあげ元気よくパカンと嘴を開けるカモメは、確かに俺の言葉を理解しているように見受けられる。
目の前で変化したんだから、このカモメとパックは同一人物で間違いない。
いざ目にすると話で聞いてとしても、ビックリして尻餅をつきそうになってしまうよ。
鮫の時とは別の意味で心臓が高鳴っている。
「人の姿になれるのは時間制限があるのか、それともお腹が減ったらカモメになるのか……」
「くああ」
いやいや、何を言っているのか分からんて。
バサバサと翼をはためかせられてもだな。
降り続く雨が虚しく僕とカモメを濡らす。
「ビャクヤさんー。お水はどちらに?」
「先に小屋に戻ろうか。釣りをしてからと思っていたんだけど」
「釣り! ダメですよ。これわたしのなんですから」
「ワザとじゃないって言っただろ!」
自分の体を抱くように胸を覆うニーナに力一杯突っ込む。
海中にブラジャーを置き忘れてきたとかないだろうな。彼女ならてへへとかありそうだもの。
「釣りをしていてください。リュックに出したものを仕舞い込みますので」
「それ、釣りをしている暇があるかな……」
「あります! だって砂が」
「お、おう」
だったら濡れた砂の上で広げるなよ、と言う話だよなほんと。
テキパキと上着らしきものをはたくのはいいのだけど、余計に汚れている気が。
うん、この分だと一回どころか五回くらいは釣りができそうだぞ。
「よいしょっとー」
竹竿を振るい、カモメが「くあ」と鳴く。
さっそく一発目が釣れる。無言で、ニーナに向け釣れたものを投げ込む。
「ひゃああ。ビックリしました」
「僕もだよ」
何が釣れたのかは秘密だ。だけど、彼女の持ち物であるはず。
その証拠に彼女が「あれあれ」と僕と釣れたものを交互に見ている。
すぐに考えることをやめたのか、彼女はリュックに釣れたものを仕舞い込んだ。
この後、ニーナの準備が済むまで釣りをしていたが7回も釣り上げた。
魚も獲れたし、今日のご飯は三人でも問題ないほどになったぞ。
「それじゃあ、小屋に戻ろうか」
「はいい。楽しみです。ビャクヤさんのお家」
「くあ」
ペタペタ歩くカモメにとてとてと続くニーナ、そして頼りなさげな僕。
何ともまあ、奇妙な組み合わせだけどこれはこれで悪くないと思い始めた……ちょっと不安だけど。
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