拝啓、無人島でスローライフはじめました

うみ

文字の大きさ
18 / 31

18.悪夢、再び

しおりを挟む
「そうと決まれば、わたし、行ってきます!」
「え、待って」

 相も変わらずすっぽんぽんの下半身のまま、たたたっと走った彼女は海へ潜って行った。
 きっと下半身もヒレに変化しているに違いない。
 ええと、考えろ。彼女の動きは一見して突拍子なく思える。だけど、何か考えがあって動いているはずなのだ。
 ……。
 いいや、もう。そのうち分かるだろ。
 
「パック、僕たちは釣りをしようか」
「あんちゃん、それじゃあ、おいら節約するよ……くあ」

 ニーナのことがひと段落して安心したのか、パックがカモメの姿になった。
 釣りをすると、一発目はお約束の品物が取れたけど彼女が戻って来てから渡せばいい。
 さすがにこれ以上彼女の方も繰り返すことはしないだろ。何か目的があって海の中へ潜って行ったのだから。
 
「お、こいつは僕でも分かる。よく見る魚だ」

 と言いつつも海の書に見事な流線形をした魚をあてがう。
 その魚はヒラマサと記載された。
 大きさは60センチオーバーとなかなかの大物だ。そうかあ。ヒラマサというのかこの魚。てっきりブリじゃないかと思ったんだよね。
 まだまだ魚を見分ける知識が足りないな。何度も見ていたらそのうち区別がつくようになる、と思う。
 
「パック食べてもいいよ。まだまだ釣るから」
「くあ」

 言われなくてもそうしますという奴だった。既にパックはヒラマサの首元をひと突きして、お食事の準備が完了していた。
 ガツガツとカモメがヒラマサを貪り食っている間にも次の獲物がかかる。
 この生活にも慣れてきたなあ。こうしてのんびりと釣りをして、パックがむしゃむしゃと魚を食べる。
 少々不便ではあるけど、適度に体を動かし、日常に追われることもない生活は悪くない。何より自由に動き回れる体がある。
 それだけでもう幸せってものだ。
 最初はどうなることかと思ったけど、この生活は決して悪いものではない。
 
「おお、イカだ。イカも釣り上げることができるんだ」

 生きている時は透明で、死ぬと白くなるんだっけか。吸盤に気をつけながら慎重にイカから針を外す。
 このイカはアオリイカという種類なんだって。

「パック、イカは吸盤があるから気を付け……」
「くあああ!」

 うわあ。イカがパックの嘴に張り付いちゃっている。
 しかし、彼は無理やり嘴を開き、イカを口の中におさめてしまった。
 だ、大丈夫なのか、あれ。
 僕の心配をよそにごくんとイカを丸のみした彼は嘴を上にあげ「げふっ」と息を吐く。
 
 カモメのパックはイカで満腹になったらしく、僕の足もとでじっとしたまま動かなくなった。
 この後は釣り上げた得物は全て籠の中に入れていく作業となる。
 そろそろ釣りも終わりにしようかなという頃、薄紫の髪の毛をした頭がひょっこり海面から顔を出す。
 
「ニーナ。ブラジャーを投げるからそこでじっとしていて」
「それには及びません! いいものを見つけたのです」
「そ、そうか……」

 自信満々なニーナの声には疑念しか浮かばない。
 嫌な予感がしつつも、すぐに貝殻ブラジャーを投げ渡せるよう右手に握りしめたまま彼女を待つことにした。
 
 そして、彼女は波打ち際に姿を現す。
 彼女とて三度目ともなれば、陸上に切り替わるところでヒレを脚に変化させていた。おお、学習するんだな。
 えらいぞお。下半身のことを気にかけるのなら、上半身も何とかした方がいいと思うぞ。
 あれは違う。女体の神秘とかじゃないんだ。
 何度だって僕は言ってやろう。僕はまだ母と妹以外は生で女子の裸を見たことが無いと。

「へへー。ちゃんと考えているんですよ」
「痛くないのかそれ?」
「刺されると痛いですよお。ヒレに注意です! 毒もあります」

 ニーナはじゃーんと両手で平べったい魚を掲げる。頭から尻尾の先までは1.5メートルくらいあるそれは、マンタ? エイ? と呼ばれる魚だと思う。
 ちょこんと海の書をその魚に当ててみると、エイだと表示された。
 案外、余裕があるな僕。
 いや、そうじゃない。人間は余りにも想定外の出来事が起こると却って冷静になるんだ。もしくは現実逃避したい出来事から目を逸らしたいがための防衛行動かもしれない。
 どっちだっていいんだよ。僕は「痛くないのか?」って聞いただろ。エイの尻尾のことなんかじゃないんだよ!
 君の胸に張り付いているタコのことを言っているんだよおお。
 それも二匹。左右のささやかなおっぱいの上でウネウネしている。ガッチリと張り付いているし、かなり痛いんじゃないかな……。
 
「ブラジャーに変えた方がいいんじゃない?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと隠れてますよね?」
「そう言う意味じゃ。それにタコって生きてるから動くよ?」
「はわわわ。そうでしたあ。う、動いちゃダメですう」

 言ったハナから右のタコが彼女の肩口に登ろうとうねり始めた。
 そもそも、ここに来るまでの間でタコさん、動いていたんじゃないのかな。何でこんなことに。
 僕の探偵力は限界を迎えようとしている。
 無言で彼女に貝殻ブラジャーを手渡す。
 一方で彼女は開いた方の手でタコの頭をむんずと掴み、引っぺがした。

「これ、夕飯に」
「う、うん」

 見えてない。僕は見えていない。彼女のおっぱいなんてものは見ていないのだ。
 あれだけ恥ずかしがっていたのに、見せるなってば。
 タコのことで頭が一杯なんだろうなあ……遠い目になってしまいそうになりつつもタコを砂浜の上に落とす。
 籠の中に入れたら他の魚が捕食されちゃうからね。イカ・タコは魚と違って陸上にあげても元気一杯だからね。
 
 残りのタコも受け取り、「きゃー」という今更ながらの彼女の悲鳴を聞いて……僕はもうため息しか出なかった。
 だが、これはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
 
「エイを探しに海へ潜ったの?」
「はい。私、この島の巫女さんですから!」
「そ、そう……じゃあ、帰ろ――」
「ではさっそく、祈りを捧げさせていただきます!」

 こいつはヤバいと思った僕がそそくさと帰ろうと言葉をかけようとしたってのに、喰い気味で彼女に声を重ねられてしまった。
 
「では、ビャクヤ島の平穏を祈らせていただきます。務めさせていただきますのは、ビャクヤ島の美少女マーメイドことニーナです」

 勝手に島の名前をつけるだけでなく、自分のプロフィールまで恥ずかし気もなく語るニーナに開いた口が塞がらない。
 
「くあ!」

 あ、パックが空へ逃亡した。ぼ、僕も逃げたいのだけど、一人にするわけにもいかないんだよな?
 ほら、その証拠に。
 
「見届け人はビャクヤ島の主ことビャクヤさんです!」

 僕もしっかり祈りの儀式に組み込まれているから。
 両足を開き膝を落としたニーナが真っ直ぐ上にエイを掲げる。
 始まってしまった。
 ちょっと待って。よくよく考えると、あのしこを踏むようなポーズってナマズたち男衆が家の安寧を願う祈祷だよね。
 巫女だったらもっとお淑やかな感じになるんじゃないの?
 
「えいやさー。えいやさー」

 ちょ、ちょっとだけ可愛くなった?
 しかし、動きは前と同じだよ! 本気でこれが巫女の祈祷なの?

「ふう」

 籠を掴み上げた僕はそそくさとこの場を立ち去ることにしたのだった。
 背後から波の音に交じり唸り声が聞こえてくるが、気のせいに違いない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...