拝啓、無人島でスローライフはじめました

うみ

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23.なにがやばいのかというとやばいんです

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 十一日目――。
 海水パンツに白いシャツ、そしてサンダルを履いた姿で砂浜に繰り出す。サンダルは昨日のどんどこどーんガチャで引いたものだ。
 サンダルより帽子が欲しかったところだけど、ガチャは選べないからね。仕方ない。
 晴天の中、砂浜となると遮るものが何もなく太陽光にやられそうになる。
 しかし、こいつを見てくれ、諸君。
 麻を編んで作った帽子だよ。パックとニーナの分も作ったのさ。
 いつの間にと思うかもしれない。昨日、高台から帰還する際に麻も狩り集めててね、クラフトの特性を使えば即作成かのうだろ?
 そんなわけで、帽子があるってわけさ。
 麦わら帽子のように鍔の広いものにしている。熱中症を避けるためのものだからね。
 
「くああ」
「釣ればすぐ釣れるから、焦らなくても大丈夫だよ」

 パックったら、そんなにお腹が空いているのか。
 嘴をあげて必死に叫んじゃってもう。

「くあ!」

 焦るなってば、もう。
 え、えええ!
 大きな岩が飛んでくるじゃないかよ!
 ドシーン!
 
 ゴロゴロと転がって岩を間一髪で避けた。
 パックが叫んでいたのは岩の危険を伝えたかったからか。

「ニーナ! 危ないだろ!」
「『海の家』というのを作るのですよね?」
「作るとは言ったけど、突然、岩を投げるのはやめてくれ!」
「……あ、ビャクヤさんも泳ぎます?」

 海から顔だけを出したニーナが取り繕ったような笑顔を浮かべ、僕を誘う。
 それにしても……大きいよな、この岩。
 先日、小屋の前に運び込んだ岩と同じくらいのサイズかな。これ。
 当たると一発であの世逝きなのは確実である。
 純白に海の青が混じった岩はやはり美しい。この海岸には宝石のような岩がわんさか転がっているのだろうか。
 実は宝石の島だったとか?
 絶海の孤島に住む僕たちにとっては、宝石のような岩でもそうじゃなくても価値はそれほど変わらない。住環境を整えるためという観点だったらね。
 外と取引をするとなると話は別だけど、取引相手なんていないし。
 人魚たちとならニーナを通じて取引はできそうだけど、岩なら海中に転がっているわけで、彼女らなら自由に採取できる。
 なので、岩に関しては特別な価値はないのだ。綺麗だけどね。
 
 せっかくだし、柱にでも加工しちゃうかな?

「あんちゃん、島が移動したわけだろ」
「うん。あ……」

 いつの間にか人間の姿になったパックに声をかけられたのはいいが、クラフトを行おうと岩に手をかざしたところだった。
 島の移動というキーワードでレバーを想像してしまって、高台にあったレバーと同じような円柱が出来上がってしまう。

「そうそれ。あんちゃん、再現率たっけえな」
「は、はは」
「これでも動くかな?」
「やってみようか」

 冗談交じりに切れ目の上側をつっついてみたら、少しだけ折れ曲がった。
 ゴゴゴゴゴゴ。
 地鳴りのような音がして、僅か、ほんの僅かだけど確実に海岸線が動いた!
 慌ててレバーを元の位置に戻す。
 すると、地鳴りがやんで、海岸線の動きが止まる。

「び、びっくりした……」
「すげえや、あんちゃん!」

 コロコロと喜ぶパックとは対照的に僕は青い顔で円柱ことレバーを見やる。
 レバーを複製できるなんて思ってもみなかった。どんな仕組みなのか、考えても仕方ないか。
 海岸でレバーの操作をできたほうが島の様子を確かめやすい。全体を見渡すことができないけど、高台だと距離があり過ぎて双眼鏡がないと辛いんだよな。
 どちらで島を移動させるにしても痛し痒しである。
 
 ピシャっと水面が動き、ヒレ姿のニーナが海面から姿を現した。
 ニーナはイルカショーのように宙に浮いている。
 おお、跳ねるねえ。
 なんて呑気に眺めていたけど、彼女はそうじゃなかった。
 もう一度水面から跳ねたニーナは、波打ち際に着地すると涙目でこちらに顔を向ける。
 
「ビャクヤさんんん! やばいです。なにがやばいのかというとやばいんですうう!」
「落ち着け。ヒレで跳ねると転ぶからそこで変化だ」
「はいいい」
 
 と言いつつニーナが盛大に前のめりに転ぶ。
 言わんこっちゃない。
 彼女に手を差し伸べ、引っ張り上げる。
 そこでようやく彼女はヒレから脚に変化させた。
 スカートは彼女の持ってきた籠の中だったっけか。
 
「ビャクヤさあああん! うわああん」
「ぐ、力、力強い」
「ぎゅううっとしてださいいい」
「ぎゅうっとされたいんだろお、ぎゅうっとするんじゃな、い、痛い……」

 抱きしめてくるのはよいのだけど、強すぎ、強すぎだろ。
 ヒレ状態じゃなくてよかった。もし、大岩を投げ飛ばすパワーで鯖折されていたら、今頃三途の川だな。
 
「一体どうしたんだ?」
「ぎゅ……してくれないんですね」
「腕が動かないから、したくてもできない」
「はわわ。すいませんです。つい」

 やっと解放された。
 ふう、一歩間違ったら大怪我していたところだぞ。
 だというのに、ニーナは口元をぎゅっとさせて涙目のまま僕を見上げている。
 分かった。分かったよ。
 彼女の頭に手をのせ、薄紫の艶やかな髪をくしゃっとさせた。
 
「落ち着いたか?」
「はい。ビャクヤさん。やばいんです。なにがやばいのかというとやばいんです」
「まるで分らん……。何が起こったんだ?」
「海底が動いたんです」
「さっき動かしたんだよ」
「そ、そうだったんですかー! やる前に教えて欲しかったですう」

 慌てて止めたんだけど、確かに彼女の言う通りだ。
 突然海底が動いたら、危ないったらありゃしないよな。

「それなんだよ、あんちゃん!」
「ん?」
 
 唐突にパックが叫ぶ。
 彼は鼻の頭を指でさすり、言葉を続ける。

「さっき聞こうとしたら、島が動いて聞きそびれちゃったんだ!」
「海底のこと?」
「うん。ほらさ。島が動くのは見れば分かるだろ。だけどさ。下はどうなってんだってさ」
「確かに。僕も気になる」

 島が動く。
 動くことは紛れもない事実なので、疑問を挟む余地はない。
 この目で見て、実際に動いているのだから「島が動く」ことは明らかである。
 動くのは分かった。
 でも、島というのは地面が隆起して海より上に顔を出した陸地だろ。
 船だと海の上に浮かんでいるから、動いても海の中に影響はない。
 島はそうじゃあないんだ。
 しっかりと大地にくっついている島の海面下では何が起こっているんだろう?
 陸ごとずずずずっと動くのか、それとも上部が浮かんで船のように動くのか。
 どっちなのだろう?
 動き方によって、海の中に与える影響度がかなり変わる。
 
 ポンとニーナの肩へ両手を添えた。
 
「ニーナ」
「はいい」
「海底を見てきてくれないか? ニーナから離れるように島を動かしてみるから」
「わ、わたしが一人でですかあ。ビャクヤさんも一緒がいいですう」

 そうは言ってもだな。僕は海中で呼吸ができないし。
 どうしたものか。このままニーナ単独で行ってもらうように説得するか、それとも。
 悩む僕にニーナが意外な提案をしてくる。
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