凄腕の探索者? いいえ、ただの釣り人です~ゲームに似た異世界に転移したが、ただの素材集めキャラなのでのらりくらりと過ごそうと思います~

うみ

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第55話 無理が通れば道理は引っ込む

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「あれは無理だ。無理だ。無理、無理」
「怖かったですう」
 予想は当たった。当たったんだ。竜神ウリドラは封印されていた滝の裏へ戻ってきた。
 色々動き回っていてもあくまで奴の拠点は滝の裏だと確信した……のはいいのだが、別の問題が発生したんだよね。
 竜人ウリドラが入ってきた途端、背筋が泡立ち、毛穴という毛穴から変な汗が出た。
 即エアリアルボヤージを唱えて脱出しようとしたが、欠片ほど残っている知性で思いとどまり、ゲートに切り替える。
 奴の気配が迫ってくる前に扉をくぐりホームへ逃げ帰ったというわけさ。
「あれと向かい合って逃げ出さない騎士団って凄すぎるわ」
「貫禄が違いましたね」
 気配だけでもう立ち向かおうとする気力を根こそぎ持って行かれた。ペペぺから見たらネームドってこれほどやばいモンスターだったんだな。
 ゲーム時代はモンスターに恐怖を感じることなんてなかったんだけど、現実になるとそうじゃないって分かったことは収穫だ。
「今後も動き回り、村や街を恐怖に陥れるんだよな……」
「災害とあきらめるしかないですよね」
「長期間その場にとどまることがない、って分かっただけでも収穫だよな」
「ウリドラってブレスや竜巻を出したりするんでしょうか……」
「うん……」
「……」 
 たらりと冷や汗を流しアーニーと顔を見合わせる。
 リヴァイアサンは水流ブレスを吐き出すのだけど、ウリドラももちろん同じ水流ブレスを使うことができるのだ。
 しかしだな、水流ブレスは海にいなきゃ使うことができない。つまり、地上で戦うのなら水流ブレスを恐れることはない。
 思い出して欲しい、ウリドラの封印されていた場所を。滝の裏は洞窟で、水中じゃあない。
 なので、ウリドラは滝の裏の洞窟じゃ水流ブレスを使うことができないので、楽に戦うことが……できるわけないんだよな、これが。
 ネームドはそんなに甘くはない。中には近接物理しか使わないネームドもいるのだが、とんでもない攻撃力を持ち、体力もバカ高い。
 ウリドラは近接物理のみのネームドに比べれれば、近接攻撃も体力もかなり落ちる。
 その代わり奴は風の刃を使うことができるんだ。こいつが強力でな、ぺぺぺじゃ耐えることも躱すこともできん。
「……という感じなんだよ。ウリドラの攻撃方法は」
「怖すぎですね……。一つ気になることがあります!」
「お、何か気が付いたの?」
「滝の裏の洞窟にいるウリドラが水流ブレスを使うってどうやって分かったんですか?」
「あー、それは集団でウリドラを狩る時に滝へ追い立てて落とすんだよ。水場にいると風の刃を使ってこないから戦いやすくなるんだ」
「おおー!」
 一撃の威力は水流ブレスの方が二倍ほど強いから、それはそれで厄介なのだけどね。
 それに水の上や水中だとこちらの動きが鈍くなるので、地上で戦う時と一長一短がある。
 個人的には地上でやる方が好みかな。
「思うところは色々あるけど、食事にでもしようか」
「はい! あ、ハミルさんからメッセージです」
「ハミルトンからだと緊急かも」
「ま、まずいです……街にウリドラが!」
「……」
「…………」
 無言で顔を見合わせても何の解決にもならないのだが、言葉が出ない。
 街の被害がないことを願うことしか……いや、でも。
「ポーションを提供するくらいならできるよな」
「はい! ごめんなさい、わたし、ポーションは持ってなくて」
「ポーションのことは気にしないで。インベントリーの肥しになっていて、納まりきらないほどだから」
 使う予定もないのにポーションとなるとなんだかもったいなくて保管しちゃっているんだよね。
 特に傷を癒すポーション。こいつがあってインベントリーを何個増設したことか。状態異常系も同じくだわ。
 例外は魔力回復系のポーションで、魔法使いのシュークリームだけじゃなく戦士のチーズポテトもよく使う。
 今回必要なのは傷を癒すポーションだから、もうじゃんじゃん使ってくれておっけーなのである。
「大量のポーションを運ぶために台車とリュックが欲しいな。あったかなあ」
 困った時はメインインベントリーを見るに限る。
 メインインベントリーに触れ、アイテムのリストを出してっと。
「てんちょお、何を探しているんですか?」
「ポーションを運ぶものを探している」
「ありましたかー?」
「んーと、俺が撃退できりゃ、ポーションもリュックに入るくらいでいいんだけど……無いものねだりしても仕方ない」
 キャラクターチェンジでシュークリームに代われば、現実世界であろうとも追い払うだけならできなくはない。
 その時視界が急に変わる。
 
「え、あれ、ここどこ?」
 どこにいるのかはすぐに分かった。ここはホームの二階で俺はベッドに寝ている。
 俺、転移魔法なんて唱えた覚えはないんだけど、気を失ってしまってアーニーが運んでくれたのかな? ああ見えて、彼女は結構な力持ちなのかも?
 なんせ、大の男を運ぶことができるんだもの。魔法を使ったのかもしれないけど……。
「てんちょお、てんちょおおおお」
 おや、階下からアーニーの声が聞こえる。彼女の声は酷く狼狽してただ事じゃない様子だ。
 何事だと思い、急ぎ階下へ。
「アーニー! どうした?」
「あ、あ、あ!」
 アーニーが飛びついてきて、ぎゅうっと俺を抱きしめる。
 彼女は何ともなってなくてよかった、とホッとするとともに強烈な違和感に身を震わせた。
 先ほど、俺が出した声、おかしい。
「アーニー、何が?」
「あ、あう、あう、うえええん」
 あ、あかん、彼女が何ともなってないってことはなかった。今度は大泣きしてしまったぞ。
 俺は俺で自分の体が何かおかしい、確かめたいのだが、この状態じゃどうしようもできん。
 そして、やっぱり自分の声がおかしいんだってば! おかしいことだらけで、もう何が何やら。
「すまん、アーニー、俺の声、おかしくない?」
「あ、あれ、てんちょお?」
 そこ何で疑問符なの?
 ん、ん。待て待て、本当に待て。情報を整理させてくれ。
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