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許さなくていいんだ
アイナ。
どうして、こんな姿に? いや、そもそもどうしてここに?
事態が呑み込めなくて、私は困惑する。
そんな私に、アイナはじりじりと近寄ってくる。
いや、引きずっているんだ。足を。
ぞくり、と背筋が凍る。
「アイナ、あなた一体何があったの?」
「は? 知らないワケないでしょ」
「な、なにが?」
歪み顔に、憎悪。私は恐怖にとらわれてしまう。
「辺境伯よ。私をこうしたのは、辺境伯なのよ」
辺境伯が、こんな!?
どういうこと? まさか、こんな痛めつけることが、彼の趣味?
まさか、そんな。
私が大きく動揺していると、アイナは嗤う。
怖い。
心が死んだ笑顔だ。
「私が地獄のような苦痛を味わっている間、あんたはとっても幸せだったみたいね? どう? 私を犠牲にして得た幸せは」
「犠牲って……」
まさかこんな目に遭っているとは思っていなかった。
確かに辺境伯は、義妹に奪われることを想定していた。
でも、それは私が個人的に好みと合わないと思ったからだ。私は農作業がしたかったのもあるし、派手な生活は好みじゃないのだ。
でも、でもまさか。
こんな目にあっているなんて。
すぐに助けないと。
「今はいいわ。話は後よ。すぐに治療を!」
「いらないわ」
「……え?」
「私は、ただ復讐がしたいだけ」
ひゅー、と、不気味な呼吸音。
アイナはその手に、血塗れのナイフを握っていた。ぞくり。
「辺境伯は殺したわ。もう何日経つかしらね。今頃領内は大騒ぎよ」
情報が伝達してこないのは、何らかの事情があるからか。
たぶん、暗殺を心配してのことだろうけれど。
いや、今はそれよりも。
「それでも、アイナ。あなたを助ける方が――」
「そんな姉ぶらなくていいから」
アイナがずりずりと近づいてくる。
「私は幸せが欲しかった。幸せをずっとその身に浴び続ける存在だから。ずっとキラキラしていたいから。だから、幸せを掴むのが上手なあんたから幸せを奪えばよかった」
なんだ、なんだ、この闇は。
私は後ずさりする。けど、逃げられない。
「今回もそうだった。私はあなたから最上級の幸せを奪えて、私は幸せのまま生きるはずだった。それなのに、それなのにっ!」
潰れた声で、アイナは叫ぶ。
「どうして私は不幸なの? 私の幸福の栄養源でしかないあんたが、なんでそんな幸せそうなの? 意味が分かんない。だから私は理解したの。あんただ。あんたが私をハメたんだって」
「アイナっ……!」
「私をこんな目にあわせて楽しい? 最悪だね、あんた最悪だよ。こんな可愛くて愛しくて、誰よりも何よりも愛されるべき私を、こんな目にあわせて楽しいなんて、あんた最悪だよ」
歪んでいる。
ドス黒く歪んでいる。
昔からそうだったけれど、一気にそれが濃縮されている。
「あんたは不幸になればいいの。私に幸せを吸い取られて、地面を這いつくばっていればよかったのに、自分の幸せなんて追求しちゃって、自分だけ幸せになればいいだなんて!」
「アイナ、落ち着いて! あなた!」
「うるさい。うるさいうるさいうるさい。幸せなんて私だけでいいの、すべての幸せは私にだけやってこればいいの。あんたなんて、あんたなんてっ!」
アイナが倒れそうになった瞬間、足が踏ん張って走り出す。
まずい。刺される!
私は逃げようとするが、足がすくんで動けなかった。
「アイナっ!」
チル伯爵の切迫した声。
瞬間、アイナは彼のタックルを受けて真横に吹き飛ばされた。
小さい悲鳴を上げて、地面を転がる。
「また、またわたしをじめんにたおしてっ!」
アイナが憎悪を向ける。
だが、今ので足をやられたか、起き上がれない様子だ。
なんという憎しみ。
「死ね、死ねばいい。命を弄んでいいのも、私だけなの。私がすることは全部正しいの。愛なの。だから領民を弄んで殺しても、子供の目の前で夫婦を惨殺しても、何しても許されるの、許されてきたの!」
「ア、アイナ……?」
この義妹は、私の知らないところでなんてことをしていたの?
怒りと悲しみが同時にやってくる。
この義妹は、人間じゃあない。
やってはいけないことをやって、持ってはいけない考えを持って。
だからか。
だから辺境伯はあっさりと私よりアイナに鞍替えしたんだ。
彼女になら、何をしても大丈夫だって。
そんな行き過ぎた独善と、おぞましい己の心を満たすために。
怖い。
なんて、怖い。
「私が、私があああっ! うぐっ!」
ただ叫ぶアイナに、チル伯爵が一撃を加えて昏倒させる。
チル伯爵は不気味そうな表情を浮かべながらも、すぐに衛兵を呼び寄せて彼女を連行していく。
その間、私はチル伯爵に抱き着くしかできなかった。
私は、私は。
どうして、こんな姿に? いや、そもそもどうしてここに?
事態が呑み込めなくて、私は困惑する。
そんな私に、アイナはじりじりと近寄ってくる。
いや、引きずっているんだ。足を。
ぞくり、と背筋が凍る。
「アイナ、あなた一体何があったの?」
「は? 知らないワケないでしょ」
「な、なにが?」
歪み顔に、憎悪。私は恐怖にとらわれてしまう。
「辺境伯よ。私をこうしたのは、辺境伯なのよ」
辺境伯が、こんな!?
どういうこと? まさか、こんな痛めつけることが、彼の趣味?
まさか、そんな。
私が大きく動揺していると、アイナは嗤う。
怖い。
心が死んだ笑顔だ。
「私が地獄のような苦痛を味わっている間、あんたはとっても幸せだったみたいね? どう? 私を犠牲にして得た幸せは」
「犠牲って……」
まさかこんな目に遭っているとは思っていなかった。
確かに辺境伯は、義妹に奪われることを想定していた。
でも、それは私が個人的に好みと合わないと思ったからだ。私は農作業がしたかったのもあるし、派手な生活は好みじゃないのだ。
でも、でもまさか。
こんな目にあっているなんて。
すぐに助けないと。
「今はいいわ。話は後よ。すぐに治療を!」
「いらないわ」
「……え?」
「私は、ただ復讐がしたいだけ」
ひゅー、と、不気味な呼吸音。
アイナはその手に、血塗れのナイフを握っていた。ぞくり。
「辺境伯は殺したわ。もう何日経つかしらね。今頃領内は大騒ぎよ」
情報が伝達してこないのは、何らかの事情があるからか。
たぶん、暗殺を心配してのことだろうけれど。
いや、今はそれよりも。
「それでも、アイナ。あなたを助ける方が――」
「そんな姉ぶらなくていいから」
アイナがずりずりと近づいてくる。
「私は幸せが欲しかった。幸せをずっとその身に浴び続ける存在だから。ずっとキラキラしていたいから。だから、幸せを掴むのが上手なあんたから幸せを奪えばよかった」
なんだ、なんだ、この闇は。
私は後ずさりする。けど、逃げられない。
「今回もそうだった。私はあなたから最上級の幸せを奪えて、私は幸せのまま生きるはずだった。それなのに、それなのにっ!」
潰れた声で、アイナは叫ぶ。
「どうして私は不幸なの? 私の幸福の栄養源でしかないあんたが、なんでそんな幸せそうなの? 意味が分かんない。だから私は理解したの。あんただ。あんたが私をハメたんだって」
「アイナっ……!」
「私をこんな目にあわせて楽しい? 最悪だね、あんた最悪だよ。こんな可愛くて愛しくて、誰よりも何よりも愛されるべき私を、こんな目にあわせて楽しいなんて、あんた最悪だよ」
歪んでいる。
ドス黒く歪んでいる。
昔からそうだったけれど、一気にそれが濃縮されている。
「あんたは不幸になればいいの。私に幸せを吸い取られて、地面を這いつくばっていればよかったのに、自分の幸せなんて追求しちゃって、自分だけ幸せになればいいだなんて!」
「アイナ、落ち着いて! あなた!」
「うるさい。うるさいうるさいうるさい。幸せなんて私だけでいいの、すべての幸せは私にだけやってこればいいの。あんたなんて、あんたなんてっ!」
アイナが倒れそうになった瞬間、足が踏ん張って走り出す。
まずい。刺される!
私は逃げようとするが、足がすくんで動けなかった。
「アイナっ!」
チル伯爵の切迫した声。
瞬間、アイナは彼のタックルを受けて真横に吹き飛ばされた。
小さい悲鳴を上げて、地面を転がる。
「また、またわたしをじめんにたおしてっ!」
アイナが憎悪を向ける。
だが、今ので足をやられたか、起き上がれない様子だ。
なんという憎しみ。
「死ね、死ねばいい。命を弄んでいいのも、私だけなの。私がすることは全部正しいの。愛なの。だから領民を弄んで殺しても、子供の目の前で夫婦を惨殺しても、何しても許されるの、許されてきたの!」
「ア、アイナ……?」
この義妹は、私の知らないところでなんてことをしていたの?
怒りと悲しみが同時にやってくる。
この義妹は、人間じゃあない。
やってはいけないことをやって、持ってはいけない考えを持って。
だからか。
だから辺境伯はあっさりと私よりアイナに鞍替えしたんだ。
彼女になら、何をしても大丈夫だって。
そんな行き過ぎた独善と、おぞましい己の心を満たすために。
怖い。
なんて、怖い。
「私が、私があああっ! うぐっ!」
ただ叫ぶアイナに、チル伯爵が一撃を加えて昏倒させる。
チル伯爵は不気味そうな表情を浮かべながらも、すぐに衛兵を呼び寄せて彼女を連行していく。
その間、私はチル伯爵に抱き着くしかできなかった。
私は、私は。
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