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砂の楽園③ 神話
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「って訳で、だいぶ『穴』が大きくなってるんじゃないかな?なにせ、今月三回目だし…」
「はぁん。……で?憑かれてたのは一人だけなんだな?」
六時間目の授業中。
さんさんと光が降り注ぐ初夏の太陽の下、三人は校舎の屋上へ集まって、先刻の件について話し合っていた。
もちろん授業はさぼっている訳だが、彼らの持つある『特殊な能力』によって、彼らが教室に居ないことは生徒はおろか先生にすら気付かれてはいない。
「ああ。一人だけだよ。他の奴には気配がなかった」
「下霊だったんじゃねえの?」
「ちげえよ。下級のやつだけど、羅刹だった……本当だって!!」
『誰も嘘だなんて言ってねえだろ』と口では言いつつも、どこか馬鹿にした目付きで見下ろす聖に、むっとした大輔が突っかかる。
喧嘩するほど仲が良いというが、この二人はその典型的な見本だ。
顔を合わせるとど突き合いの喧嘩を始めるくせに、いないと妙に寂しがってしまう。いいコンビなのだが周りからすれば、単にはた迷惑なだけであった。
「青竜か……」
終始黙っていた透が、東の方向を見つめながら呟いた。
「封印の力が弱くなっている事は、百年も前から解っていた。おそらく、もうすぐ…破られるだろう、な」
神話の時代。
神に背いた悪神がいた。彼は、神の造りし世界を蹂躙し、思うがままに支配した。しかも悪神はそれだけには飽き足らず、『神の庭』と呼ばれるもう一つの世界、この『人界』までも侵そうとしたのだ。
そうと気付いた神は、彼の邪心を抑えるために、『四匹の獣』を遣わした。そしてその聖なる四匹の獣は彼と戦い、眷族ともども悪神を世界の果てへ追い詰め、二度と人界に手出しできぬよう四つの門で封印したのである。
その後、四匹の獣は、封印の守護者として人界へ降り立った。
天より来たる四匹の聖獣……その名を『玄武』『白虎』『朱雀』『青竜』という。
そうして世界の封印を任された四聖獣は、人界で生きるための『肉体』を神から与えられた。もともとは精神生命体の彼らであるが、封印を密かに監視し守護するためには、人達の間に紛れ潜む必要があったのだ。
『楽園』の住人である人間達に、異なる世界の存在を気付かれぬために。
だが、ここにひとつの問題があった。
彼ら四人の魂は、それ自体が封印の『鍵』なのである。彼らの魂が四つ揃って現世にあることこそが、つまり封印の持続に直結する。しかし、彼らに与えられた肉体には、絶対に越えられない限界があったのだ。
血の通った『物質』である以上、いつか必ず訪れる運命─────『死』である。
そこで神は彼らのために、特殊な転生サイクルを用意した。
通常、人の魂は器である人間の体を、百年から数百年に一度得て現世に転生する。
しかし彼ら四人の魂だけは、二十~四十年で次の身体を転生させる事ができたのだ。その転生の間隔はおよそ一世代置き。つまり結果として、前世と後世が同時期に存在する事になるのである。
前世の存命中に生まれた後世は、最初『記憶』も封印の『神霊力』も持ってはいない。
それゆえ前世は、後世の自分が封印に充分耐えうる年───十才の誕生日を迎えてから、記憶と神霊力と『隠名』としての本名を、後世へ譲り渡すのだ。
そうして数千年もの間、封印を守護し続けてきた彼らだったが、いつの頃からか突然、それまで正確だった転生サイクルに狂いが生じてきたのである。
四人はいつも常に同年齢で転生してきた。だがある時を境に一年、二年と、年齢が離れ始め……いまやその年齢差は、封印にまで影響を及ぼすまでになっていた。
「青龍は限界だ。なのに青龍の姫はまだ……」
「あと二ヶ月で十才だろ。じいさん、なんとかもってくんないかな」
『玄武』透、『白虎』聖、『朱雀』大輔。
この三人はどうにか大差なく転生し、前世から使命と神霊力とを無事引き継いだ。だが、ただ一人『青龍』の転生だけは大幅に遅れてしまい、いまだ封印に耐えられる年齢を迎えていない。
であるから現在も『前世』である青龍が、高齢に鞭打って『門』の封印を続けているのだ。
「はぁん。……で?憑かれてたのは一人だけなんだな?」
六時間目の授業中。
さんさんと光が降り注ぐ初夏の太陽の下、三人は校舎の屋上へ集まって、先刻の件について話し合っていた。
もちろん授業はさぼっている訳だが、彼らの持つある『特殊な能力』によって、彼らが教室に居ないことは生徒はおろか先生にすら気付かれてはいない。
「ああ。一人だけだよ。他の奴には気配がなかった」
「下霊だったんじゃねえの?」
「ちげえよ。下級のやつだけど、羅刹だった……本当だって!!」
『誰も嘘だなんて言ってねえだろ』と口では言いつつも、どこか馬鹿にした目付きで見下ろす聖に、むっとした大輔が突っかかる。
喧嘩するほど仲が良いというが、この二人はその典型的な見本だ。
顔を合わせるとど突き合いの喧嘩を始めるくせに、いないと妙に寂しがってしまう。いいコンビなのだが周りからすれば、単にはた迷惑なだけであった。
「青竜か……」
終始黙っていた透が、東の方向を見つめながら呟いた。
「封印の力が弱くなっている事は、百年も前から解っていた。おそらく、もうすぐ…破られるだろう、な」
神話の時代。
神に背いた悪神がいた。彼は、神の造りし世界を蹂躙し、思うがままに支配した。しかも悪神はそれだけには飽き足らず、『神の庭』と呼ばれるもう一つの世界、この『人界』までも侵そうとしたのだ。
そうと気付いた神は、彼の邪心を抑えるために、『四匹の獣』を遣わした。そしてその聖なる四匹の獣は彼と戦い、眷族ともども悪神を世界の果てへ追い詰め、二度と人界に手出しできぬよう四つの門で封印したのである。
その後、四匹の獣は、封印の守護者として人界へ降り立った。
天より来たる四匹の聖獣……その名を『玄武』『白虎』『朱雀』『青竜』という。
そうして世界の封印を任された四聖獣は、人界で生きるための『肉体』を神から与えられた。もともとは精神生命体の彼らであるが、封印を密かに監視し守護するためには、人達の間に紛れ潜む必要があったのだ。
『楽園』の住人である人間達に、異なる世界の存在を気付かれぬために。
だが、ここにひとつの問題があった。
彼ら四人の魂は、それ自体が封印の『鍵』なのである。彼らの魂が四つ揃って現世にあることこそが、つまり封印の持続に直結する。しかし、彼らに与えられた肉体には、絶対に越えられない限界があったのだ。
血の通った『物質』である以上、いつか必ず訪れる運命─────『死』である。
そこで神は彼らのために、特殊な転生サイクルを用意した。
通常、人の魂は器である人間の体を、百年から数百年に一度得て現世に転生する。
しかし彼ら四人の魂だけは、二十~四十年で次の身体を転生させる事ができたのだ。その転生の間隔はおよそ一世代置き。つまり結果として、前世と後世が同時期に存在する事になるのである。
前世の存命中に生まれた後世は、最初『記憶』も封印の『神霊力』も持ってはいない。
それゆえ前世は、後世の自分が封印に充分耐えうる年───十才の誕生日を迎えてから、記憶と神霊力と『隠名』としての本名を、後世へ譲り渡すのだ。
そうして数千年もの間、封印を守護し続けてきた彼らだったが、いつの頃からか突然、それまで正確だった転生サイクルに狂いが生じてきたのである。
四人はいつも常に同年齢で転生してきた。だがある時を境に一年、二年と、年齢が離れ始め……いまやその年齢差は、封印にまで影響を及ぼすまでになっていた。
「青龍は限界だ。なのに青龍の姫はまだ……」
「あと二ヶ月で十才だろ。じいさん、なんとかもってくんないかな」
『玄武』透、『白虎』聖、『朱雀』大輔。
この三人はどうにか大差なく転生し、前世から使命と神霊力とを無事引き継いだ。だが、ただ一人『青龍』の転生だけは大幅に遅れてしまい、いまだ封印に耐えられる年齢を迎えていない。
であるから現在も『前世』である青龍が、高齢に鞭打って『門』の封印を続けているのだ。
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