螺旋 ~命の音楽~

 悪夢だ。これは悪い夢に違いない。

 嘘みたいだ。ほんの今朝まで、いつもと同じ日常が僕を包んでいてくれたのに。

 いつものように起きて、いつものように顔を洗って、学校へ来て、友達と話して、授業を……ああ。夢なら早く醒めてほしい。これが本当に夢ならば。

 血。真っ赤な血。
鉄臭い匂い。むせかえるほど。

 嘘みたいだ。こんなこと。誰か、誰か嘘だって言ってよ。
 目の前の光景が信じられずにいると、また一人、二人と、クラスメイトが倒れて動かなくなった。じわりとその体のまわりに血溜まりができる。そしてもう、ぴくりともしない。

 ああ、僕も死ぬのだ。あんなふうに。

 ─────怖い。

 思った瞬間、電気が走るように恐怖が涌き起こってきた。いやだ。嫌だ。イヤだ。死ぬのは怖い。死ぬのは嫌。一人はいや。一人きりで歩くのはいや。

 もう独りぽっちになりたくない。

「ーーーーーーーーっ!!」
 誰かの名を呼ぼうとして口を開ける。舌は張り付いて、まるで言う事をきかない。体も動かない。逃げ出したいのに、机の下から一歩も動けない。

 助けて。助けて。こんなのは嫌だ。やっと見つけたのに。

 イヤな音がした。僕の真上から。天井だ。落ちる。落ちてくる。僕の上へ。きっともうすぐ。

 僕は叫んだ。狂ったように叫び続けた。なにか言っていたような気もする。だけど体はやっぱり動かない。誰かが僕の名を呼んだような気がした。振り返ろうとして……。

 気が付くと、目の前は真っ暗だった。
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