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砂の楽園④ 学園
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「あ~あ。こんなことならさ、いっそ不老不死にしてくれりゃ問題なかったのに」
不満そうにぼやいた大輔へ、ここぞとばかりに聖が突っ込みをいれる。
「阿呆。不老不死なんて物がこの世に存在したら、それだけで人間にとって毒なんだ。んな、ありもしねーもんを求めたばっかりに、いくつの国と人間達が滅んだと思ってんだ?」
人間の歴史に不干渉でいるためには、なるべく『特別』な部分を隠す必要があった。
そう、あくまでも彼らは『普通』の人間でなくてはならなかった。なぜなら『特別』な物は、それだけで時に人を狂わせ、国を滅ぼす力となるからだ。
「ちぇっ~、わかってるよ。冗談だって」
『神霊力』は完璧に隠す事ができる。しかし話が不老不死となると、それを知られずに生きるのはおそらく無理だった。
何年、何百年と姿の変わらないその異常さは、どれほど細かく気を付けていても、いずれ周囲の人間に知れ渡ることになるだろう。
「ちょっと言ってみただけなのに……本気で怒ることねーじゃん。聖の怒りんぼ」
「なにまだブツブツ言ってやがんだ?俺にぶん殴られて病院行きてえのか?……って、あ、そうだ」
自分で言った言葉に何か思い当たったのか、聖はまだ不満そうな大輔を無視すると、透に向かって話しかけた。
「龍二、今日来てるんだろ?今朝見たんだけど、ずいぶん顔色良かったぜ」
あまりにも唐突な話題転換に、さすがの透も少々面食らってしまう。
「あ、なんだ。退院してたんだ?龍二。教えてくれりゃ良いのに。そしたらパーっとお祝いでもしたのにさ」
「うるせーな。ご馳走目当ての馬鹿は黙ってろっての」
「なっ…!?そんなんじゃねーよ!俺は純粋に龍二のことを思ってだなあ…そーゆー聖こそ……」
「俺がなんだって?ああん?」
自分を無視して口喧嘩を始めた二人に、黙ったまま透は切れ長の瞳で睨みをきかせた。途端に気まずそうな顔で黙り込む二人。
「……突然なにを言い出すかと思えば。龍二の入退院はいつもの事だろう?それに、今回はどこが悪かった訳でもなくて、ただの検査入院だ。いちいち報告する理由もないし、その必要もない」
聖が口にした『龍二』とは、透の大切な現世における『弟』の名前である。
龍二は透や聖とは五つ違いの小学六年生で、彼らの通うこの学園の小学部に通っていた、
黒髪、黒瞳、白い肌、日本人離れした恐ろしく綺麗な顔の美少年だ。
ただ先刻の会話にもある通り、生まれつきかなりの虚弱体質で、それこそ日常的に病院への入退院を余儀なくされていた。正確に計算した事こそなかったが、おそらく一年の内半分は、白い病室の中で過ごしているだろう。
そんな不幸な境遇にもめげない素直で明るい弟を、物事に対する執着心の極めて薄い透が、なにより大切にしていることを、聖も大輔もとても良く知っていた。
もちろん、弟のことを語る時の彼の冷淡さや、一見してそっけないその態度が、すべて照れ隠しであると言うことも。
「い、いやさ、念のためなんだけど、龍二、こっちに連れてきといた方が良くね~かな~と思ってさ。マジな話、俺、なんか今日は嫌な予感がすんだよ」
「……そうだな。もうあと三十分くらいだが、こちらに連れて来るか」
言葉の途中から真剣な表情になった聖を見て、透も思うところがあるのか頷いてそう言った。そして、さっそく担当教師へ連絡しようと、携帯を手に透が腰を浮かせて立ち上がりかけると、
「あ。待て待て。俺が迎えに行ってやるよ!お前は座って待ってな!!」
どういうつもりかそれを制して聖は自分が立ち上がり、透が何か口にする前にさっさと屋上のドアをくぐっていた。
「……おかしなことがあるものだな。普段は俺が龍二に甘いのなんのと文句をつける聖が」
「あ、なんかさ、小等部に将来有望な可愛い転校生が来たって言ってたぜ。この前」
「……………」
携帯を操作しながら、透は呆れたため息を付く。
風間聖……やはり、ティッシュよりも軽い男であった。
不満そうにぼやいた大輔へ、ここぞとばかりに聖が突っ込みをいれる。
「阿呆。不老不死なんて物がこの世に存在したら、それだけで人間にとって毒なんだ。んな、ありもしねーもんを求めたばっかりに、いくつの国と人間達が滅んだと思ってんだ?」
人間の歴史に不干渉でいるためには、なるべく『特別』な部分を隠す必要があった。
そう、あくまでも彼らは『普通』の人間でなくてはならなかった。なぜなら『特別』な物は、それだけで時に人を狂わせ、国を滅ぼす力となるからだ。
「ちぇっ~、わかってるよ。冗談だって」
『神霊力』は完璧に隠す事ができる。しかし話が不老不死となると、それを知られずに生きるのはおそらく無理だった。
何年、何百年と姿の変わらないその異常さは、どれほど細かく気を付けていても、いずれ周囲の人間に知れ渡ることになるだろう。
「ちょっと言ってみただけなのに……本気で怒ることねーじゃん。聖の怒りんぼ」
「なにまだブツブツ言ってやがんだ?俺にぶん殴られて病院行きてえのか?……って、あ、そうだ」
自分で言った言葉に何か思い当たったのか、聖はまだ不満そうな大輔を無視すると、透に向かって話しかけた。
「龍二、今日来てるんだろ?今朝見たんだけど、ずいぶん顔色良かったぜ」
あまりにも唐突な話題転換に、さすがの透も少々面食らってしまう。
「あ、なんだ。退院してたんだ?龍二。教えてくれりゃ良いのに。そしたらパーっとお祝いでもしたのにさ」
「うるせーな。ご馳走目当ての馬鹿は黙ってろっての」
「なっ…!?そんなんじゃねーよ!俺は純粋に龍二のことを思ってだなあ…そーゆー聖こそ……」
「俺がなんだって?ああん?」
自分を無視して口喧嘩を始めた二人に、黙ったまま透は切れ長の瞳で睨みをきかせた。途端に気まずそうな顔で黙り込む二人。
「……突然なにを言い出すかと思えば。龍二の入退院はいつもの事だろう?それに、今回はどこが悪かった訳でもなくて、ただの検査入院だ。いちいち報告する理由もないし、その必要もない」
聖が口にした『龍二』とは、透の大切な現世における『弟』の名前である。
龍二は透や聖とは五つ違いの小学六年生で、彼らの通うこの学園の小学部に通っていた、
黒髪、黒瞳、白い肌、日本人離れした恐ろしく綺麗な顔の美少年だ。
ただ先刻の会話にもある通り、生まれつきかなりの虚弱体質で、それこそ日常的に病院への入退院を余儀なくされていた。正確に計算した事こそなかったが、おそらく一年の内半分は、白い病室の中で過ごしているだろう。
そんな不幸な境遇にもめげない素直で明るい弟を、物事に対する執着心の極めて薄い透が、なにより大切にしていることを、聖も大輔もとても良く知っていた。
もちろん、弟のことを語る時の彼の冷淡さや、一見してそっけないその態度が、すべて照れ隠しであると言うことも。
「い、いやさ、念のためなんだけど、龍二、こっちに連れてきといた方が良くね~かな~と思ってさ。マジな話、俺、なんか今日は嫌な予感がすんだよ」
「……そうだな。もうあと三十分くらいだが、こちらに連れて来るか」
言葉の途中から真剣な表情になった聖を見て、透も思うところがあるのか頷いてそう言った。そして、さっそく担当教師へ連絡しようと、携帯を手に透が腰を浮かせて立ち上がりかけると、
「あ。待て待て。俺が迎えに行ってやるよ!お前は座って待ってな!!」
どういうつもりかそれを制して聖は自分が立ち上がり、透が何か口にする前にさっさと屋上のドアをくぐっていた。
「……おかしなことがあるものだな。普段は俺が龍二に甘いのなんのと文句をつける聖が」
「あ、なんかさ、小等部に将来有望な可愛い転校生が来たって言ってたぜ。この前」
「……………」
携帯を操作しながら、透は呆れたため息を付く。
風間聖……やはり、ティッシュよりも軽い男であった。
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