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砂の楽園⑤ 幻震
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空は青色。白い雲は厚く層をなし、緑は不安げに揺れ動き、風が悲鳴のような警告を伝える。
犬や猫やたくさんの動物たちは皆、恐れ、脅えて、あるものは逃げ出し、またあるものは巣の中に丸くなって、なんとか来るべく災厄を逃れようとしていた。
世界のすべてが、危機を間近に感じていた。
地球のあらゆるものが、震えていた。
しかし────。
なおもこの時、人間だけが気付いていなかったのだ。
いつもの平穏さを装った空気の中に潜む、暗黒の気配に。
「………地震?」
最初は、ほんの小さな振動だった。座っている人でさえも気付かないほど、それほどに微細な揺れだった。
おそらくは計測機にさえ記録されないであろう、小さな地震。
それが始まりだった。
微震は続いた。しかも、次第に大きくなりながら。
そして人が、ようやく揺れている事に気が付き始めた、その時!
「きゃあああああっ!」
大地は突如、爆発的な力を解放した。人間界すべてに──地球上の、ありとあらゆる場所に!その人知を越えた驚異の力で、容赦なく襲いかかってきたのである。
「うぁああああっ!」
「た、助けて……っ!」
「ひいいっ」
ビルが壊れる。道路が割れる。地盤が浮沈し、山が崩れ落ちる。
火山は次々誘発し、真っ赤な炎を噴き上げた。
人々は秩序なく逃げ惑い、止めどなく発生する二次災害。事故。爆発。火事。墜落。
その被害は増大する一方だ。しかもこの地震は、特別製のようだった。
何故なら、最初の微震からすでに五分。
なのに地震は弱まるどころか、ますます激しさを増しながら揺れ続けていたのだ。
「くそっ!この地震、普通じゃねえぞ!?」
聖は小等部の校舎に入った途端に、この巨大な地震に見舞われた。
剥離するコンクリート、落下してくる鉄材、割れた電球やガラスの破片などといった、もろもろの障害を避けながら走るので、さすがの聖もなかなか前へは進めない。
教室からは悲鳴が聞こえ、廊下を走る生徒や先生たちと、何度も何度も擦れ違った。しかし、他の誰もが自分の事だけで精一杯だったのと同じで、聖も自分と、これから助ける龍二の事だけで手一杯だった。
「早く行かねえと、マジでやばい!」
そして聖は壊れゆく階段を、恐れげもなく駆け昇り始めた
一方、屋上で聖と龍二を待っていた二人は、地震が始まったあとすぐ校舎内へ戻っていた。
もちろん一人でも多くの、人間らを助けるために、だ。
『これから会話は心話でおこなう。俺はこの棟から、朱雀はA棟から救助してくれ。とにかく建物から離して、裏の林へ誘導するんだ』
地震の発生と同時に役立たずと化した携帯を投げ捨てると、透はこれまで緊急時以外の使用を禁じていた『心話』で仲間達に指示を出し始めた。
『オーケー。わぁったぜ、玄武』
『解っていると思うが、心話以外の神霊力は使うなよ』
彼らの言う『心話』とは、所謂テレパシーの事である。
透の言うように彼ら四人の神霊力は、どんな場合でも人間に対して使ってはならなかった。
たとえそれが、人や他の生物の命を救うことでも、あるいはその逆でも。
神霊力は人間界に侵入した悪鬼羅刹を『狩る』ためと、この世界に施された四つの封印を護るためにのみ使用することになっていた。何故なら、それ以外での無用な神霊力の行使は、かえって人間の野心や欲望を刺激してしまう事になるからだ。
神霊力という未知の強大な力を持つ、この世界でたった四人の特別な存在。
それが他者に知られたらその結果、人は争って彼らを手に入れようとするだろう。
それは彼らの望むところでないばかりか、神の意志にも反する事態なのだ。
しかし、だからといって彼らは、いつ、どんな時でも、人間を見殺しにしたりする訳ではなかった。
彼らは今まで、ごく普通の人間としてできる範囲内でのみ、目の前の人々を助けてきたのである。
────そう、この時と同じように。
『つくづく頭固いっつーか…融通が利かないよなあ。まあ良いけど』
心話で独り言を呟きながら、大輔は指示された場所へ向かった。彼は口ではなんのかんの言っても、言われた事はちゃんと実行する男である。一言多いのが、玉に傷だが。
『しかし…変だ。この地震は…』
そんな大輔の様子に苦笑しつつ、もくもくと救助を続ける透は、この巨大な地震の奥に何か不審な影を感じとっていたのだった。
犬や猫やたくさんの動物たちは皆、恐れ、脅えて、あるものは逃げ出し、またあるものは巣の中に丸くなって、なんとか来るべく災厄を逃れようとしていた。
世界のすべてが、危機を間近に感じていた。
地球のあらゆるものが、震えていた。
しかし────。
なおもこの時、人間だけが気付いていなかったのだ。
いつもの平穏さを装った空気の中に潜む、暗黒の気配に。
「………地震?」
最初は、ほんの小さな振動だった。座っている人でさえも気付かないほど、それほどに微細な揺れだった。
おそらくは計測機にさえ記録されないであろう、小さな地震。
それが始まりだった。
微震は続いた。しかも、次第に大きくなりながら。
そして人が、ようやく揺れている事に気が付き始めた、その時!
「きゃあああああっ!」
大地は突如、爆発的な力を解放した。人間界すべてに──地球上の、ありとあらゆる場所に!その人知を越えた驚異の力で、容赦なく襲いかかってきたのである。
「うぁああああっ!」
「た、助けて……っ!」
「ひいいっ」
ビルが壊れる。道路が割れる。地盤が浮沈し、山が崩れ落ちる。
火山は次々誘発し、真っ赤な炎を噴き上げた。
人々は秩序なく逃げ惑い、止めどなく発生する二次災害。事故。爆発。火事。墜落。
その被害は増大する一方だ。しかもこの地震は、特別製のようだった。
何故なら、最初の微震からすでに五分。
なのに地震は弱まるどころか、ますます激しさを増しながら揺れ続けていたのだ。
「くそっ!この地震、普通じゃねえぞ!?」
聖は小等部の校舎に入った途端に、この巨大な地震に見舞われた。
剥離するコンクリート、落下してくる鉄材、割れた電球やガラスの破片などといった、もろもろの障害を避けながら走るので、さすがの聖もなかなか前へは進めない。
教室からは悲鳴が聞こえ、廊下を走る生徒や先生たちと、何度も何度も擦れ違った。しかし、他の誰もが自分の事だけで精一杯だったのと同じで、聖も自分と、これから助ける龍二の事だけで手一杯だった。
「早く行かねえと、マジでやばい!」
そして聖は壊れゆく階段を、恐れげもなく駆け昇り始めた
一方、屋上で聖と龍二を待っていた二人は、地震が始まったあとすぐ校舎内へ戻っていた。
もちろん一人でも多くの、人間らを助けるために、だ。
『これから会話は心話でおこなう。俺はこの棟から、朱雀はA棟から救助してくれ。とにかく建物から離して、裏の林へ誘導するんだ』
地震の発生と同時に役立たずと化した携帯を投げ捨てると、透はこれまで緊急時以外の使用を禁じていた『心話』で仲間達に指示を出し始めた。
『オーケー。わぁったぜ、玄武』
『解っていると思うが、心話以外の神霊力は使うなよ』
彼らの言う『心話』とは、所謂テレパシーの事である。
透の言うように彼ら四人の神霊力は、どんな場合でも人間に対して使ってはならなかった。
たとえそれが、人や他の生物の命を救うことでも、あるいはその逆でも。
神霊力は人間界に侵入した悪鬼羅刹を『狩る』ためと、この世界に施された四つの封印を護るためにのみ使用することになっていた。何故なら、それ以外での無用な神霊力の行使は、かえって人間の野心や欲望を刺激してしまう事になるからだ。
神霊力という未知の強大な力を持つ、この世界でたった四人の特別な存在。
それが他者に知られたらその結果、人は争って彼らを手に入れようとするだろう。
それは彼らの望むところでないばかりか、神の意志にも反する事態なのだ。
しかし、だからといって彼らは、いつ、どんな時でも、人間を見殺しにしたりする訳ではなかった。
彼らは今まで、ごく普通の人間としてできる範囲内でのみ、目の前の人々を助けてきたのである。
────そう、この時と同じように。
『つくづく頭固いっつーか…融通が利かないよなあ。まあ良いけど』
心話で独り言を呟きながら、大輔は指示された場所へ向かった。彼は口ではなんのかんの言っても、言われた事はちゃんと実行する男である。一言多いのが、玉に傷だが。
『しかし…変だ。この地震は…』
そんな大輔の様子に苦笑しつつ、もくもくと救助を続ける透は、この巨大な地震の奥に何か不審な影を感じとっていたのだった。
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