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幻震 夜叉王
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「どうやら東の青龍門から、羅刹がこぼれ出たようだな。気を付けろ、大輔。こいつらは俺達を殺して、残りの封印も解くつもりだ」
いまや彼らは、完全に包囲されていた。
「確かに数は多いけど、ほとんど人型を維持できないくらいの、力の弱い奴ばっかだぜ?こんなのが束になってかかってきたって、この大輔様にかなうもんかって!」
「…油断するな。どこにいるかは解らんが…一匹だけ強力な奴がいる」
二人の会話からも解る通り、力の弱い羅刹は人界ではっきりした形態を保てない。それは『封印』と『次元』という二重の壁を越えるだけで、脆弱な力の大半を消耗しきってしまうからだ。
現に今、透達の目の前にいるのは、どれもアメーバのような物か、ぼんやりした煙のような物ばかりだった。
だが、中にはそんな壁をものともせず、人界において異能力を発揮する羅刹も存在する。
「族長クラス……か」
「もしくは、例の一族、だね」
透の優れた感応力は、どこかに潜む強大な魔力の持ち主を、その範囲に確かに捕らえていた。
恐ろしく不吉な予感とともに。
「取り敢えず目の前から始末しよーぜ?」
「……くる」
ゆらり。静かに這いつくばる、不気味な黒い絨毯が動いた。
「玄武、白虎、朱雀、ここにいるのは三匹だけか。すると、新しい『青龍』は、やはりさっきの場所に…?」
闇色の長い髪が、人界の風に激しくなびいていた。
校舎をはるか足元に見下ろして、何もない空に浮かぶ異様な男。
彼は目を閉じたままで透ら三人の姿を確認すると、どこか満足そうに微笑みを浮かべた。
その男は、閉じた瞳で全ての物を観通すという、『夜叉』一族の長。
そしてこのたび、幻震に乗じて人界を襲った、羅刹先発軍の指揮官だった。
───名を、『夜叉王』シャニという。
「三匹ともなかなか美しい。それに強い。まだこの目にはしていないが、青龍など、それは美しい少女だと聞いた。私の部屋にはぜひ四匹並べて飾りたいものだが…さて」
シャニの閉じた瞼の裏には、羅刹と戦う三人の姿が、まるでテレビ画面のようにはっきりと映し出されていた。
羅刹王は今も多くの魔族を従えているが、彼の率いる夜叉一族は、その中でも極めて強大な魔力と、最も残忍な性質とを合わせ持っていた。
そのうえ王たるシャニには、もっと困った性癖───美に対するこの凄まじいばかりの執着───があり、それが夜叉本来の性質とあわさると、羅刹王でさえも手を焼くほどだった。
そんな彼の『目』は、一人一人を嘗めるように検分していたが、ふとその視線が、『白虎』聖の側に立つ龍二の姿を捕らえた。
「おやおや…これは……?」
小さな疑惑とそれにも増して大きな歓喜が、端正だが酷薄そうなシャニの顔に、複雑な表情を描き出す。空間を透かし見る視線の先には、逃げ惑う美しい小鳥の可憐な姿があった。
「美しい…しかしこれは?なぜ、こんなところに…」
思わず口を突いて出た疑問とは裏腹に、シャニの視線は吸い付いたように龍二から離れない。
次第に彼の口元が、いやらしい薄笑いに歪み始めた。
「まあ良い。素晴らしいチャンスだ」
忍び笑いが消えると同時に、夜叉の黒い姿も、中空に溶け去るように消えていった。
いまや彼らは、完全に包囲されていた。
「確かに数は多いけど、ほとんど人型を維持できないくらいの、力の弱い奴ばっかだぜ?こんなのが束になってかかってきたって、この大輔様にかなうもんかって!」
「…油断するな。どこにいるかは解らんが…一匹だけ強力な奴がいる」
二人の会話からも解る通り、力の弱い羅刹は人界ではっきりした形態を保てない。それは『封印』と『次元』という二重の壁を越えるだけで、脆弱な力の大半を消耗しきってしまうからだ。
現に今、透達の目の前にいるのは、どれもアメーバのような物か、ぼんやりした煙のような物ばかりだった。
だが、中にはそんな壁をものともせず、人界において異能力を発揮する羅刹も存在する。
「族長クラス……か」
「もしくは、例の一族、だね」
透の優れた感応力は、どこかに潜む強大な魔力の持ち主を、その範囲に確かに捕らえていた。
恐ろしく不吉な予感とともに。
「取り敢えず目の前から始末しよーぜ?」
「……くる」
ゆらり。静かに這いつくばる、不気味な黒い絨毯が動いた。
「玄武、白虎、朱雀、ここにいるのは三匹だけか。すると、新しい『青龍』は、やはりさっきの場所に…?」
闇色の長い髪が、人界の風に激しくなびいていた。
校舎をはるか足元に見下ろして、何もない空に浮かぶ異様な男。
彼は目を閉じたままで透ら三人の姿を確認すると、どこか満足そうに微笑みを浮かべた。
その男は、閉じた瞳で全ての物を観通すという、『夜叉』一族の長。
そしてこのたび、幻震に乗じて人界を襲った、羅刹先発軍の指揮官だった。
───名を、『夜叉王』シャニという。
「三匹ともなかなか美しい。それに強い。まだこの目にはしていないが、青龍など、それは美しい少女だと聞いた。私の部屋にはぜひ四匹並べて飾りたいものだが…さて」
シャニの閉じた瞼の裏には、羅刹と戦う三人の姿が、まるでテレビ画面のようにはっきりと映し出されていた。
羅刹王は今も多くの魔族を従えているが、彼の率いる夜叉一族は、その中でも極めて強大な魔力と、最も残忍な性質とを合わせ持っていた。
そのうえ王たるシャニには、もっと困った性癖───美に対するこの凄まじいばかりの執着───があり、それが夜叉本来の性質とあわさると、羅刹王でさえも手を焼くほどだった。
そんな彼の『目』は、一人一人を嘗めるように検分していたが、ふとその視線が、『白虎』聖の側に立つ龍二の姿を捕らえた。
「おやおや…これは……?」
小さな疑惑とそれにも増して大きな歓喜が、端正だが酷薄そうなシャニの顔に、複雑な表情を描き出す。空間を透かし見る視線の先には、逃げ惑う美しい小鳥の可憐な姿があった。
「美しい…しかしこれは?なぜ、こんなところに…」
思わず口を突いて出た疑問とは裏腹に、シャニの視線は吸い付いたように龍二から離れない。
次第に彼の口元が、いやらしい薄笑いに歪み始めた。
「まあ良い。素晴らしいチャンスだ」
忍び笑いが消えると同時に、夜叉の黒い姿も、中空に溶け去るように消えていった。
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