螺旋 ~命の音楽~

RINFAM

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幻震 夜叉王②

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「ええい、くそっ、どこから涌いて出てくんだ!?って、青龍門からだっけか…うおおっ、キリがねえ!!」
 十体ずつまとめて吹き飛ばしても、怯まずに次々と襲いかかってくる羅刹に、いい加減うんざりした聖が大声で喚いていた。だが、そんな状況でも彼にはまだ余裕があるのか、自らの発言にセルフ突っ込みを入れている。

 二階への階段の降り口で最初の攻撃を受け、それから数に押されてどんどん後退を余儀なくされたので、今や二人は校舎の中央部分で立ち往生。その上、廊下の前後を羅刹に挟まれ、まさに絶体絶命のピンチであった。
「ハァぁ…面倒くせえ……龍二、こうなったら、強行突破するっきゃねえな!」
「え?」
 自分一人でならともかく、戦えない龍二を庇いながらここから無事に脱出するのは、もはや不可能に近い。透や大輔に救援を頼んでも、おそらく向こうもこちらと同じ状況に違いないから、二人ともそう簡単に助けに来れないだろう。

 そう、脳裏で素早く計算した聖は、背中へ匿った龍二を振り返って見た。

「き…強行突破って…」
「こっから出る!!」
 キッパリ言い放った聖が視線で指したのは、彼らの背後に連なる廊下の窓。
「ここからって……ええっ!?」
「即決即断!!」
 かくなる上は龍二を抱え、三階の窓から決死のダイビングを敢行するしかない!!

 そう、ほとんどヤケクソとしか思えない決断をすると、聖は素早く片手で龍二を小脇に抱え込んだ。
「ひゃあっ!?」
「よおしっ!龍二!!怖かったら目を瞑って……って、あれ?」
 しかし、『いざ窓を蹴破るぞ』という段階になって気付いてみると、周囲にあれほど群がっていた羅刹が、なぜだか急に影も形も見えなくなっていたのである。
「は…?んだ?どういうことだ?こりゃ…」
「い、今の内に逃げようよ、あきにい」
「それもそうだが…罠でもあるんじゃねえだろうな?」
 聖は首を傾げて状況を疑いつつも、とりあえず龍二を抱えたまま階段へと向かった。すぐ後ろを小龍が追って走る。しかし二人と一匹が、階段へ差し掛かるのを待っていたかのように、

「慌てることはないでしょう?せっかくこちらが、ご挨拶しようとしてるのに」

 階段を背にした黒い影がそう言った。
「…………ッッ!?」
 その赤く光る目と目があったとたん、聖の腕の中で龍二の体がビクリと震えた。おそらく、一個の生命としての本能が、黒い影を『危険』みなしたのだろう。

「誰だ、てめえ。『挨拶』だと?…人間みたいな口ききやがって」
 もちろん聖の知覚には、龍二の本能などとは違って、もっとはっきりした男の正体が見えていた。

 名までは知らぬが、男はかなり上級の『羅刹』だろう。

 なにより他の不定形な雑魚とは違うその、しっかりした『人型』と、内に秘めた強大な『魔力』とが、それを事実と証明していた。
「そこをどきやがれ。邪魔するとぶっ殺すぞ」
 敵の正体を知った聖の全身に、隠しようもない殺気がみなぎる。
「おお…下品な言葉ですね。せっかくの美貌が台無しですよ?」
「おえっ、俺が美しいのは俺が一番知ってるけど、化け物の男に褒められたってなんも嬉しかねーよ。気色悪い。いいから、そこどけ!!」
「解りましたよ。通してあげます」
 言うが早いか男は己の体を横に移動させ、一人がやっと通れるだけの道を聖に譲ってしまっていた。
「はえ??……変な奴」
 あまりのあっけなさにかえって聖は警戒心を強め、床へ下ろした龍二を背中に庇いながら男の側を通り抜ける。当然だが、その間、聖の視線は油断なく、一瞬たりとも男の姿から離れなかった。
 そうして男の背後まで階段を降りきった時、このまま一息に一階まで駆け下がろうと、聖は右手を背中側へ回した。だが、しかし、
「……っ!龍二?!」
 龍二の手を掴もうとした聖の手は、彼の意に反して空を切った。
驚いて振り返ってみると、そこにいるはずの龍二の姿がない。
「な………ッ!?」
 慌てて聖が再び男の姿を視界に捕らえると、そこには、嫌らしい薄ら笑いを浮かべた男と、骨ばった手に手首を掴まれて青ざめる龍二の姿とがあった。
「ほう、貴方の名前は『龍二』というのですか。なるほど。名は体を表す…か。貴方にぴったりな名ですね」
「やっ、は、放せ、放してよ!」
「龍二!!おいっ、てめえっ、汚え手を放しやがれ!!」
 聖は目にも止まらぬスピードで手を伸ばす。しかし、男は奪い返そうと伸ばされた彼の手を、後ろへ軽く跳躍することで見事にかわしてしまった。おまけにその一瞬の間に、龍二の腰をしっかりと抱え込んでいる。
「乱暴はいけませんね。貴方はもう結構ですよ」
 闇のような長い黒髪を揺らして男───それは夜叉王シャニであった───は、聖の立つ方向へ人指し指を向け、くるりと丸く振って宙に印を切った。すると、
「うわあああああっ!?」
 途端に浮遊するような感覚が聖を襲い、直後、轟音と共に階段が彼の足元から一気に崩れ、瓦礫と化して抜け落ちた。
「あきにいーーっ!?」
 あまりにもとっさの事で、さすがの聖も避けようがない。
結果、彼は悲鳴だけをそこに残して、体は瓦礫と共に下層へと落下していったのだった。
「あきにいっ!!」
 驚いた龍二は、無我夢中でシャニの手を振りほどこうとした。しかし、シャニの腕は執拗なほど強く龍二の体を捕らえており、非力な彼の力などではびくともしなかった。
「あき…あきにい…っ」
 それでも龍二は、しばらくジタバタと手足を振るって抵抗し続けていたが、シャニの圧倒的な力の前にすべて無駄に終わると、今度は不安げな視線で階下の聖を探し始めた。

 渦巻く凄まじい砂埃。
やがて薄れてきたその中に、階段の瓦礫で潰されている聖の姿があった。

「あっ、あきにい!」
「くっそ~ッ、痛えじゃねえか、てんめぇ~ッッ!!」
 ちっとも痛くなさそうな口調で一言ぼやくと、聖は悠然と無事な上半身を起こしてみせた。
それから龍二を安心させるために、
「なんてな~!」
 と、いつもの調子でニヤリと笑ってみせる。

 しかしそんな彼の下半身は、大きな階段の残骸で無惨に潰されていた。

「龍二、俺は大丈夫だ。待ってろ、今助けてやるからな!」
「…あきにい」
 痩せ我慢もここまでくれば立派だろう。
 だが、強がってはみたものの、やはり落下の衝撃と、下半身に乗っかった階段の瓦礫とは明らかに大きすぎた。龍二を安心させるためにああは言ったが、実際は自分の方こそ助けが欲しい心境である。
「くそ…っ!」
 数十キロの重さと残骸とがからまって、聖の両足はそう簡単には外れそうになかった。
「おやおや。大変そうですねえ…そんなにしてまで、この子を助けたいですか?」
「ひっ?…あうっ!」
 間近で聞こえた声に驚いて振り向いた瞬間、シャニの片手が蛇のように伸びてきて、龍二のか細い首を容赦ない力で捕らえた。そのままの状態で宙吊りにされ、整った小さな顔に苦痛の表情が浮かぶ。
「ハハッ、良い!!良いですねえ!!その顔。私は美しいものが好きなんですよ。特にこうして苦しんでる表情が…ああ…ようやく貴方は私の物ですよ****様?」
「?────っ?!」
 不意に、聞き慣れない言語がシャニの口から飛び出したが、龍二にはまるで理解できなかった。そもそも満足に呼吸できないこの状態では、そんな事を気にしている余裕もなかったのであるが。
「どうです?白虎…貴方も素晴らしいと思いませんか?ああ…そこからでは見えませんか」
 悦に入って喋り続けるシャニの顔は、恍惚としてほとんど涎を垂らさんばかりであった。
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