【短編】図書室の探偵

瑞光みどり

文字の大きさ
3 / 4

第3節 図書室での推理

しおりを挟む
 午前9時。朝は寝る派の私にとって異例の早起きだ。母に「どうしたの? なんか悪いもんでも食べた?」と心配された。普通だったら、健康的で良いという評価になると思うのだが……なんか解せない。
 まあ、それはさておき、私は今、図書室の調べ物用のパソコンと睨めっこ中。「剣の道を征く」が果たしていつ貸出され、いつ返却されたのかを調べるためだ。しかし、何度検索しても一向に例の本が出てくる気配はない。いつもだったら、一瞬でお目当てのものを調べることが出来るのに。
 おかしい。
 どういうことだろうか。
「おはようございます。姫路さん」
 後ろから、どこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向くと、高崎さんが立っていた。
「あ。おはようございます。朝早いですね」
「ハハ、それはこっちのセリフだよ。私はいつもこの時間からいますが、姫路さんはいつも1時間後くらいに来ますよね。今日は珍しい」
 あ。そうだった。いつも私が来る時にはもう高崎さんはいた。
「えーと、今日はちょっと調べ物をしたくて……」
「調べ物? どういったことを?」
 高崎さんの目が細くなる。興味があるのだろうか。
「まあ、ちょっとした野暮用ですよ。ハハハ」
 目線をズラしながら、言葉を濁した。どうもあの鋭い目線をずっと向けられると体がむず痒い。
「残念なことに、そこで『そうですか』と言って下がるようなタチではないんですよ、私は。失礼だが、詳しく教えていただけないかな、委員長?」
 圧っ。高崎さんが顔を近づけてくる。高崎さんの背が高いからか、必要以上に圧を感じる。あついのは、外だけにしてほしいのだが……。
「ちょ、わかりました。話します。話しますから、少し離れてください。あっちのイスに座ってください」
「ああ、これは失敬」
 私は、高崎さんの圧に負け、今起きている状況を話した。
「なるほど。それは謎ですねぇ。もともと存在しない本かぁ」
 ニヤニヤしている。そんなに面白かったのだろうか、私の話。
 高崎さんは、少し考える素振りをしてから、話し始めた。
「まず考えられることとしたら、単純に何かの手違いでバーコードが登録されていなかったという説。ただ、何度も借りられているとなると、その可能性は極めて低いだろう」
「確かに……」
 何度も借りられているということは、バーコードが有効だったということ。つまり、登録されていなければ矛盾する。
「次に考えられるのは、誰かが持ち込んだという説。誰かが何らかの事情で、わざと置いて行った。バーコードを偽造して、もしくは、それっぽく作って。ただ、そうなると、何度も借りた人は、その人かこのことを知っている人ということになりますね。ああ、借りるといってもカウンターを通らないわけですから、人目を盗んで、バックなどに入れる必要があるけどね」
「あの本棚は、ほぼ誰も近づかないので、それは可能だと思いますが、その説だと、何度も借りる意味がわかりませんね」
「他に考えられる説は無いと思う。恐らく誰かが、何らかの理由で、本を置いたのだろう」
「他に考えられないですから、多分そうだと思います」
「……私は少し調べる。何かわかったら連絡するので、連絡先を教えてくれないかな?」
 連絡先を紙に書いて渡すと、彼は図書室を出て行った。一体、どこになにをしに行くのやら……。新聞部の力で真相がわかるのだろうか。
 なぜ、本を置いたのか……。なぜ、何度も借りるのか……。
 あっ。高崎さんに昨日の本のこと言うの忘れたーー。
 まあ、いいか。次会った時に言おう。
 はぁ。この謎について、考えても、私の頭では何もわからないだろう。おとなしく少し勉強しよう。
 私は机に数学の参考書を広げた。
 昔から数学は苦手科目だった。なぜなら、覚えるだけだと何も出来ないからだ。手を動かさないといけないし、仕組みを理解しないといけない。3年前のあの日、一度見たら忘れられない脳になってからでもそれは変わらなかった。
 あー。ダメだ頭に何も入ってこない。何を言ってるんだ、この参考書は。
 よし。古典やろう。
 私は机に古典の問題集を広げた。
 紀貫之の「土佐日記」からの問題だった。
 土佐日記は、紀貫之が女性のふりをして書いた日本最古の日記文学の一つ。紀貫之が土佐に赴任中に亡くなった娘を偲び、その悲しみが書かれている。
 自分の子どもを亡くす悲しみは一体、どんなものだったのだろうか。想像しただけで、自分も悲しい気持ちになってくる。
 ……日記。最近、どっかで聞いたような気がする。
 あ。「交換日記」だ。
 そうか。そういうことだったんだ! 謎が解けたぞ!
 いや、でも、なんで……? これをする理由がわからない。またハテナマークが頭に浮かんできた。
 その時、電話が鳴った。
「もしもし。高崎さん。ちょうど良かった! 話したいことが───」
「奇遇だね。こっちも話したいことがあるんだ。今から緑の丘霊園に来れるかな」
「あ、はい。すぐに行きます」
 スマホを見ると、すでに電話は切れていた。
 私は荷物を急いで片付け、図書室を後にした。緑の丘霊園は、緑公園の隣。ここからだと、走って15分ってところか。
 高崎さんを待たせるわけにはいかない。私は全速力で校門を駆け抜けた。直射日光が少なく、走りやすかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...