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第3節 図書室での推理
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午前9時。朝は寝る派の私にとって異例の早起きだ。母に「どうしたの? なんか悪いもんでも食べた?」と心配された。普通だったら、健康的で良いという評価になると思うのだが……なんか解せない。
まあ、それはさておき、私は今、図書室の調べ物用のパソコンと睨めっこ中。「剣の道を征く」が果たしていつ貸出され、いつ返却されたのかを調べるためだ。しかし、何度検索しても一向に例の本が出てくる気配はない。いつもだったら、一瞬でお目当てのものを調べることが出来るのに。
おかしい。
どういうことだろうか。
「おはようございます。姫路さん」
後ろから、どこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向くと、高崎さんが立っていた。
「あ。おはようございます。朝早いですね」
「ハハ、それはこっちのセリフだよ。私はいつもこの時間からいますが、姫路さんはいつも1時間後くらいに来ますよね。今日は珍しい」
あ。そうだった。いつも私が来る時にはもう高崎さんはいた。
「えーと、今日はちょっと調べ物をしたくて……」
「調べ物? どういったことを?」
高崎さんの目が細くなる。興味があるのだろうか。
「まあ、ちょっとした野暮用ですよ。ハハハ」
目線をズラしながら、言葉を濁した。どうもあの鋭い目線をずっと向けられると体がむず痒い。
「残念なことに、そこで『そうですか』と言って下がるようなタチではないんですよ、私は。失礼だが、詳しく教えていただけないかな、委員長?」
圧っ。高崎さんが顔を近づけてくる。高崎さんの背が高いからか、必要以上に圧を感じる。あついのは、外だけにしてほしいのだが……。
「ちょ、わかりました。話します。話しますから、少し離れてください。あっちのイスに座ってください」
「ああ、これは失敬」
私は、高崎さんの圧に負け、今起きている状況を話した。
「なるほど。それは謎ですねぇ。もともと存在しない本かぁ」
ニヤニヤしている。そんなに面白かったのだろうか、私の話。
高崎さんは、少し考える素振りをしてから、話し始めた。
「まず考えられることとしたら、単純に何かの手違いでバーコードが登録されていなかったという説。ただ、何度も借りられているとなると、その可能性は極めて低いだろう」
「確かに……」
何度も借りられているということは、バーコードが有効だったということ。つまり、登録されていなければ矛盾する。
「次に考えられるのは、誰かが持ち込んだという説。誰かが何らかの事情で、わざと置いて行った。バーコードを偽造して、もしくは、それっぽく作って。ただ、そうなると、何度も借りた人は、その人かこのことを知っている人ということになりますね。ああ、借りるといってもカウンターを通らないわけですから、人目を盗んで、バックなどに入れる必要があるけどね」
「あの本棚は、ほぼ誰も近づかないので、それは可能だと思いますが、その説だと、何度も借りる意味がわかりませんね」
「他に考えられる説は無いと思う。恐らく誰かが、何らかの理由で、本を置いたのだろう」
「他に考えられないですから、多分そうだと思います」
「……私は少し調べる。何かわかったら連絡するので、連絡先を教えてくれないかな?」
連絡先を紙に書いて渡すと、彼は図書室を出て行った。一体、どこになにをしに行くのやら……。新聞部の力で真相がわかるのだろうか。
なぜ、本を置いたのか……。なぜ、何度も借りるのか……。
あっ。高崎さんに昨日の本のこと言うの忘れたーー。
まあ、いいか。次会った時に言おう。
はぁ。この謎について、考えても、私の頭では何もわからないだろう。おとなしく少し勉強しよう。
私は机に数学の参考書を広げた。
昔から数学は苦手科目だった。なぜなら、覚えるだけだと何も出来ないからだ。手を動かさないといけないし、仕組みを理解しないといけない。3年前のあの日、一度見たら忘れられない脳になってからでもそれは変わらなかった。
あー。ダメだ頭に何も入ってこない。何を言ってるんだ、この参考書は。
よし。古典やろう。
私は机に古典の問題集を広げた。
紀貫之の「土佐日記」からの問題だった。
土佐日記は、紀貫之が女性のふりをして書いた日本最古の日記文学の一つ。紀貫之が土佐に赴任中に亡くなった娘を偲び、その悲しみが書かれている。
自分の子どもを亡くす悲しみは一体、どんなものだったのだろうか。想像しただけで、自分も悲しい気持ちになってくる。
……日記。最近、どっかで聞いたような気がする。
あ。「交換日記」だ。
そうか。そういうことだったんだ! 謎が解けたぞ!
いや、でも、なんで……? これをする理由がわからない。またハテナマークが頭に浮かんできた。
その時、電話が鳴った。
「もしもし。高崎さん。ちょうど良かった! 話したいことが───」
「奇遇だね。こっちも話したいことがあるんだ。今から緑の丘霊園に来れるかな」
「あ、はい。すぐに行きます」
スマホを見ると、すでに電話は切れていた。
私は荷物を急いで片付け、図書室を後にした。緑の丘霊園は、緑公園の隣。ここからだと、走って15分ってところか。
高崎さんを待たせるわけにはいかない。私は全速力で校門を駆け抜けた。直射日光が少なく、走りやすかった。
まあ、それはさておき、私は今、図書室の調べ物用のパソコンと睨めっこ中。「剣の道を征く」が果たしていつ貸出され、いつ返却されたのかを調べるためだ。しかし、何度検索しても一向に例の本が出てくる気配はない。いつもだったら、一瞬でお目当てのものを調べることが出来るのに。
おかしい。
どういうことだろうか。
「おはようございます。姫路さん」
後ろから、どこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向くと、高崎さんが立っていた。
「あ。おはようございます。朝早いですね」
「ハハ、それはこっちのセリフだよ。私はいつもこの時間からいますが、姫路さんはいつも1時間後くらいに来ますよね。今日は珍しい」
あ。そうだった。いつも私が来る時にはもう高崎さんはいた。
「えーと、今日はちょっと調べ物をしたくて……」
「調べ物? どういったことを?」
高崎さんの目が細くなる。興味があるのだろうか。
「まあ、ちょっとした野暮用ですよ。ハハハ」
目線をズラしながら、言葉を濁した。どうもあの鋭い目線をずっと向けられると体がむず痒い。
「残念なことに、そこで『そうですか』と言って下がるようなタチではないんですよ、私は。失礼だが、詳しく教えていただけないかな、委員長?」
圧っ。高崎さんが顔を近づけてくる。高崎さんの背が高いからか、必要以上に圧を感じる。あついのは、外だけにしてほしいのだが……。
「ちょ、わかりました。話します。話しますから、少し離れてください。あっちのイスに座ってください」
「ああ、これは失敬」
私は、高崎さんの圧に負け、今起きている状況を話した。
「なるほど。それは謎ですねぇ。もともと存在しない本かぁ」
ニヤニヤしている。そんなに面白かったのだろうか、私の話。
高崎さんは、少し考える素振りをしてから、話し始めた。
「まず考えられることとしたら、単純に何かの手違いでバーコードが登録されていなかったという説。ただ、何度も借りられているとなると、その可能性は極めて低いだろう」
「確かに……」
何度も借りられているということは、バーコードが有効だったということ。つまり、登録されていなければ矛盾する。
「次に考えられるのは、誰かが持ち込んだという説。誰かが何らかの事情で、わざと置いて行った。バーコードを偽造して、もしくは、それっぽく作って。ただ、そうなると、何度も借りた人は、その人かこのことを知っている人ということになりますね。ああ、借りるといってもカウンターを通らないわけですから、人目を盗んで、バックなどに入れる必要があるけどね」
「あの本棚は、ほぼ誰も近づかないので、それは可能だと思いますが、その説だと、何度も借りる意味がわかりませんね」
「他に考えられる説は無いと思う。恐らく誰かが、何らかの理由で、本を置いたのだろう」
「他に考えられないですから、多分そうだと思います」
「……私は少し調べる。何かわかったら連絡するので、連絡先を教えてくれないかな?」
連絡先を紙に書いて渡すと、彼は図書室を出て行った。一体、どこになにをしに行くのやら……。新聞部の力で真相がわかるのだろうか。
なぜ、本を置いたのか……。なぜ、何度も借りるのか……。
あっ。高崎さんに昨日の本のこと言うの忘れたーー。
まあ、いいか。次会った時に言おう。
はぁ。この謎について、考えても、私の頭では何もわからないだろう。おとなしく少し勉強しよう。
私は机に数学の参考書を広げた。
昔から数学は苦手科目だった。なぜなら、覚えるだけだと何も出来ないからだ。手を動かさないといけないし、仕組みを理解しないといけない。3年前のあの日、一度見たら忘れられない脳になってからでもそれは変わらなかった。
あー。ダメだ頭に何も入ってこない。何を言ってるんだ、この参考書は。
よし。古典やろう。
私は机に古典の問題集を広げた。
紀貫之の「土佐日記」からの問題だった。
土佐日記は、紀貫之が女性のふりをして書いた日本最古の日記文学の一つ。紀貫之が土佐に赴任中に亡くなった娘を偲び、その悲しみが書かれている。
自分の子どもを亡くす悲しみは一体、どんなものだったのだろうか。想像しただけで、自分も悲しい気持ちになってくる。
……日記。最近、どっかで聞いたような気がする。
あ。「交換日記」だ。
そうか。そういうことだったんだ! 謎が解けたぞ!
いや、でも、なんで……? これをする理由がわからない。またハテナマークが頭に浮かんできた。
その時、電話が鳴った。
「もしもし。高崎さん。ちょうど良かった! 話したいことが───」
「奇遇だね。こっちも話したいことがあるんだ。今から緑の丘霊園に来れるかな」
「あ、はい。すぐに行きます」
スマホを見ると、すでに電話は切れていた。
私は荷物を急いで片付け、図書室を後にした。緑の丘霊園は、緑公園の隣。ここからだと、走って15分ってところか。
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