異世界戦記

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第五話 炎の覚醒

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和也がトレントロードの巨体を前に呆然としている間も、騎士団の面々は次々に指示を出し、戦闘準備を進めていた。空気は重く張り詰め、誰もが目の前の敵の強大さを理解している。

「和也、落ち着け!」
ロイドの鋭い声が響く。「お前は魔法での援護に集中しろ! 直接近づくのは危険だ!」

「わ、分かった!」
和也は緊張で手が震えるのを抑えながら、炎の魔法「ファイアボルト」を唱えた。小さな火球が生まれ、トレントロードの体へと飛んでいく。だが──。

「……効いてない!?」
火球はトレントロードの蔦に吸収されるように消えた。焦った和也は再び魔法を唱えようとするが、ロイドが止めに入る。

「その程度の魔法ではあいつを倒せない! トレントロードは蔦を再生する力を持っている。魔力を消耗させるだけだ!」

和也は自分の無力さを痛感し、歯を噛みしめた。だが、ロイドの言葉が続く。

「和也、お前の炎はまだ本当の力を出し切れていない。覚醒させるんだ、自分の魔力を!」

「覚醒……?」

ロイドは短剣を和也に差し出した。それは不思議な模様が刻まれ、わずかに赤く光を放っている。

「これは『魔力導具』だ。お前の魔力を増幅させる力を持っている。これを使い、自分の限界を超えろ!」

和也は短剣を握りしめた。その瞬間、身体の奥底から熱が湧き上がるような感覚が広がった。目の前に見えるのは、巨大なトレントロードだけ。そして心の中には、一つの思いが浮かんでいた。

「絶対に、この村を守る……!」

トレントロードが村の門を破壊しようとする寸前、和也は短剣を前に突き出し、全力で叫んだ。

「ファイアランス!」

短剣から放たれたのは、これまでの小さな火球とは比べ物にならないほど巨大な炎の槍だった。それは空気を切り裂き、トレントロードの胸部に直撃した。

「ぐおおおおおお!」
トレントロードが雄たけびを上げる。炎はその蔦を焼き尽くし、その巨体を揺らした。騎士団員たちも驚愕の表情を隠せない。

「す、すごい……!」
「これが和也の力か……!」

しかし、トレントロードはまだ倒れていなかった。その体が黒いオーラをまとい、再び再生しようとしている。

「まだ、終わってない……!」
和也は息を切らしながらも、短剣を再び構えた。だが、魔力の消耗で膝が震える。

その時、一人の女性が和也の隣に立った。薄い銀色の髪に紫の瞳を持つ彼女は、不思議な輝きを放っていた。

「あなた、面白い力を持ってるわね。」
その声は柔らかいが、どこか底知れぬ威厳を感じさせた。

「君は……誰だ?」
和也が問うと、彼女は小さく微笑み、手のひらをトレントロードに向けた。

「名乗るのは後にしましょう。今は、これを倒すのが先よ。」

彼女の手から紫色の光が放たれる。それは和也の炎と融合し、さらに強大な力を生み出した。トレントロードが最後の雄たけびを上げる間もなく、その体は完全に焼き尽くされた。

戦いが終わった後、和也は地面に倒れ込んだ。疲労と安堵が一気に押し寄せる。

「助かった……本当に。」

隣に立つ女性が和也に手を差し伸べた。

「私はリリス。この世界の魔導師よ。あなた、もっと面白い力を引き出せるようにしてあげる。」

和也はその手を握りしめた。その瞬間、これからの冒険が大きく変わる予感がした。

周囲の騎士たちはリリスの登場に驚き、警戒を強める。しかし、リリスはその全身から漂う魔力の圧倒的な存在感により、誰もがその場で動けずにいた。

「リリス様、ありがとうございます。」
ロイドがやっと口を開く。「おかげで、村は助かりました。」

リリスはロイドを一瞥した後、和也に視線を戻した。彼女の瞳に何かを読み取るように感じた和也は、思わず背筋を伸ばす。

「和也、あなたには特別な力がある。でもそれだけではこの世界を生き抜くことはできない。もっと強く、賢くなる必要がある。」

「強くなる……?」

和也の声には決意が込められていた。それは、彼がこの異世界で生き抜くために、そしてこの世界における真の力を手に入れるための第一歩だった。

「そう。だから、私はあなたを導くわ。」
リリスが静かに言うと、和也はゆっくりと頷いた。その言葉に背中を押されるように、心の中で新たな覚悟を固める。

「行こう、和也。これからが本番よ。」
リリスは再び前を向き、歩き出した。和也もその後に続きながら、彼の冒険が本格的に始まる予感を感じ取っていた。

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