【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら

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第一章 影の令嬢

顔合わせ

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 リリアーナは、侯爵家の息子アンリに囲まれて、笑顔を振りまいている。プラチナブロンドの髪が揺れ、青い瞳が輝く。紳士たちは誰もが彼女を見つめている。

 その時だった。
 大広間の空気が、突然変わった。
 ざわめきが、一瞬で静まり返る。

 大きな扉が開き、男が入ってきた。
 エリアナの息が止まった。

 アレクシス・ヴァルモント公爵。
 背が高く、黒いフロックコートに身を包んだ男。彫刻のように整った顔立ち。黒い髪、そして——氷のような青い瞳。
 その瞳が、会場を一瞥した。冷たく、感情の読めない視線。
 人々が、無意識に道を開ける。まるで、捕食者の前から逃げる小動物のように。

 噂は本当だった。
 この男は、確かに近寄りがたい。オーラが違う。まるで別世界の存在のよう。

 父ロベールが、慌てて前に出た。

「ヴァルモント公爵、ようこそおいでくださいました !」

 アレクシスは、わずかにうなずいただけだった。その顔には、笑みのかけらもない。

「フォンティーヌ伯爵。婚約者を紹介していただきたい」
 
 その声は、低く、よく通る。そして、恐ろしいほど無感情だった。

「もちろんです ! エリアナ、こちらへ」

 父に呼ばれて、エリアナは震える足で前に出た。
 会場中の視線が、自分に集まる。
 そして、アレクシス・ヴァルモントの氷の瞳が、エリアナを捉えた。

 その瞬間、エリアナは凍りついた。
 彼の視線は、まるで全てを見透かすようだった。自分のすべて——惨めさも、弱さも、恐怖も——が、その青い瞳に映し出されている気がした。

「エリアナ・フォンティーヌです」

 か細い声で、エリアナは名乗った。恐怖のあまり、うつむいてしまっていた。とても、あの瞳を直視できない。

 沈黙。
 長い、長い沈黙。

 やがて、アレクシスの声がエリアナの耳を打った。

「顔を上げなさい」

 命令口調。でも、不思議と乱暴な響きはない。

 エリアナは、ゆっくりと顔を上げた。
 アレクシスの瞳が、間近にあった。じっとエリアナを見つめている。何かを探すように。
 そして——
 ほんの一瞬、その氷の瞳の奥で、何かが揺らいだ気がした。

 驚き? 困惑? それとも——
 でもそれは一瞬のことで、すぐに彼の表情は元の無表情に戻った。

「承知した。婚約を正式なものとする」

 それだけ言うと、アレクシスはエリアナから視線を外した。
 会場がざわついた。もっと何か、ロマンチックな言葉を期待していたのだろう。でも、悪魔公爵らしい、冷たい反応だと、人々は納得したようだった。
 まるで、ただの物を売り買いするときのような。購入前に商品の確認をしに来たみたいな。

 エリアナは、胸が締め付けられるのを感じた。

 ああ、やはり。あの人は、自分に何の興味もない。
 これは、ただの政略結婚。愛も、温かさも、そこにはない。

 でも——

 アレクシスが去り際に、もう一度だけエリアナを振り返った。
 その瞳に、ほんの僅かだけ、何か別の感情が宿っていた。

 それが何なのか、エリアナには分からなかった。でも、その視線にこもるものは、少なくとも「憐れみ」ではなかった。
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