13 / 46
第三章 北の城にて
新しい生活
しおりを挟む
ヴァルモント城での生活は、エリアナにとって驚きの連続だった。
初めての朝、目覚めると柔らかな日差しが窓から差し込んでいた。王都の屋敷では、薄暗い部屋で目覚めるのが日常だったのに、ここでは光が溢れている。
ノックの音がして、昨日の侍女——名前はソフィアと言った——が入ってきた。
「おはようございます、エリアナ様。お目覚めですか?」
「おはようございます、ソフィア」
エリアナは、まだ「様」と呼ばれることに慣れていなかった。
「朝食の準備ができております。お召し替えを手伝わせてくださいませ」
ソフィアは、手際よくエリアナを手伝ってくれた。その優しい笑顔に、エリアナは少しずつ緊張がほぐれていくのを感じた。
食堂に案内されると、そこにはすでにアレクシスが座っていた。
「おはよう、エリアナ。よく眠れたか」
「はい、とても」
本当によく眠れた。ベッドは柔らかく、部屋は温かく、何より——安心できた。
テーブルには、温かい食事が並んでいる。焼きたてのパン、ハム、チーズ、果物、そして湯気の立つスープ。
エリアナは、思わず目を見張った。こんなに豊かな朝食は五年ぶりだ。
「食べてくれ。君は痩せすぎている」
アレクシスの言葉に、エリアナは頬を染めた。
「あ、ありがとうございます……」
食事を始めると、その美味しさに感動した。パンは外がサクサクで中はふわふわ、スープは優しい味わい。
気づけば、夢中で食べていた。
ふと顔を上げると、アレクシスがこちらを見ていた。
「す、すみません。みっともない姿を……」
「いや」アレクシスは、僅かに口角を上げた。「君が美味しそうに食べてくれると、嬉しい」
その言葉に、エリアナの心が温かくなった。
食事の後、アレクシスは言った。
「城を案内しよう。ここでの生活に慣れるには、まず城内の配置を知る必要がある」
それは、エリアナにとっても、願ってもないことだった。二人は城の中を歩いた。
広間、図書室、音楽室、庭園——どの部屋も美しく整えられている。
「この城は、私の曾祖父が建てたものだ。代々、ヴァルモント家が守ってきた」
アレクシスは、淡々と説明してくれた。
「家族の肖像画が、ここに」
廊下の壁には、歴代の当主たちの肖像画が並んでいる。そして、その最後に——若い頃のアレクシスと、美しい女性の肖像画。
「これは……?」
「私の母だ」
アレクシスの声が、わずかに柔らかくなった。
「十五年前に亡くなった。病で」
「……そうだったのですか」
エリアナも、母を病で亡くしている。その悲しみは、痛いほど分かった。
「母は、優しい人だった。父が冷たい人間だったから、母だけが私の心の拠り所だった」
それは、アレクシスが初めて自分の内心を語った瞬間だった。
「お父様は……冷たい方だったのですか、そんなに」
「ああ。父は、感情を表に出さない人だった。軍人として優秀だったが、父親として私には何も教えてくれなかった。愛情というものを、知らずに育った」
エリアナは、胸が締め付けられた。
この人も、愛されなかった。
自分と同じように。
「でも」アレクシスは続けた。「だからこそ、わかる。君が、どれだけ辛い思いをしてきたか」
その言葉に、エリアナは顔を上げた。
アレクシスの青い瞳が、彼女を見つめていた。
「君の家での様子は、調べさせてもらった。許してほしい」
初めての朝、目覚めると柔らかな日差しが窓から差し込んでいた。王都の屋敷では、薄暗い部屋で目覚めるのが日常だったのに、ここでは光が溢れている。
ノックの音がして、昨日の侍女——名前はソフィアと言った——が入ってきた。
「おはようございます、エリアナ様。お目覚めですか?」
「おはようございます、ソフィア」
エリアナは、まだ「様」と呼ばれることに慣れていなかった。
「朝食の準備ができております。お召し替えを手伝わせてくださいませ」
ソフィアは、手際よくエリアナを手伝ってくれた。その優しい笑顔に、エリアナは少しずつ緊張がほぐれていくのを感じた。
食堂に案内されると、そこにはすでにアレクシスが座っていた。
「おはよう、エリアナ。よく眠れたか」
「はい、とても」
本当によく眠れた。ベッドは柔らかく、部屋は温かく、何より——安心できた。
テーブルには、温かい食事が並んでいる。焼きたてのパン、ハム、チーズ、果物、そして湯気の立つスープ。
エリアナは、思わず目を見張った。こんなに豊かな朝食は五年ぶりだ。
「食べてくれ。君は痩せすぎている」
アレクシスの言葉に、エリアナは頬を染めた。
「あ、ありがとうございます……」
食事を始めると、その美味しさに感動した。パンは外がサクサクで中はふわふわ、スープは優しい味わい。
気づけば、夢中で食べていた。
ふと顔を上げると、アレクシスがこちらを見ていた。
「す、すみません。みっともない姿を……」
「いや」アレクシスは、僅かに口角を上げた。「君が美味しそうに食べてくれると、嬉しい」
その言葉に、エリアナの心が温かくなった。
食事の後、アレクシスは言った。
「城を案内しよう。ここでの生活に慣れるには、まず城内の配置を知る必要がある」
それは、エリアナにとっても、願ってもないことだった。二人は城の中を歩いた。
広間、図書室、音楽室、庭園——どの部屋も美しく整えられている。
「この城は、私の曾祖父が建てたものだ。代々、ヴァルモント家が守ってきた」
アレクシスは、淡々と説明してくれた。
「家族の肖像画が、ここに」
廊下の壁には、歴代の当主たちの肖像画が並んでいる。そして、その最後に——若い頃のアレクシスと、美しい女性の肖像画。
「これは……?」
「私の母だ」
アレクシスの声が、わずかに柔らかくなった。
「十五年前に亡くなった。病で」
「……そうだったのですか」
エリアナも、母を病で亡くしている。その悲しみは、痛いほど分かった。
「母は、優しい人だった。父が冷たい人間だったから、母だけが私の心の拠り所だった」
それは、アレクシスが初めて自分の内心を語った瞬間だった。
「お父様は……冷たい方だったのですか、そんなに」
「ああ。父は、感情を表に出さない人だった。軍人として優秀だったが、父親として私には何も教えてくれなかった。愛情というものを、知らずに育った」
エリアナは、胸が締め付けられた。
この人も、愛されなかった。
自分と同じように。
「でも」アレクシスは続けた。「だからこそ、わかる。君が、どれだけ辛い思いをしてきたか」
その言葉に、エリアナは顔を上げた。
アレクシスの青い瞳が、彼女を見つめていた。
「君の家での様子は、調べさせてもらった。許してほしい」
69
あなたにおすすめの小説
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。
離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています
腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。
「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」
そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった!
今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。
冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。
彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――
双子の姉に聴覚を奪われました。
浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』
双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。
さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。
三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。
【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る
甘海そら
恋愛
第一王女、メアリ・ブラントは悪女だった。
家族から、あらゆる悪事の責任を押し付けられればそうなった。
国王の政務の怠慢。
母と妹の浪費。
兄の女癖の悪さによる乱行。
王家の汚点の全てを押し付けられてきた。
そんな彼女はついに望むのだった。
「どうか死なせて」
応える者は確かにあった。
「メアリ・ブラント。貴様の罪、もはや死をもって以外あがなうことは出来んぞ」
幼年からの想い人であるキシオン・シュラネス。
公爵にして法務卿である彼に死を請われればメアリは笑みを浮かべる。
そして、3日後。
彼女は処刑された。
婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました
鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」
十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。
悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!?
「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」
ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる