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第三章 北の城にて
奪われていた「好き」を取り戻す
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「調べた……?」
「ああ。婚約を受ける前に、フォンティーヌ家のことを調査した。私には独自の情報網があるので、関わりを持つ相手のことは、すべて調べ上げることにしているのだ」
アレクシスは、悪魔公爵らしさをちらりとのぞかせる発言をしたが、エリアナはもう怖くなかった。彼女をみつめる彼の目が、確かな気遣いに満ちていたからだ。
「調査の結果、知ってしまった。君があの家で、どれだけ冷遇されてきたかを」
「じゃあ、わたくしが『出来損ない』と呼ばれていたこともご存じなのですね。……それなのに、わたくしとの婚約を?」
「むしろ、だからこそだ」
アレクシスは、エリアナの手を取った。
「君を、あの家から連れ出したかった。ここでなら、君は自由に生きられる」
その言葉が、エリアナの心の奥深くまで染み込んだ。
涙があふれた。
「アレクシス様……」
「泣かないでくれ。もう、君を傷つける者はいない。私が、守る」
その誓いが、どれほどエリアナを救ったか。
彼女は、初めて心から安心した。
ここは、安全な場所。
そして、この人は、自分を守ってくれる。
◇
日々が過ぎていく中で、エリアナは少しずつ城での生活に慣れていった。
使用人たちは皆、親切だった。特に侍女のソフィアは、エリアナの良き相談相手になってくれた。
「エリアナ様、今日は庭園を散策なさいませんか? 薔薇が咲き始めていますよ」
「薔薇?」
エリアナの目が輝いた。
庭園には、見事な薔薇園があった。赤、白、ピンク——様々な色の薔薇が咲き誇っている。
「これは……」
「アレクシス様が、特別に手入れをさせている薔薇園です。亡きお母様が愛していたお花だとか」
エリアナは、薔薇に触れた。柔らかい花びら、優しい香り。
母も、薔薇が好きだった。
「エリアナ」
振り向くと、アレクシスが立っていた。
「薔薇を見ていたのか」
「はい……とても美しいです」
「君が気に入ってくれたなら、嬉しい。好きな花があれば、言ってくれ。植えさせよう」
「本当ですか?」
「ああ。ここは、君の家でもあるのだから」
その言葉に、エリアナは微笑んだ。
自分の家——そう呼べる場所が、ついにできた。
「アレクシス様、わたくし……ここが好きです」
「そうか」
アレクシスは、珍しく柔らかな表情を見せた。
「私も、君がここにいてくれることが嬉しい」
二人は、薔薇園を並んで歩いた。
それは、静かで、穏やかな時間だった。
ある日、エリアナは城の図書室を訪れた。
扉を開けると、そこには天井まで届く本棚がずらりと並んでいた。何千冊もの本が、整然と並べられている。
「まあ……」
エリアナは、感嘆の声を上げた。
かつては本を読むのが大好きだった。母が生きていた頃は、よく一緒に本を読んだものだ。でも継母が来てからは、本を読む時間も場所も奪われていた。
「気に入ったか」
アレクシスの問いかけに、エリアナは大きくうなずいた。
「はい……こんなにも多くの本が」
「好きなだけ読んでくれ。ここの本は、全て君のものでもある」
エリアナは、本棚に近づいた。詩集、物語、歴史書、音楽の専門書——あらゆる種類の本が揃っている。
一冊の本を手に取る。古い詩集だ。ページを開くと、美しい言葉が並んでいる。
「この城には、ピアノもある」
アレクシスが言った。
「ピアノ……ですか」
エリアナの心が躍った。
「音楽室にある。君が弾けるなら、使ってくれ」
「わたくし、昔は少し……でも、もう何年も触っていません」
「なら、またここで弾けばいい」
その言葉が、エリアナには信じられなかった。
自分の好きなことを、していいと言われる。
それが、どれほど嬉しいことか。
「ありがとうございます、アレクシス様」
「礼はいい。君が笑顔でいてくれることが、私には何よりだ」
アレクシスの言葉は、いつも素っ気ないようでいて、温かさを含んでいた。
「ああ。婚約を受ける前に、フォンティーヌ家のことを調査した。私には独自の情報網があるので、関わりを持つ相手のことは、すべて調べ上げることにしているのだ」
アレクシスは、悪魔公爵らしさをちらりとのぞかせる発言をしたが、エリアナはもう怖くなかった。彼女をみつめる彼の目が、確かな気遣いに満ちていたからだ。
「調査の結果、知ってしまった。君があの家で、どれだけ冷遇されてきたかを」
「じゃあ、わたくしが『出来損ない』と呼ばれていたこともご存じなのですね。……それなのに、わたくしとの婚約を?」
「むしろ、だからこそだ」
アレクシスは、エリアナの手を取った。
「君を、あの家から連れ出したかった。ここでなら、君は自由に生きられる」
その言葉が、エリアナの心の奥深くまで染み込んだ。
涙があふれた。
「アレクシス様……」
「泣かないでくれ。もう、君を傷つける者はいない。私が、守る」
その誓いが、どれほどエリアナを救ったか。
彼女は、初めて心から安心した。
ここは、安全な場所。
そして、この人は、自分を守ってくれる。
◇
日々が過ぎていく中で、エリアナは少しずつ城での生活に慣れていった。
使用人たちは皆、親切だった。特に侍女のソフィアは、エリアナの良き相談相手になってくれた。
「エリアナ様、今日は庭園を散策なさいませんか? 薔薇が咲き始めていますよ」
「薔薇?」
エリアナの目が輝いた。
庭園には、見事な薔薇園があった。赤、白、ピンク——様々な色の薔薇が咲き誇っている。
「これは……」
「アレクシス様が、特別に手入れをさせている薔薇園です。亡きお母様が愛していたお花だとか」
エリアナは、薔薇に触れた。柔らかい花びら、優しい香り。
母も、薔薇が好きだった。
「エリアナ」
振り向くと、アレクシスが立っていた。
「薔薇を見ていたのか」
「はい……とても美しいです」
「君が気に入ってくれたなら、嬉しい。好きな花があれば、言ってくれ。植えさせよう」
「本当ですか?」
「ああ。ここは、君の家でもあるのだから」
その言葉に、エリアナは微笑んだ。
自分の家——そう呼べる場所が、ついにできた。
「アレクシス様、わたくし……ここが好きです」
「そうか」
アレクシスは、珍しく柔らかな表情を見せた。
「私も、君がここにいてくれることが嬉しい」
二人は、薔薇園を並んで歩いた。
それは、静かで、穏やかな時間だった。
ある日、エリアナは城の図書室を訪れた。
扉を開けると、そこには天井まで届く本棚がずらりと並んでいた。何千冊もの本が、整然と並べられている。
「まあ……」
エリアナは、感嘆の声を上げた。
かつては本を読むのが大好きだった。母が生きていた頃は、よく一緒に本を読んだものだ。でも継母が来てからは、本を読む時間も場所も奪われていた。
「気に入ったか」
アレクシスの問いかけに、エリアナは大きくうなずいた。
「はい……こんなにも多くの本が」
「好きなだけ読んでくれ。ここの本は、全て君のものでもある」
エリアナは、本棚に近づいた。詩集、物語、歴史書、音楽の専門書——あらゆる種類の本が揃っている。
一冊の本を手に取る。古い詩集だ。ページを開くと、美しい言葉が並んでいる。
「この城には、ピアノもある」
アレクシスが言った。
「ピアノ……ですか」
エリアナの心が躍った。
「音楽室にある。君が弾けるなら、使ってくれ」
「わたくし、昔は少し……でも、もう何年も触っていません」
「なら、またここで弾けばいい」
その言葉が、エリアナには信じられなかった。
自分の好きなことを、していいと言われる。
それが、どれほど嬉しいことか。
「ありがとうございます、アレクシス様」
「礼はいい。君が笑顔でいてくれることが、私には何よりだ」
アレクシスの言葉は、いつも素っ気ないようでいて、温かさを含んでいた。
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