辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら

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アディの返事

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 アディは深呼吸をしてから、使者に向き直った。

「お気持ちはありがたいのですが、お断りいたします」

 使者は驚きで目を見開いた。

「し、しかし……これは名誉回復の絶好の機会ですぞ。王都で、正式な薬師として――」
「私は、ここで必要とされていますから」

 アディはきっぱりと言った。

「この領地の人々は、私を信頼してくれています。私も、この人々のために働きたいと思っています。それに――」

 彼女はルーファスを見た。

「私を救ってくださった方への恩も、まだ返せていません」

 ルーファスの表情が、わずかにゆるんだ。それは、彼が初めて見せた本当の笑みだった。

 使者はあきらめたように溜息をついた。

「わかりました。では……マリアンヌとお会いいただくことだけでも、できませんでしょうか。アディ殿に謝罪したいと申すので、こちらまで連れてきているのです。外で待たせています」
「マリアンヌさんが、外に……?」

 アディはしばらく考えてから、静かに答えた。

「すみませんが……お会いしたくないです。あの人とは、もう関わりたくないんです。謝罪の気持ちだけ、お受け取りします」

 その凛とした態度に、使者は何も言い返せなかった。



 使者が去った後、ルーファスはアディを執務室に呼んだ。

「本当に、王都に戻らなくてよかったのか」

「はい」アディは即答した。「ここが、私の居場所ですから」

 ルーファスは窓辺に立ち、外を見つめた。

「お前は、優秀な薬師だ。王都に行けば、もっと多くの人を救えるだろう。より良い待遇も受けられる」
「でも、私はここがいいんです」

 アディは少し頬を染めながら言った。

「ここには、私を必要としてくれる人々がいます。それに……」

 言いかけて、アディは言葉を飲み込んだ。

(それに、領主様がいらっしゃいますから)

 その想いは、まだ口には出せなかった。でも、確かに胸の中で育ち始めていた。

 ルーファスは振り返り、アディをまっすぐ見つめた。

「……そうか」

 彼は薄く微笑んだ。

「なら、お前をこの領地につなぎ止める理由が、一つ増えたな」
「え?」
「私は優秀な薬師を手放すつもりはない。これからも、ここで働いてもらう」

 それは表向きの理由。

(お前を、俺の側に置いておく)
 それが本音だった。

 アディは心の底から微笑んだ。

「はい、これからもよろしくお願いいたします」
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