【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら

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好青年、登場

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 アルトハイム辺境伯領を、再び王都からの使いが訪れたのは、初夏の頃だった。

 国王は、【魔の森】を南北に貫通する街道の整備を計画している。現在、辺境伯領と王都を行き来する人々は、【魔の森】を通るのを避けるため、山一つを迂回している。ちゃんとした街道が整備されれば、人々は最短距離で行き来できるようになる。
 計画の前段階として、技術者や魔導技術者が、森の中の状況や地形を調査することになった。
 そのための調査団がやってきたのだ。
 
 街道ができれば、交易や観光も盛んになる。辺境伯領にとっても有利な話だ。
 調査団は、領主館を拠点にして【魔の森】の調査を進めることになった。

 歓迎の宴で、すらりとした金髪碧眼の若者がアディに近づいてきた。
 彼はカイル・ロシュフォードと名乗った。調査団の護衛のために同行してきた騎士の一人だ。
 さわやかな笑顔を持つ、絵に描いたような好青年だった。

「アディ様、お噂はかねがねうかがっております。この領地を救った奇跡の薬師だと」

 アディは目を白黒させた。

「そんな、奇跡だなんて……私はただ――」

「いえいえ、謙遜なさらずとも」カイルは朗らかに笑った。「実は、僕も、薬草に興味がありまして。よろしければ、色々と教えていただけませんか?」
「それは……喜んで」

 アディがおずおずと微笑み返すと、カイルの顔がぱっと明るくなった。

「ありがとうございます! では、明日から薬草採集の護衛は僕にお任せください!」
「え、でも、お仕事があるんじゃ?」
「この領地の地形を把握することも僕の任務のうちですから。お気遣いなく」

 言葉を交わす二人を、少し離れた場所から見ていたルーファスは、苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべた。
 隣にいたグレゴリーが、小声で囁いた。

「領主様。お顔。お顔にお気をつけください」
「私の顔がどうしたというんだ」
「人でも殺しかねないようなお顔をなさってます。いちおうこれは歓迎の宴なのですから。もう少し、なごやかに」
「……愉快でもないのに笑えるものか」

 ルーファスの声は、氷のように冷たかった。



 翌日、アディが薬草採集に出かけようとすると、カイルがすでに準備を整えて待っていた。

「おはようございます、アディ様! 今日はどちらへ?」
「おはようございます。今日は東の森に、珍しい薬草があると聞いて――」
「東の森ですね。では参りましょう」

 カイルが馬の手綱を取ろうとしたとき、背後から声がかかった。

「待て」

 ルーファスだった。

「領主様、おはようございます」カイルは笑顔で敬礼した。
「ロシュフォード君。きみには、調査団を警護するという任務があるだろう」
「今日は別の者が同行することになっておりますので、大丈夫です。僕は【魔の森】以外の森も見ておきたいと思って……」
「不要だ。ここは私の領地だ。王宮付属の騎士の干渉は受けたくない」
「か、干渉といいますか……僕はただアディ様の護衛を……」
「護衛なら、私が行く」

 ルーファスは有無を言わせぬ口調で言い切った。

 カイルは困惑して眉をひそめた。目の前の辺境伯は、強烈な殺気を漂わせている。これ以上逆らったら、問答無用で剣を抜きそうな雰囲気だ。議論ができる感じではなかった。

「……承知いたしました。では、失礼します」

 カイルが未練たっぷりに去った後、アディは不思議そうにルーファスを見上げた。

「領主様、執務は大丈夫なんですか?」
「問題ない」

 ルーファスは短く答え、馬にまたがった。そしてアディに手を差し伸べた。

「乗れ。相乗りだ」
「え、でも私の馬が――」
「時間の無駄だ。早く乗れ」

 有無を言わせぬ雰囲気に、アディはルーファスの手を取って、馬に乗った。
 ルーファスの背中に密着する形になり、アディの顔が真っ赤になる。

「し、失礼します……」
「気にするな」

 ルーファスは平静を装っていたが、背中に感じるアディのぬくもりに、内心では動揺していた。

(近い……)

 彼女の柔らかさ、温かさ、そして僅かに香る薬草の匂い。それらすべてが、ルーファスの理性を揺さぶった。
 だが、それ以上に、彼の胸を満たしていたのは満足感だった。
 アディは今、自分のそばにいる。カイルではなく、自分の。
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