【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら

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危険な疫病

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 平穏な日々は、突然終わりを告げた。
 辺境伯領の北端、隣国との国境付近で、未知の疫病が発生したという知らせが届いたのは、ある雨の朝のことだった。

「症状は高熱、激しい咳、そして全身の脱力。感染力が強く、すでに国境の村では住民の半数が感染しています」

 報告を聞いたルーファスの顔が、険しくなった。
 ルーファスはさっそく隣国へ書状を送った。

 返事はすぐに届いた。
 隣国でも同じ疫病が広がっている。医師団が対策にあたっているが、今のところ、有効な治療法が見つかっていない、という。

「このままでは、わが領にも広がる可能性があるな……」

 ルーファスは即座に決断した。

「国境の村を封鎖しろ。感染の拡大を防ぐ。そして――」

 彼は執事を見た。

「アディを呼べ」



 状況を聞いたアディは、すぐに動き出した。

「患者さんたちの症状を詳しく教えてください。それから、発症した順番、年齢、性別、何もかもです」

 彼女は必死に情報を集め、図鑑と照らし合わせた。
 そして、一つの可能性にたどり着いた。

「これは……もしかして、『紅熱病』かもしれません」
「紅熱病?」
「古い文献にしか記載がない、とても珍しい伝染病です。百年前に流行して以来、発生していないと言われていましたが……」

 アディは図鑑のページを示した。

「治療には、複数の薬草を特殊な方法で調合する必要があります。でも……」

 彼女の表情が曇った。

「その薬草の一つが、非常に希少で……しかも、感染リスクが高い場所での作業になります」

 ルーファスは即座に言った。

「危険すぎる。隣国の医師団に任せろ」
「でも、隣国のお医者さんたちも対処できていません。それに、このまま放置すれば、何百人もの命が失われます」

 アディはルーファスをまっすぐ見つめた。

「私にしかできないことがあるなら、やらせてください。領主様が私を救ってくださったように、今度は私が、みんなを救いたいんです」

 ルーファスの顔が、苦悩に歪んだ。
 彼は、アディを危険にさらしたくなかった。また大切な人を失うことが、何よりも恐ろしかった。
 でも、アディの瞳には、強い意志が宿っていた。これを止めることは、彼女の本質を否定することになる。

 長い沈黙の後、ルーファスは深く息を吐いた。

「……わかった。だが、条件がある」
「何でしょうか」
「私が、必ずお前を守る。危険のある場所へは、決して一人で行かないと約束しろ」

 その声は、懇願に近かった。

 アディはうなずいた。

「お約束します。一人で危険な場所へは行きません」
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