愛人の子を育てろと言われた契約結婚の伯爵夫人、幼なじみに愛されて成り上がり、夫を追い出します

深山きらら

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冷たい契約

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 結婚式の日は、驚くほど晴れやかだった。
 王都の大聖堂は花で飾られ、貴族たちが集まっていた。セシリアは純白のドレスに身を包み、父に腕を取られてバージンロードを歩いた。

 そして彼女は、初めて夫となる男性を間近で見た。
 ルパート・レンフォード。

 息を呑むほど美しい男性だった。
 黒髪に青い瞳。整った顔立ち。背が高く、礼服が完璧に似合っている。まるで絵画から抜け出してきたような美しさだ。

 しかし、最もセシリアの印象に残ったのは、その表情だった。
 ――無表情。
 完全に感情を消した、人形のような顔。

 ルパートはセシリアを一瞥すると、すぐに視線を神父の方へ戻した。明らかに、セシリアに対する関心は皆無だった。

(ああ、これは…)

 セシリアは直感した。この結婚が、どういうものになるのかを。

 誓いの言葉を交わし、指輪を交換する。ルパートの手は冷たかった。

「誓いのキスを」

 神父の言葉に、ルパートはセシリアのヴェールを持ち上げ、ためらいがちに、彼女の頬に軽く唇を触れた。本来なら唇にするはずのキスを、彼は避けたのだ。

 会場からはあたたかい祝福の拍手が起こった。来客からは、それが頬へのキスであったとは見て取れなかったのだ。
 しかしセシリアには、その拍手がひどく遠くから聞こえるように感じられた。

 披露宴は華やかだった。貴族たちは次々と祝辞を述べた。音楽が流れ、豪華な料理が並んだ。
 セシリアは完璧に微笑み、感謝の言葉を述べ続けた。しかし隣に座るルパートは、必要最小限の言葉しか発しなかった。

「なんて美しい花嫁だろう」
「美男美女。お似合いの二人だ」

 周囲の賛辞に、ルパートは機械的にうなずくだけだった。

 披露宴が終わり、セシリアはレンフォード伯爵家の馬車に乗せられた。ルパートは反対側の席に座り、窓の外を見たまま一言も話さなかった。
 馬車が走る間、セシリアは夫の横顔を観察していた。
 完璧に整った横顔。しかし、その目には何の光もなかった。いや、そこにあるのは――一種の「あきらめ」の色だ。

 レンフォード伯爵家のタウンハウスは、想像以上に大きかった。古い石造りの建物で、歴史を感じさせる重厚な作りだ。

「ようこそいらっしゃいました、奥様」

 執事が深々と頭を下げた。しかしその目には、明らかな値踏みの色があった。

(ああ、使用人たちも、私がどういう理由でここに来たか知っているのね)

 セシリアは気づかないふりをして、優雅に微笑んだ。

「よろしくお願いするわ」

 ルパートは無言で屋敷の中に入っていった。セシリアはその後を追った。

 廊下を歩きながら、セシリアは屋敷の様子を観察していた。立派な屋敷で、調度品も豪華だった。レンフォード家は裕福なのだと、一目でわかった。
 ルパートが立ち止まったのは、ひときわ大きくて立派な扉の前だった。
 屋敷内の位置からしても、明らかに、ここが伯爵の私室なのだろう。

「最初に話しておかなくてはならないことがある」

 ルパートの声は、ひどく冷たかった。
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