愛人の子を育てろと言われた契約結婚の伯爵夫人、幼なじみに愛されて成り上がり、夫を追い出します

深山きらら

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残酷な真実

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「これは政略結婚だ。君も承知の上だろう」
「ええ、もちろん」
「ならば話は早い」ルパートは淡々と続けた。「私たちの間に愛情はないし、必要もない。これは家と家の契約であり、私たちはその駒に過ぎない」

 セシリアは息を呑んだ。
 彼の言っていることは間違いではない。しかし実際に言葉にされると、胸が締めつけられる。
 たとえ事実がそうだとしても――あえて言葉にはしないのが、思いやりというものではないのか?

「私には……」ルパートの声が、わずかに震えた。「私には、愛する人がいる」
「え?」
「だから君を愛することはできない。愛するつもりもない」

 セシリアは目の前が真っ暗になるような気がした。
 あまりにも途方もない展開だ。

 ルパートは、言いにくかったことをようやく口にできて、さばさばしたような表情になった。

「君にも恋人がいたかもしれない。それは気の毒だと思う。だが、これが貴族の運命だ。互いに割り切って、形だけの夫婦でいよう」
「……そう、ですか」

 セシリアは短い返事を絞り出すのが精一杯だった。

「君は、好きにしてくれればいい。無理に伯爵夫人らしくしようとしなくてもいい。この屋敷の女主人の役割は、引き続き、私の母が務める」
「はあ……」
「では、おやすみ。君の寝室へは、メイドが案内してくれるはずだ。明日からは、必要な時以外は顔を合わせることもないだろう」
「私の寝室? 主寝室、ではないのですか」

 セシリアは反射的に尋ねていた。

 伯爵夫人であれば、伯爵の部屋と続きの間になっている主寝室に入るのが当然のはずだが。
 ルパートは、はっきりとした侮蔑の表情を浮かべてセシリアを見返した。

「主寝室は君のものではない。私たちは形だけの夫婦だ。距離を詰める必要はない」

 セシリアが、二の句を継げないでいるうちに、ルパートは部屋に入って扉を閉めてしまった。

 セシリアは廊下に一人残された。茫然とその場に立ちつくす。

 やがて、メイドがやってきて、セシリアを寝室まで案内してくれた。

 長い廊下を進む。示された部屋は、屋敷の西の端にあった。文字通り「隅っこに追いやられた」形だ。
 寝室自体は非常に豪華なものだった。大きなベッドと、最新流行のデザインの家具が備えられている。窓も大きく、快適そうだ。

 扉を閉め、背中を扉に預けた瞬間——

「ふふっ」

 セシリアの口から、ひとりでに笑い声が漏れた。

「あはは……最悪だわ」

 笑いながら、涙があふれてきた。

 結婚式の日に、夫から愛情を否定される。
 屋敷の女主人としての権限も与えられず、主寝室への立ち入りも拒否される。
 それではいったい何のために、自分はあの人の妻となったのか。

 もともと政略結婚だから、甘い初夜などそれほど期待してはいなかったが。
 ここまでひどい展開も、想像を超えている。

 セシリアは涙を拭い、大きく息を吸った。

(泣いている場合じゃないわ。私には家族を守るという目的があるんだから)

 彼女は鏡の前に立ち、自分の顔を見つめた。
 涙で少し赤くなった目。それでも、そこにはあきらめの色はなかった。

「よし」

 セシリアは自分に言い聞かせた。

「契約結婚なら、契約結婚でいいじゃない。夫の愛が得られないなら、別の居場所を見つければいい」

 少なくとも、この結婚のおかげで、実家であるフォレスター侯爵家は救われるのだ。

 彼女はドレスを脱ぎ、ナイトガウンに着替えた。そしてベッドに横たわった。
 天蓋付きの豪華なベッド。でも、そこにはセシリア一人だけ。

(明日から、どうなるのかしら)

 不安がないと言えば嘘になる。でも、セシリアは元々前向きな性格だった。
 なるようになる、と自分に言い聞かせて、目を閉じた。

 こうして、セシリアのレンフォード伯爵家での生活が始まった。
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