愛人の子を育てろと言われた契約結婚の伯爵夫人、幼なじみに愛されて成り上がり、夫を追い出します

深山きらら

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義母との出会い

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 翌朝、セシリアは意外とすっきりと目覚めた。
 見覚えのない天蓋に、最初とまどったが、「ああ、そういえば結婚したんだったわ」と思い出す。

 メアリーという侍女に手伝ってもらい、朝の身支度を済ませる。
 セシリアは少し緊張して食堂に向かった。

 大きなテーブルに、ルパートと、真っ白な髪をきちんと結い上げた老婦人が座っていた。

「おはようございます」

 セシリアが挨拶すると、ルパートは読んでいる手紙から顔を上げようともせず、小さくうなずいた。

 老婦人はセシリアを上から下まで見回した。

 式の前の打ち合わせなどで何度も顔を合わせたことがある。ルパートの母親のレティシアだ。
 打ち合わせのときには、やわらかい態度で、笑顔さえ見せていたのに――今は、ひどく意地悪そうな険しい表情を顔面に貼りつけている。おそらくこっちが「地」だろう、とセシリアは感じた。

「その、お高くとまった顔、やめてちょうだい」

 それがレティシアの第一声だった。

「私は、別に……」

 セシリアの抗議を、レティシアは聞こうともしなかった。

「自分が侯爵令嬢だったということは、さっさと忘れてもらった方がいいわ。今のあなたはレンフォード伯爵家の人間なんですからね。いつまでも侯爵位を鼻にかけないで」

 セシリアは思わずルパートに視線を投げたが。
 ルパートは我関せずと言わんばかりに、書状を読みふけるふりをしている。

(まあ、助けてくれるはずはないわよね)

 セシリアが黙っていると、レティシアはかさにかかって、

「フォレスター家も落ちぶれたものね。まさか娘を売りに出すなんて」

とまで言い出した。
 セシリアはにっこり微笑んでみせた。

「お互いさまではありませんか? そちらも、うちの交易権が必要だったからこその縁談でしょう」

 レティシアの顔がこわばった。ルパートが初めて手紙から顔を上げた。

「……嫁のくせに口答えするなんて、生意気ね」
「事実を述べただけですわ」セシリアは優雅な動作で椅子に腰かけた。「表面だけとりつくろうよりも、お互いの立場をはっきりさせた方が、よほど健全だと思いますの」

 レティシアは不機嫌さをあらわに、席を立った。

「私は頭痛がするわ。部屋に戻ります」

 老婦人が去った後、ルパートが言った。

「母を怒らせない方がいい」
「あら、でも、この結婚が契約結婚だということは、お義母かあ様だってご存じなんですよね?」
「……勝手にしたまえ」

 ルパートは再び手紙に目を落とした。

 セシリアは朝食を食べながら、周囲を観察していた。

 食事はおいしい。食材の質も良い。料理人の腕が良いことがわかる。
 けれども給仕にあたる使用人たちは、動きが悪い。
 お互いに連携が取れていないし、先を読んだ行動ができていない。

 執事やメイド長の教育が行き届いていない――すなわち、女主人であるレティシアの目配りが十分ではない、と推測できる。

(なるほど、これは居心地の悪い家ね)

 屋敷の女主人になるつもりで嫁いできたセシリアには、いろいろな改善点が目についてしまう。
 貴族の娘として、そういう教育は受けてきているのだ。

 言葉は悪いが――年齢的なことを考えると、レティシアが屋敷の差配を続けられる期間は、それほど長くはないだろう。
 近い将来、ルパートはセシリアに女主人の座を任せざるを得なくなる。愛がないとしても。


 朝食後、セシリアは屋敷を探検することにした。
 客間、居間、書斎、図書室、執務室、大広間……。
 大広間のテラスからは、広々した庭園が見渡せる。

 セシリアは、庭園の奥に、小さな離れが建っていることに気づいた。

「あれは?」

 近くを通りかかったメイドに尋ねると、メイドは口ごもった。

「あ、あれは……旦那様の、プライベートな……」
「そう。ありがとう」

 セシリアは深く追及しなかった。でも、心の中で思った。

(あそこに、彼の『愛する人』がいるのかしら)

 嫉妬の感情はまったく湧かなかった。
 なぜなら、セシリアもルパートを愛していないからだ。
 好きでもない人の愛人に、嫉妬する理由はない。

(まあ、私には関係のない人よね)


 その時、レティシアが大広間に入ってきた。

「セシリア、少しよろしいかしら」
「はい、お義母様」

 セシリアはレティシア個人の応接室に案内された。

 なんとなく、いやな予感がした。
 レティシアが、いかにも意地の悪そうな愉悦を、瞳にきらめかせていたからだ。
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