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義母からの命令
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丸テーブルを挟んで、二人は向かい合った。
レティシアは秘密めかした口調で話し始めた。
「あなたに言っておかなければならないことがあります」
「何でしょうか」
「ルパートには、愛する女がいるの。あなた以外に」
レティシアは思わせぶりに言葉を切り、セシリアの顔をじっとみつめた。
「ええ、昨夜彼から聞きました」
セシリアは、ため息が出そうなのをこらえながら、淡々と答えた。
レティシアは、落胆を隠しそびれた。
――たぶん、愛人のことを、セシリアが知らないと思っていたのだろう。
その存在をいきなり突きつけ、セシリアがショックを受けるところを見たかったのだろう。
「その女——ロザリンドは、平民の出です」
レティシアは露骨に面白くなさそうな顔で言った。
「ですから、彼女とルパートが正式に結婚することはできません。あり得ないことです。由緒正しいレンフォード家に、卑しい血が混じるなんて」
「それは……残念ですわね」
セシリアは心にもない返事をした。これまで何年も社交界を泳いできたので、セシリアにもそれぐらいの芸当はできる。
たぶん、レティシアの反対のせいで、ルパートは愛人と結婚できなかったんだろうな、と思った。
「しかし、ルパートは、ロザリンドを熱烈に愛していて、彼女以外の女性にはまったく見向きもしません。ルパートには、当主として、レンフォード家の跡取りをもうけるという責任があるのですが……ロザリンド以外の女性とそのような行為に及ぶつもりはない、と言い張るのです。そこで私は、母として、一計を案じました」
レティシアは、いやな感じの目でセシリアを見た。
「あなたは、性格は別として、血筋は申し分ありません。もしロザリンドがルパートの子を妊娠したら——その子を、あなたの子として育ててもらいます」
セシリアは、一瞬言葉を失った。
「…え?」
「聞こえなかったの?」
レティシアはいら立ったように繰り返した。
「ロザリンドが産んだルパートの子を、あなたが産んだことにするのです。そうすれば、その子を正式なレンフォード家の跡取りにすることができます。その子は名目上、フォレスター侯爵家の血を引くことにもなりますから……血統としては完璧です」
セシリアは、目の前が真っ暗になるのを感じた。
「そんな……!」
「あなたは、それを承諾してもらうために、ここに来たのです」
レティシアは容赦なく続けた。
「ルパートは、最初からこの計画のために、あなたとの結婚を受け入れた。わかりますか? あなたは、ロザリンドの子の母親代わりとして、選ばれたのです」
セシリアは、震える手で椅子の肘掛けをつかんだ。
胸が苦しい。
息ができない。
(そんな……そんなひどい……!)
「返事を聞かせてください。――承諾しますね?」
レティシアは冷酷に迫った。
セシリアは、必死で平静を保とうとした。この意地悪な老婦人の前で取り乱したくなかった。
「そんな馬鹿げた計画……! 承諾なんかいたしません。実家に帰って、父に話します。父はきっと離縁に賛成してくれますわ」
声が震えた。あまりの屈辱に、涙が出そうだった。
「本当にそうかしら?」
レティアの声に、はっきりと嘲笑がにじんだ。
「フォレスター侯爵は、離縁を望まないのではないかしら。あなたの実家は多額の借金を抱えています。ルパートとの離縁は、フォレスター家にとって経済的な死を意味します。あなたには、自分の実家を破滅させる覚悟があるのかしら? ほんのちょっぴりプライドを飲み込むだけで、すべてが丸く収まるのに?」
セシリアは、何も言えなくなった。
家族の顔が浮かんだ。
父、母、幼い弟。
彼らを破産に追い込むわけにはいかない。
「……わかりました」
セシリアは、絞り出すように答えた。
「承諾……いたします」
「よろしい」
レティシアは満足そうに微笑んだ。
「賢明な判断です。では、ロザリンドに妊娠の兆候が見られたら、あなたも妊娠したふりをしてください。出産の時期と合わせて、入れ替えます」
「……はい」
セシリアは、人形のようにうなずくしかなかった。
レティシアの応接室を出て、廊下を歩き始めると――今までこらえていた涙が、どっとあふれてきた。
幸い、誰ともすれ違わずに、自室まで戻ることができた。
セシリアはベッドに倒れ込み、枕に顔を埋めた。
涙が止まらなかった。
(ひどい……あんまりだわ……)
夫に愛されないだけでなく、愛人の子の母親代わりにされる。
もともとそれが目的の結婚だったなんて。
セシリアは、愛人の子の母親として、レンフォード家に金で買われたのだ。
これほどの屈辱があるだろうか。
でも——家族を守るためには、この結婚を続けるしかない。
セシリアは懸命に涙をぬぐった。
(泣いても、何も変わらない。私はここで生き延びるしかない)
レティシアは秘密めかした口調で話し始めた。
「あなたに言っておかなければならないことがあります」
「何でしょうか」
「ルパートには、愛する女がいるの。あなた以外に」
レティシアは思わせぶりに言葉を切り、セシリアの顔をじっとみつめた。
「ええ、昨夜彼から聞きました」
セシリアは、ため息が出そうなのをこらえながら、淡々と答えた。
レティシアは、落胆を隠しそびれた。
――たぶん、愛人のことを、セシリアが知らないと思っていたのだろう。
その存在をいきなり突きつけ、セシリアがショックを受けるところを見たかったのだろう。
「その女——ロザリンドは、平民の出です」
レティシアは露骨に面白くなさそうな顔で言った。
「ですから、彼女とルパートが正式に結婚することはできません。あり得ないことです。由緒正しいレンフォード家に、卑しい血が混じるなんて」
「それは……残念ですわね」
セシリアは心にもない返事をした。これまで何年も社交界を泳いできたので、セシリアにもそれぐらいの芸当はできる。
たぶん、レティシアの反対のせいで、ルパートは愛人と結婚できなかったんだろうな、と思った。
「しかし、ルパートは、ロザリンドを熱烈に愛していて、彼女以外の女性にはまったく見向きもしません。ルパートには、当主として、レンフォード家の跡取りをもうけるという責任があるのですが……ロザリンド以外の女性とそのような行為に及ぶつもりはない、と言い張るのです。そこで私は、母として、一計を案じました」
レティシアは、いやな感じの目でセシリアを見た。
「あなたは、性格は別として、血筋は申し分ありません。もしロザリンドがルパートの子を妊娠したら——その子を、あなたの子として育ててもらいます」
セシリアは、一瞬言葉を失った。
「…え?」
「聞こえなかったの?」
レティシアはいら立ったように繰り返した。
「ロザリンドが産んだルパートの子を、あなたが産んだことにするのです。そうすれば、その子を正式なレンフォード家の跡取りにすることができます。その子は名目上、フォレスター侯爵家の血を引くことにもなりますから……血統としては完璧です」
セシリアは、目の前が真っ暗になるのを感じた。
「そんな……!」
「あなたは、それを承諾してもらうために、ここに来たのです」
レティシアは容赦なく続けた。
「ルパートは、最初からこの計画のために、あなたとの結婚を受け入れた。わかりますか? あなたは、ロザリンドの子の母親代わりとして、選ばれたのです」
セシリアは、震える手で椅子の肘掛けをつかんだ。
胸が苦しい。
息ができない。
(そんな……そんなひどい……!)
「返事を聞かせてください。――承諾しますね?」
レティシアは冷酷に迫った。
セシリアは、必死で平静を保とうとした。この意地悪な老婦人の前で取り乱したくなかった。
「そんな馬鹿げた計画……! 承諾なんかいたしません。実家に帰って、父に話します。父はきっと離縁に賛成してくれますわ」
声が震えた。あまりの屈辱に、涙が出そうだった。
「本当にそうかしら?」
レティアの声に、はっきりと嘲笑がにじんだ。
「フォレスター侯爵は、離縁を望まないのではないかしら。あなたの実家は多額の借金を抱えています。ルパートとの離縁は、フォレスター家にとって経済的な死を意味します。あなたには、自分の実家を破滅させる覚悟があるのかしら? ほんのちょっぴりプライドを飲み込むだけで、すべてが丸く収まるのに?」
セシリアは、何も言えなくなった。
家族の顔が浮かんだ。
父、母、幼い弟。
彼らを破産に追い込むわけにはいかない。
「……わかりました」
セシリアは、絞り出すように答えた。
「承諾……いたします」
「よろしい」
レティシアは満足そうに微笑んだ。
「賢明な判断です。では、ロザリンドに妊娠の兆候が見られたら、あなたも妊娠したふりをしてください。出産の時期と合わせて、入れ替えます」
「……はい」
セシリアは、人形のようにうなずくしかなかった。
レティシアの応接室を出て、廊下を歩き始めると――今までこらえていた涙が、どっとあふれてきた。
幸い、誰ともすれ違わずに、自室まで戻ることができた。
セシリアはベッドに倒れ込み、枕に顔を埋めた。
涙が止まらなかった。
(ひどい……あんまりだわ……)
夫に愛されないだけでなく、愛人の子の母親代わりにされる。
もともとそれが目的の結婚だったなんて。
セシリアは、愛人の子の母親として、レンフォード家に金で買われたのだ。
これほどの屈辱があるだろうか。
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