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屈辱の日々
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レンフォード伯爵家での生活が始まった。
夫のルパートとは、一日に一度も顔を合わせない日すらあった。
食事の時間も、彼はいつも急いで済ませ、さっさと自分の部屋か、あの離れへと向かった。
いくら形だけの夫婦でも、夜会には二人で出席しなければならないのではないか、と思っていたが――ルパートはそもそも夜会へは行こうとしない。「社交嫌い」という噂は真実らしい。
学生時代の男友達とは、よく郊外へ狩りにでかけているようだが。
仕事をしている様子は、あまりない。
レンフォード家の富の源泉は、領地にある鉱山だ。黙っていても富が湧き出してくる。
ルパートは所有者として、形ばかりの監督をするだけで良いのだ。
女主人としての役目もないセシリアは、本当にすることがない。
屋敷でお茶会を開いてみたいと提案したが、レティシアにあっさり却下された。
仕方なく、図書室で本ばかり読んで過ごしていた。
ある日の午後、セシリアが廊下を歩いていると、メイドたちの会話が聞こえてきた。
「新しい奥様、ちょっとかわいそうよね」
「ええ。でも、そのために『買われて』きたんですもの。仕方ないわ」
「乳母みたいなものなんでしょ、ロザリンド様のお子様の?」
セシリアは、いきなり頬をひっぱたかれたような心持ちがした。足がひとりでに止まってしまう。
(みんな――知っているのね)
使用人たちまで、この非道な計画を知っている。
それは、セシリアがどれほど軽んじられているかを示していた。
やがてセシリアは、自分の部屋の掃除が行き届いていないことに気がついた。汚れものがそのまま放置されたり、部屋の隅に埃が溜まったりしている。
侍女のメアリーが、セシリアのいない間に、部屋をきれいにしようと努力してくれているようだが。
それは侍女の仕事ではない。仕事はメイドの役目だ。
メアリーとしては、部屋の汚れがどうしても見過ごせないのだろう。
セシリアはメイド長を呼びつけた。
「この部屋を見てちょうだい。掃除が行き届いているとは、とても言えないわ。私の部屋の掃除を担当しているメイドを、交代させてもらえる?」
メイド長は仏頂面でセシリアを見返した。
強い視線でじろじろと睨んでくる。「主人」に対する態度ではない。
「あなた様の指図は受けません」
驚くべき言葉が、メイド長の口から飛び出してきた。
あっけにとられ、セシリアは言葉を失った。
「あなた様は、このお屋敷の奥様ではありません。あなた様をただの乳母として扱うよう、レティシア様より言われております。どうぞ、ご自分の立場というものを自覚されますよう」
メイド長は言いたいことを言い終えると、セシリアの許しも待たずにさっさと歩み去った。
残されたセシリアは、屈辱と怒りで顔が真っ赤になるのを感じていた。
しかし、実際の待遇は――乳母以下ではないか。
掃除の手抜きは日に日にひどくなり、部屋の汚れが目立つようになってきた。
夫のルパートとは、一日に一度も顔を合わせない日すらあった。
食事の時間も、彼はいつも急いで済ませ、さっさと自分の部屋か、あの離れへと向かった。
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