【完結】婚約破棄された令嬢ですが、冷たい官僚様に溺愛されています

深山きらら

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 裁判後の回廊。
 白い大理石の柱の間を、イザベラとカイルが並んで歩く。

「やっと、終わりましたね」
「ああ。よく頑張ったな」

 カイルの声には、穏やかな温もりがあった。
「……正直、怖かったです」
「怖くて当然だ。
 でも君は逃げなかった。最後まで自分の言葉で立ち向かった」

 イザベラは少し微笑んだ。
「あなたが隣にいてくれたから、です」

 その言葉に、カイルが足を止める。
 真剣な眼差しで、彼女を見つめた。

「これから、どうする?」
「香水商会を、正式に立ち上げたいと思っています。
 王都だけじゃなく、地方にも店舗を作って……
 “香りで人を幸せにする”仕事を続けたい」

 その瞳は、未来を見つめていた。

「それに……私、もう誰かの庇護のもとではなく、
 自分の力で歩いていきたいんです」

 カイルの胸に、誇りと少しの寂しさが広がる。
「強くなったな、本当に」

「でも……」
 イザベラが一歩近づいた。
 彼の黒い外套の裾を、そっと指先で掴む。

「もし、許されるなら……その隣で、あなたと歩きたい」

 その一言に、カイルの喉が詰まった。
 彼は彼女の手を取り、優しく握る。

「もう許しなんて要らない。
 君と俺は、同じ夢を見てる」

 イザベラの目が潤み、そして微笑んだ。

   ◇

 ――数日後。
 王都の新しい香水商会《ラ・ルミエール》の開店日。
 入口には花束と、人々の笑顔。

 イザベラは開店準備に追われながらも、
 店の奥にある小さな香水棚を見つめていた。

 そこに並ぶひとつの瓶。
 透明なガラスに刻まれた名は――《黎明(れいめい)》

「この香りは、新しい始まりの象徴です」
 彼女はそう言って、瓶をそっと手に取った。

「夜明けの光みたいに、誰かの背中を押せる香りにしたかったんです」

 後ろから聞こえた声。
「まるで君みたいだな」

 カイルが扉の影から現れ、
 軽く笑って彼女の肩を抱いた。

「夜を越えて、朝を連れてくる女」
「……それ、ちょっと恥ずかしいです」
「事実だろ?」

 イザベラが笑う。
 そして二人は並んで扉を開けた。

 光が差し込み、
 新しい香りと共に、未来が始まった。

 王都の人々は、後にこの日をこう呼ぶ。
 ――“香りの革命”の始まり。

 そして、イザベラ・ヘルヴィッツという名は、
 ただの令嬢ではなく、“新時代の女性”として語られるようになった。

 彼女の香りは、今も風の中で囁いている。
 ――「信じた道を進め」と。
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